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絶壁の障壁

 さっきと同じ様に岩が崩れて光の玉が現れた。光はそのまま脈打ち人の形を成して強い光を発し日本人形の様な黒髪ストレートロングの少女がそこに居た。少女を見つめる俺に少女は「死ねっ!!」と反応出来ない素早さで側頭部に思いっきり回し蹴りを入れたが何故か俺にはダメージが無かった。その少女は自分の攻撃が効かないと分かると、足元に落ちている注連縄の残骸二つ分を手に持ちひと蹴りで5メートルほど離れると注連縄を真上に投げて両手を胸の前でパチンと叩き合わせ俺を睨み何かを唱えてもう一度手を叩き鳴らした。


 宙にあった注連縄はその音に合わせて撚る前の一本一本まで綺麗にバラけ少女の周りを旋風の如く高速で回転し始める。バラバラの藁は全てが一度に光を放ち目映く輝くと、もう一度光の中からパチンと音がした。その瞬間、さらに光が増して目の前が真っ白になり目を瞑る。瞼越しにすら真っ白く見えた光も止んだので目を開けると、そこには誰が見ても巫女に見える少女が立っている。ただし袴は朱色ではなく紺色を濁した感じの濃色だ。


「貴方、見たわね?」

 何を見たというのだろうか? 側頭部への蹴りが効いてないので、これは幻覚または夢の可能性もある。そう思って確認の為に和服の女性をもう一度見直すとプルプルと震えていた。

「な、ななななぜ貴様がここにおるのじゃ!!」

 和服の女性はよく見ると尻尾が沢山生えていた、そしてけも耳。もしかしてこちらの方は九尾の狐なんでは?

「そうよ、そいつは妖怪、九尾の狐よ、貴様はどうやってそいつの封を解いた、答えなさい! 返答次第ではただでは済まないわよ。」

 えー、俺口に出したかな。

 九尾の狐の質問を全く無視して俺の疑問に答えて自分も質問する巫女さんは一体何者なんだろうか、って巫女さんか。

「どうしたの、答えなさい!」


「お主よ、答えはいらぬぞ、この様な性根のねじ曲がった者なぞ放って置けば良いのじゃ。」

 俺の横で腕に抱き付き、その胸で挟み込む九尾の狐はそのまま目の前に回り込み、俺の胸に顔を寄せて言いう。

「そいつを取り込むなんてどうかしてるわ、厄災の元を退治こそすれ手下にするなどと。」

 顔を俺に押し付けたまま巫女に向き直りニヤリと笑う狐に対し、悔しそうに俺を睨み付ける巫女。

「そう言う事なら貴方には死んでもらう!!」


 巫女はまた手を叩き何やら呟き手を上げるとそこには元からあったかの様に祓串が現れた。祓串を確認すると同時に、真剣にこちらを睨み一瞬だけ目を閉じ、開けた瞬間に祓串を袈裟斬りに降り下ろした瞬間、さっきまでソコソコ晴れていた空が曇りになっていて、まるでずっと曇り空だったかの様だ。記憶の改竄?いや、時間を巻き戻したとしか思えない。そして思考を巡らせている間にそれは落ちた。


「バシッ、ドッグォーーーン!!!」

 またしても目の前が真っ白になり、耳をつんざく轟音が鳴り響く。


「そんな馬鹿な! あんた何者よ!!」

 どうやら雷が俺に落ちていたらしい。しかし俺は近くに落ちたのかと思っていたくらい何も異常が無い。そんな俺に動揺した巫女だが、そう言えば俺ってなんで大丈夫なんだ? それに俺に身を寄せていた狐はどうなった?

「心配せんでも妾は大丈夫じゃ、それにしても主は相当な強者(つわもの)の様じゃの、故に妾を救うてくれたのかのぅ?」

「無事なら良かった、注連縄は何かと思って触れたら勝手に切れただけだぞ。」

「「なっ!」」

「なによそれっ! 私の封印が簡単に解ける訳無い!!」

「なんじゃとっ! 妾の気持ちをもて遊んだのかぇ!?」

 なんだか二人ともシンクロ率高くないですかね。


 そのあと狐と巫女の戦いが発生、戦いは町に飛び火して俺の奪い合いがっ

「アホっ!!」

「死ねっ!!」

「痛いじゃないか。」

 回想の間も二人の激しい戦いは続き、離れていた筈なのだが一瞬で寄っていた。それにダメージが入った振りをしないと巫女の怒りゲージがMAXになるので言葉だけでも痛そうにしておく。


「なあ、そろそろ止めたらどうだ?」

「お主が望むなら妾に依存ありんせん。」

「貴方が決める事じゃないわ、でも狐が大人しくするなら構わないわよ。」

 巫女から攻撃を始めた筈なんだが、穏便に済ませるにはそれは置いておこう。


「それで貴方、こいつをどうする気なのかしら。」

「どうするって何を?」

「決まってるでしょう、どうやって討伐するかって事よ。」

「どうするって言っても事故だし俺のせいか?」

「妾は主の物じゃ、全て主の好きにして良いのじゃよ。」

 体を擦り付けてくる狐。

「あんたはまたそうやって男に取り憑いて操ろうとしてるだけでしょ!」

「その様な事はありんせん、妾はただ殿方の望むまま受け入れておるだけじゃ、貧相なおんしでは主様を満足させられぬであろう?」

「それしか考える事が無いのかっ!」

 結局また戦い始めた二人を放って置いて家に帰った。



「ただいまーっと、言っても一人だけどっ!」

 ちょっと一人遊びして家に上がりお腹が空いたのでキッチンへ向かうと、そこには見慣れぬ人物が裸で冷蔵庫を前に座り込み、こちらに向き直ると口一杯に食べ物を頬張らせて居た。

「やあ、君誰?」

「んご、んぐんぐんぐ、ごっくん……んぐっ!? んんんんーー!!」

 口一杯だったのに数回の咀嚼で飲み込んだから詰まった様だ。背中を叩いてあげたら何とか飲み込めたらしいが、とても苦しそうに肩で息をしている。そして頭の上についさっき迄見ていた耳とお尻に尻尾が二つあるのを確認した。

「君はもしかして猫又かな?」

 水を入れたコップを渡しながら背中越しに聞いてみた。

「そうにゃ!…ゴクッ…はあっ…ゴクッ…助かったにゃ。」

 そう言ってフローリングの床にへばってしまった。

「そっか。」

 何故猫又が家のキッチンに居たのかは分からないが敵意は無さそうなので復活するまで放っておくか。おっと、服も貸してやろう、そのままじゃ風邪引きそうだ。


 開きっ放しの冷蔵庫を探ったが殆ど食べられてしまい僅かに残っていた中から食べ物と思わなかったらしい箱入りホールケーキとオレンジジュースを取り出してリビングのテーブルに置きソファに座る。テレビをつけると何やら大規模火災現場の映像が写し出されリポーターが被災者にインタビューしていた。

『大変でしたね、大丈夫ですか?』

『はい、何とか。』

『随分広い範囲で爆発や火災が発生したとの多数の情報があるのですがどうなんでしょうか?』

『さあ、原因は分かりませんが逃げる前に巫女が逃げるようにって大声で駆け回っているのを見ました。』

『巫女って神社の巫女ですか?』

『はい、ただ色が赤じゃなくて濃い青色でしたけど、それにとても素早くて人とは思えないくらいに跳ね廻っていたんです。』

『そうですか、有難う御座いました、避難所は混乱している様なので火事現場を映して下さい。』

 現地リポーターの質問で飛び出した正常と思えない返答に、被災者が混乱していると思ったプロデュサーがスタジオから場面切り替えを指示し、また炎が拡がる倒壊した町並みを映す。


 あの二人はまだ戦っているのだろうかと考えていたら隣から声が聞こえた。

「これは何にゃ?」

 声の方を見ると当たり前の様にソファに座って胡座をかき、両手でケーキを掴んで口に頬張る猫又が居る。当然だが口の周りはホイップクリームだらけになっていた。

「あーあ、口の周りが汚れてるぞ。」

 ティッシュで彼女の口を拭うと嫌がりもせずニコニコしている。拭き終わったティッシュをゴミ箱に入れてソファに座り直した。

「これはテレビで、映っているのは近所の火事現場だな。」

 テレビを見ながら答えた。猫又の生態は分からないが、猫は目を合わせると敵意と感じるらしいので態々こちらからそんな真似はしないで直視は出来るだけ避けておく。


「んで、猫又さんはどうして家に?」

「起きたらここに居たにゃ。」

 テレビを見ながら聞いたが猫は嘘を吐いている様に思えず、かと言ってここで寝ていた筈も無い。そして玄関からここまで来る間に違和感があったのを思い出す。玄関をあがって目の前にある父がお土産に買って来た変な石が無かった様な気がする。もしかしてそれか。

「もしかして封印とかされた事無い?」

「何で分かったのにゃ!? おっかない巫女に追い回されて封じられたところまで覚えてるのにゃ。」

「その巫女って……あんな感じ?」

 さっきから猫の後の窓からこちらを伺っている巫女が居る。振り返る猫と今にも雷を落としたそうに俺を睨み付ける巫女さん。

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