第三話 「 鬼丸 」
弥彦は野盗達に向かって言った。
「おい、てめぇらが村を襲ったのか?」
十数人いる野盗達は余裕でヘラヘラ笑いながら答えた。
「あぁ、だから何だってんだ? このガキ!」
「もしかして、てめぇもこの村のモンか!?」
「だったら仲良くあの世へ行きな!」
野盗達は一斉に襲い掛かってきたが、今の弥彦の敵ではなかった。
たちまち全員が倒された。
弥彦は強い憎しみを込め、一人ずつ野盗の首をへし折っていった。
やがて、最後の一人になった時、弥彦は尋ねた。
「おまえら、なんでこんな事をした?」
野盗は震えて失禁しながら答えた。
「お・・・俺達だって・・・なりたくて野盗なんかやっちゃいねぇ! これしか無かったんだ!」
「世の中にはなぁ、大名って奴がいやがるんだ。 その大名って奴はなぁ、自分の領地が欲しいだとか、あの領主が気にいらねぇとか、そんな理由で戦ってモンをやりやがるんだ。」
「その戦に俺らは駆り出されて負けたんだ。 戦ってのはなぁ、負けてからが本当の地獄の始まりなんだ。」
「俺ら負け組の足軽を残らず狩る奴等から逃げて、やっと生き残って、人里に出てみりゃぁ今度は里のモンは金欲しさに俺らを縛り上げて役所に突き出しやがるんだ。」
「水も無ぇ、食い物も無ぇ、這いずり回ってやっと同じ負け組の足軽仲間を見つけて、何とかこうやって生き延びたんだ。 それでもなぁ・・・」
弥彦はまだ何か話そうとしている野盗の顔面を蹴り上げ、唾を吐きかけ、言った。
「苦労人ぶってんじゃねぇよ。 だからって、よその村を襲って人を殺して物を盗んで良いなんてワケぁ無ぇんだよ。」
弥彦は何の躊躇も無く最後の野盗を引き摺り起こして首をへし折った。
そして、吐き出す様に呟いた。
「大名・・・ そいつらがこんな鬼みてぇな事をする奴を作りやがったのか。」
「だったら、俺は本当の鬼になる。」
「こいつらが村や人を喰らう鬼なら、俺は大名ってぇ奴を喰らう鬼になる。」
「今から俺の名は・・・ 鬼丸だ。」
いつしか村の火は治まり、すっかり焼け野原となっていた。
弥彦は村に入り、自宅があった方に向かって歩きながら呟いた。
「お父、俺の嫁も子も見せてやれなくてごめんよ。 せめて、お父と一緒に・・・」
弥彦は、焼け落ちた鍛冶場で伊助の打った武具を探した。
そして、炎を打ち抜いた短刀と、白い文様を掘り出した赤い鎧と、刃手甲を見つけた。
それらを手に取り、見つめながら呟いた。
「この、お父の打った武具でこの世の大名を喰らい尽くしてやるからな。」
弥彦は、その手に短刀を握り、その身に鎧と刃手甲を纏って歩き出した。
そして、弥彦、いや、鬼丸は山へと消えていった。