ごわ
なんやかんや気づけば不幸ポイントが44ポイント貯まってしまったヨウタだったのは良いとして。
ここまでポイントがたまってしまうと、そう、そろそろヨウタの輝ける時間が来るのである!
「後1ポイント、後1ポイント……くくくく」
暗く笑い出すヨウタ。
そう、これで別の属性になれれば“魔性”でなくなるのだ。
そうすれば男なのに弱そうな山賊やら魔物やらにつかまって、らめぇー、なんて言わなくても済むのだ。
けれどそこでヨウタは、“魔性”属性でなくなってしまえば、アキラといる意味が無くなってしまうのだろうかと考えて、“村人B”だからと一緒にいるのだと思って……もしも強いキャラならアキラのお手伝いが出来るよなと結論付けた。
前よりもヨウタはアキラのお手伝いができるようになるのだ。
これまでは守られたり手間ばかりをかけさせてしまったけれどこれで……とヨウタは嬉しくなる。
そこでアキラを見上げると、どうしたんだというようにヨウタを見て……ヨウタは、それだけで顔がほてって、胸がどきどきしてすぐヨウタは顔を背けてしまう。
どうして、と、今までこんな風になった事ないのにとヨウタは焦る。
また魅了の呪いのようなものをかけられているのかとヨウタは自分のステータスを確認するけれど、そういったものはない。
さらに、混乱するヨウタ。
いつもちょっと意地悪な幼馴染で、遊び相手で、友達で……それ以上ではなかったはずなのに。
ヨウタはそこで媚薬をくれた“スーパーカイコたん”がアキラの事を、ヨウタの想い人といったのを思い出す。
そんなわけないとヨウタは思うのだが、もう一度顔を上げてけれどすぐに見ていられなくてヨウタは顔を背ける。
自分がおかしくなっている、でも、ヨウタはその理由を認められなかった。
だって、それって……。
悩むヨウタだが、そこで、ようやく町に戻ってきた。
そして、そこでばったりとユウシに会う。
相変わらず、アキラ相手には挑戦的になっているユウシ。
しかもこの前とは違う装備や服装になっていて更に強そうになっているじゃない。
ユウシはアキラを見てにやりと笑う。
「ふふふ、今日の俺は一味違うぞ!」
と、意気揚々とアキラに挑んで……それからユウシは速攻で倒された。
地面とキスしながらもユウシは悔しそうに顔上げてアキラを睨みつける。
「この……一回に二度攻撃できる特殊能力をがんばって手に入れたのに……」
「実力が違うんだな。“吟遊詩人”らしくそこらで歌でも歌っていた方が良いんじゃないのか?」
「く、馬鹿にして……だったらお望みどおり、“吟遊詩人”の能力を使ってやるよ!」
ユウシが楽器を取り出す。銀色の横笛で、澄んだ音が流れる。
だが、何も起らなかった。
それに様子を見ていたアキラが、大きく嘆息して、
「で、それでどうかしたのか?」
「な、何で眠らないんだ? ……まさか、レベルが違いすぎて、耐性が強いから効いていないとか? アキラ、お前今レベルが幾つだ?」
「78だ」
当然のように告げたアキラのレベルにユウシが目を丸くして、
「! 俺達だって、35なのに、おかしいだろう!」
「うちには可愛い“村人B”のヨウタがいるからな。おかげで通常よりも戦闘をしているから、経験値が貯まりやすいんだ」
「なん、だと」
そこで、ユウシがヨウタを凝視したかと思うと立ち上がり、近づいて来てヨウタの手を握り、
「ヨウタ、うちのパーティに入らないか?」
と、誘って来た。
それにアキラは、ヨウタ、そんな奴の話を聞くなと言うも、その当事者であるヨウタはといえば、“魔性”じゃないかとうたがわれないといいなと思っていた。
そんな理由から顔を蒼白にして冷や汗をたらすヨウタ。
そしてそんなヨウタの様子にユウシは勘違いしたらしく、
「そうだよな、普段助けてくれている仲間を裏切る事になるもんな、悪かった」
「あ、いえ、別に……所でユウシは何処かへ行くの?」
「ん? ああ、“新緑の姫が眠る森”の“スーパーカイコたん”に挑みにいくんだ」
「そ、そうなんだ。負けないように頑張ってね」
「ああ、それで“イトイトキイト”を手に入れるんだ」
それを聞いて、そういえばそんなアイテム幾つかあったなとヨウタは思い出した。
そしてこのユウシの場合、何となく自分と同じような目にあいそうだなとヨウタは思った。
親切にしてもらった分ここでお礼が出来そうだとヨウタは思いながらユウシに、
「この前服を頂いたので、“イトイトキイト”を一つ差し上げましょうか?」
「え! 本当に! ……でも悪いよ。確か貴重な材料だったはず」
と、遠慮し始めるユウシに、それまで黙っていたツバサとヨクトが、
「所でユウシ、“スーパーカイコたん”に負けると、“スーパーカイコたん”の伴侶にされてしまうんですが知っていますか?」
「しかも、“スーパーカイコたん”に拘束されて、魔王が復活するイベントの間も終わるまでそこに待機させられて…伴侶兼お茶飲み友達の様に雑談をその場でしているだけになってしまうとかなんとか……」
「うぐ、その場に拘束……確かに魔王イベントまでは危険はおかしたくない……分った。ヨウタ、貰っても良いか?」
「うん、はい」
そう、ヨウタはユウシにそのアイテム、“イトイトキイト”を渡すと、
「ありがとう」
「ううん、前にこの服の、良いアイテムを貰ったし、お互い様だよ」
にっこりヨウタはユウシに微笑むと、ユウシの頬が赤くなった。
ユウシとヨウタの雰囲気が前よりも甘いものになっているのが周りから見てわかる。
そこでアキラが何処か焦ったようにヨウタの襟首を掴んで引きずり、
「さあ、ヨウタ、ユウシなんか相手にしないで服の店に行くぞ! さあ、早くあの服を手に入れるんだ」
「ど、どうしたの? アキラ。えっと、じゃあまた」
ヨウタがユウシに手を振る。
けれどユウシはぼんやりとヨウタの消えた方角を見たまま微動だにできない。
そんなユウシに危機感を覚えたヨクトとツバサが、
「ユウシ、ヨウタは駄目ですからね!」
「そうですよ、男の子ですよ、彼」
「……俺が好きになる子、小動物みたいに可愛い女の子をいつもアキラが連れていて、だから勝ちたかったんだ」
「ユウシ?」
その昔から知っている双子の呼びかけに、ユウシは答えない。
ユウシがアキラが嫌いな理由は、いつもユウシが欲しいものをアキラが持っていたからだ。
だから勝ちたかったのだが、けれど、今は同時に……。
「ヨウタ、欲しいな」
そう、ユウシが呟いたのだった。
“とろとろキイト”を使用して服屋で手に入った服を装備したヨウタ。
目的の素材を渡すとすぐにその服が出てくるあたり、一瞬のうちに合成をしてそれから仕立てたのだろうかと野暮なことをヨウタは考えたがすぐに頭の隅に追いやった。
そしてこの装備の能力などを見ているとアキラがヨウタに、
「うん、こっちの方が良い。どうだ?」
「うん、あの服よりも更に防御やら色々上がってる!」
「そうだろうそうだろう」
やけに自慢げで嬉しそうなアキラ。
アキラはユウシの服よりも自分の服をヨウタに着せたという独占欲のようなものをこれで満足させていた。
それを心が狭いなー、とカオルとミチルが見ていたのだが、
「とりあえずこれで宝物庫は大丈夫だと思うが、一応様子見で近くで戦闘してみるか」
「うん! これでゴムのナイフでも敵を倒せるかも」
そう嬉しそうなヨウタだが、そこでもう一つの不幸ポイントを思い出して、防御が強いと不幸ポイントがたまらないんじゃないかと思うも、あと1ポイントだから大丈夫だよねと考えた。そこでカオルが、
「とりあえず宿屋で体力とか回復しておこうよ。ゲーム内の経過時間はまだ一週間だから問題ないでしょう?」
「そうだな。レベルも随分上がっているし、休憩しても大丈夫だろう」
アキラがカオルに頷く。
そういえば、ゲーム内だとそれくらいたっているんだよなとヨウタが思いながら歩いていく。
多分現実の時間で換算すればそこまで経っていないのだけれど、随分長い間アキラといた気がする。
そこでヨウタはアキラを見上げて、すぐに俯く。
こうやって考えてしまう時間が出来ると、ヨウタはアキラの顔が見れない。
そしてそんなヨウタの様子がアキラを不安にさせる。
アキラは宿で少しヨウタと話そうかと思いながら宿に入るも、そこで、聞き覚えのあるアナウンスが。
ヨウタは嫌そうに呻く。
「うう……また夢イベントだって」
「毎回だな、大丈夫か? ヨウタ」
「うん。……初期値になるのは嫌だから、ちょっと行って来る」
そう瞳を閉じようとするヨウタだが、そこでアキラが、
「部屋に行ってからにしないか? その方がすぐに色々できるし?」
「そう? 分った」
素直に頷くヨウタだが、この時アキラなりの思惑があったことに気づかなかった。
こうして嫌々ながら夢を見ることにしたヨウタ。
アキラを意識しているときにこんな夢を見るのは嫌だなと思っていると珍しく暗い空間で説明の声が聞こえた。
「“魔性の夢No,6 その3”を見ますと、映像が全て見終わった事になりますので、不幸ポイントが一つ追加されます。また、他よりも短めとなっております」
「それでお願いします!」
ヨウタは即決した。
これで不幸ポイントがたまるなら別キャラになってアキラたちのお手伝いが出来るかもしれない。
ヨウタはそんな期待を覚えた。
そんなヨウタの声と共に映像が再生されたのだった。
--------------夢映像再生
ヨウタはその時、白いウェディングドレスを着ていた。
そしてアキラは白い服を着ていて、教会のような場所にいる。
これから結婚式であるらしい。
そして式が始まり盛大に祝われながら指輪交換をして、これからもずっと一緒だと誓い、
「愛してる、ヨウタ」
「僕も愛してる。アキラ、大好き」
そう言いあいながらお互いに顔を近づけて……。
ちなみにヨウタが夢映像を見ている頃のアキラ達。
「……指輪」
「……寝言みたいだが、一体どんな映像を見せているんだろう、ヨウタに」
不安そうに妙な寝言を言うヨウタを見てアキラが呟く。
全部ではないが時折零れるその声にアキラは不安を覚える。
本気でヨウタに何を見せているのだろうと。
そこでカオルが、にやにやと笑いながら、
「今なら少し悪戯してもばれないんじゃない?」
「そんな悪魔の誘惑には……乗るとしよう。頬をぷにぷに」
「うにゃ~」
「可愛い、ヨウタ……」
たぶんアキラがしているから感じているわけではないと思う。
けれど今回やけに気持ち良さそうにヨウタが寝ている。
だからヨウタを弄ぶのを止めるとカオルが、
「もう止めちゃうの?」
「……俺、ヨウタの事が好きだから、こんな風に、眠って動けない時にするのもどうかと思ってしまった」
「優しいな。僕、応援したくなっちゃうよ。ヨウタを大事にしているんだね」
笑うカオル。そこでヨウタが、
「アキラ、大好き……」
その言葉に、彼女をとっかえひっかえなアキラが、頬を真っ赤に染めて、カオルがからかったのだった。
ヨウタは目を覚ました。
何故かアキラが妙に嬉しそうで、先ほどの映像と重なるもヨウタは溜息しかつきたくない気持ちだった。
だって、どういうわけかヨウタはアキラと結婚して花嫁になっていたし。
もうこれはないだろうという気しかしない。
なのに、ちょっと想像してみるとそれも良いかな、という気持ちにもヨウタはなって。
自分の気持ちがヨウタは良く分らない。そこで、
「ヨウタ、大丈夫か?」
何時までもぼうっとしているヨウタを心配そうにアキラが見ていた。
優しげなアキラの顔が近くにある。
ヨウタの頬が何故かとても熱くなる。
「どうしたんだ?」
アキラの声がヨウタの耳に響く。
それだけで心臓がバクバク言って、ヨウタはいてもたってもいられない。
飛びずさるヨウタはアキラから離れる。
その様子にアキラは少なからずショックを受けていて、逆にカオルはその理由に気づいてにまにまして。
けれどヨウタは、アキラが少し悲しそうな顔をするので慌てて話題逸らしのために、
「ちょ、ちょっと僕、経験値見てくるね」
そういい残して、ヨウタはアキラたちから離れてこっそり自身の経験値を見る。
だって不幸ポイントが完全に貯まったはずだから。
今ので一ポイント入ったはずなのだから。
これで少しはアキラの役にも立てるはずだ。
けれどそこでヨウタが見たものは、“不幸ポイントが貯まりましたので、特殊条件で進化します”とピンク色に輝く文字列だったのだった。
結局、別のキャラクターに進化できないままのヨウタ。
とはいえ服の効果を見ようという話になって、近くの森にやってきたのだが……。
ヨウタとアキラが喧嘩をした。
というか、一方的にヨウタが怒って、現在それにユウシ達が巻き込まれて、気づけば、ユウシパーティvsアキラパーティで、ヨウタがユウシのチームに入るという混沌とした状況になっていた。
そこで、ヨウタがびしっとアキラを怒ったように指差して、
「と、いうわけで僕はアキラになんか負けないんだからな!」
そんなヨウタの様子にアキラは溜息をつきながら、
「ヨウタ、良いから戻って来い」
「嫌だね、アキラみたいな薄情な幼馴染はだっっっ嫌いだ!」
けれどだいっっっ嫌い、というヨウタの言葉はアキラの心を深くえぐった。
ずっとヨウタの事を気にしていたアキラであるが故に、ヨウタのその一言はアキラの大きな地雷だったのである。
それ故に、にやぁ、とアキラは暗く嗤い、
「ほう、そんな大きい口をこの俺に叩いて良いと思っているのか?」
「びく! ぼ、暴力には屈しないんだからね!」
「俺がヨウタに暴力なんて振るうわけがないだろう。ただ代わりに、これだけ可愛ければ男でも良いだろう……という目に遭わせてやるよ。触手魔物がいっぱいいるところに置き去りとか。なあぁ、ヨウタぁ」
そのアキラの笑顔には、はっきりと怒っていますという文字が見て取れる。
とても怒っているようなアキラに、ヨウタは具体的な例まで出されて怖くなったのでユウシの後ろに隠れた。
その仕草がますますアキラの怒りを煽る。
けれどそれはユウシのプライドを酷く満たした。
何せヨウタがこちらを選んだ時点で、アキラに好感度的な意味で勝利したわけである。
ヨウタはアキラよりもユウシを選んだのだ。
珍しく勝利の美酒を味わうユウシは、自信満々にアキラに宣言した。
「ここで、先に、特殊アイテム“スーパーメイド服”を手に入れてここに戻って来た者の勝ちだ! そして勝利者がヨウタを手に入れる!」
「……俺はそんなものするつもりもない。ヨウタ、戻って来い」
「……嫌だ」
「ヨウタ……」
「僕は、アキラの玩具なんかじゃない!」
「ヨウタ、俺はそんなつもりは……」
「ふん、行こうユウシ!」
「あ、ああ」
腕を引っ張られてユウシが森へと入っていく。
そんな二人に、双子達がアキラにすみませんと頭を下げて、追いかけていく。
そこでアキラが八つ当たりで近くの岩に蹴りを一回入れてから、ふんと鼻で笑った。
「……格の違いを見せてやるよ」
その底冷えするようなアキラの声に、カオルとミチルが血の気の引いた顔を見合わせたのだった。
ヨウタとアキラが喧嘩別れをする事案が起こる少し前にて。
「ありがとうございます、助かりました!」
にこにこと笑うゲームのキャラクター。
銀色の長い髪に緑色の瞳の、可愛らしいキャラで見た目は完全に非常に可愛い美少女キャラの様相だった。
だが、このキャラは男――いわゆる、男の娘というもので、ヨウタは何故男にしたと嘆いていたのだが……。
ちなみにこのキャラは“魔性”で悪い奴らに捕まったという設定だった。と、ここでアキラが、
「それで、“魔性”はプレイヤーキャラでもアイテムを使うと、ちょっとしたイベントが出来る仕様なんだが……」
アキラがどうするというようにヨウタたちに聞く。
それに、その男の娘キャラは、怯えたように俯く。
他人事のように思えないのと、そういった事は嫌なのかなと感じ取ったヨウタが、
「可哀想だから逃してあげようよ。こんな可愛い子をいじめるのは良くないよ」
「でもゲームのキャラだぞ? それにヨウタは、こういう子、好みじゃないか」
「男じゃん! 確かに見た目は好みだけれど……嫌がっている子にそういうのを強要したくないし」
そんな優しいヨウタに、こういう所も好きなんだよなとアキラが思いながら、
「……そうか。ヨウタは優しいな。それで、カオルとミチルはどうする?」
それにカオルとミチルは仕方がないなといった風に肩をすくめて、
「まあ、良いんじゃない?」
ミチルもそれに頷いて、なのでヨウタはその男の娘を放す事にした。
今度は捕まらないようにねとヨウタが告げると、男の娘は感激したように目を潤ませて、
「ありがとうございます、このご恩は皆様に、これで返させていただきます!」
そう、男の娘が叫ぶと同時に、ヨウタ達のアイテムが一つ増えた。
名前は、“ピンク色のチケット”。
効果は、使うとくれた“魔性”の子が色々なお手伝いをしてくれるらしい。
ラッキースケベ的なものもいいそうだ。
恩返しは嬉しいけれど、何だかなー、とヨウタが思っていると、そこで男の娘がヨウタの唇にキスをした。
ヨウタと、それを見ていたアキラは固まった。
あまりの早業にヨウタは避けることができず、アキラはさえぎることができなかった。
そんなアキラをチラッと一瞥してから、その男の娘が怯えたような弱々しさを消して、
「ちなみに僕、処女じゃないですよ。それと呼んでくれたらサービスしますよ、特にヨウタさんには」
と妖艶な笑みを浮かべて誘うように言い、また会いましょうと手を振りさっていく。
その姿を見送りながらヨウタがポツリと一言。
「……男でも可愛ければいい、か?」
「待て、ヨウタ」
それは流石にアキラとしても困る。
というかヨウタとあの子だとヨウタが襲う側……はならず、女装の男の娘キャラに襲われる羽目になりそうだ。
こんな所で横から掻っ攫われてはアキラとしても堪らない。
これまでの努力がそんな一瞬で泡になるのなんてアキラは耐えられない。
と、そこでヨウタが首をかしげる。
「というか処女じゃないって、あの子男の子だよね? どういう意味なんだろう」
「……さあ。それよりもヨウタ、体力回復だ。さっきの戦闘でちょっと体力が減っただろう?」
「これくらいまだ大丈夫……んんっ」
体力回復もかねて、アキラはヨウタにキスをする。
そしてアキラの溜飲が下がった頃にヨウタの唇を離すと、頬を染めた可愛らしいヨウタの顔がアキラの目の前にあって……アキラは速攻で写真を撮った。だが、それに気づいたヨウタが怒ったように、
「何するんだ、いきなり!」
「いや、ヨウタが可愛いから、せっかくなので写真を」
「! ……もう、アキラのばかぁああ」
と、叫んで恥ずかしさのあまり逃げ出すヨウタ。
そんなヨウタはすぐに敵と遭遇してしまい、今度は白い液体まみれにされてしまう。
白いペンキを持った球磨の人形のような魔物に、その持っている白いペンキをかけられたのだ。
逃げ惑うので完全にヨウタはペンキをかぶることはなかったけれど、服やら顔やら手やらに飛沫が飛んでしまっている。
しかもその攻撃でも少量ずつヨウタは体力が減っていく。
それに悲鳴を上げるヨウタ。
だがそれをアキラが、シャッターチャンスとばかりに写真を撮ったのだ。
戦闘終了時にこれの場合は服のおかげか今は消えるのであまり問題ないのだが、気分的にヨウタは許せなかった。
だって、これではアキラの玩具みたいではないか。
こんな写真まで撮られて、それに僕のどこが可愛いんだとヨウタは思う。
もっとヨウタはアキラに心配して欲しいのに。
なのにアキラはヨウタの写真を撮ってホクホク顔だ。
ヨウタはムカッとした。
けれどアキラはそれに気づかない。
それが更にヨウタを怒らせて、そこでヨウタ達はユウシと出会い、今に至るのである。
ユウシについていったヨウタだが、森に入ってすぐに戦闘に遭遇した。
ヨウタの持っている能力のおかげであったのだけれど、
「うわぁああ……ぺろぺろされるぅううう」
狼っぽい魔物に、ヨウタはぺろぺろされていた。
それこそなつかれるようになめる攻撃をされて、服がぐちゃぐちゃになっている。
ちなみにこれは戦闘前のイベントだ。
ヨウタの服がうっすらと透けて見える様が酷く扇情的で、ユウシは頬を染めてごくりとつばを飲み込む。
襲ってしまいたいくらいにヨウタは可愛い……そう思って、何を考えているんだ自分は、ヨウタは男だ、でも……と思っている所で、動けるようになる。
ユウシは剣で応戦し、ツバサは魔法と双剣で対抗、よくとは基本は魔法で対抗していた。
そしてユウシは魔物を倒すも目的のものは手に入らず、溜息をついた。
そこでヨウタが、
「……ごめんなさい、僕、お手伝いできなくて」
「いいよ、だって、これだけ戦闘が出来るのはヨウタのお陰だし」
笑うユウシは優しくヨウタの頭を撫でた。
その様子がアキラと重なり、ヨウタは俯く。
けれどそれが何か悪いことをしてしまったと思ったのかユウシが、
「あ、ごめん。多分同い年くらいだよな? 俺、アキラと同い年だし」
「うん、僕も。だからユウシと同い年だね」
「ちなみにツバサとヨクトも同い年なんだ」
「……そうなんだ。ユウシのお友達?」
「いや、取り巻き……じゃなくて、うん、友達だ」
そこでヨウタがその双子を見ると、にっこりと微笑まれた。
それ以上聞くなよ、というように。
怖かったのでヨウタは大人しくそれ以上聞かずに、代わりに、
「ユウシ、アキラの幼馴染だって言っていたよね?」
「ああ、えっと……親同士の集りでよく会って喧嘩していたというか、喧嘩を売っていたというか……」
「そうなんだ、だから僕は知らないんだね」
「う、うんそうだな。とまあ、そういうわけで、挑むも今の所ほぼ勝てなくて、逆にあいつに助けられたりして……しかもあいつ、俺好みの彼女ばかり連れているんだ。しかも、俺が告白して振られた理由がいつも、『アキラ君の方が好きだから』なんだぞ!」
「それは、うん、アキラにライバル意識を持つのも仕方がないね」
「そうだろ! ヨウタもそう思ってくれるか! 本当に元気な可愛い女の子ばかり……」
そこでユウシは言葉を切り、ヨウタの顔をまじまじと見た。
小動物のように可愛くて生きが良い……但し男だが。
アキラとユウシの好みど真ん中の存在な事にユウシは気づく。
そして欲しくなった理由にユウシは気づき、それが……。
と、そこでヨウタが、
「そうそう、アキラは女の子とっかえひっかえの嫌味なイケメンモテモテで、男として許せないよね! やっぱり男だもん、女の子が好きだよね!」
「あ、ああ、そうだよな……女の子……」
相槌を打ちながら、そうだよな、ヨウタは女の子が好きな男なんだよな……見かけも性格も好みだけれどな、とユウシが心の中で思う。
そこで、双子の内の一人、ツバサが、
「でも、アキラさん、ヨウタさんの事を大事に守っているように見えましたが」
「……そうだけれど、でも、僕が白いものまみれになっているのを写真に撮る奴がいるか!」
憤るヨウタに、ユウシがそれを想像して、それは撮らざるおえないと心の中で思う。
そんなヨウタのエロ可愛い姿、むしろユウシだって見たい。
けれどそれを言うと機嫌を損ねそうなのでヨウタに、ユウシはそうだなと頷いていく。とはいえ、
「戦闘終了時に全部元通りになるから良いじゃないか」
「そうだけどさユウシ……あれ?」
「どうかしたのか? ヨウタ」
「うんん、ちょっと経験値が気になるから見てくるね」
そうユウシに断ってから見に行く。
確か、“魔性”属性の場合服が元に戻らなかった気がしたのだ。
服の効果だと思っていたけれど、実は違っていたり一階きりだったりしないよなとヨウタは思った。
不安を覚えたヨウタ。
なので、その説明文を見るといつの間にか項目が追加されていた、ピンク色の文字で。
※進化の可能性がある不幸ポイントと連動するため、ポイントが貯まった場合、“魔性”属性の効果が一部低下します。例えば、服が戦闘時に元に戻る、等。
けれどこれで服が穴だらけの、恥ずかしい部分を隠す役割をしない服にはならないので、ヨウタは安堵する。
あとはそう、アキラにぎゃふんと……。
でも、アキラに勝利するとユウシのチームにヨウタが入ってアキラとは離れ離れになってしまう事にヨウタはようやくようやく気づいた。
先ほどは頭に血が上っていたので気づかなかったが、アキラと離れる……そう考えると、ヨウタは胸にぽっかりと穴が開いたようだった。
確かにユウシ達は優しいし、親切だ。
アキラみたいに意地悪は言わないし、しないし。
でも、ヨウタがここに来てどうしたら良いのか分らずに、敵に襲われていたのを助けてくれたのはアキラで、いつもなんやかんやで手助けしてくれたのはアキラで、昔からの幼馴染で……。
だからといって写真を撮って、ヨウタが嫌がっているのを無視するのが悔しくて。
もっとヨウタの事を……。
そこまで考えてヨウタはふと気づいてしまった。
自分がアキラの事ばかり考えて、求めている事に。
それも我侭といって良いくらい、でも、ヨウタはアキラに我侭を言いたいのだ。
アキラだけに我侭を言いたいのだ。
そんな知りたくない自分の心という現実に気づいて、けれど認めたくなくて、ヨウタは俯く。
そこでヨウタにユウシが、
「どうしたんだヨウタ、俯いて」
「……僕は我侭なのかなって。だって、アキラはずっと僕に手助けしてくれていたし」
「ヨウタは、戻りたいのか? あっちに」
「……分らない、喧嘩しちゃったし」
「……仲が良いとそういうこともあるさ。それにヨウタは物じゃないから自分で選んで良いんだぞ? それに、ただ単に俺のプライドの問題に巻き込まれてヨウタが景品になっただけだし」
「ユウシ……ありがとう」
微笑むよう他に顔を赤くするユウシ。
それに双子が何処か焦燥感を漂わせているのは良いとして。
ヨウタは後で、アキラに謝ろうと思う。
なんだかんだでアキラは一所懸命ヨウタを手助けしてくれていたのだから。
そこで再び、ユウシ達は魔物に襲われる。
だがそれは、ユウシ達には手に余る敵だったのだった。