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よんわ

 そうしてヨウタが襲われるのを助けるための戦闘がいったん終了したかと思うと、次の敵が襲ってくる。

 ネズミに大きな牙を生やしたような青色の魔物だった。

 とはいえこの程度はアキラたちの敵ではなく瞬時に倒されてしまう。


 そしてさらに次ぐ次と魔物が襲ってきて、そこでヨウタはアキラに手を引かれてその場から移動させられる。

 ここは魔物が現れやすい場所かもしれないから、らしい。

 でもこうして手をつないでいるとさらに体が熱くなる気がするとヨウタは思う。

 しかもなんだかアキラを見ると、さっきから体が熱くなるような変な感じがあると思う。


 それは一体どうしてだろうとヨウタは考えるが全く理由が思いつかない。

 そんなこんなでこうして一通り戦闘を終えてからアキラがヨウタの方を見て、


「やっぱり村人に戦わせるのは難しいかもしれない」

「うぐ……」

「それに何だかヨウタは村人の割りに弱い気がするが……」


 その言葉にぎくりとするヨウタ。

 もしもう片方の属性が“魔性”とばれてしまえば、面白半分でエロい目にあわされるかもしれない。

 知り合いだかで幼馴染だからアキラはそういう事をしないかというと……最近ちょっと意地悪だったり、捕まっている所で写真を撮られたりしたのを思い出すと十分にあり得る。


 こっちの意思で拒否はあるらしいが油断している所を使われたら……というかどんな道具があるんだろう、ラッキースケベ程度というけれど……。

 そう顔を青くするヨウタだが、その顔色から何を考えているのか読み取ったアキラは、しまった、もしかして揺さぶりをやりすぎたと思って、ついでにヨウタの能力値を見てある様子にアキラは気づいて、


「とりあえず、ヨウタの体力を回復させておくか。ヨウタ、こっちに来い」

「何? ……んんっ」


 そこでヨウタはアキラにキスをする。

 いきなり幼馴染の男にキスされたヨウタは驚いて動けなくなる。

 それに気持ちが良いのだ。


 しかもアキラ逃げられないように捕まえられてしまう。

 そのうちとろんとして来て頬が赤くなり、ヨウタは体の力が抜けてアキラのされるままになってしまう。

 そしてようやく唇を放してもらえた頃にはヨウタは息も絶え絶えで、けれどそんなヨウタの潤んだ瞳には優しげに微笑むアキラが映り、ヨウタはどきりとしてしまう。


 何でそんなに優しげな眼差しで僕を見るのだろうとヨウタは思って、以前見た夢映像でもアキラはこんな優しげな表情で愛を囁いてきたんだと思い出して、ヨウタは更に顔があつくなる。

 というかなんでこんなところで突然キスしてきたんだろうとヨウタは思っているとそこでアキラがヨウタを見て頷き、


「これで体力は回復したな」

「え?」


 アキラにそう言われてヨウタは自分の体力の数値を確認した。

 先ほどまで半分以下になっていた体力が、満杯になっている。

 それに気づくヨウタ。


 そしてそれを確認したことに気づいたアキラは意地悪な笑みを浮かべて、


「攻撃されて、もう一発喰らえば……」

「想像したくないので止めて下さい」

「俺のもう片方が魔法使いだから、魔法で回復も出来るんだ。特にこういったキスとか、他にも色々あるんだが……」

「そうだったんだ。ありがとう!」

「……そうだな。というわけでもう大丈夫だろう。それに経験値も入ったから、少しはこう、体力やら何やらが良くなっていないか?」

「調べてみる!」 


 話を上手く逸らせたと思うアキラはいいとして、ヨウタは自分の能力を見ていく。

 体力、魔力、すばやさ、その他……相変わらずの低さだった。

しかも、よくよく見ると、



※“魔性”の場合、成長があまり見込めません。エロいことをされるエロエロな存在なので、基本的にご主人様に逆らえないように弱くなるよう設定されています。



 成長が見込めないらしい。

 なんて酷い属性なんだと嘆きながらも、けれどこれが“魔性”に類する効果なら進化すれば大丈夫かとヨウタは気づく。

 なので不幸ポイントを調べると、不幸ポイント15ポイント、と表示されていた。

 しかも隠しキャラまで後45ポイントらしい。


「頑張るんだ僕、後もう少しだ」

「後も少しでレベルが上がるのか?」

「う、うん。でも弱いままでそれほど強くはならないみたい」

「やっぱり村人だとそんなものか。じゃあ防御を強くしないと駄目だな」


 アキラが心配そうに言うので、ヨウタはとりあえず頷く。

 頷きながらも頭がぼんやりとしながらアキラを見上げる。

 そこでアキラがじっとヨウタを覗き込んだ。


「ヨウタ……ちょっといいか?」

「な、何?」

「ヨウタ、ちょっと【ステータス】を詳しく見るぞ」

「え? う、うん、いいけれど」


 アキラにそう言われてヨウタは、相変わらず変な感じがすると思っていると、アキラがヨウタのステータスを見て小さく呻いた。


「ヨウタ、“呪われて”いるな」

「え?」


 そこで呪われているといわれてヨウタは凍り付いた。

 何の話だと思っているとアキラが、


「さっきスカートをめくられそうになっていただろう。確かあの魔物がそう言った攻撃をしてきたはずだ。それで【魅了の呪い】にかかってしまったみたいだな」

「【魅了の呪い】? 敵を攻撃しにくくなったり僕が動きにくくなった利するのかな?」

「いや、確か……うん」

「な、なんで言葉を濁すんだ! 気になるよ!」

「ははは、というわけでこっちに来るんだ、ヨウタ」

「い、嫌だ、絶対何か嫌な予感がする……というか頭を掴むなぁああああ」


 そこでヨウタはアキラに頭を掴まれて逃げられないようにされてアキラに近づけられる。

 何をする気だとアキラを見上げると再びキスをされる。

 唇が重なる感覚。


 まったく嫌悪感がないと別な意味でヨウタがどきどきしているとそこで、頬のほてりがすっと少し引いた。

 と、唇が放されてヨウタはアキラに、

 

「これで呪いは解けたな」

「え?」

「何か体に変化はないか?」

「……体が熱くなるのが少し引いた感じかな」


 ヨウタがそう答えるとアキラが驚いたようにヨウタを見てそれから嬉しそうに微笑み、


「そうかそうか、よかった」

「やけにうれしそうだけれどどうしたの? アキラ」

「ヨウタには特に問題ないから大丈夫だ。だがこんな呪いがこれからも付けられると困るから、防御力の強い服をやはり選んだほうがよさそうだな」

「う、うん」


 アキラの言葉にヨウタは頷く。

 何しろこんな風にアキラにキスされて状態異常を回復されては困る。

 だからもっと強い防御の力を持つ村人の服は必要だと思った。


 そんなアキラはすぐに村人の着れそうな防御の高い服について調べ始めた。

 こういった装備図鑑のようなものも、特別なアイテムの一種であるらしい。

 アキラは勇者の属性といい、相変わらず運がいいなと僕は思ってアキラを見る。


 この服はどうだろうと呟きながらアキラは真剣にヨウタの装備を調べてくれている。

 その様子を見ていたヨウタはアキラがこのゲームで会ってから、ずいぶんといつもより優しいなと思って嬉しくなる。

 気まづい関係になってしまったけれど、また以前のように……仲の良かった頃にまで戻れたらなとは思う。


 一応イケメンでヨウタは劣等感を抱いていたとはいえ、幼馴染として一緒にいてそこまで嫌いというかどちらかというと好きな方だったので、前のような関係になれればなと思う。と、そこで、


「あー、いたいたアキラー。もう、二人で先に行くから、途中で幾つも敵に当るし」

「悪かった」


 そうカオルに言われて、アキラがカオルとミチルに謝るとそこでカオルはにやりとした。


「とはいえ良いものが手に入ったけれどね」

「いいもの?」

「“魔性”調教アイテム」


 その言葉にヨウタはびくっとした。

 それに気づきながらもカオルはそれらを取り出しアキラに見せびらかす。


「これ全部そうだよ」

「大収穫だな」

「本当は、イタズラモブ召喚チケットも欲しかったけれど、まあ、アキラも含めて三人いるから人出は足りているかな?」


 そのカオルの言葉に、ヨウタは不安を覚える。

 今三人て言わなかったか? でもここには四人いて、つまり。


「あの、僕は?」

「あ、ヨウタはされる側だから。“魔性”と絡ませて、たっぷりと可愛がってあげるよ?」

「がくがくぶるぶる」


 ヨウタが身の危険を感じてアキラの後ろに隠れようとしてカオルに捕まるも、そこでバンバンと銃声がした。

 ミチルが近づいてきそうな敵キャラを傍から、銃を使い倒したのだ。と、


「……拘束の鎖アイテムが手に入った。これで逃げられないようにしてくすぐったりできる」


 そんな静かなミチルの声に、ヨウタはこれ以上エロを匂わせるアイテムなんて聞きたくないと、宿に戻るのをせかしたのだった。









 こうして見た事のある町の中を通り宿に戻った。

 ここでしばらく休憩してから次の冒険だ、とりあえずここの中では敵に襲われないぞとヨウタは思って機嫌よく部屋に戻ろうとしたのは良いのだが。

 そこで宿に入ってすぐにある人物と廊下で遭遇した。それは、


「アキラ! お前もこの宿に泊っていたのか!」


 蔓のダンジョンで会ったユウシと、双子のツバサとヨクトが先に宿にいた。

 どうやらこの三人もこの街の宿に泊まっていたらしい。

 もしかしたら試作版なのでまだこの街の宿しか泊まれないのかもしれないが。


 そこでユウシはアキラに対して挑戦的に笑いながら、


「ここで会ったのも運命だ! 表に出ろ」

「悪いが、これからヨウタの服を買わないといけないんだ。後にしてくれ、永遠に」

「! ふざけるな、服くらい……何で女物の服なんて着ているんだ? ヨウタ」


 その無邪気な問いに、ヨウタの瞳にブワッと涙が浮かぶ。


「僕は着たくてきたわけじゃ……」

「ご、ごめん、そんなつもりじゃ……はっ! まさかアキラ、ヨウタが可愛いからってわざとこんな服を強要……」


 アキラは無言でユウシを張り倒した。

 確かにヨウタに対してアキラは下心はあるし、この服は非常に良いものである。

 とはいえこの服しかあの時本当に持っていなかったから、この服をヨウタに渡したのだ。


 一応売ると結構高いこの服を、ヨウタは気づいていないがアキラは無償で渡したのだ。

 一重にはヨウタがあの格好でいるのを嫌がったから、何とかしたいとあの時アキラは思ったのだ。

 それを、このユウシは……。


 なのでアキラはヨウタにそんな印象を植え付けるのを避けたかった。

 ただでさえ色々と頑張っているのを、こんな一言で台無しにされたくなかった。

 しかもアキラだって、このユウシには言いたいことがある。


「……ユウシ、お前、一体どれだけ俺に迷惑をかければ気が済むんだ?」

「な、何の事だ?」


 ユウシが少しだけ顔を青くする。

 そんなユウシのお守りもしている双子の方をアキラはちらりと見て、いい加減にこいつどうにかしろよという風に目配せすると、双子はすみませんと手を合わせた。

 ユウシから見えない位置で。


 どうやらこの二人はユウシを止めることができないらしい。

 保護者? のような存在が止められなくてどうするんだとアキラは心の中で毒ずく。

 そういった理由から半眼になりながらアキラはユウシに目を移して、


「……全部説明してやろうか?」

「い、良いです。く……だが、ヨウタ、悪い事をしたからほら、服のアイテム!」


 ぽんとヨウタに服のアイテムが投げられて、上等な服にヨウタは包まれた。

 普通の村人っぽいそこら辺にいるゲーム内のキャラのようなものではなくて、所々にフリルの付いた上品な男性の服だ。

 貴族とは言わないけれど、余所行きの服といった雰囲気のある服だった。


 しかも前よりも少し防御力が上がっている。

 そういった物を見ながらヨウタは、


「これ結構高そうなんじゃ……」

「泣かしちゃったから……」

「ありがとう、ユウシ」


 ヨウタに微笑まれて、ユウシは顔を紅くする。

 そこはかとなく二人の間の空気が温かく甘いものになっている。

 それにぴきっと額に青筋を浮かべたアキラだが、そこでユウシに声をかける人物が二人。


「ほら、ユウシもう行きましょう」

「そうです、部屋ですることがありますから」


 アキラの様子に空気を読んだ双子が、ユウシを連れて行く。

 そこでユウシがヨウタに手を振って、


「また今度ゆっくり話そうな、ヨウタ!」

「うん、またね!」


 ヨウタも手を振る。

 ユウシもアキラにはアレだけれど優しい人物であるらしい。

 だがそれを見てアキラの機嫌が更に悪くなる。そして、


「……その服よりも、もっと良いのをヨウタには着せてやる」

「え? でも、これで大丈夫だよ?」

「予備無しで今回みたいな事になりたいのか?」

「それは……分った」


 頷くヨウタに、あいつが持っていた服なんて着せてたまるかと心の狭い事をアキラが考えていると、そこで、


 ……“魔性の夢No,6 その2”を再生します。


 ヨウタが嫌そうな声で、


「また、夢イベントだって」

「随分期間が短いんだな。……でも、イベントが起こりやすい“村人B”だからか?」

「うう、ちょっと行って来るね。嫌だけど」


 今度はアキラとどんな展開になるんだろうと不安を感じたヨウタ。

 かといって受けないと体力がゼロになるので諦める。

 そしてヨウタは再びその夢イベントを再生したのだった。

 




-----夢映像再生


 指輪を買ったヨウタ達は今度式を挙げるために、服を見に行くことに。

 二人そろって男性物の服を着てもいいのだけれどそこで見ていた服の前でアキラが、


「ヨウタにはウェディングドレスを着てほしいな」

「で、でも僕……」

「ヨウタは俺にとって可愛いし大事な人だから。愛してる……」

「ぼ、僕もアキラの愛してる」


 そういってヨウタとアキラはお互い見つめ合い、そして……。






 夢映像を最後まで目撃させられたヨウタ。

 もうアキラの顔をまともに見れないとヨウタは思った。と、


「どうした? なんだか顔色が凄く悪いぞ?」

「……」

「どうして無言で俺を睨むんだ」

「……なんでもない」


 そんな明らかに不機嫌なヨウタの様子におろおろするアキラ。と、


「せっかくだから、洋服を買いに気分転換してきたらどうかな、アキラ」


 カオルが助け舟を出した。

 けれどそれはヨウタにとっては大きなお世話で、


「別にいいよ」

「でも、どんな夢を見たかは知らないけれど、現実のアキラはヨウタのことを凄く気にしていたよ? 僕達に会った時も聞いていたし」

「そうなの?」


 アキラが焦ったようにカオルを見るが、カオルとミチルは一度顔を見合わせてから、ヨウタにカオルは、


「そうそう。だからあんまり邪険に扱うとアキラが可哀想だよ? 幼馴染なんでしょう?」

「……うん」


 カオルに言われて、確かにそうヨウタも思う。

 そもそもさっきのもただの映像なんだから、あ、あんなふうに仲睦まじい恋人同士みたいな……のはないと、それが残念なような変な気持ちもあって、それは気のせいの気もして、自分は今混乱しているヨウタも思いなおして、


「ごめんアキラ。八つ当たりしちゃった。変な夢映像を見せられて。洋服見に行くよ」

「そ、そうか。でもどんな夢を見ているんだ?」

「言いたくない」

「……分かった、聞かない」

「……無理に聞き出さないんだ。ありがとう」


 そうヨウタが微笑んで、アキラは安堵したように笑ったのだった。









 と、いうわけで洋服を探しに来たヨウタとアキラだが。

 試作版なので洋服を売っているお店はこの前の場所に行かないといけなかった。

 そしてその店にやってくると店員の女性が、


「ソノフクハ、ザイリョウガナイトツクレマセン」


 え、材料がないと買えない特別な服なんだとヨウタが思っているとそこでアキラが装備図鑑を見ながら、


「そうなのか? 必要なのは……“とろとろ生糸”か?」

「ハイ、タダソックリノ“イトイトキイト”ヲツカウトベツノアイテムニナリマスノデゴチュウイクダサイ」


 そこで説明を聞いていたヨウタがアキラに、


「アキラ、僕もっと違う服で……」

「駄目だ、さっきだって襲われそうになって、ただでさえヨウタは感じやすい体なんだから、ビッチになるぞ?」

「え? 男だよ、僕」

「男に触れられないと感じられない体に……」

「がくがくぶるぶる」


 男性の山賊のようなものに連れ攫われたり捕まったりしてひどい目に合いそうになったヨウタはあれを思い出して、しかも捕まるのが気持ちよくなるかもしれないという新たな性癖に目覚めさせられる可能性を示唆されて、ヨウタはおびえた。

 そんなヨウタに理解できたかとアキラは思いながら、


「というわけで、流石にこれくらいの服が良いだろうと思うんだ。見た中では一番強い村人の着れる服」

「でも、そこまでアキラ達に迷惑かけられないし……」


 ヨウタだってそこまでしなくても大丈夫だと思うのだが、そこでアキラは何となくすまなそうな顔になってから、次に何かを思いついたらしく頷いて、


「別にヨウタがそんな事を考える必要はないぞ?」

「で、でも……」

「そもそも村人がいるからイベントと称して、戦闘も多いのだろうし」


 それは多分、ヨウタが“魔性”なので近寄って来てるんじゃないかな、と思うもそれは言えないので、


「でも守ってもらっているし……」

「確かにヨウタからみればそうかもしれないが、俺達にとっては敵が現れやすいから経験値も稼ぎやすいしアイテムも手に入りやすい。こちらにも利があるから問題ないぞ?」

「でも……」

「それでもヨウタが不安なら、ヨウタが俺にの恋人の身代わりをしてくれてもいいぞ。この世界に仲良くなって一緒に移動できるような女の子キャラはいないし。ヨウタは可愛いし」


 何時にも増して満面の笑みを浮かべてアキラがヨウタに告げた。

 それを聞きながらヨウタはといえば、今の意味を考えて……アキラがヨウタを恋人のように扱うといっているのに気づいた。

 だが、相手は男で幼馴染だ。


 とてもではないがそこまでヨウタは出来ない。

 それに、そんな事を頼んだら、幼馴染で友達であるアキラが、あの彼女がとっかえひっかえの……いつも小動物のような可愛い彼女ばかり連れていたアキラに幻滅されてしまうだろう。

 そもそも、アキラだって冗談なのだろうとヨウタは思う。だから、


「そこまで僕はアキラに迷惑はかけられないよ。冗談でも嬉しかったよ、ありがとう、アキラ」

「……冗談じゃないよ、俺はヨウタを恋人にしたいんだ」

「え?」


 凄い事を言われてヨウタはアキラを見上げて、けれどアキラは真剣そうな表情で、それがこの前の夢の映像と重なって……ヨウタは顔を赤くして震えてしまう。

 けれどその怯えるヨウタの様子に、まだ駄目だなとアキラは心の中で嘆息して、ヨウタに意地悪く笑って見せた。


「なんてな。何だ、ヨウタ。俺の恋人になりたかったのか? 俺は美形だからな」


 けれどそこでヨウタは少し悲しげな顔をして次に怒ったような顔をする。

 少し本気にしてしまった自分がヨウタは気恥ずかしかったのと認めたくなかったから。

 そしてその表情がくるくる変わる可愛い様に、アキラは劣情を抱くも必死に我慢していると、そこでヨウタは唇を尖らせて、


「……自分で美形だって言いやがりましたよこいつ」

「それでどうなんだ? このっ、このっ」

「頬を突くな! 僕をからかいやがって……アキラなんか、もう知らない! 先に宿に戻ってやる!」


 そう肩を怒らせながらヨウタは宿へと走っていってしまう。

 やりすぎたかなと、アキラは舌を出しながらも、 


「……可愛いから仕方がないじゃないか」


 こんな自分の近くにヨウタがいるんだからと、アキラは心の中で嘆息して……頭を冷やそうとゆっくりと宿に戻る事にしたのだった。









 宿に戻って必要な材料がないとヨウタの服が手に入らないといった話をカオルとミチルに伝える。

 するとカオルがアイテムに関しては知っていたらしく、


「“とろとろ生糸”? それなら、“新緑の姫が眠る森”の、“スーパーカイコたん”が持っている珍しいアイテムだよね?」


 そうカオルが説明する。

 そうなのかー、と聞いていたヨウタだが、まだこの時は、ヨウタに降りかかるその出来事など微塵も思いつかなかったのだった。








 そんなこんなで、採取しにやってきたヨウタだったが。

 不幸ポイントが着々と貯まっているのに、


「……素直に喜べない」


 少しぼろぼろになった服でヨウタは呟くと、そこでカオルが、


「ほほう、それは僕に身代わりさせた事に対する謝罪と受け止めても良いのかな」

「う! いやでもそれはこの服の機能といいますか……」


 そうヨウタは返した。

 このユウシに貰ったこの高級そうな服には実はそのような効果がついていたのである。

 なんでも【下僕の盾】といったような効果がつけられていて、周りにいるパーティのメンバーの一人を【下僕】認定して身代わりに使うらしい。


 そのせいでヨウタが白くてぬるぬるした触手に襲われたのだが、捕まるイベントの時に、身代わり機能が発動しカオルが触手の餌食に。

 普段ヨウタがされていることよりもさらにエロい事(※服が溶かされて、ヨウタよりも触られて、しかも触手からは水のようなものが放出されてびしょびしょになっていた。ちなみに大事な場所は全て隠れていた)になってしまったのだ。

 なのでカオルは、とても機嫌が悪くて、


「お陰で触手に僕が襲われたじゃん! いつもヨウタが襲われているのを見て楽しんで写真を撮っている僕が!」

「……ざまぁ」

「……ヨウタが“魔性”だったら、今すぐ○○○で×××で△△△で……もっとしてって、自分からねだらせてやる所だよ?」

「がくがくぶるぶる」


 ヨウタに鬼気迫る表情で過激な事……だがおそらくはゲームでは起こらないようなエロいことをカオルは口走り、それを想像したヨウタはおびえた。

 そこでミチルが、ヨウタの肩を叩いて、


「ヨウタ、よくやった」


 何処か良いもの見せてもらいましたといった風な嬉しそうなミチルに、ヨウタが反応に困っていると、


「……僕があんな目にあっていいの? ミチルは」

「すまない。だがカオルが可愛いのがいけないんだ」

「……ばか」


 そう言って抱き合いキスをするカオルとミチル。

 そんなバカップルな二人はほほえましいのだが、何分、男同士である。

 そして繰り返される濃厚なキスの連続にヨウタは、凍りついたように固まって。


 女の子大好きなヨウタにはその光景を見るのはまだ心の準備が必要だったのだ。

 そして止めてくれって言ったのにと嘆息するアキラだが、顔を蒼白にしているヨウタの肩を正気に戻させようと揺さぶる。


「大丈夫かヨウタ。おい、しっかりしろ!」

「う」

「う?」

「うわぁあああああんんっ。女の子ぉおおおお」


 と、その場から走り去ろうとしたヨウタだが。

 ぐちゃっとヨウタは何かを踏みつけた。

 おそるおそる下を見るとそれは、一番初めに襲い掛かられた透明なスライムだった。


 また服を溶かされたり嬲られてしまうんだろうか、僕とヨウタが涙ながらに思っていると、スライムはは、もぞもぞぷるぷるヨウタに這い上がってきて、けれど、


「服が溶かされない?」


 這い上がって服の上から何かをしようとするも、スライムはプルプルするだけである。

 どうやらこの服の防御力らしい。つまり、


「くくく、この前は散々やってくれたな、ほーれほーれ」


 自分には何の攻撃もこないと分かったヨウタは、あくどい笑みを浮かべながらスライムをぐにぐに踏みつけた。

 するとそのスライムは突如として赤くなり、自身の分身の欠片を二つ、ヨウタの胸の辺りに投げつける。


「ふ、無駄だといっておろうに……えっと、何で服の隙間に……や、止めて、入ってくるなぁあ、ぁああんっ」


 ヨウタは余裕から一転して、焦ってじたばたするが、スライムは肩のあたりの肌に吸い付く。

 魔力を吸われているのと冷たい感触に快感が走り、ヨウタはびくっとして、


「やぁあ……はなせぇええ」


 と、服の上からスライムを引き離そうとした。

 ぷにょ

 柔らかく程よい弾力性のある感触。

 これはまさしく伝説の……おっぱい!


「とか考えている場合じゃなっ……ぁああんっ、やぁあ……たすけてぇえ、アキラぁあ」


 ヨウタは顔を赤くして喘ぎながらアキラに助けを求めた。

 すると分身を投げて状況を楽しむかのように揺れていた地面にいるスライムに、剣が一本突き刺さり、それと同時に消えてお金に代わる。

 ヨウタの服の中に入り込んだスライムも消えた。


 そこで不幸ポイント、30ポイントとなりましたとアナウンスが聞こえるのは良いとして、呆れたようなアキラにヨウタはにこっと笑って、


「ありがとう、アキラ」

「……ヨウタ、もう俺の傍を離れるな。そして調子に乗るな」

「……はい。でもこの服結構強いんだね、溶かされなかったし」

「俺の選んだやつの方がもっと強い。なので採りに行くぞ」


 不機嫌になったアキラがヨウタを連れて行く。

 ヨウタはどうしてアキラが不機嫌そうな顔をしたのか分からず首をかしげたのだった。 

 目的の森――“新緑の姫が眠る森”――のすぐ傍には牧場らしきものがある。


「あれは?」

「ああ、あそこには触手牧場だ」

「え……あ、うん、オチは何となく分かったからいいや」


 どうせ録でもない話なんだろうとヨウタは思っていると、アキラがにやっと笑い、


「ちなみにこの世界は男しかいない。そしてそこにも行けて……」

「止めてぇええ、もう、どうしてこんな……誰だ! そんな事を考えた奴!」


 元の世界に戻ったら苦情を入れて、悪質なクレーマーになってやろうとヨウタが思っていると、アキラが、


「その案考えたの、兄さんなんだよな……」

「……そういえばアキラのお兄さんゲーム関連の……まさかアキラ、身内だからってそんな良い属性に! ずるい!」

「……俺のは運が良かっただけだ。残念だったな。まあ、確かにそういう事も、兄さんにお願いすれば出来るが、これは俺の実力だ」

「うぐ……イケメン勇者で魔法使いとか。うう」

「じゃあ、兄さんにヨウタはお願いしに行くか?」

「……アキラのお兄さん苦手だから、いい」


 もともとアキラの兄は、ヨウタを小動物扱いするから苦手なのだ。

 以前、お菓子に釣られてネコミミつけたり尻尾をつけて、メイド服を着させられて、アキラのお兄さんに『ご主人様』と言わさせられてそれがよほど似合わなかったのか……アキラはそんなヨウタを見た瞬間逃げ出したくらいだ。

 あの時のアキラのお兄さんは凄くニヤニヤしていたのだ。


 それでその後、アキラ達と一緒に食べたアイスクリームが美味しかったんだよなーとヨウタが思った所で、ヨウタはアキラに肩をつかまれた。


「ヨウタ、一人で勝手に行くな。そこは森の入り口だ」

「ふえ? あ、本当だ」

「……気をつけないと敵に捕まってな展開になるぞ?」

「びくっ、分かりました」


 そして森の中に入ってすぐに、何故か糸を束ねたようなアイテムが転がっている。


「これ?」

「そうだな。いきなりレアアイテムとか、ヨウタは良かったな。村人だからイベントが起き易いのかも」

「うん、早速採りにいこうっと」

「待て、ヨウタ、不用意に近づくと……」


 アキラの静止も聞かずヨウタは走り出して、そして糸を採取する。

 アイテム名を見ると、“とろとろ生糸”×5、“イトイトキイト”×3と書かれており、注意書きに、


※“イトイトキイト”の傍には、“スーパーカイコたん”の罠があるので注意。巣に連れ込まれて伴侶にされてしまいます。


「え?」


 呟くと同時に、ヨウタは空高く飛び上がっていたのだった。







 空高く飛んでいくヨウタを見て、


「ヨウタ!」


 アキラは叫んで、慌てて良さげな空を飛ぶアイテムを探すも、探しているうちにヨウタは見えなくなってしまう。

 焦って、とりあえずヨウタが消えていった方向に走り出すアキラ。

 ついでに、“スーパーカイコたん”を知っていたカオルに問いかける。


「あの罠、その“スーパーカイコたん”がはった物だよな、カオル」

「うん、でもって、あれに引っかかると“スーパーカイコたん”の伴侶にされてしまうんだ」

「……伴侶?」

「伴侶」

「……」

「……」

「……ヨウタは俺の嫁だぁああああ」

「あ、待ってアキラ!」


 叫ぶと同時に、いつもはもっと余裕ぶった感じのアキラが狼狽して、らしくない暴走を始めようとする。

 そこでアキラの襟首をミチルが掴んだ。


「何だ? ミチル」

「……仲間だから、何処にいるかマップに表示される」


 しばしの沈黙。

 その言葉に、アキラは今度は慌ててマップを取り出して、走り出して追いかけようとした方向がヨウタのいる方向とは少しずれている事に気づいたのだった。









 ジェットコースターに載せられた後のように、ヨウタは頭がくらくらする。

 空高く舞い上げられた時はどうしようかと思ったが、その後急に落下してふわりとクッションの上に落とされたのだ。


「でもここ何処だろう。洞窟の前みたいだけれど……うわあああ」


 そうヨウタが洞窟を覗き込むと、そこで中から白い毛糸のようなものが吐き出されて、ヨウタの体に巻きついた。

 そして、洞窟の中に引きずり込まれてしまう。


「ひ、ひいい……今度は何をされるんですかぁああ」

「うん? 伴侶だから、子供を作ってもらおうかなって」


 そこで目の前に、ヨウタをぐるぐる巻きにした毛糸でぐるぐる巻きにされた、芋虫のようなものが現れる。

 ちなみに随分と濃い感じの男の顔がついていた。

 年齢は四十代から五十代に見える。


 筋肉ムキムキマッチョの顔だった。

 彼はにかっと笑うと、 


「というわけで早速……」

「ま、待って、男が孕むのは無理だよね?」


 ヨウタは必死になって抵抗を試みる。言葉で。

 だって男なのに孕まされるってどんな状況だよ! としか言いようがない。

 だが、その芋虫男は首をかしげて、


「別にゲームだから良いじゃないか」

「そっかー、あははは……そんなわけあるか!」

「そうか? 女体化しても出来るが」

「そっちに走らないで女の子を出そうよ! 女の子を!」

「良いじゃないか、これだけ可愛ければ男の子でも良いだろう。ついでになんだかエロい気分にさせられるし」

「よくなぁあああいいい」


 ヨウタは顔を青くして固まった。

 それに“スーパーカイコたん”が、


「でも全年齢版ゲームだから、過程を無視して子供が出来るだけだぞ?」

「で、でも芋虫なんて……」

「擬態も出来るぞ? 片思いの相手と似た相手との子供が出来るわけだし」

「そうなのですかー、だが、知っているんだ僕。男女分けたって。ここは男だらけの世界だって。だから……男同士でできて堪るか!」

「リクエストがないとなると、自動的に今まで一番接触した相手に変換されるな、姿が」

「え``」


 ヨウタが誰か思い当たり呻くと同時に、“スーパーカイコたん”が「れっつ! めたもるふぉーぜだ! うぇーい!」と叫んで白い光に包まれると次の瞬間そこに立っていたのは……ヨウタの予想どおりアキラだった。

 ただでさえ夢の中でイベントで色々されているのにここでまで、とヨウタが思っていると、その偽アキラがヨウタの前にやってきて、くいっとヨウタの顎を掴み持ち上げて、


「愛しているよ」


 と、囁いた。

 偽者だってヨウタは分っていた。けれど、ヨウタの頬がどうしてかかあっと赤くなる。

 心臓がバクバクして、ヨウタは今すぐここから逃げ出したい衝動に駆られてじたばたする。

 けれど、宙吊り状態のヨウタが逃げられるはずも無く、そのままキスされそうになっていたヨウタは、


「あ、あ……やだ、本物のアキラとじゃなきゃ」

「良いじゃないか、初めてじゃないだろう?」

「そんなことした事ないよ!」


 そう叫ぶ様子のヨウタを見て、その偽アキラはヨウタから手を放して、うむと頷くと同時に……元の芋虫に戻り、ヨウタを開放した。

 どさっと地面に落とされるヨウタ。

 いたたと涙目になりながら見上げるヨウタに、“スーパーカイコたん”は優しげな微笑を浮かべて、なにやらビンのアイテムをヨウタに寄こした。


「……これは?」

「媚薬アイテムさ! 飲めばいい雰囲気なる媚薬アイテムさ!」

「でも、何で僕にこれを?」

「“スーパーカイコたん”は恋のキューピットでもあるからさ! なーに、想い人であるアキラ君にでも使ってあげたまえ」

「ぼ、僕とアキラはそんな関係じゃ……」

「ははは、隠さなくても良いんだぞう! ほら、王子様がお迎えだ!」

「王子様って……アキラ!」


 そこには、息を切らしたようなアキラが立っていて、“スーパーカイコたん”に、


「俺はミニゲーム無しだ。そしてヨウタを返せ」

「はーい、分りました。ほら、行くが良い」


 ヨウタは“スーパーカイコたん”に押されてアキラの元に戻る。

 そんなヨウタにアキラは嘆息しながら、


「もう少し、ヨウタは周りを気をつけろ」

「う、うん……」


 けれど先ほどの事もあってヨウタはアキラの顔を直視できない。

 先ほどキスされそうになってアキラじゃないと嫌だといってしまったのだ。

 あれはたまたまで、別に僕はアキラとしたいわけじゃなくて、そう思ってヨウタはアキラを見上げると、心配そうなアキラの顔が目に映って……胸がどきどき高鳴る。

 だから慌ててヨウタは明から顔を背けた。


「ヨウタ?」


 名前を呼ばれるだけで、ヨウタの体全体にアキラの声が響く感じがする。

 一方アキラはヨウタの何処かよそよそしい雰囲気を感じて内心焦っていた。

 そこで状況をニヤニヤ見守っていたカオルが、


「所で、ヨウタは伴侶にされちゃったの?」

「されていないよ!」

「ふーん、“スーパーカイコたん”は普通はイベントキャラだから、ミニゲームで戦わないとあのアイテム手に入らないらしいんだ」

「そうなんだ」

「そうそう、でも負けると、“スーパーカイコたん”に……」

「それ以上は言わなくて良い、というか止めて下さい。……でも、何で僕の場合ああだったんだろう?」

「罠が発生する条件は、“村人B”か“魔性”のどちらかだって」


 その両方ですとはヨウタは言えなかった。けれど、使えない属性だと思えたものが今回は役に立ったらしいと気づいて、ヨウタは少し嬉しくなる。と、


「それで襲われ無かったって事は、片想いのされたい相手が要るってことですね?」

「! な、なんで……」

「まあ、そういう様な事を口走れば、開放はしてくれるらしいんだけれどね」

「う、うん、それで開放してもらったんだ。女の子が良いって」

「そっかー。てっきりアキラにされたいとか口走ったのかと……」

「何でだよ! もう、知らない!」


 そうヨウタは怒って走っていく。

 勘が鋭すぎてカオルは苦手だとヨウタは思って、このままだと気づかれる気がして逃げだしたヨウタ。

 それを見送りながらカオルはアキラに、


「アキラはどうおもう?」

「……黙秘」


 そんな初々しい二人にカオルが笑い、アキラがそれに気づかなかった振りをしてヨウタを見ると……ヨウタは、いつものように敵に遭遇してしまっている。

 それに、またかと叫んでアキラが走り出したのだった。

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