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最初の邪心   作者: 相澤 沁
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第四話 「 死神 」

弥彦が鬼丸と名を変え、山に消えてから数年後の事。

都では、山を通る大名行列が忽然と消えるという噂が立っていた。

事実、行列がいつまでも都に付かない、遊山の行列が忽然と姿を消す、そういう事が頻発していた。

神隠しや天狗の噂も立ち、都は騒然としていた。

幕府は何が起こっているのか全く判らず、捜索の者を差し向けたが、何も手がかりは掴めなかった。

それもその筈、その捜索の者さえ誰一人として戻る事は無かったのである。

町方の同心達は口々に噂した。


「これはもはや鬼か天狗か妖怪変化の仕業に違いない!」


ならば力ずくでと、腕利きの山伏を揃え、山へ向かわせたが、やはり誰一人として戻る事は無かった。


とは言え、大名の移動や交代を無くしては一切のまつりごとが滞ってしまう。

しかし、このままでは大名が行列ごと忽然と消えてしまう。

そして、それは一般の町民にまで知れ始めてきている。

瓦版屋まで、この噂をネタにあること無いこと面白おかしく書き立てる始末。


「さぁさぁ、またまた御大名様が消えちまったってぇお話だい! こいつぁ妖怪変化の仕業か、はたまた御天狗様の神隠しか! 詳しい事はここに書いてあるよ! さぁ、お立会い!」


これではまつりごとどころではない。

とにかく事件の全容を解明し、事態を収束しなくてはならない。

その為には、事件の顛末や手がかりを掴まなくてはならない。

幕府は頭を抱えた。

まずは民衆の噂からと考えた幕府は、瓦版を規制した。

しかし、事件の概要は何も分からないまま時は流れた。


「えーい! まだ何も分からんのか!」


苛立ちを露わにして言う奉行に部下は答える。


「は、捜索や探索、隠密や山伏まで向かわせましたが、行列の足取りはおろか、向かわせた使者まで誰一人として戻らず・・・」


奉行はため息混じりに言った。


「このままでは上様になんと御報告申し上げれば良いのか・・・」


奉行は苛立ち、当り散らすように言った。


「何としても何物の仕業なのか探り出せ!」


部下は困惑して返した。


「しかし、御奉行! 捜索や探索、隠密のみならず、あれほどの腕利きの山伏の集団まで戻らぬとなりますと、これはもう神隠しの類としか・・・」


奉行は頭を抱えてため息を吐いた。


消えた大名行列や使者達はどうなったのかと言うと、鬼丸たった一人の手により葬りさられていた。

そして、その亡骸は全て山中の険しい谷底へと打ち捨てられていた。

都で事件に頭を痛める者達には、鬼丸によって谷に打ち捨てられた大名行列や使者達の死体の山の存在が伝わる事は無かった。

その死体は烏や獣らの食料となり、やがて骨と化した。

鬼丸は、谷に下り、転がる骨を踏みつけながら呟いた。


「俺ぁ、鬼じゃなくて死神なのかも知んねぇな。 だったら、俺の武術は死神流とでもするか!」


どこかの山に死神がいる。

その姿を見た者に明日の日は拝めない。


後にそんな噂が巷を席巻する事となるが、それは、まだ少しだけ先の事。


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