はちわ
“復活の館”という無機質な窓のついた、明らかに世界観としてはおかしい気がする白いビルにアキラは駆け込む。
ペナルティの関係で死ぬとここに集められるようにこのゲームはなっていた。
もっとも試作段階なので問題が多そうであれば変更する予定であるらしい。
だが今それどころではないアキラは使い勝手など頭に無く、受付の男性キャラに、ヨウタの所在を尋ねるも、
「ソノカタハキテオリマセン」
「何だって? そんなはずは……もう一度調べてくれ!」
「デスカラ……」
アキラは何度も問いかける。
そこでようやく追いついたカオルとミチルがアキラのそばで立ち止まり、そこでカオルが、
「アキラ、どうしたの? そんな血相を変えて」
「ここにヨウタがきていないらしいんだ」
「え? でもここは、あの“宝物庫のある名も無き城”で確か……体力が0になったプレイヤーがここに来るんだよね?」
「ハイソウデス」
カオルが念を押すように聞くと男性キャラからそんな返事が返ってくる。
そしてその答えを聞いてアキラが、
「じゃあ、ヨウタは一体何処に……ヨウタ……」
顔を蒼白にして焦るアキラ。
そこで合成音の笑い声が聞こえ、同時に画面が空中に現れて(一つのパーティに一つらしい)映像が現れる。
「はっはっは、私が復活した魔王だ!」
「今はそんなのはどうでも良い。しかも、エロエロダイマオウとか、冗談で言ってみたような名前だし、被り物も古臭いし、ふざけるのもいい加減にしろと……」
そこでそのエロエロダイマオウが抱える人物に気づいて、アキラが固まった。
その人物は、アキラのよく知っている人物で、彼は顔を上げると手を振って、
「アキラー、僕、魔王に捕まっちゃった」
「そういう事だ。では勇者共、健闘を祈るぞ、ぐわあははは」
そこで映像と音が切れた。
しばし呆然としたアキラ達だが、すぐにアキラは走り出そうとする。
それをカオルが止める。
「アキラ、落ち着いて! 魔王城が何処にあるか知っているの!」
「ぐ、だが、ヨウタが……あんな、エロエロダイマオウなんぞというおかしな名前の、エロそうな奴に捕まって……」
「落ち着こう、アキラ。まず闇雲に走っていってもしょうがないし、それで一人で突入して倒されたらまたアキラは初めからというか、魔王達の“魔性”候補だよ! ヨウタを助けられないよ!」
「うぐ、だが、ヨウタは“魔性”なんだぞ! 感度がいいんだぞ! それで、あのエロそうな奴に捕まって、俺が行った頃には、『魔王様大好きもっとしてー』とか、淫乱になって寝取られた挙句ダブルピースに……」
想像して目を大きく見開きわなわなと震えりアキラにカオルは、
「アキラ、不安なのは分ったけれど、自分が何を言っているのかもう一度確認してみよう」
「ヨウタが、もう魔王様なしじゃいられないんだ、とか、俺の前でキスや抱擁を交わしちゃったりという寝取られシーンを見せ付けられたりとか……ごふ」
とりあえずカオルはアキラを正気に戻すために殴った。
一応ゲーム内なのでそれほど痛みはないのだが、音が大きいので正気に戻るには丁度良かった。
「いつもの冷静なアキラに戻らないと、多分ヨウタは連れ戻せないよ。魔王はこのゲームの中で一番強いんだから。そもそもこれ、全年齢版ゲームだから」
「……分った」
しぶしぶ頷くアキラ。
それにカオルはほっとして、ミチルも頷き、そこでどうやってヨウタ救出兼魔王退治をするかという話になったのだった。
そんなこんなで魔王城にて。
ヨウタは背伸びをしてメイに、
「ふう、これでアキラは僕を探し回らずにすむね」
「探し回らせて疲弊させちゃえば良いじゃないですか」
「うーん、でも、こう……今まで迷惑ばっかりかけちゃったし、助けてくれたし、幼馴染だし……心配してたと思うから、これで良いんだ」
「……ヨウタがそう思うなら良いですが」
メイが少し不満そうだ。
それはそうだろう、一番の敵を疲弊させる機会を一つ失ったのだから。
けれどヨウタにしてみれば、これでアキラが心配……が少し薄れて、心おぎなく魔王城に迎えるだろうと、ほっとしていた。
ちなみにこの頃アキラといえば、ヨウタが寝取られてアヘ顔ダブルピースになどと分けの分らない暴走をしていたのだが、ヨウタは知る由も無かった。
そこでディーがやってきて、
「勇者パーティ、二組ほど倒してこちらに転送しました。いかがされますか?」
「えっと……その勇者パーティに二人が欲しい勇者はいたの?」
「私はいません」
「僕も違います」
「じゃあ……暫くここでゆっくりしてもらって、今後の話し合いでもしますか」
と、歩き出すヨウタを、ディーが襟首を捕まえて止めた。
「……魔王自らが状況説明することもないでしょう?」
「え? ほら、捕まえた人たちとかに悪役が、『無様な姿だな、勇者よ。今人間たちはどんな状況か知っておるか? あのお前達もよく知っている、以下略』とか言っていたりするじゃん」
「言うんですか?」
「もうちょっと普通に説明をしておこうかなって。いきなりここに連れて来られて不安だろうし」
どう考えても魔王と思えない行動を取ろうとするヨウタに、ディーとメイは顔を合わせてこそこそと話し合う。
「どうしますか? メイ。このヨウタというエロエロダイマオウ様、凄く良い人ですよ」
「ぶっちゃけ、見掛けの可愛さも含めると、善良なものを汚したいというフラグが立つ気がしないでもないですね」
「……あの勇者達に会わせない方が良い気もしますが、私としては一度、勇者どもの現実を見せ付けておいたほうが良い気がしますね」
「そうだね……所でヨウタ、正義を汚して踏みつけてやりたいという気持ちになった事ある?」
試しにメイが聞くと、ヨウタは変な顔をして、
「……何、その物語の悪役みたいな奴。そういうキャラは絶対に倒されちゃうよ」
「……善良すぎるので、一度現実を見せておきましょう」
そう、メイとディーが大きく二人で頷いた。
エロい事をされそうになったら拒否してください、出来る限りそういった魔物は近づけませんのでヨウタが言ったら、怒られたでござる。
「俺はドMなのに、それが楽しみでレベルを上げなかったのに!」
といった勇者達のパーティ。
世の中には色々な人がいるとヨウタは瞳をどんよりとさせながら、あまりにも怒っているのでとりあえずどうされたいのか要望を聞いて、色々魔物を連れてきた。
その後の事はヨウタは知りたくないので、何かあれば連絡くださいと告げてその部屋を光の速さで後にした。
開けてはならない、そんな世界があるのだ。
次にもう一人の勇者の所に行けば、ヨウタは押し倒されそうになったので、簀巻きにして部屋に鍵をかけておいた。
一応どちらも魔王城の客室なので、寝具の他に様々なミニゲームが揃って暇つぶしが出来る仕様になっている。
とはいえ、二つの勇者という真っ黒な現実にヨウタはげそっとしながら、
「勇者ってもっとこう、正義の味方っぽいものじゃ……」
「勇者だから正義なんです」
さらっとディーが言い切った。
正義だから勇者なのではなく、勇者だから正義なのだと。
酷い話だとヨウタは思いながら、確かにアキラは善良だけれど正義といえるかといえば、ヨウタが襲われているときに写真を撮ったりとか酷かったなと思う。
少なくともあれを正義とはいえない。
そしてそこである疑惑を覚えてヨウタはディーに、
「……勇者ってこういう奴らばっかりなの?」
「人間ですからね。そして何処からどう見ても悪役な勇者様が、私のパーティにいましてね。私が触手につかまって肌をさわさわされて魔力を吸われ……エロい思いをしている所に嬉々として参戦して、更に……あの野郎……」
真っ黒な気配を醸し出しながら、不気味に笑うディー。
よほど恨みがあるんだろうとヨウタは思いながら、そこであれっと思う。
「ディーはその勇者が欲しいんだよね?」
「……」
「違うの? じゃあどの勇者を……」
けれどそこで、固まっていたディーがボソッと、
「……そうです」
「え?」
「その勇者が欲しいんです。あの性格が悪くて俺様で自信過剰なあいつが!」
顔を真っ赤にしてディーが叫んだ。
大人しい感じのイケメンというか賢そうな雰囲気だったのに、焦って顔を赤くする様子は随分と可愛く見える。
そんなディーに、ヨウタは好奇心が湧いて、
「どうやって好きになったの?」
「す、好きになったって……べ、別に、いつも顔を合わす度に喧嘩を吹っかけてきて嫌味を言うあいつが、絶対負かす! と私が努力しているのにやすやす超えていってにやにや笑うあいつが、このゲームで“魔性”属性で敵に襲われすぎて倒されそうになっていた所を助けてくれたりとか、その時の事を恩に着せてパーティに入れと命令してきたりとか、色々手助けしてくれたりとか、でも“魔性”属性と分るや否や襲ってきて、今までそんな素振り現実でも無かったのに私に優しくキスしたり私に触れたりするようになって……でもあいつに良いようにされるのは悔しいじゃないですか!」
「あ、うん、そっか……」
「だから今度は私があいつを手に入れて、色々してやるんです!」
そんな決意に満ちたディーに、ヨウタは頷くも、何となくまた良いようにされちゃうんじゃないかなとヨウタはディーを見つつ思ったのだった。
さて、なんやかんやで魔王城にヨウタを助けに向かうアキラ達だったが、その途中に見知った顔に、
「何でこんな所にお前達がいるんだ」
「それはこっちの台詞だ! ここであったが百年目、今すぐ雌雄を決する時……」
「それで、魔王城は何処にあるんだったか」
「無視するなー!」
どういうわけかユウシに会ったアキラ達だが、アキラとしてはヨウタの事で一杯一杯なので以前よりもユウシに対して冷たかった。
けれどそれに苛立ったらしいユウシがアキラに人達浴びせようとした所で、珍しくミチルが、
「……ヨウタが魔王に捕まった」
たった一言告げる。
その珍しさもあってか、ユウシが動きを止めてアキラの顔をまじまじと見て、
「まさかあの映像のヨウタは、本当にヨウタなのか?」
「……俺がヨウタを見間違えるはずがない」
言いきるアキラに、いかにも自分とヨウタが特別な絆で結ばれているというのを見せ付けられている気がして、ユウシは苛立ちを感じる。
そして確かにユウシにとってヨウタは好意の向ける対象だが、アキラほどの深い関係ではなくて、このゲームでであった顔見知りといった友達である。
そう考えるとユウシは更に苛立つも、そこでふと、ヨウタが魔王に囚われたというのはいかにも、
「……囚われのお姫様を救い出す、勇者にはぴったりだな」
「……ヨウタを助け出すのは俺だ」
「魔王を倒すのは早い者勝ちだろう?」
「だったらお前と話すのは時間の無駄だな。すぐにでも行かせて貰う」
「徹底的に邪魔をして、俺が先に魔王城に行ってヨウタを助け出してやるよ」
「俺の邪魔をまたするのか?」
一瞬言葉に詰まるユウシだが、すぐににやりと笑って、
「なら俺よりも先に辿り着いて魔王に勝てば良い、そうだろう? アキラ」
「そうか、じゃあお前は無視をしておくな」
「……そうやっていつも自分が上だと思うなよ? 今日こそ一矢報いてや……なんだ、ツバサ、ヨクト」
そこでいつもはユウシににこやかに付きまとう双子が珍しく苦虫を噛み潰したような顔で、
「少しユウシはここで待っていてください」
「少々アキラと話がありますので」
そう、アキラの方に近づいてくると、アキラを連れてユウシから声が聞こえない離れたところまで来て、
「これから二人で全力でユウシの邪魔をします」
「ですから、アキラさ……は、ヨウタを助けに行って下さい、全力で」
鬼気迫るような表情の二人に、随分追い詰められているなと思いながらアキラは、
「……そんなにユウシはヨウタを気に入ったのか?」
「気に入ったというか、もうアキラから寝取りたいレベルです!」
「ここの所ずっと、『ヨウタと牧場デート~』と顔をにやけさせていたんですよ!」
「分った、全力でヨウタを助けに行く」
「「よろしくおねがいします!」」
寝取ろうとしているユウシの様子に、切れたアキラが笑いながらツバサとヨクトに答えて、そんなわけでユウシがアキラに突っかからないようにとツバサとヨクトが押さえつけて、その間にアキラ立ちはその場を後にする。
「待っていろよ、ヨウタ」
囚われのお姫様を救い出すと決意するかのように呟くアキラ。
そんなヨウタが、ヒロインはラスボスというどこかで聞いた事のある設定であったのだが、アキラは知る由も無かったのだった。
魔王城にて、お茶を飲んでほのぼのしているヨウタを見ながらこそこそとメイとディーは悪巧みをしていた。
「ヨウタは良い人ですから、正々堂々と戦うでしょう。ですが、僕達は負ける危険を極力押さえたいわけです、ディー」
「そうですね、あいつに負けたくありませんが他の奴等はもっと負けたくないですしね。負けて見知らぬ相手になんやかんやは避けたい、とはいえヨウタがいるから大丈夫だと思うのですが……」
振り返ってヨウタの様子を見るディーとメイ。
そこで、この歌舞伎揚げ美味しいなとほっこりしているヨウタに、メイとディーは再び不安を覚えながらも、更にこそこそと会話を続ける。
「そもそも私達が欲しい勇者の前に、あのアキラという勇者がここに辿り着くのは避けたい」
「強すぎですからね、彼。出来るだけ遠回りにして、消耗して欲しい」
そこでディーの目がきらりと光る。どう考えても悪い事を考え付いたような笑みを浮かべて、
「……こういうのはどうですか? 偽の看板を作って、魔王城に入るには四天王を倒さないといけない事にして」
「なるほど、ダンジョン巡りついでにそこそこ強そうな四天王という事にした魔族の相手をさせて、そして回復アイテムやら何やらが補給出来ないルートに誘導して……」
消耗させてから魔王城に来させる、その時、このディーとメイはそれは良い考えだと思っていた。
その考えの甘さが命取り……というよりは、それらを全てクリアすると経験値が貯まるので、更に強くなってしまうと事が彼らの頭からすっぽりと抜けていた。
そんな危険な賭けに乗るのはあまり良くなかったのだが、善は急げと、ディーはヨウタに気づかれる前にこそこそと準備をし、メイはヨウタに気づかれないよう話し相手をする事にした。
「ヨウタ、嬉しそうですね」
「うん、とりあえず後は待てば良いだけだから。でも勇者は変態ばかりだね……」
実は先ほども一人、勇者を倒して客間に押し込めたばかりだったのだ。
そんな勇者もまたもや変態だったのだが、ヨウタは思い出したくもないので頭の隅に追いやって、代わりに、
「そういえばメイの勇者は変態なの?」
「……確かに変態かもしれません」
「そうなんだ」
「一見まともそうで物腰柔らかで丁寧なんですが、僕に対してはこう、羞恥心を感じるようにじくじくじくじくと……あれですね、むっつりスケベなんですね」
「……でも好きなんでしょう?」
「……そうですね」
メイは顔を赤くして、言葉に詰まってしまう。
そんなメイを見ながら、青春だなとほのぼのしつつ、そういえばアキラがここに来た時ヨウタはどうすれば良いのだろうと、今更ながら不安に駆られる。
一応ラスボスとして、ヨウタは戦わないといけない訳で、アキラの強さは目の前で見たヨウタが一番知っている。
アキラに負けてしまっても、ヨウタだけでなくメイとディーの好きな相手への願いは叶えられないんだよなとも思って、ヨウタはメイをがしっと握って、
「二人が幸せになれるように、僕、頑張って説明書を読むね!」
そんな目をきらきらさせるヨウタに、あ、誤魔化す必要なさそう、というかヨウタ可愛いなー、ちょっとくらいつまみ食いして良いかなー、とメイは思ったが、結局手を出さなかったのだった。
魔王城にて、ヨウタ達面々……というよりは、ディーとメイが無慈悲な攻撃を仕掛けて着々と変態勇者達を魔王城の客間にご案内していた頃。
「看板? 何々、四天王はこちら。彼らを倒さないと魔王城に入れません?」
アキラは読み上げて、首をかしげる。
そんな四天王といったキャラがいるという話は聞いた事がない。
カオルやミチルに聞いても首を傾げるだけだった。
けれど書かれているのだからおそらくは事実だろう、という事でアキラは指示通りに進んでいく。
その様子を確認したディーは即座に看板を回収する。
そして、再び誰もいなくなった頃。
怒ったようなユウシが
「ツバサもヨクトも、どうしてアキラの味方なんだ」
「まあまあ」
「まあまあじゃなくて……ヨウタ」
ヨウタと呟くユウシに、ツバサとヨクトが顔を見合わせて、こっそりと話し合う。
「……そろそろ本気で襲うか、ユウシを」
「……いい加減ヨウタ、ヨウタと煩いですしね」
二人してちらりとユウシを見ると、ユウシは俯いている。そして、
「……やっぱり、何時だって俺の欲しいものは全部アキラが持っていくのかな。俺の何がいけないんだろう。何が足りないんだろう。どんなに努力しても、俺はアキラに勝てない……」
その独白に、欲望に支配されて思いあまった行動に出ようとしたツバサとヨクトが動きを止める。
そして再び顔を見合わせて、ヨクトが首を振る。
今はユウシが落ち込んでいるので更に傷つく事はしたくないと。
それにツバサも仕方がないなと溜息をついて、ユウシの傍に行き、ツバサとヨクトはユウシの頭を撫でる。
「わ! なにするんだ! 俺は子供じゃない!」
「落ち込んでいるようでしたから」
「大丈夫ですよ、私達が何時だってそばにいるじゃないですか」
「……アキラの味方をしたじゃないか、二人とも」
ふんとそっぽを向くユウシ。
実はユウシ、この双子の前では気を許しているのか子供のような仕草をする事を、双子だけは知っていた。
なのでそれに双子はぷっと同時に吹き出して、
「はいはい拗ねないでくださいユウシ様」
「様付けするな……今は」
「そうですね。ですが私達二人とも、ユウシとずっと一緒にいますから、安心してください」
「な! 別に俺は一人で平気で……頭を撫でるな! もういい、行くぞ!」
肩を怒らせながら、歩き出すユウシ。
それをツバサとヨクトは追いかけていく。
そんなこんなで、看板を見なかったユウシはアキラよりも先に魔王城へと向かう事となったのだった。
一通り説明書を読んで使い方をなんとなーく理解したヨウタだが。
部屋には今はヨウタ一人で、メイとディーは勇者対策をしているらしい。
ヨウタも何かすることがあるかと聞けば、ヨウタの場合回復アイテムやら何やら設置しに行きそうだから駄目だと言われてしまった。
自分の評価に嘆きながらヨウタは、一人部屋で再びお茶を飲んでいたのだが……。
「やっぱり、話し相手が欲しいよな。それに、アキラを捕まえた後、どうすれば良いのかよく分らないし。そんなわけで……ピンク色のチケット、使用っと」
以前、男の娘な“魔性”属性の子がくれたもので、お手伝いをしてくれるらしいのだ。
つまり、どういう風にアキラに接すれば良いのか、ヨウタはお話が聞けるわけである。
そしてそのピンク色のチケットがぴかっと光って、
「お呼び頂きありがとうございます! わぁ、ヨウタだ! それで何をすれば良いの!」
「えっと、男同士の恋愛相談をしたいかなって」
「実地ですか!」
「……口頭でお願いします」
その言葉に、その男の娘はええっという顔をして、
「せっかくヨウタを襲えると思ったのに!」
「何で!」
「だってヨウタは可愛いし良い子だから襲いたくなっちゃうし。こんな可愛い子に当たる機会なんてあまりないし!」
そういうや否や、男の娘はヨウタを押し倒した。
そして見下ろしながら、男の娘なのに雄の匂いを漂わせる笑みを浮かべて、
「それじゃあ、気持ちよくしてあげるよ、ヨウタ……」
「これ、全年齢版なのですが」
「ぎりぎりを攻めてみるのもいいと思わない?」
「所で僕、魔王なんだけれど痛い目に合いたくなかったら離れるように」
と、言ってみた。
男の娘はすごすごと引き下がった。
なんでも、この男の娘は、魔王側の勢力だったらしい。
「せっかく可愛いヨウタを美味しくいただけると思ったのに」
ヨウタにとってははた迷惑な内容を言われて、そんな嘆く男の娘をせかして、ヨウタは色々と話す。
男の娘キャラは、その話を聞いて、
「甘すぎて気持ちが悪くなってきた。なんて純粋なんだろう」
「え、ええ!」
「でも、ヨウタはアキラ君のことが大好きなんだね。それをヨウタも今話していてわかっているんだよね」
「……うん」
「美味しそうな獲物がいなくなるのは悲しいけれど、応援しているよ。散りあえずサービスでもう一枚チケットを渡しておくから、また何か会ったら呼んでね!」
そう言って消えてしまう男の娘だが、随分親切だなと思いつつふとヨウタは気づく。
あのきちんとした受け答え、もしやプレイヤーキャラなのでは?
新たな謎が増えたヨウタは、けれどこういった事を相談できる相手としては貴重だったので、こそこそとそのチケットを大事にしまったのだった。
さてさてその後も変態勇者を魔王城に着々とご案内、アンド、ヨウタの説明会が開かれて、計6人ほどを案内した後の事。
ディーとメイが、やけに嬉しそうな顔をして城を出て行ったと思ったら、ぼろぼろになって帰ってきた。
それを見たヨウタが、体力回復の魔法を使う。
見る見る服やら体力やら魔力やらが満タンに溜り、服も元の悪役っぽいローブの、細かな刺繍の施された綺麗なものへと変わる。
「これでよしと。それで二人ともどうしたの?」
「「ようやく念願の勇者を手に入れたのです!」」
同時に叫ぶ、メイとディーに、ヨウタはとりあえず頷いた。
「おめでとう。えっと、二人にあげるから僕は説明が要らないか」
「はい、早速この私に踏みつけられ、支配される屈辱をあいつに合わせて来ます!」
「あ、ディー……」
けれどよほど嬉しいのか、ディーはヨウタが止めるまもなく走り出した。
そんなディーの様子にヨウタは、
「大丈夫かな……」
「じゃあちょっと様子を見ましょう! 素直になれないディーさんがどういう行動をとるのか見ましょう!」
「……メイは自分の捕まえた勇者は良いの?」
「……心の準備が」
「……そっか」
そんなこんなで、ヨウタとメイはディーの様子を見に行く事となったのだった。
部屋に来ると客室で足を組んでいる勇者、マサキがいた。
彼はディーをみると鼻で嗤って、
「それで、俺を“魔性”属性にしてどうするつもりだ? この変態が」
「貴方に言われたくありませんね、これまで私に何をしたのか……忘れたとは言わせませんよ?」
「その割りにはすぐにああなって、随分淫乱で感じやすいんだったなタロウ」
「本名で呼ばないでください。今はディーです」
「はいはいタロウちゃん。それで、ご主人様になって、俺にどうして欲しいんだ?」
その余裕な態度に、ディーは苛立ちを覚える。
ディーが主人のはずなのに、未だにこいつの上にいけない錯覚に陥る。
だがそれは気のせいに過ぎないのだ。
現に自分は今支配する側で、事実マサキもディーの事をご主人様と小馬鹿にした口調であるが言っている。
そして現在彼の仲間は、何故か隣の部屋に行っており、ベットのある部屋でディーはマサキと二人きりだった。
そこでディーは、ふんと笑い返してから、
「今はマサキ、お前は私のものだ」
「それで、タロウちゃんはどうしてほしいんだ? ……え?」
そこでマサキの隣にディーが座って手を握る。
驚いたようにディーを見ていたりして、
「きょ、今日は普通にこう、こうしていればいいんだ」
「……可愛い」
「……え?」
そこでマサキが可愛いと呟いてそして、マサキが押し倒すように抱きついて、
「な、何をするんだ」
「こんな風に可愛いお前が悪い!」
「や、やめろ、私を抱きしめるなぁあああ」
そんなディーの悲鳴が聞こえたのだった。
ディーがマサキに圧し掛かられていちゃいちゃをはじめたので、そこでドアを少し開けて中の様子を見ていたヨウタ達は部屋のドアを閉めた。
「……なんだか結局好きな勇者のいいなりじゃ……」
「ぼ、僕はあんな風にならないように頑張ります!」
そう、メイが自分に言い聞かせるようにヨウタに宣言するも、メイも結局恋人から逃げられない。
膝の上で抱きしめられている。
そこで隙間から見ていたヨウタはそこでこっそりと部屋の扉を閉めて、大きく頷く。
「主導権を取られないように気をつけないと。じゃないと二人みたいに、良いようにされてしまう」
蒼白な顔で呟くヨウタ。
けれど、現在ディーとメイがこういう状態という事は、残りの勇者二人はヨウタがじきじきに対応しなくちゃいけないと気づいて、それがユウシとアキラなんだと数えていて気付く。
「ユウシには悪いけれど、僕は勝たないといけないんだ」
ヨウタは一人呟いたのだった。
ヨウタがある決意を固めている頃。
「四天王はこれで全部か」
ようやくアキラは四天王の最後の一人を倒したのだが、そこで手に入れたものは一枚の紙だった。
その内容は、簡単にまとめると『四天王なんて倒さなくても魔王城には入れるんだぞ、やーい、ばーか by 魔王』という内容だった。
ちなみに書いたのは魔王ヨウタではなく、側近のディーだ!
けれどそれを読んだアキラはふっと酷薄な笑みを浮かべて、
「魔王……この俺を謀った落とし前はつけさせてもらおうか……」
そう、見ていたカオルとミチルがひくような黒い笑い声をアキラはあげたのだった。
ちなみにこの時、ユウシがようやく魔王城に辿り着いた所だった。
まずここで、状況を説明しよう。
本来であれば、ディーとメイの二人はアキラ以外の勇者に負けるはずない程度に能力は高かった。
とはいえそこは好きな相手であるので、多少の手加減や躊躇というものもある……というわけではなく、欲望を優先した事により、それこそ全力で二人は攻撃を加えたのだが……。
そこそこ強い、メイとディーの素直になれない大好きな勇者であるマサキとリヒトに、手下の魔物やらも連れて行きながら全力で攻撃した二人、負ける要素、苦戦する要素など何処にもないように思えた。
けれど誤算だったのは、その二人の勇者が結託していた点、そして、広範囲攻撃の強力なアイテムから回復薬まで上質で強力なものを揃えていた挙句、武器やら防具やらアクセサリーやらで、能力の底上げをはかっていた点である。
それ故に連れてきた魔族や魔物も片っ端から倒されて、どうにかギリギリディーとメイが戦って勝利したのである。
なのであんな風に二人はぼろぼろになって帰ってきたのだが、一度体力がゼロになるとペナルティが課せられ一定時間、再度出撃できないよう魔族側はなっていた。
そのような理由から現在、自由に動ける魔族側の戦力(魔王城内にうろうろしている、もともといる魔物は別にいる)は事実上、魔王であるヨウタ一人となっていた。
加えて、近づいた勇者の撃退にまわす魔物がいないために、大した攻撃も受けずに魔王城に近づける状態になっていた。
と、いうわけでユウシ達は大した損害も受けずに魔王城へと辿り着いたわけだが……。
「よし、どうやらまだ魔王は倒されていないみたいだな」
もしかしたならアキラよりも先にこの魔王城に着いたんじゃないかとにやつくユウシ。
そんなユウシを見つつ、ツバサとヨクトは、
「……アキラ達は何をしているんでしょうか」
「目に見えて邪魔をするとユウシが嫌がるので、さりげなく遅くなるようにしたのですが、これで魔王が倒されていないとなると……」
「魔王に負けた? あの強かったアキラ達が?」
「アキラ達は装備も良かったですし、経験値も沢山貯まっていてレベルも高かったはず」
「それが、負けた?」
「……ヨウタを人質にとられて好き勝手できなかったとか?」
「確かにそれもありうるが、もしも、正々堂々と戦って負けたとしたら?」
そこでツバサとヨクトは黙る。
そんな相手に、挑んだとして勝てるのかという事。
邪魔をしつつも最短距離で来ていたが、あのアキラはヨウタに夢中なので、同じ道を来たはずであり、途中で会わなかったということは先に来ているはずなのである。
ちなみにこの頃のアキラ達といえば、本当は四天王なんて倒さなくても良かったという事を気づかされて、アキラがぶち切れていた所だったのだが……。
そこでユウシが、ツバサとヨクトの方に来て、
「何で二人ともこそこそ相談なんてしているんだ」
「いえ、アキラ達が負けたのなら、私達に勝てるかなと」
「私達よりも彼らの方が強かったですから」
けれどその言葉にユウシは少し黙ってから、
「……だからどうした」
「ユウシ?」
「ヨウタが捕まっているんだから助けに行く。アキラが負けようがどうでも良い」
随分とヨウタにお熱なユウシに、ツバサとヨクトは嫉妬を覚える。
けれどユウシがそれを望んでいるのなら叶えてあげたいという気持ちもあって、そして、ツバサとヨクトは後者の感情をとり、
「分りました。そこまで言うのであれば、行きましょう!」
「それにアキラ達の攻撃で魔王が弱っているかもしれませんしね」
「そうだ! よし、エロエロダイマオウを倒すんだ!」
そう叫び、ユウシ達は魔王の城へと入って行ったのだった。
お客様一組、ご案内デース、というアナウンスが流れたので、城内映像をヨウタは見る。
「ユウシ達か……」
アキラよりも先にユウシ達が来た事に、ヨウタは少しもやっとする。
そうなると一番最後に来るのがアキラ達だ。
ちなみにこの時まだ、アキラ達が遠回りをさせられている事にヨウタは気づいていなかった。
とはいえ、ユウシ達に倒されるわけには行かないし、出来ればあまり顔を見合わせたくないなと思いながら、ヨウタは準備にかかる。
準備といっても、魔王城の魔王がいるらしい玉座のある広間に自分の影武者を置いて、すぐ傍の見えない所から操るだけなのだが。
そんなわけで、玉座の後ろに隠れていたヨウタ。
そしてそこで待っているのもなんなので、魔王の広間に様々な魔法攻撃を仕込んでおく。
これは戦いなのだから当然だとヨウタは思いながら、罪悪感を打ち消した。そして、
「ここが魔王の間か!」
ばたんと大きな音がして扉が開かれると同時に、ユウシに向かって魔法が炸裂する。
「「ユウシ!」」
焦ったツバサとヨクトの声。それにユウシは、
「このエロエロダイマオウ……卑怯だぞ!」
「戦いに卑怯も何もない!」
声を変えてヨウタは言ってみたが、流石にこれは酷いよなと思いつつ、負けるわけにはいかなかったので戦闘を開始する。
ここに入った時点でユウシはだいぶ体力を削られていたため、ツバサとヨクトが回復させながら戦うもその分防御が薄くなる。
それに現在魔王というこのゲーム最大の能力を持ったキャラが相手ともなると、勝てる要素があまり無かった。
というわけで数分後。
「ゼンメツシマシタ」
機械音声でアナウンスされて、悔しそうにユウシが呻いた。
そこへ、エロエロダイマオウ(影武者)が近づいてきて、それを見たツバサとヨクトが、
「ユウシには手を出さないでください、お願いします!」
「私達はどうなっても良いですから!」
「ツバサ、ヨクト……、違う、俺が二人を巻き込んだんだ、だから俺を……」
“魔性”属性になった三人がそう叫ぶのを聞きながら、ヨウタは物凄く罪悪感を感じていた。
必死にツバサとヨクトはユウシを庇い、ユウシはその二人を庇っている。
もうお前ら結婚してしまえ、と心の中でヨウタは呟きながら、その影武者の後ろからひょっこりヨウタは顔を出した。
「ヨウタ?」
不思議そうに呟くユウシに、ヨウタは、
「えっと、実はこれは影武者でね、僕が本当の魔王なんだ」
そう、ユウシ達に告げたのだった。