第6話 侵入者
スライム蠱毒計画。
それはスライムとスライムを互いに争わせ、進化を促すという悪魔の所業にして、天才の閃き。
それにより、多くの新種スライムが誕生しようとしていた。
いや、していると言った方がいいだろう。
ベビースライムを精製しまくり、蟲毒の岩穴を三つに増やした。
自然とスライムたちの成長スピードも増え、蟲毒を勝ち抜いたスライムたちの進化の神秘たる輝きが岩穴に満ちた。
「スライム鑑定3th」
新たなるスライム、3体の成長をすぐにタイチは確認した。
一体目は、
【ノーマルスライム】
図鑑NO:003
スキル:吸収
スキル:擬態
スキル:ポケット(収納することが出来る)
スキル:スライム食
仔スライムの成長した姿であるノーマル系幼スライム。
魔力体であるスライムは死後、通常は魔力となって世界に還るが極稀に体を残すことがある。
魔力で満ちた死骸は、丈夫でスライム袋として重宝されるため、乱獲された時期があった。
ノーマル……だが、新種だ!
しかもスイカ大の大きさを越え、一般的に見えるスライムであるがこれでもまだ幼体!
つまり成体も存在するのだろう。
次ももらったようなものだな。
しかもポケットという新たなるスキルがある。
所謂、アイテムボックスや異次元空間的なものだろうか?後で試してみよう。
2体目、
【サンドスライム】
図鑑NO:007
スキル:吸収
スキル:擬態(砂)
スキル:形状変化(砂)
砂場に長く身を潜め、擬態をつづけた結果。体を砂へと変化させることが出来るようになった。
砂と化したその体はいずれより強固になる。
こいつも新種だ!
石に続いて砂だ!
図鑑のナンバーとしては、石のより若い。
砂と化したその体はいずれより強固になるということは、サンドスライムがストーンスライムになるのだろうか?
すると、ストーンスライムの次はより硬い鉱物になるのかもしれない。
ミスリルとか?!
大したことはないが次のスライム精製に繋がる貴重な変化だ。
三体目は、残念ながら、
【ノーマルスライム】だ。
ただスキルにポケットがない。
絶対にあるわけではないらしい。
これにも法則があるのかもしれないが現時点では分からないな。
ぶるぶるぶると微かな振動を感じる。
ちらりとタイチが見るとスラオがジッーとこちらを見つめている、気がする。
全く、食いしん坊なやつだと思いながら、タイチはマントとかしているスラオを撫でた。
するとスラオはぶるっ!と一際大きく震える。
そんないいから、早く寄越せと言うようだ。
ふんっ、まぁいいだろう。
タイチは、手をかざし横行に命じた。
「いざ、約束の地へ!スラオ、スライムを喰らえ!!、うぉおおおおお!」
命じるとスラオはスライムたちへと躍りかかる。
その際、タイチの体ごと持っていくほどの勢いだ。
マントを広げるように体を伸ばし、2体同時に喰らっていくスラオ。
スライムたちの抵抗もむなしく、スラオがすぐに平らげたのだろう。
もはやそれを感じるとともに素早くタイチは瞼を閉じられるようになっていた。
強烈な光が、柔らかいものへと徐々に変わっていくのを感じてタイチは瞼を開いた。
見慣れつつ幻想的な黄昏の空の大地。
ごつごつとした岩、一部が剥がれたところからは赤みを帯びた白い肌が覗く。
それは何も、逢魔時の赤銅色の陽光だけのせいではないだろう。
ああっ、と切なげに漏れる花のように甘い吐息……………。
タイチがスライムの封印を解いたことによって、美少女ちゃんの封印がまた一つ、一つと解け力の奔流しているのだろう、それはとにかくエロティックで勿論タイチは大好きだった!
「はぁはぁはぁはぁ。ザラザラとしたものが体をこすって、ジンジン、ジンジンきちゃうの!これっだめぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」
まったくこの時のためにスライムを育てているようなものだ!
タイチは、その時を堪能する。
美少女ちゃんが太陽の如き輝き、その光の奔流がにっくき岩の拘束具を破壊する。
封印を2個解いただめだろう、それと同じく拘束具も2個破損した。
弾ける岩、そこからは赤銅色の陽光に照らされた美しい肌色。
タイチから見て左の可愛らしい膝小僧と左前腕が露出した!
体のほとんどが岩に覆われている中でぽつんと浮き出た点のように白い膝小僧が妙にそそる。
GOOD JOBだ!
「はぁ、はぁー、はぁー、二ついっぺんにとは驚きました。お見事ですよ……タイチ」
そう言いながら美少女ちゃんの閉じた片目からつぅーと雫が垂れる。
むぐいたくても両手を拘束されてそれができないのだろう。
なら、俺が!とタイチは美少女ちゃんへと向かって一歩踏み出す。
もう一歩、もう一歩と交互に足を繰り出す。
その涙をぬぐおうと歩き出し、
その太陽ような金髪に触れようと競歩となり、
その拘束具の岩を剝ぎ取ろうと走り出す!
だが、一向に美少女ちゃんに近づくことが出来ない。
近づいても引き戻されていく、反対方向のエスカレーターを歩いているような感覚。
くそ、まさか美少女ちゃんに触れることは出来ないか。
「私に近づこうとは…………不遜ですね」
――――背筋が凍る。
その迫力ある鐘のように力強い声色を聞いてタイチは身をすくませた。
さきほどまで涙をためて微笑んでいた美少女ちゃんからは、笑顔が消えブルーの瞳は荒れ狂う大海のような怒りの色を宿していた。
怖ぇえええええええええええええええええ。
美少女ちゃんの女神のような整った顔は怒ると妙な迫力があった。
「いや、ごめんよ~。ちょっと悪ふざけが過ぎたというか、まぁそんなに怒らなくても……」
「――タイチ」
「はいっ!」と胸を張り、軍曹に怒られる二等兵のように元気よくタイチは返事をした。
「どうやら、神殿に侵入者が入ったようです。……それも穢れた小鬼。すぐに神殿に戻します。これを殲滅しなさい」
「はい、イエッサー!」
「唾棄すべき下等生物です。慈悲は不要ですよ、タイチ。……………期待しています」
世界が光の奔流に包まれる。
射竦められる眼光を受けてタイチは、光の奔流は美少女ちゃんの怒りのようで、焼き殺されるのではないと思ったが、無事に鍾乳洞へと帰ってくることが出来た。
青白い光を放つ少し肌寒い鍾乳洞、ぴちょんぴちょんと垂れる雫が木琴楽器のように静かに響く。
スライムが色々なところに張り付き、ぶら下がり、時々落ちる。
そんないつもと変わらない鍾乳洞だ。
本当に侵入者などいるのだろうか?
いやー、それにしても怖かったな美少女ちゃんは、絶対に怒らせないでおこう。
タイチがそう心に刻んだ時、GAGYAAAAAAAAAAAAA!!!!と甲高いのにしゃがれた、老人が叫ぶような不快な叫びが鍾乳洞内にこだました。
うるせぇえええ!
それにタイチは耳を塞ぎながら、周りを見渡した。
これが美少女ちゃんの言っていた侵入者だろうか、いや間違いなくこいつだとタイチは思った。
なにせ、美少女ちゃんはかなりこいつを嫌っていた。
そして、タイチも出会っていないのにもうすでにこいつが嫌いだからだ。
その叫びを聞いた瞬間に生理的嫌悪感を感じたのだ。
くそ、どこにいるんだ。
焦るタイチの肩がベタッベタッとしたブニブニしたもので数度叩かれる。
見ればスラオだった。
そのスライム特有の生暖かい体温がタイチの体にまとわりつくと、安心感に包まれてタイチは少し冷静になることが出来た。
「ありがとうな、スラオ」
お礼を言うと気にするな!とでも言いたげにスラオがぶるっと震える。
「まずは美少女ちゃんの銅像に行こう。新スキルが………きっと……うん、まぁ役に立つかもしれないし」
それに美少女ちゃん銅像のある場所で外につながっているのは断崖絶壁の壁だ。
来るとしたら、反対側だろうという予想もあった。
タイチは足音に気を付けながら、侵入者に対処するために、美少女ちゃん銅像へと向かうのだった。
スラオ保持スキル
・スライム喰極
・擬態(砂、石、皮、葉)・形成(砂、石)限界+突破
・吸収
・ストーンバレット
・スライムポケット
スライム図鑑 5/151
美少女ちゃん封印解除まであと146種。