第五話 「 狩り 」
鬼丸村。
とある山に、そう名付けられた村があった。
戦で身寄りの無くなった者達を集めて暮らさせている村だ。
子供も、年寄りも、敗残兵も、ここに来れば暮らせるという村。
井戸を掘り、家を建て、畑を耕し、普通の暮らしをする村。
人知れず、ひっそりとある村。
村の長の名は鬼丸。
かつて弥彦という名だった青年だ。
そして、彼こそが大名行列を消失させている張本人。
大名行列をたった一人で襲い、全滅させて、全ての食料と金品を奪って村に持ち帰る。
そして、その戦利品はこの村に暮らす全ての人々に配られていた。
鬼丸は、最初に助けた子達を自分の子とし、その母親を妻とし、その後も、身寄りの無い子を助けると自分の子として迎え入れた。
鬼丸は、村の外の者に対して警戒を怠らなかった。
たまに町に買い物に出る者の帰りを狙って尾行する者がいたなら、その者は鬼丸の手にかかる事になる。
フラッと村に近づく者がいたなら、鬼丸は天狗のフリをしてその者を震え上がらせて口を封じる。
そうやって村に人目を向けさせないようにしてきた。
「今度こそは、この村だけは、絶対に俺が守る。 この村の者にだけは戦なんか絶対にさせない。」
鬼丸は強く誓った。
そして、自分の所業が村の誰にも知れないよう、細心の注意を払っていた。
自ら隠密行動をし、情報を探り、獲物の大名行列を狩る。
それが今の鬼丸の主な仕事。
明日もまた大名行列が通るらしい。
鬼丸は明日に備えて大名行列の通る地点に先回りして時を待った。
「来た。」
鬼丸は行列の後ろから襲い掛かる。
物音一つ立てずに数名の首を落とす。
そして、異変に気付いた者の号令で行列の後ろに注意が行ったなら、今度は前から襲い掛かる。
そうやって、前後から数名ずつ命を奪っていく。
鬼丸の姿が見られる事は無い。
やがて、残り十数名になれば、鬼丸は躍り出て一気に斬る。
最後に大名を籠から引き摺り出して、首をへし折る。
これで狩りは終了する。
他人に戦をさせ、自分達は安穏と暮らす大名やその家来など、今の鬼丸にとっては物の数ではなかった。
次の行列の情報を得る為、隠密行動の準備を進めた。
今回もあまり大きな行列ではなさそうだ。
行列の出立は三日後らしく、襲撃の場までは二日かかる。
つまり、五日後が仕事の日になる。
鬼丸は村に戻り、子と遊び、村人と話し、魚の鍋を味わい、酒を呑んで、深く眠った。