不適合
2018/06/11 サブタイトルが不適切だったため修正しました。
ああ、何て事だ。俺のせいで町が壊滅してしまった。
目の前に見えるのは炎に包まれた町並みだ。倒壊した建物や暴散した都市ガスのタンク、動けなくなり放棄された沢山の車、まるで地獄のように真っ赤に染まる世界。その中に跳び跳ねながら打ち合う炎に照らされた二つの影は離れてはぶつかりを繰り返し、その度に周囲を破壊していく。
「もうやめてくれー!! 俺を奪い合って戦うなんて!!」
『バシッ!!』
「アホっ!!」
「死ねっ!!」
50メートルくらい離れていた筈だが、一瞬で二人とも目の前にやって来て思い切り頭を叩いた。
「痛いじゃないか。」
叩かれたが二人の力では俺を打ちのめすことは出来ない。
「お主は妾を何と思うとるのかの。」
大きな胸が乗っているだけにしか見えないほど胸元が大きく開いた和服を着た妖艶な九尾の狐が言う。
「まったく、貴方は何も分かってないわ。」
巫女装束の清廉絶壁少女が苛立たし気に言う。
その時、俺の後ろから拡声器を通したと分かる女性の声が聞こえた。
「『キィィン』…こちらは警察だ、お前たち! そこを動くな!! 動いたら痛いのを打ち込むわよ!!」
今までタイミングを見計らっていた警察の特殊部隊が動いた。
「ふははっ、笑わせるな! おんし等如きに舐められる妾ではないわ! 来るが良い、火乃物共よ!!」
その声に破壊された町のあちらこちらから小さな狐が現れる。その狐は赤く燃えていた。
武器を持たず拡声器を持っただけの女性隊員以外は狙撃銃を構えて瓦礫の影に隠れていたが突然火狐に襲われ追い回されてちりじりに逃げ回っている。
「身の程知らず共が妾の道を阻むなど片腹痛いわ、そこで怯えておれ。」
人を下に見る九尾の狐に巫女がキレながらキレて無い風を装う。
「ちょっと貴方、私のこと忘れてないかしら。」
祓串をサッと振り上げ真剣な顔で何事かを短く呟き、振り上げた時と同じく軽く降り下ろすと長時間の大規模火災で生じた雨雲から特殊部隊の隊員を追い回していた火狐たちに次々と小さな雷が命中し、空気の炸裂で火狐を消すという芸当を見せる。
「貴方の相手は私よ!」
「面白い、あれだけ痛い目に遭うても未だ分からぬとは不憫な娘よの。」
「それはこっちの言葉よ、掛かってらっしゃい。」
目の前で睨み合う二人の女が俺を奪い合っていっ
「アホっ!!」
「死ねっ!!」
考えていただけなのに突っ込まれた。
「痛いじゃないか、なぜ考えていた事が分かったんだ。」
「お主は黙っておれ、話がややこしくなるでの。」
「いっそ埋めてしまおうかしら。」
何故こんな事になっているのか、それは半日前の昼頃に遡る。
□
ゴールデンウィークの初日、誰からも遊びに誘われず、やる事も無かったので小さな頃によく遊びに行った家の直ぐ裏にある小高い山の上の神社で町並みでも眺めて黄昏ようかとしていたのだが、暫く振りに来た神社は何か雰囲気が違っていて何と言うか何かを感じた。それが何なのかは迄は分からないが、明確にソレを感じていたので惹かれるままにその場所を見つけた。ソレは人の大きさと然程変わらない岩が二つ、夫婦岩みたいに二つの岩を繋ぎ腕ほどの太さを持つ注連縄で祀ってあった。
「何だこれ? こんな物あったかな。」
小さい頃に遊んだ境内もその回りの木々も敷地内は記憶にあるのに、この岩だけが記憶に無く、見る限り新しく設置された物でも無さそうな気がする。何よりこの場所の記憶だけ抜け落ちた様に全く覚えが無いがこの岩を否定する事も出来ないのだ。混乱する記憶に事実という実感を持たせようと岩のひとつの注連縄に触れると、まだ新しそうな太い注連縄が何故か切れて下に落ちた。ぽとっ。
注連縄が落ちると、その岩はぼんやりと光を放ち、突然ヒビが入ってポロポロと崩れる。崩れたあとの岩が無くなった空間に光る野球のボールくらいの大きさの玉が浮いていた。玉は俺に向かってヨロヨロと近付いてくる。その玉に何か必死さを感じ思わず玉を両手のひらで水を掬う様に乗せると、玉は動きを止めて脈打つ様に光を変化させながら枝を伸ばしていく。
光は枝を伸ばして人の形を成したが人と明確に違う部分が、腰の辺りから九本の光が伸びている。やがて輪郭が完全に出来上がると眩い光を発したので目を閉じた。感じていた何かはこれだと気付いたとき目の前から女性の声が聞こえた。
「おんしが妾を救ぉてくれたのかえ?」
誰も居ない筈の場所から聞こえる声が誰のものか確認する為に目を開くと、そこには薄茶色の髪と金色に輝く瞳に白い肌の妖艶な美女が居た、そう、手の届く目の前に。手が光の中にあって光ったところまでは見ていたがその後は分からない。そして目で見て気付いたが女性の大きな胸を両手で持ち上げる形で和服の間に挟まっている。
「助けたのがおんしで間違うておらんなら妾をおんしのものにしてくりゃれ?」
挟まった両手を和服の上から抱え上げながら当然の事と言わんばかりに俺に色目を使ってくる。そして目に気を取られていたが頭の上に耳がある、けも耳が。なんだこれ!?
「何か悪い物でも食ったかな。」
両手を引き抜き頭を抱えるとポロリには目もくれず、おでこが人肌で暖められた温さを感じた。これって本物だよな? そう考えると逆に自分がおかしいのではないかと思えてくる不思議にもう一度手をどけて目視確認すると確かに目の前には妖艶な美女がいる。
「おんしさえ良ければ妾の主として好きにして良いのじゃよ?」
さっきから話し掛けてくるこの女性は随分と積極的で、こちらの状況も気にしていない。女性の存在自体を自分の脳か何かの異常で有るものと誤認しているのではないかと思考を巡らせていると、隣の岩の注連縄が勝手に切れて落ちた。ぺちっ。