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ろくわ

 一番初めの敵を倒して、勝利条件である“スーパーメイド服”を手に入れた非常に運の良いアキラ達だった。

 真っ先に現れたのがウサギのような耳の生えた魔物だったが、アキラがユウシに負けてたまるかと頑張ったがために……実はそこそこ強い魔物だったのだが、一撃で倒してしまったのだった。

 そして運のいいことに目的の“スーパーメイド服”という、普通のものよりもスカートが短くてフリルが大量について刺繍がされたりレースがつけられたりした、凝った造りのメイド服を手に入れたのである。


 こうして服を手に入れたアキラは周りを見回して、


「ヨウタの事が心配だから、見に行く」

「でも敵と遭遇しているうちに、あっちがアイテムを手に入れて、約束の場所に来たらどうするの?」

「転送アイテムもあるし、敵と遭遇しない“魔除けの冷涼なる鈴”もある」


 さくっとアキラはカオルに言い返してそわそわしたようにアキラはヨウタが見える範囲にいないかを探す。

 そんないつも以上に余裕のない風なアキラにカオルは、


「“魔除けの冷涼なる鈴”を使えば、ヨウタは襲われないんじゃない?」

「……戦わないと経験値が入らないから」

「でも僕達レベルが高いから、必要な戦闘をこなすだけで良いんじゃない?」


 そのカオルの問いにアキラが黙る。

 カオルが何を言わんとしているのかアキラにはわかったのだ。

 そしてアキラに誤魔化させるつもりがカオルになさそうなことも。


 そしてしばしの沈黙の後アキラが、


「だってヨウタのあのエロい姿が俺は見たいし。あれだけかわいい姿をひたすら見れるなんてここは天国かと思ったし。それに、敵に襲われたヨウタを助けて良い所を見せたいじゃないか。少しでもヨウタが魅力を感じてくれるように……。俺だって一杯一杯なんだ」

「ふふーん、でもそれのやりすぎでヨウタは怒っちゃったんだよね?」

「……後で、謝ってもう少し優しくする。もう少し装備を整えさせたりとか」

「うんうん、それが良いね。でもヨウタのフォローまでして、アキラは一途だね」

「悪いか」

「良いと思うよ。実際会ってみてアキラの言う通り良い子だしね、ヨウタは」


 そうカオルが楽しそうに告げると、心の狭いアキラは即座に、


「やらないぞ?」

「僕にはミチルがいるもん。ねー」


 カオルが問いかけるとミチルが頷く。

 そして仲良く手をつなぐ。

 そんな二人を見て、アキラは羨ましいと思って、そこで木々に隠れるような方向からヨウタの悲鳴が聞こえたのだった。







 現在ヨウタ達は襲われていた。


「うわぁぁあ、僕の服に入ってくるぅうう! なんでまたぁ……やぁああんっ」


 巨大な透き通る緑色のスライムが現れ、まずヨウタを捕まえて宙づりにしてその服の隙間に入り込んできて、そのぬるりとした冷たいものが肌を這う感覚に喘いだ。

 いつも以上に魔力を吸うのに、感じさせられている気がするとヨウタは思う。

 肩の部分に触れているだけなのにそうなのだ。


 そしてその喘ぐよう他の様子に、一瞬ユウシが見入ってしまうも、すぐにはっとしてその感情を誤魔化すようにそのスライムに挑む。


「このっ、ヨウタを放せ! って、ちょっとまてぇええ、何で俺まで捕まって、止めろっ……中に入ってくるな!」

「ユウシ! この、ユウシに手を出すな!」

「ユウシ! このおおお」


 叫ぶと同時にツバサが雷の攻撃魔法を使うもそれほど効果がない。

 そこで、このスライムが何なのか、ついでに弱点を調べていたヨクトが焦ったように声を上げる。


「このスライムについて分かりました! 超大型スライム(森の仕事人☆~緑の香りを乗せて~)、この森のボスで、めったに姿を現さない伝説の魔物です! まさかこんな場所で遭遇してしまうなんて……ヨウタの能力のおかげでしょうか? 取り込まれると、倒せずに飲み込まれると、魔王イベントが終わるまで拘束されます」


 ヨクトの声にユウシが、


「……それで弱点は?」

「……無し、普通に、中にある丸い球状の核を壊さないと。普通に攻撃して体力を削っていくしかない!」


 二人揃って次々と攻撃魔法を繰り出すが、表面ではじかれて効果はほぼない。

 そこでツバサがもう一つの属性、双剣を取り出して、接近戦を挑むも、魔法と変わらない。

 その間に、ヨウタとユウシは酷い状況になっていく。


 気づけば下半身がすっぽりとスライムの中に食い込まされて、あともう少しで体全部がこのスライムの中に入ってしまいかけている。

 しかもこのスライム、体内に取り込んでから少しずつ服を消化して、肌面積を増やして魔力を吸収しようとするらしい。

 服の端の方が溶かされかかっているのにヨウタは気づいてそうだと分かった。


 しかもそこでビリッと服の破れる音がヨウタの服からして、それにヨウタは涙に濡れた瞳を大きく見開いて、


「やだぁああ、こんなの嫌ぁあ……助けてぇえ、アキラぁああ」


 こんな得体の知れない生物にこんな場所で捕まるなんてヨウタは嫌だった。

 でもこれは自業自得な面があるのだ、だって、ヨウタはアキラが戻って来いというのを無視してユウシ達についていったから。

 そこで風を切る音がして、剣がスライムを凪ぐ。


 それだけでスライムには大きなダメージが与えられ、悲鳴のような声がスライムから上がる。

 けれどそこで終えるつもりはないらしくその剣の主は、再び剣を振るう。

 ついで彼は、攻撃の手を休めることなく、仲間に指示を出した。


「カオル、“スライムどろどろ溶解液”を大量によろしく!」

「分った!」


 カオルの周りに、毒々しい紫の壷が大量に浮かぶ。

 それをカオルが、えいっ、えいっ、とスライムに投げつけていく。


「ミチルは、銃で防御の薄そうな所を狙ってくれ、俺は核を狙う!」

「分った」


 手の空いていそうな部分を狙い、そこを攻撃する。

 その激しい攻撃のせいか、スライムのヨウタとユウシを捕えようと弄ぶ力が止む。

 けれどぷにょぷにょとした冷たいものが相変わらず肌に触れていて、その感触は気持ち悪い。


 そう思っている間に、アキラが核に剣を突き刺す。

 スライムが一際大きな絶叫を上げて、次にさらさらと光の粒になっていく。

 同時にどさりとユウシは地面に、ヨウタはアキラに受け止められる。


 ちなみにユウシにはすぐさまヨクトとツバサが駆け寄る。

 そしてヨウタはアキラを泣き腫らした顔で見上げる。


「アキラ、助けてくれてありがとう」

「どういたしまして。でも、やっぱりヨウタは弱いな」

「うぐ、仕方がないじゃないか、“村人B”なんだから」

「だから、俺の傍にいろよ……守ってやるから」


 ヨウタは、アキラが卑怯だと思った。

 いつも以上に優しくて、そんな事を言って……男なのに。

 自分と同じ男なのに。


 そこで、ヨウタは破れた服の部分がすうすうしているのに気づいて、悲しい気持ちになった。

 それに気づいたアキラが、


「ヨウタ、どうしたんだ?」

「服がまたいくらか解けてしまって穴が開いてる……しかももしかして今回は強力な魔物だから、このままだったのかな?」

「うむ、微妙にきわどい感じのする格好もなかなかヨウタには似合っているんじゃないのか?」


 そこでアキラが楽しそうに言う。


「……こんな服は嫌だ。……この服を作りたいからアキラ、お金を貸して」

「そうだなー、どうしようかなー、ヨウタが何をしてくれるかによるなー」


 などと言い出した。

 勝利した余裕でアキラはついそんなことを言ってしまったのだが……。

 それに前言撤回、こいつは意地悪だとヨウタは思って、けれど“スーパーカイコたん”に貰った媚薬をふと思い出して調べる。

 物々交換ではどうだろうかとヨウタは思ったのだ。


 そして調べていくと、媚薬は何故か媚薬が20個に増えていた。

 そしてその下に、理由も書かれていた。


 ※“魔性”属性のため、エロアイテムは数倍になります。またよりエロいアイテムに変化します。


 いらないよそんな効果! と叫びだしたい思いに駆られながらも、持っている中で特別そうなのってこれしかない事に気づいて。

 けれどこのアイテムは敵を発情させる事で動きを緩慢にしたり出来るらしい。

 危険な敵相手ならそういった攻撃技として使えるようだ。


 味方にはどう使えるかはヨウタは見なかったことにした。

 それにアキラはヨウタには使わないという信頼感もあったから。

 といったもろもろの理由により、


「“媚薬(範囲拡大中☆)”と交換じゃ駄目?」


 そうヨウタがアキラに問いかけるとそこで、アキラが変な顔をした。


「……どうしてそんなものをヨウタは持っているんだ?」

「“スーパーカイコたん”にもらった」

「まさかヨウタは使われてないだろうな!」

「無いよ! 好きな人に使えって押し付けられたんだ! これで、駄目?」

「……いいぞ」


 本当はアキラはただで渡すつもりだったのだが、この“媚薬(範囲拡大中☆)”はレアアイテムなので貰っておく事にした。

 実際に使わずに売ってもいいし、もしも自分では対処できない敵に遭遇したら使ってもいいとアキラは考えたからだ。

 と、そこでカオルが羨ましそうに、


「いいなー、僕にも頂戴よ、ヨウタ」


 それを聞いてヨウタは仲間だし、まだたくさん個数もあるし今までお世話にもなっているからいいかなと考える。

 ただそういえばカオルはとヨウタは思い出して、


「いいよ、でもカオルは作れないの?」

「無理だよ。これ貴重だからさ」

「そうなんだ、じゃあ、ミチルにも助けてもらったから、二人にもあげるよ」


 二人ともやけに嬉しそうだった。

 そんなに貴重なアイテムだったのか、と思っていると、そこで助けられたユウシがやってきて、渋々といった感じでアキラに、


「……助かった、アキラ」

「ヨウタを助けるついでだ。別にお前を助けたわけじゃない」

「素直にどういたしましてって言えないのか! それでヨウタ、ごめん、俺が弱かったせいで……」


 そこでアキラに対してユウシは怒ってから、そんなユウシにヨウタは、


「そ、そんな事ないよ、たまたま強い奴と出くわしただけで……それまでは守ってくれたし、お礼を言わないといけないのは僕の方だよ。……あ、ユウシ達も“媚薬”いる?」

「え!」


 顔を赤くするユウシだが、こういう表情をされるとヨウタも恥ずかしくなるなと思う。

 そこでツバサとヨクトがやってきて、


「貰っておきましょう、レアアイテムです、貴重ですから」

「そうですよ、特別なイベントじゃないともらえないんですから」


 と口ぐちに言い、結局ユウシ達もヨウタから“媚薬(範囲拡大中☆)”を貰う事になった。

 そして、勝負は引き分けだからなとユウシは宣言し、次にヨウタに、


「何時でも俺達のパーティに来てくれよな、歓迎するから」

「……お前、喧嘩を売っているのか?」


 けれどそう怒るアキラを無視して、ユウシは、


「せっかくだから、わくわく魔物ふれあい牧場という、魔物が住む牧場で触れたり遊んだり出来る所、今度一緒に行かないか?」

「そんな場所があるんだ、知らなかった」

「“新緑の姫が眠る森”の傍の牧場なんだ。楽しいよ?」


 そこでヨウタは以前のアキラの説明を思い出して、でも多分あそことは違うんだろうなと思ってから、そのうち機会があればと答えると、ユウシは嬉しそうだった。

 ちなみにアキラがヨウタの見えない位置で冷や汗をたらしていたのは良いとして。

 結局、ヨウタはアキラ達の元に戻る事となったのだが、その宿への帰り道にて。


 ヨウタが、アキラに手に入れたばかりの“スーパーメイド服”を着せられていた。

 沢山のフリルやら刺繍やらがついて、後ろに大きなリボンが結ばれている非常に可愛い服である。

 しかもメイドカチューシャもセットにされていて、花模様の刺繍がそこにもされていた。


 とはいえそれはとても可愛いのは事実だが、これは女の子に着せた方がいいとヨウタは思う。

 なのに、なのに、


「何で僕にメイド服を着せるんだ!」

「俺の厚意を無視した罰だ。というか似合っているな、にやにや」

「この……覚えてろぉおお、って、なんか地面から……うわぁああ」


 メイド服を着たヨウタが怒って涙目で走り出すと、いつものようにすぐに敵と遭遇して、片足を捕まれて逆さ吊りにされる。

 今回は緑色のよくいる植物の触手だ。

 自然と重力に従いスカートが、めくれ上がるも、必死でヨウタは押さえる。


 けれどニーソに包まれた足が太ももまで露になっていて、それをカシャカシャ写真に撮るアキラ。

 助けるのではなくこの前と同じように写真を撮って……。

 それに気づいたヨウタが、


「アキラのばかぁあああ」


 そんなヨウタの怒ったような悲鳴が、再び響いたのだった。









 そんなこんなであの後魔物にも襲われるなどして戦闘しつつ何とか宿に戻ってきたヨウタ達だが。

 戻ってくるとすぐにアキラはヨウタ達に、


「ちょっとミチルに話があるから、散歩してくる」

「勝手に行けば良いじゃん」


 ヨウタはアキラのその言葉に、ぷいっとそっぽを向く。

 ちなみに未だにメイド服を着せられていた。

 このメイド服、一度着ると暫く脱ぐ事ができない。


 なのでヨウタはまた怒っていた。

 そんなヨウタにアキラはまたやってしまったと思いつつミチルと一緒に部屋を出る。

 部屋の中には、カオルとヨウタ二人っきり。


「さて、ヨウタでも襲おうっかなー。早速キスしてやるぅ~」

「! なんで! 恋人いるよね! ミチルさん!」

「ふふ、ミチルには僕はされる側だから。でもヨウタにはする側……」

「な、何で僕がされるほうなの! 僕だって男だもん! 可愛いとか小動物扱いされたって男だもん!」

「あ、うん、ごめんごめん、冗談だって……ヨウタはアキラだけにされたいんだよね?」


 カオルがにまにまと笑って、ヨウタに言うと、ヨウタは固まった。

 そしてそんな風にヨウタがアキラを好きなように見えるのかと思って、ヨウタはカオルに唇を震わせる。

 でもこれもいい機会だからと思ってヨウタは、ここにアキラがいないのを確認してから、


「僕は、恋愛感情でアキラが好きなように見える?」

「うん、もっともアキラは気づいているかどうか分らないけれど」


 そう、ヨウタの様子からカオルはフォローを入れる。

 まだアキラはヨウタのその様子に気づいていない、と嘘をつく。

 その言葉にヨウタはほっとしたようだった。


 そしてヨウタは深呼吸を一度してから、


「そっか、そうだよね。うん、アキラは幼馴染で意地悪だけれど良い奴だし」

「……そうだね。何? 絆されちゃった?」

「……分らない。でもキスされるのも嫌じゃないし、もっと僕の事を心配して欲しいし、大事にして欲しい。敵に襲われた時のイベントで写真に撮るんじゃなくて」

「そっかー。まあ、まだ時間があるんだし、ゆっくりヨウタが自分で答えを見つけていけば良いんじゃないのかな?」

「カオルは、ミチルの事好きなんだよね。……男同士とか、気にならないの?」

「んー、まあ確かにその壁は大きいけれどさ、その壁を乗り越えてしまうくらいミチルの事が好きなんだ。というか、男だから好きなんじゃなくて、僕はミチルだから好きなんだよ」

「そう、なんだ」


 その話を聞きながらヨウタは考える。

 確かにアキラは男だけれど、幼馴染で顔見知りで、意地悪で、でも、優しくて。

 アキラだから、ヨウタは好きなのかもしれない。


 けれど、そんな思いをヨウタが抱いているとしたらアキラはどう思うだろう。

 悩んで黙ってしまうヨウタにカオルは、


「……あまり深く考えない方か良いよ、なるようにしかならないし」

「でも……」

「僕にはアキラも脈ありに見えるから、ヨウタは運が良いと思うよ。それにヨウタだってまだ、自分の気持ちに悩んでいる最中なんでしょう?」

「……うん」


 まだ完全に好きと言い切れるくらい強い気持ちでは無くて、でも好意はあって、多分、友達以上恋人未満とはこんな気持ちの事を言うのだろうとヨウタは思う。

 だから、もう少しこのままでいて、ヨウタも考えれば良いんだとヨウタはほっとする。

 そんな笑顔になったヨウタに、これは完全に惚れているなとカオルは思ったのだった。 








 部屋どころか宿の外に頼んでミチルと一緒に出てもらったでたアキラは、宿から少し離れた家の路地に入り込み、ふうと大きな溜息をついた。


「ヨウタが可愛すぎて辛い」

「そうだな。俺もカオルを口説いている時はそうだった」

「そうなのか、しかもちょっとづつヨウタが俺に好感度を高くしている感じで……襲いたくなる。魔性関係の道具の話をすると怖がってびくびくするのも可愛いし、しかもそういった話の後はやけに俺に懐いてくるし、でもヨウタは嫌がるけれど女装したヨウタが可愛くて可愛くてもう……とびきりのおしゃれをさせてキスしたい気持ちにさせられるし、でもそんなことしたら嫌われるかもしれないし、だが、夢映像見てた時に零れる声で『アキラ、好き』って、俺も現実で言われたいとか……」

「……落ち着くんだ、アキラ。気持ちは分る」


 そうミチルになだめられて、アキラはまくし立てるのをやめる。

 けれど今の話は今更なのだ、アキラにとっては。

 一目惚れしてヨウタを追い掛け回して、でも友達で幼馴染だと、それ以上の関係になるのは、否、言って嫌われたり避けられるのが怖くて何も出来なかった。


 途中、彼女とも付き合ってヨウタの事を忘れようとしたけれど、彼女達に見るのは何時だってヨウタの面影だった。

 なのにあのヨウタはといえば、女の子女の子と……。

 何度ヨウタを、アキラのこの手で女の子にしてやろうと思った事か。


 しかも彼女がいるのを見て、嫉妬どころか彼女がいてずるいという始末。

 それに最近苛立ちを覚えて少し意地悪くして、しかも耐え切れず心の内を少し吐露してしまえば避けられて。

 自分のした事が原因なのに、どうしようもなくて、ゲームを作っている兄にアキラは手を貸してもらったのだ。


 まさかこんなエロい事になるとは思わなかったのだが。

 とはいえ、それもまた長年想い続けてきたアキラにとっては格別のご褒美に違いなくて、写真は全て宝物である。

 そんなアキラにミチルは、


「ヨウタは明らかにアキラに好意を持っている。ここで急げば全部失敗してしまうぞ?」

「……そうだよな、随分と長い間片想いをしてきたわけだし……」

「相談されたときも随分弱っていたが、今もまた随分と弱っているな」

「……仕方がないじゃないか。ご馳走が目の前で良い匂いをさせているのに我慢なんて……」

「その分美味しくなると思えば良い。一晩置いたカレーのように」

「……その例えは、間違ってはいないような気もするが、なんだかがっくり来る」

「あまり肩に力を入れすぎるのも良くない。緊張をすれば失敗も多くなる」

「そうだな……まあいい、これから頑張るか。まずは“宝物庫のある名も無き城”に行って、魔王との戦いに備えておかないとな」


 そうアキラは背伸びをする。

 そんなまだ恋人にはなっていない二人の様子にミチルは昔の自分達を重ねて、懐かしそうに目を細めたのだった。









 戻ってきたアキラは、ヨウタに少しは優しくしようと思ったのだけれど、女装をしているヨウタを見た瞬間頭がパーンとなってしまった。

 それ故に、ついヨウタに、


「うん、とてもよく似合っているな。相変わらずヨウタは可愛い顔をしているしな」


 ヨウタのその姿を見てついアキラはそんなことを言ってしまう。と、


「アーキーラー、だったらお前もこの服を着てみろ! さぞ可愛くなるよね!」

「俺はイケメンだから綺麗な美人さんになるな、見たいかヨウタ」


 冗談で言ったつもりのアキラ。

 けれど目の前のヨウタは、見る見る顔を赤くする。

 確かにアキラは目鼻立ちが整っており、この服を着せたならと考えるとヨウタ好みの綺麗なお姉さんになりそうな気がした。


 だから即座に言い返せず、けれどそれを想像してしまい胸の高鳴りを覚えてしまったヨウタは、あわあわと慌てる事しかできない。

 そんなヨウタの様子に、そんなに女の子の方が良いのかとアキラは機嫌を悪くしたので、そこでアキラは話を止めて、代わりに別の話をした。


「鍵の剣も手に入ったし、“宝物庫のある名も無き城”に挑むぞ」


 その言葉に、ヨウタは目を輝かせたのだった。









 レアアイテムの宝庫でもある、“宝物庫のある名も無き城”。

 曰く、妖精達によって作られた、秘されし城であり、その特別なアイテムも妖精達の手に作られているという。

 その扉を開く鍵は、伝説の剣“ウェアカッター三式”。

 以下略。


「というわけだ。で、その伝説の城があれだ!」


 アキラの指差す先には、白くて上の方が尖った、なんだか凝った彫刻の施されたお城が湖の中に立っていた。

 その周りをふわふわと透明な羽を生やした妖精達(全員男)が飛び回っている。

 美形もいるが、おっさんのような妖精もいるなと、やっぱり女の子じゃなくちゃ嫌だとヨウタが涙する。


 けれどその妖精達全体的に年齢が高いように見える。

 なのでマップやら何やらを持っているアキラに、大した考えも無くヨウタは聞いてみると、


「この妖精は30歳以上なんだ、全員」

「何で?」

「30歳まで童貞を貫くと、妖精か魔法使いになるそうだ」

「……もうやだこの世界」


 ヨウタは嘆く。

 男だらけになるし一体どういうつもりでこのゲームを作ったのかと問い織田出したい気持ちにヨウタはなった。

 そうして、城に続く橋を歩いていくとそれだけでいつものように敵と遭遇する。


 今回は水の中から現れた、男の娘な敵キャラで、その見た目に騙されかけたヨウタに焦ったアキラが必死になって助け出した。

 助けてと叫びながら、手を伸ばした男の娘たちにヨウタはつい手を貸してしまうも……その男の娘は水の中に引きずり込もうとする人魚系の魔物だったのだ。

 人のいいヨウタが手を伸ばしてその手を掴んだ瞬間その男の娘が嗤って、


「お前は魔王のイベントが終わるまで我々の所にとどまり、時々触手の餌食になるのだ」

「いやぁあああああ」


 といった展開になったのである。

 しかもその時は周りでその手に引っかかった冒険者が数人いたりした。

 彼らも無事仲間に全員助けられていたが。


 そして罠にかかったヨウタをカオル達が援護して、どうにか助け出してから、先ほどの簡単に引っかかった……それも男の娘に惹かれた様子に怒ったアキラが、


「ヨウタは“村人B”で弱いんだから勝手に動くな。罠にかかって体力がなくなるまで嬲られたいなら別だが」

「う、うん、分った」


 そんなヨウタに、一応ここは強い敵が多いから、ヨウタをからかうのは止めておこうとアキラは思ったのだった。








 壁やらなにやらから槍が降ってくるは落とし穴はあるわ、大きな石が転がってくるわな素敵なお城にて。

 城の内部には白い壁や柱、大きな扉が広がって迷路のようになっている。

 また歩く場所には赤いじゅうたんが広がっている。


 その中で、様々な罠にかかるわ魔物と遭遇するわの戦闘があったのだが、ここでヨウタの新たな能力が発覚した。

 アキラはひと戦闘を終えてから(今回は大きな皿のような魔物だった)、


「ヨウタは逃げ足だけは速い事が分った」

「し、仕方がないじゃん、そうしないとやられちゃうし」

「いや、それでいい、敵を見つけたら全力で逃げろ」


 アキラに言われて、ヨウタは頷くも、結局足手まといだなと思いながら早く別のキャラに進化しないかなと思った。

 そうすれば多少はお手伝いできるし、魔王が出てくるイベントに少しでも手助けできるかもしれない。

 そこで、敵キャラを倒して、よさげなアイテムを手に入れたらしいアキラに、ヨウタは問いかける。


「所でイベントで出てくる魔王って、強いの?」

「ああ、最強らしい。でもってそのイベント……つまり魔王が倒されるか、勇者が全員倒されるかによってどうにかこのゲームは終了できるらしい」

「そうなんだ。あれ? でも倒されると……とか、そういう話は……」

「終了した後のお楽しみ時間にそういった事が。ちなみに勇者が倒されると魔族側がすき放題できるので、とばっちりでヨウタも襲われるからな」


 今聞き捨てならない情報を聞いた気がしたヨウタ。

 つまり勇者が負けると、村人Bなヨウタも対象に……だがそこでヨウタは思った。

 “魔性”属性の今とそれほど変わらないのではないかと。


 だが確か勇者が負けると、その勇者は……。

 そこでヨウタはふとアキラが喘ぐ様子を思い浮かべて、それはそれでエロいのではないかと思う。

 拒否権も一応はあるようだけれど……。


 思って想像してみて、それは見てみたいかもと、ヨウタが悪い笑みを浮かべていると、


「ヨウタ、今何を考えた」

「べ、別に何も……ただ、アキラが負けたらどうなのかなって」


 それを聞きながら、何処となく目を泳がせているヨウタを見てアキラは、ヨウタの事だから俺の喘ぐ姿とか想像していそうだな、と、心を読んだごとく勘づいて、せっかくなので苛立ったアキラはヨウタを揺さぶることにした。 


「その時はヨウタを俺が襲うからな」

「何で!」

「だって知らない奴にされなくて済むぞ? キスとか」

「いや、でも……」

「他の奴等にヨウタが傷つけられるのは見たくないし。良いだろう?」


 どうも自分の事を心配してくれているらしいとヨウタは思うも、素直に喜べない。

 それに今の話だと、あの夢映像みたいにアキラにヨウタは愛しているといってキスをされてしまうというわけで。

 どうしよう……は、もしかしてこれもいつものアキラの、いつもの意地悪ではないかとヨウタは思って。


 そこから導き出される答えを、試しにヨウタは聞いてみた。


「……というかアキラは負けると思っているの?」

「俺が負けるわけないじゃないか」


 言い切る余裕なアキラを見て、うん、アキラってこういう奴だったよなーとか、有言実行タイプだから必ず達成するんだよなと思って、同時に深く考える必要はないなとヨウタはうむと頷きながら一歩足を踏み出す。


 ……属性罠ナンバー、562。運が良いのか悪いのか分らない罠、発動シマス


 流れる機械的なアナウンス。

 また変な罠に引っかかっちゃったと顔を青くするヨウタ。

 アキラが焦ったようにヨウタを掴もうとするが、その頃にはヨウタは光の魔法陣に幾重にも包まれて、宙に溶けて消えてしまったのだった。

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