第2話 与えられた慈悲
遅くなってすみません。
スマホから初投稿してみます。
ぴちょん、ぴちょん
水滴が落ちる音が耳に響く。
そのうちの一つが額へと落ちてきて、タイチは身を起こした。
「うわぁあ!」
落ちてきた何ものかおを拭うように手で払う。
滑りとした感触、見ればどうやらただの水のようだ。
見上げれば、まるで天井には牙のような見事な鍾乳石が不思議な青白い光を放ちながらびっしりと生えていた。
ここは何処だ?
左右上下を見渡しても鍾乳洞とか言えない。
幸いなのは鍾乳石が青白い光を放っているために洞窟内でも光源は確保できているところだろう。
確かものすごく綺麗で裸な美少女に神殿に飛ばすから後よろしくって言われた気がする。
「てかっ寒っ!」
鍾乳洞は水も滴り、肌寒かった。
そして、なによりハダカだ!
このままでは風邪をひいてしまう。
何か着るものはないかと思ってタイチは周りを見るが着れるようなものはない。
このズルズルと這いつくばるものを除いて。
これ襲ってこないよね?
なにせこいつは俺が作ったスライム……………だよね?こいつを作ったらあの不思議空間に入り込んで、ここに飛ばされたんだから。
海岸打ち上げられたクラゲのような半透明でブヨブヨとしたボディー、スライムをタイチは指でツンツンとつついてみた。
するとプルプルと震える。感触は硬めのゼリーみたいだった。
うーん、この感触、嫌いじゃない。
しばらくツンツン、プルプルさせているとスライムがガバッと身を起こし、こちらにしなだれかかってきた。
「よしよし、甘えん坊さんだな」
普通なら喰われる!襲われている!と思わなくかもしれないがなんとなくこのスライムから敵意は感じない。
むしろ戯れてきている感じだ。
背中?かどうかは分からなかったがタイチはスライムを摩ってやると、プルプルと震える。
なんだが昔飼っていた犬のポチを思い出すな。
「そうだ、お前は名前なんていうんだ?」
スライムは否定するように体を震わす。
「名前ないのか、じゃあ俺がつけてやろあか、うーん。そうだなスライムだからスラオなんてどうだ!」
ぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶる!と盛大に尻尾を振るように体全体が鳴動している。
どうやら喜んでいるようだ。
はっはははは、愛い奴め!
「よし、今日からはお前はスラオだ!」
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生暖かいスラオの体温を下半身で感じながら、鍾乳洞を手探りで歩いていると、水の音と一条の眩い光が見えてきた!
視界が開ける。
すると、まるでホールのように扇型に広がる空間に出た。
客席には水の溜まった岩のプールがまるでペンライトを振るように青白く光っている。
その間を滑らないように歩いて、舞台のようになった台座が見えてきた。
そして、その舞台のオペラの主役を飾るのは勿論、美少女ちゃんだ。
外に通じているのか、洞窟の天井から木漏れ日のように振りそぞく陽光はまるで彼女専用のスポットライトだ。
惜しむらくはその肢体がゴツゴツとした岩に覆われ、美少女ちゃん自身もエラメルのようにテラテラと輝く石像ということだろう。
しかしその質感が妙に艶かしくて、美少女ちゃんは石像になってもエロ可愛いなとタイチは思った。
だからかもしれない。
ついつい触りたいと思ってしまった。
美少女の胸の部分、といってもゴツゴツした岩だ!
そうこれは美少女ちゃんの封印を解くという課題に必要な高尚な研究作業で必要な行為なのだ。
タイチは自らを肯定しながら触る。
岩は固く所謂ふつうの岩の感触だ。次に美少女ちゃんの数少ない肌が出ている部分、俯き気怠そうな半開き瞳は憂いを帯びているように見える。女神を象ったような造形美の顔の頬にそっーと人差し指で突き這わす。
その肌は大理石のようにスベスベしていて指が流れるようだ。
すると、美少女ちゃんの瞳が開きかぁっーと輝きだした!
「うわあああ!」
地元のテーマパークにあるお化け屋敷のような安物の仕掛けだが、いきなりやられるとびっくりする!
タイチは倒れるような尻餅をついたが、スラオが張り付いているお陰で怪我はなかった。
「スライムを創造せし、女神を信奉するものよ」
「うおっ、喋った!」
甲高いまるで機械のように無機質で本物の美少女ちゃんの鐘のように壮麗な声とは大違いだ。
そんな美少女ちゃん銅像は語る。
「ここに我の慈悲を、汝にスキル与える。スライム鑑定、スライム図鑑、スライム精製。図鑑を埋めしとき、またここに来なさい。さすれば新たなる慈悲を与えましょう」
かぁっ!と強い光を瞬かせて美少女ちゃん銅像は、元の憂いを帯びたものに戻った。
ふぅーびっくりしたが、スキルを三つも貰えた!頭に全部スライムが付くのが若干不安だけど。
タイチはとりあえず一通り試すことにした。まずは鑑定だな。
情報は武器にもなり得る周りのものが分かればかなりアドバンテージだ。
手短な美少女ちゃん銅像に手をかざし、
「鑑定!」と唱える。
ホール型の空間は音を反響するようで、むなしくかんてーい、かんてーいという声がこだまするばかりだった。
何も起こらなかった……………やはり省力はよくないのか。
タイチは諦めてしぶしぶ言うことにした。
「スライム鑑定、うおっ!」
手をかざすと、頭の中に浮かぶような、声なき声を聴いているような不思議な感覚でして、
【これはスライムではありません】と分かった。
いや、分かってるわ!
タイチの嫌な予感は的中した気がした。
それでもあきらめきれずに次々と手をかざして試してみる。
鍾乳洞の壁や石、天井、水、石の台座。
しかしどれも、
【これはスライムではありません】【これはスライムではありません】【これはスライムではありません】【これはスライムではありません】【これはスライムではありません】【これはスライムではありません】
と分かるばかりだった。
最後に、スラオへと向けると、
まるでWikiでも眺めているような情報が脳内に流れ込んできた。
【原初のスライム】
図鑑NO:000
外より来たりし原初のスライム。
ありとあらゆるものを飲み込みその特徴を吸収し、顕現させる。
その食欲は星すらも喰らってもまだ収まらないとされる。
スラオのことが分かった喜びよりも、このスキルは完全に欠陥品だ!ということのショックのほうがタイチは重かった。
なにせこれはスライムしか鑑定出来ないのだ!
つまり全く役に立たないのだ!全然チートじゃない!!
スライムなんて見れば分かるよ!
だってスライムなんだから!!!
鑑定の必要すらないとタイチは憤った。
くそ、異世界ぽい展開だったからちょっとは期待したのに、
タイチはでかい溜息をつきつつ、次のスキルを試してみることにした。
「スライム図鑑」
……………うん、まぁそうだよね。
【スライム図鑑】
NO:000 原初のスライム
NO:001 ???
NO:002 ???
NO:003 ???
NO:004 ???
NO:005 ???
~
NO:151 ???
そのままのスキルだった。
きっとGETか精製かは知らないけど出会ったら登録されていくのだろう。
今は役に立ちそうにない。
そんなゲームのフレイバーテキストみたいな感想を抱きつつ、最後のスキルへを試すことにする。
スライム精製なんていういかにもなファンタジースキルだ。
これは唯一期待できそうだ。
「スライム精製―――うぉっ!」
自分の体から得もしれぬ何かが抜き取られていく感覚。
なんだか血液検査の際に血を抜かれている時みたいな感覚と言えば分かるかもしれない。
それと同時に手のひらに質量が生まれ、半透明な物質が水風船ぐらいに集まった。
これは……………!
半透明でいてぶよぶちとしたクラゲみたいなゼリー状の形状。
紛れもなくスライムだ。
ただスラオに比べるとかなり小さい。
まるでここに来る前に作った自家製スライムみたいだ。
……………そうか、ここでか。
タイチは天啓に導かれるようにスキルを発動する。
「スライム鑑定ぃいいいいいいいいいいいいいいいいい」
【ベビースライム】
図鑑NO:001
スライムの仔であり、あらゆる派生は最初に口にしたもので決まると言われている。
無限の可能性を秘めた個体。
おっおおおおお!
ベビースライムというのか、言われてみれば小さい赤ちゃんのようだ。
そう言われると、手のひらの中でブヨブヨと揺れる様がなんだか可愛く見えてくるのが不思議だ。
「お前は、一番最初に生んだスライムだからな。スライチと名付けよう。ぷるぷると震えてうれしんでちゅか?」
ぐっふふふと笑いが漏れてしまう。
「スライム図鑑オープン」
ついでにスライム図鑑を見てみると、ちゃんと乗っていた!
【スライム図鑑】
NO:000 原初のスライム
NO:001 ベビースライム※
NO:002 ???
NO:003 ???
NO:004 ???
NO:005 ???
~
NO:151 ???
ただこの※印はなんだ、そこに意識を傾けてみたが、別段何かが起こりはしない。
かといってウィンドウが出ているわけでもないからクリックもできないしな。
ちなみにオープンというのはノリで言った。
まぁこれもおいおい調べていくしかないか。
何はともあれ、まずは最初に1匹目をGETだ!
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スライム図鑑 1/151
美少女ちゃん封印解除まであと151種。