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にわ

 こうしてヨウタはアキラやカオル達とパーティを組むことになった。

 なんだかんだ言って知り合いであって信頼は出来る人物とパーティが組めて良かったとヨウタは思う。

 これでしばらくはひどい目に合うまいというか、あっても手助けしてもらえる。


 アイテムと同じような扱いではあるけれど、ヨウタは敵と遭遇しやすくなるという、戦闘をしたい人には好ましい能力で貢献もできる。

 そう思いながら、ちょうどいま、先ほどのスライムのようなもの十匹ほどアキラとカオルで一分もかからずに倒してしまった。

 二人とも強いな、羨ましいとヨウタは思う。


 でもこうやって魔法の扱いなどに慣れているのを見ると、


「二人はここにきてすぐなのに随分と能力を使いこなしている気がする」


 そうヨウタが聞くとアキラが、


「それはそうだろう。説明書をしっかり読んでいたからな。試作版だから、そういった説明も内部で整っているか分からないし」

「な、なるほど」

「そういえばヨウタは昔からゲームは説明書関係を読まずに始めていたな。……今回も同じように読まないで始めたのか?」


 にやにやと意地悪く笑う勘の鋭い幼馴染のアキラ。

 どうしてこんな時に余計なことを思い出すのだろうとヨウタは恨めしく思っているとそこでカオルが、


「まあまあ。それでヨウタ、何か聞きたいことがあるの?」

「うん、僕達にランダムで割り当てられる職業の一つについてなんだけれど」

「そうなんだ。というか本当に説明書を読んでいないんだね……」

「う、うう……それで聞きたいんだけれど、職業で“魔性”というのがあるのかなって」


 そう僕は聞いてみた。

 ヨウタのもう一つの職業がそう言った訳の分からないエロなものだったので聞いてみたのだ。

 けれどそれを聞いた途端、アキラとカオルが黙る。


 どうしたのだろうと僕は思っているとそこでカオルが、


「“魔性”?」

「う、うん、エロっぽいのがあるとか、“魔性”がどうのって噂で聞いていたから」


 そう誤魔化しながらカオルにヨウタはさりげなく問いかける。

 ちなみにどうして聞きたくなったのかというと、歩きながらその場所を少し離れたら、ヨウタに不幸ポイントが三ポイント貯まりましたとアナウンスされたからだった。

 というわけでこの機会にと思い、ヨウタは何となく不安になって聞いてみたのである。と、アキラが、


「確か町にいたな、もちろん、操作するプレイヤーのいないキャラだが」

「そ、そうなんだ。というかもう町に行っていたんだ」

「俺達が飛ばされたのは町中だったからな」

「! 僕はどこだか分からない森の中の道だったのに! 

「運が悪かったな。でも俺が助けたからいいだろう? 正確にカオルに頼んで攻撃用の魔法薬を投げたんだが」


 そういってアキラは笑う。

 ただその話を聞いていてヨウタはあることに気づいてアキラに問いかける。


「でも町から僕の所まで結構離れているような? まだ町につかないよね?」

「それはそうだ。この森の中と町は離れているからな」

「な、なんでそんな移動時間が」

「順番に説明をしていく関係で俺達は一番乗りというわけではなかったが初めの方だったからな。所持金も多めだったし、それで装備を整えたからな~」


 などという羨ましい話を僕は聞いてしまった。

 悔しいと僕が思ってアキラをにらみつけているとそこでアキラが、


「それで“魔性”の話だったか。確かに俺はプレーヤーでないキャラクターでしかその属性の人間とはゲーム内では遭遇していないが……確か、極稀に現実のプレイヤーでそういう属性がつけられることもあるらしいな」

「へ、へー」

「ちなみに“魔性”には特別な、エッチなイベント……もちろん少年誌的なラッキースケベ程度だが、そういったイベント用の部屋やアイテムもある」

「……そ、そうなんだ」


 自分がそんなものになるのはごめんだけれど、ゲーム内のキャラクターでそういった“魔性”がいるのであれば少しくらいはいい思いができるかなとヨウタは思った。

 だが、その期待を壊すようなことをアキラがすぐに告げる。


「ちなみに、“魔性”は全員男だけどな」


 さらっと非常に重要な事項が語られた気がして、不安そうにヨウタはアキラを見上げた。


「女の子は?」

「そもそも試作版なので、説明役か物を売る女しかいない。なので女の子とのラッキースケベイベントはないらしい」

「意味ないじゃん!」

「いや、ラッキースケベやらエロやらを売りにしているだけに、敵に襲われてエロい目にあったり、攻撃されると体が疼いたり、あとは死ぬと、暫く体中を撫でられるような快感を与えてくるらしい。ちなみに状況によって痛みはほぼ感じない代わりに、快楽を感じてしまうのがこのゲームの特徴なんだ。グロの心配は一切ないな」


 アキラに説明されて、ヨウタは説明書を読まなかった過去の自分を物凄く呪った。

 なんだよそれとヨウタは頭の中が冷えていくのを感じる。

 ラッキースケベ程度とはいえ、少年漫画のお色気シーンのようなものが、そう、


「男がされてどうするんだ! 誰得!」

「そういう仕様だから仕方がないだろう。痛い思いをしたりする方向には行けないから、別の方向に進んだだけだし。でも敵と遭遇してすぐに俺に会えて良かったな」

「それは、まあ……」


 確かにあそこでアキラに助けられなかったら、延々と死ぬまで(体力が0になるまで)あのスライムに……そう思い出すと、ヨウタはぞっとする。

 しかも属性の関係かやけに感じてしまって、ヨウタとしてはあのままでは何かがまずいと思った。

 ヨウタは男なのに、新たな性癖に目覚めてしまいそうで怖い。


 などとヨウタが考えているとそこでアキラはふっと悲しげな顔をしてヨウタを見た。


「最近、ヨウタが俺の事避けていたから嫌われたかと思ったんだ」

「アキラ……」


 壁ドンの件もあって、何となくで避けてしまっていたのだが、アキラにとってはそれが辛かったらしい。

 幼馴染だしなんだかんだ言ってアキラはヨウタの事を気にしていたのかもしれない。

 悪い事をしたなとか、可愛い所もあるじゃんと、自分が必要とされているようでヨウタは嬉しく思いながら、


「そういうつもりは僕はなかったけれど……ごめん」

「弄る相手がいないのは寂しくて」


 アキラがにやっと意地悪そうに笑いヨウタを見る。

 悪い事をしたかなというヨウタの善良な心が砕けた。


「ひぃぃぃいいーとぉおおおーをぉおおおー、お・も・ちゃ・の・よ・う・に・言うな! もう知らない!」


 そっぽを向いて怒り出すヨウタ。

 それがアキラには楽しいらしく、意地悪く笑いながら、


「はは、そういえばまた話を戻すが、プレイヤーの中にも“魔性”がいるらしいが、どう思う、カオル」


 そこでアキラはカオルに話をふり、ヨウタはびくっとした。

 流石に一般のプレイヤーキャラに如何こうしないだろうと淡い希望を持っていたヨウタだったのだが、カオルは頬に一本指を付けて少し考えてから、


「やっぱり紐で縛り上げて、羽でさわさわかなー。きっと凄く可愛い声で啼いてくれるよねー」

「ぬるすぎるだろう。やっぱり複数人で縛り上げてさわさわか?」

「それもそうだねー。そういえば感度良いらしいよね。しかも肌触りとか良くて、見るだけでむらむらして襲っちゃう存在なんでしょう? 設定上」

「しかもそれ用の媚薬なんてアイテムもあるらしいしな……あとは道具なら……」


 そんな嬉々としてどうするかという過激な会話する二人に、ヨウタは心なしか青くなる。

 しかもそれ用のアイテムが大量にあるらしいことも分る。


――ばれたら絶対調教される! 


 そんな危機感を覚えたヨウタは、この先ずっと黙っていようと心に誓う。

 ばれた後は、面白半分で耳などをアキラにさわさわされてしまうかもしれない。

 というか現実世界の方で実際にアキラには、耳を触られて、ヨウタは感じやすいなと言われたのだ。


 なんでそうされただけで感じないといけないんだとあの時ヨウタは思わさせられた。

 アキラ、許すまじ。

 だが今は、そういった事は言わず、そして、属性の事は言わないんだとヨウタは思う。


 そう地面を見ながらなにやら決意をするヨウタに、アキラが意味ありげに唇の端を上げたのだった。









 町に帰る途中だが、それでも当然魔物が出てくる。

 様々な魔物……蛇のようなものや犬に羽が生えたものやら、多彩な魔物との戦闘に遭遇し、アキラとカオルが倒していく。

 殆ど瞬殺と言っていいような戦闘だ。

 

 とはいえ、完全に毎回カオルとアキラが真っ先に戦えるわけではなく……また、攻撃してくる場所がどの方向からかといったことも変わってくる。

 そしてヨウタは一番後ろを歩いていた。

 これまでは大丈夫であったとしてもこれからは分からないのがこのゲームであったりする。

 つまり魔物がいるような場所を、ヨウタが歩いていたりするとどうなるかといえば……。


「ふぎゃぁあ、ス、スカートの中から出て……や、やぁあ」


 必死に足を閉じてヨウタはスカートの中から魔物を追い出そうとする。

 背後から現れた握りこぶし程度のモフモフした魔物は、それほど強そうではなくて小さかったのだが……等しい距離にいる三人の中で、真っ先にヨウタが狙われた。

 弱い奴から狙うらしい。


 ぴょんと跳ね上がったと思うとヨウタの足に擦り寄り、そのまま段々上へと這い登ってきて……そのモフモフしているのに冷たい肉質感のある感触に、ヨウタは悲鳴を上げて地面に座り込んだ。

 そして現在その魔物をスカートの中から追い出そうとするも、ヨウタの肌に引っ付いたぶるぶる動くだけで外れない。

 スカートの中に自分から手を入れる勇気のないヨウタは服の上から必死になって引き出そうとするけれど、どうやら引っ付いたままヨウタの魔力を吸っているらしい。


 おかげでそれが攻撃となっているらしく、感じさせられてしまう。


「やぁあ……もう出ていけぇえ、あぁあ……アキラ、助け……」


 涙目で頬を染めてお願いするヨウタ。

 実の所この時ヨウタは、とても可愛くて色っぽい顔をしていたのだが、目の前に鏡があるわけではないのでヨウタ本人はまったく気づいていなかった。

 そして襲われるその刺激に精一杯で、ヨウタは助けを求める事しかできない。


 だが、気づけばカメラのようなものがアキラの手に握られて、カシャカシャというシャッター音が。


「写真撮るなー、やぁあ、ひうっ……そ、そこ駄目……めぇえ」


 敏感に感じてしまいヨウタは泣きそうになる。

 そういった攻撃が感じてしまう設定とはいえ、なんでこんな事にとヨウタは喘ぐ。

 そこで、膨れ上がった魔物の所にナイフが突き立てられる。


 そのナイフは刺さった瞬間ゴムのように左右にぐにょぐにょ揺れる。

 ヨウタはびくっとするも、その魔物は悲鳴を上げてすぐにお金と小さな花になった。

 その花はヨウタの手のひらにぽとっと落ちてくる。


 このアイテムはなんだろうとヨウタが思っていると、アキラが少し不機嫌そうに、


「そっちの花は、回復薬だ。ヨウタが持っていて良いぞ」

「あ、ありがとう」

「あと、ナイフの一つくらい持っていないのか? “村人B”ならちょっとした武器が装備されているはずだろう? ……あー、いや、いい。俺の勘違いだった」


 そうアキラは誤魔化した。

 まだその方がアキラには都合が良い。

 とはいえアキラはヨウタが肌を触られて喘いでいる内は良かったのだが、途中反応が変わって……何となく魔物にいいようにヨウタがされるのが気に入らなくなったのもあってアキラは攻撃した。


 それにこのままヨウタがひどい目にあい続けるというかあんな風に声を出されるのもアキラ自身が我慢できそうにないので、後でナイフのような武器を装備させておこうと考えた。

 そんな事をアキラが考えているとはつゆ知らず、アキラをヨウタはある事を思い出してじと目で見た。


「そういえばさっき写真とっていなかった?」

「このゲームの醍醐味で、襲われているシーンを写真に撮れる機能があるんだ。もちろん撮った本人とその仲間しか楽しめないが」

「何で僕の写真撮った!」

「いや、ヨウタが可愛くてエロい女の子みたいだったから」

「……アキラ、男もいけるほうなの?」


 ヨウタが警戒するようにアキラを見た。

 ヨウタ自身はノーマルだしアキラも……アキラも? とヨウタは考えてしまう。

 一方、やりすぎたかなとアキラが思っていると、そこで傍にいたカオルが笑い出した。


「本当にヨウタは面白いねー。うんうん、なるほど、幼馴染を疑っちゃうんだー」


 そう茶化されてヨウタは、このアキラが何人もの綺麗な彼女を連れていたことを思い出し、それはないと気づいた。だが、


「確かに男がいけると疑ったことは謝るけれど……襲われているのに写真撮るのってどういう事だ!」

「良いじゃないか。結局助けたし。面白いイベントだったからつい」

「面白いイベントじゃない! で、でも助けてもらったしこれくらいにする。でも、ナイフとか怖いし、もう少し別の助け方は無かったの?」

「仕方がないだろう、ヨウタの服の中に潜り込んだんだから。それともあのまま放っておいて、最後までされたかったのか?」


 つまり体力がなくなるまで延々と、以下略。

 それは嫌だ、何で男なのに感じさせられないとならないんだ、しかもゲーム的にライフがゼロになるまで……とヨウタは顔を青くする。

 そこで、先ほどのナイフを取り出して、アキラはぐにょぐにょ曲げる。


「そもそもこの攻撃力が低いゴム製のナイフで倒せる魔物に、後れを取ってどうするんだ」

「……ゴム?」

「ゴム。……そうだな、ヨウタはまともな武器が使えない気がするから、このゴムのナイフを渡しておこうか。これなら自分に当っても体力が削られないし。これで、一応さっきの低級の魔物には対抗できるはずだ」

「そうなんだ。……ありがとう、アキラ」


 なんだかんだで心配してくれている幼馴染に、ヨウタは嬉しくなり微笑む。

 それを見たアキラは何処か気恥ずかしそうだった。

 そんな二人を傍にいたカオルはにまにまして見つつ、ヨウタは写真の事を忘れているなと心の中で思っていたのだった。


 ちなみにこの時、ヨウタの頭に不幸ポイント三ポイント追加されましたとアナウンスが流れたのだった。









 どき、男だらけのVRMMO。


「もう嫌だ。どうしてこうなった! 男しかいないじゃん!」


 泣きそうになりながらヨウタは指差すそこは、男子校よろしく、男しかいない。

 現在ヨウタは町に着いたのだが、町というだけあって確かに人は多い。

 建物はレンガで作られた建物が連なっている。


 建物形も個性があって窓などもすべて違っていたり、途中にこの街の地図の掲示板があったりと凝っている。

 お店などもまだ入れないものも多数あるが、服や雑貨以外にも色々な店が作りこまれる予定のようだ。

 そのあたりのこだわりは素晴らしいと思う。


 だが、そこにこだわるならば。

 もっとこだわる所があるだろう、例えば女の子とか。

 そう思ってもしかしたら一人くらいは女の子がと思ってヨウタは見回すが、周りは男しかいない。


 見渡す限り男だらけで男の海のような町。

 男なんてもう見たくもないヨウタ。

 そんなヨウタにアキラは、


「だから男女わけたって……」

「しかも物を売っている女性キャラって、何で皆同じ顔で同じ服装なんだ。量産型とか手抜きすぎるだろう! もっとこう、ツインテールとかショートとかメガネとかすく水とかナース服とか裸エプロンとか色々あるんじゃないのか!」

「試作品だから」

「こんな所に後どれくらいいないといけないんだ……」


 そう嘆いて地面を見ればスカートがヨウタの目に映る。

 繊細なフリルが重ねられて作りこまれたスカート。

 風に揺られてひらひら揺れるあたり、随分とどうでもいい所に凝りやがってと、ヨウタは心の中で呻いた。


 とは言え嘆いていても現実は変わらない。

 有り金はたいてでも男の洋服をと、目の前にある最優先事項に目を移してヨウタはアキラと洋服の店に入る。だが、


「カエマセン」

「そんな! た、高すぎるよ」

「ネビキハシマセン、キャクニハコビヌ、ソレガワガウンメイ……」

「いや、少しくらいはこう……」


 頑固な女の子?キャラに必死でお願いするヨウタだが、そこでヨウタはアキラに軽くぽんと頭を叩かれて、


「どれが欲しいんだ?」

「アキラ?」


 そこで聞いてきたアキラが不思議に思えてヨウタは聞き返してしまう。

 だってこのワンピースをよこしたのはアキラだったから。

 そこでアキラがヨウタに、


「女物の服、嫌なんだろう?」

「う、うん、でも……」

「じゃあその服でいるか?」

「よろしくおねがいします」


 素直になるヨウタに、ここで再びアキラはニヤリと意地悪く笑い、


「よーし、後で何かお願い聞いてもらおうな」

「うぐ……分りました。じゃあ、あの服が欲しいです」

「いいぞ。もっと防御力がありそうな服じゃなくて良いのか?」

「だって高いから。後で払えるか分からないから」

「……ヨウタは真面目だな。それでお願いします」


 そうすぐに買ってもらえて、アキラから渡される。そうするとヨウタは、ようやく村人っぽい服装になった。

 よかった、これで僕も男の子だとヨウタはほっとする。

 先ほどのワンピースは、街中のガラスに映った自分の姿を見て、あまりにも違和感がなさ過ぎて絶望した。


 ようやくこれで男の子だと思う。

 そして店を出てからヨウタは、


「ありがとう、アキラ」

「……幼馴染だから」


 にっこりと笑ってお礼を言うヨウタだったが、アキラはすぐにそっぽを向いてしまう。

 そういえば昔からアキラは、素直にお礼を言うと照れてそっぽを向くのだと今更ながらヨウタは思い出した。

 こういった所は昔から変わらないとヨウタが一人楽しんでいるとそこでカオルが、


「本当はヨウタにもう少しワンピース着てて欲しかったのに、優しいね、アキラは」

「……カオル」


 アキラが黙れというかのように機嫌が悪そうにカオルの名前を呼ぶが、そこでヨウタはカオルに、


「そうだよカオル、アキラみたいな、歩くだけで女の子を落とすようなやつが、僕にそんなもの着せて喜ぶはずがないよ」

「そうだねー、あ、そういえば宿に戻ろう。ミチルも戻って来ているだろうし」


 そうカオルが提案したのだった。









 だが、宿に入った途端ここで強制イベントが。

 ヨウタは顔をしかめて、


「なんだか、宿に泊ったので夢見るイベントが何とかって聞こえるんだけれど」

「ああ、本人の属性と出会った登場人物と発言を組み合わせて、夢という名の強制的な登場人物にさせられるとかなんとか……でも違う場合もあるらしい? だったか。もちろん個別で起こる……俺達の属性は起きにくかったはず。だからよく読んでいなかったな。やっぱり“村人B”だからこういったイベントが?」

「……嫌な予感しかしないけれど、でもこれは避けられないんだよね?」


 それにアキラは頷いて、ヨウタは仕方がないなと再生を始めたのだった。


「イベント、夢見るモードを起動しマス」


 機械音声がして、きっと碌でもない内容なんだろうなとヨウタが思っていると、


「それではランダムで決定した“魔性の夢No,6”もしくは“魔性の夢No,8”から選択して下サイ」

「ちょっと待て! 何でそんな……」

「属性により決定しまシタ。どちらか決定しないと、体力がゼロになりマス。不幸ポイントもリセットされマス」


 そこでヨウタは、その不幸ポイントというのが貯まれば隠しキャラに進化できる事を思い出した。

 そう、それさえ貯まれば“魔性”から脱出! 出来る可能性があるのだ。

 だからこのなんチャラムービーを見る程度、些事に過ぎない! と、自分をヨウタは誤魔化し、そうなれば聞く事は一つ。


「ちなみにその二つはどんな内容なの?」

「愛ありと、愛無しデス」


 どう考えても愛無しなんか選んだなら、それこそこう……そこであまりの恐ろしさにヨウタは考えるのを止めて、速攻で決断した。


「愛ありでお願いします!」

「“魔性の夢No,6”、起動しマス」


 そう機械音声がすると共に、ヨウタの目の前に別の場所が広がったのだった。




-----------夢映像再生



 ヨウタは現在アキラと手をつないでいた。

 今日は何しに来たのかというと、アキラとヨウタは今日婚約したのだ。

 これからどういった指輪を買うかを見に行くところだった。


「いい婚約指輪があるといいね」

「そうだね」


 そういってお互いヨウタとアキラは見つめ合い、そして……。 

 ……

 ……

 ……“魔性の夢No,6 その2”に続きます。

 そんな機会音声が聞こえたのだった。





 ……。


「これはないわぁああああ」

「どうした、ヨウタ!」


 一通り見たヨウタは、全部見終わると同時に叫んだ。

 アキラが驚いたようにヨウタを見るも、ヨウタはそれどころではない。

 確かに愛ありだったが、顔見知りの幼馴染である相手と男同士なのに婚約して手をつないでしかも指輪とかそれで顔を見合わせてそれから……。


 思い出すだけでも、胸の鼓動が変に大きくなって凍り付いてしまいそうになる。

 どうしてこんな風になるのだろうとヨウタは思う。

 そう思いながらアキラを見ると、心配そうにヨウタを見ている。


 それに一瞬ドキッとしてしまうヨウタ。

 ドキッて何だと思いながら、ヨウタはこれから暫くアキラの顔を見ながら話せないと思ってしまう。

 だって、思い出してしまうから。


 あの低い声で熱っぽく愛を囁くアキラを。

 そこで、ぽんとアキラにヨウタは肩を叩かれて、


「本当に大丈夫かヨウタ。一体何があったんだ?」

「な、なんでもない。ははは」


 笑って誤魔化すヨウタ。

 だがヨウタはここである事を思い出す。

 ……“魔性の夢No,6 その2”に続きます。


 それって、またあんなの見させられるの? というかこれ以上どうなるんだろう、僕、とヨウタは思って……その前にこのゲームが止められるか、隠しキャラになれますようにと涙を心の中で流す。と、


「ヨウタ……何を見たんだ?」

「な、なんでもないから。それよりも部屋は何処?」

「302号室、三階だが……」

「先に行ってるね」

「あ、おい、ヨウタ!」


 けれどこれ以上アキラの顔が見れなくて、ヨウタは駆け足で階段を上がっていってしまう。

 まるでアキラを避けるようなヨウタの動き。

 それを見たアキラが、がっくりと肩を落として、それを見たカオルが、


「……やりすぎたんじゃない?」

「……反省はしている」


 そう、アキラがカオルに答えたのだった。








 とりあえず部屋までやってきたヨウタは、思い付きのいたずらをすることのいした。

 アキラの事でドキドキしすぎたヨウタは、それを別の方向で発散しようとしたのである。

 そして部屋の扉を開き、


「手を上げろ! 貴様はすでに包囲……えっと、ごめんなさい。冗談です」


 目の前にいた背の高い無表情なイケメンに、即座に襟首を捕まれてヨウタは宙に持ち上げられた。

 無表情だがその眼光は鋭く、歴戦の戦士のようなものをヨウタは感じ、持ち上げられたままヨウタは母猫に加えられた子猫のようにプルプルしていた。と、


「……誰だ」

「ヨウタといいます」

「ああ、あれか……」


 そなにやらうむと納得して、その男らしい風貌のイケメンからヨウタは手を放された。

 どうやらこの人物はヨウタを知っているらしい。

 でもこの人にはあったことはないよなとヨウタが疑問に思っていると、


「あ、ミチル! どうだった?」

「いや、まだその気配はないらしい」

「そっかー、早くイベントが始まると良いんだけれどねー。まあいいや、ちゅっ」


 そこで、ヨウタの目の前で、カオルがミチルにキスをした。

 もちろん二人は男同士だ。

 突然の展開に、ええっ、と硬直するヨウタの様子を見ながらアキラが頭が痛そうに額に手をやって、


「カオル、ミチル、ヨウタの前では止めてくれって言っておいたはずだが」

「ん? ああそういえばそうだね。ミチルの顔を見たら、つい」


 そう、てへっと笑うカオルに、アキラは嘆息してからヨウタに、


「こっちのミチルは、斧使い+銃使い。遠近両用タイプの属性だ。そして……まあ、そこのカオルと恋人同士なんだ」

「へ、へぇー」


 先ほど見せ付けられた映像もあり、ヨウタは青い顔をしながらカオルを見る。

 どうやらそういった方であったらしい。

 そこでカオルはヨウタを見て、悪戯っぽく笑い、


「ヨウタなら僕、相手をしてあげても良いよ?」

「ひいいいいいいい」


 悲鳴を上げてヨウタはアキラの背後に隠れた。

 そんな自分を頼ってくれたヨウタにアキラはちょっとっだけ気分を良くしながらも、


「カオル、あまりヨウタを脅かさないでくれ」

「はーい」


 気楽にカオルが返事をして、そこでヨウタがアキラを見上げた。

 それは、アキラにこのゲームの中で会ってからずっとの疑問で、


「アキラ、この二人と一体何処で知り合ったの?」


 だってヨウタはずっと幼馴染で来たが、こんな人達は知らない。

 だが、その問いかけにぎくりとアキラはする。

 どう言おうか迷ってから、一部かいつまんで話す事に決めた。


「……外の部活動で意気投合して、相談に乗ってもらっていたんだ」

「相談? 何の?」


 幼馴染なのに自分には相談しないなんてと、ヨウタはなんだかもやもやする。

 だが、アキラにも出来ない理由がある。

 かといって、言わなければヨウタが何で相談してくれなかったんだ、そんなに信用できない相手なのかと傷つくのは目に見えていたので、アキラは迷いながら、アキラは試しに……この機会にヨウタにゆさぶりをかけることにした。


「……好きな人がいるんだ」

「そうなんだ。って、ええ! どの子どの子!」

「……ヨウタも知っている子だ」

「誰だ誰だ、ヒント!」


 目をきらきらさせて聞き出そうとするヨウタに、あ、これは使えるなとアキラは即座に計算して、


「無しだ、大体そう根掘り葉掘り聞こうとするからヨウタに言うのは嫌だったんだ」

「うぐ……ごめんなさい」


 しゅんとヨウタはうな垂れる。

 そんなヨウタにアキラは、上手く誤魔化せたと胸をなでおろす。

 そんなアキラの心境など知らず、ヨウタは好きな人か……誰だろうと思って先ほどのアキラに愛を囁かれる映像を思い浮かべてしまう。

 

 少女漫画か何かの登場人物になってしまったような光景だったけれど、その光景がヨウタではなくまだ見ぬ女の子と手をつないだ光景がイメージされて、ヨウタは頭の中が混乱していく。

 それに様子がおかしいと気づいたアキラが、


「どうしたんだヨウタ」


 心配そうなアキラの顔が目前にあり、ヨウタは焦ってアキラから逃げようとして、体のバランスを崩して逆にアキラの方に倒れてしまい、


うちゅっ


 唇と唇が重なりました。

 正確には、ヨウタからアキラにキスした事に……。

 その生々しい感触に、ヨウタはうぎゃぁああ、と思いながらも嫌悪感を感じない自分に気づいて、うぎゃあああともう一度心の中で叫んだ。だが、すぐにヨウタはアキラに体を支えられて、唇を離されて、


「相変わらず、ヨウタは抜けているな」

「い、いま……」

「キス程度で何を……あ、ちょっと呼ばれたから」


 そうアキラは大した事ではないような態度を取り、廊下に出て行ってしまう。

 まあ、何人もの女の子を連れているアキラだからその程度大した事が無いのかと、ヨウタは再びもやもやしてしまう。

 そんな時廊下で、誰かの雄叫びが聞こえた気がしたが、ヨウタは気にならなかった。


 ちなみにその時アキラが廊下でよっしゃああ、と言っていたのだが、意外にこの宿の壁の防音機能が発達している設定だったのでヨウタに聞かれる事が無かった。

 そこで、そういえば目の前のカオルとミチルがイベントがどうのこうのといっていたのを思い出す。なので、


「あのーイベントってなんですか?」

「魔王が現れるんだ」


 そう答えたカオルによると、隠しキャラで魔王がいるらしい。

 ちなみになれるのは一人だけ。

 何でもあるキャラが進化する事で、魔王になれるらしいのだが、それが何のキャラかは分らないらしい。


 しかも勇者は十人いるらしい。ついでに魔王が復活すると魔王と戦うイベントが発生するのだが、勝った場合は、その魔王側の奴らにエロいこと(ただしラッキースケベ程度、プレイヤーキャラの場合は本人にある程度拒否権がある)し放題で、逆に負けるとエロい事されまくるという(ただしラッキースケベ程度、プレイヤーキャラの場合は本人にある程度拒否権がある)。

 しかも、魔王が勇者に倒されると、その魔王は勇者に“魔性”にされてしまい、また逆に魔王が勝てば勇者を“魔性”にするらしい。

 しかも戦って負けた事で、相手の経験値もゼロになるので戦うことすら出来なくなるという完全敗北展開。


 なのだが。

 ぼんやりとヨウタは思いながら、


「でもこの世界、男しかいないんじゃ」

「そうだね」

「男なのにラッキースケベ?」

「ヨウタみたいな可愛い子だったら、良いよー」

「ガクガクブルブル」


 魔王だからって良い思い出来ないじゃないかとか、魔王だったら女の子がいたらハーレムなのにとか、魔王一人に対して勇者十人とかなんという数の暴力……と突っ込んでから、もしや魔王はそれだけ強い存在なのかも知れないなーとか、でも自分のなれる隠しキャラが魔王だったら嫌だなーと思った。

 切実にヨウタは思った。

 そこで更にカオルが付け加える。


「ちなみに、“魔性”用の道具を集めると、戦って勝利すると、それを使ったえっちなイベントが出てきたりする事もあって、道具もレアアイテムなんだよー」

「……集めてたりするのでしょうか、皆さん」

「うん、まあ、“魔性”相手に使っても良いしね。とはいえ負けるとその道具が取られて、負けた方に使われちゃうらしいよー。ま、ラッキースケベ程度だけれどね」


 と笑うカオルを見つつ、ヨウタは、道具が揃っているので後は“魔性”がいればどうとでもなるんだと気づいた。

 気づいて、先ほどのカオルの台詞を思い出して、ついでにミチルにキスしていた事を思い出して……。

 気づかれたら一環の終わりだと、ヨウタは心の中で悲鳴をあげた。


 男同士なのに、そういった展開が。

 やっぱり偶然胸に飛び込んだりキスをしてしまったりするのだろうか?

 しかも準備は全て整っていて、後は“魔性”さえいれば、どうにでも料理できる状況だったりするし。


 そしてヨウタは“魔性”でもある。

 どうするんだ僕と、ヨウタは焦燥感を覚えて、かといって一人だったなら速攻で敵に襲われて体力がゼロになるまで、散々感じさせられて嬲られてしまう。

 ばれない様に頑張る以外の選択肢が今のヨウタには無かった。


 そこで、ぽんと背中を叩かれた。


「ひゃう!」

「どうしたんだヨウタ」

「な、何だアキラか。これは?」


 そこでヨウタは袋を渡された。

 どうやらさっき部屋から出て行った時に勝ってきてくれたらしい。

 試にそれを装備してみると、武器防具に回復薬、魔力のこもったアクセサリーに……その他諸々。


 これだけあれば、身を守るくらいは出来るかも、といった一式が揃っていた。

 そんな風に中に何が入っているのかを知って感動に打ち震えているヨウタにアキラが、


「それだけあれば当分戦闘に巻き込まれても大丈夫だろう」

「アキラ、わざわざ買って来てくれたの?」

「……出世払いだぞ?」

「うん、アキラ、ありがとう」


 嬉しそうなヨウタにアキラは少し照れくさそうだった。

 そんな二人の様子をにまにましながらカオルが見ていると、そこでミチルが、


「それで、次に行く場所が決まった」


 そう切り出したのだった。







 そして次の目的についてアキラから話を聞いたヨウタ。

 だがそれを聞きながらヨウタは、


「伝説の剣“ウェアカッター三式”?」


 目をぱちくりさせる。

 伝説と付いているからに、さぞ強い武器なのだろうけれど何となく強そうに思えないとヨウタが思っていると、そんなヨウタの考えを読んだかのようにアキラが、


「何での伝説の名工が自身の全てをかけて最後に作った三振り目、だから三式という……そんな設定だ」

「設定って……」

「それで、その剣を使うと、相手の服を一瞬にして紙の様に引き裂く事が出来るんだ。しかもお肌を傷つけずに」


 つまり漫画などで見る、悪い奴らに女の人の服が紙のようにびりびりとされてしまう……そんな力を持った剣なのだろうが、ヨウタは目をどんよりさせて、


「……男を?」

「……一応説明役の女の人も出来るぞ?」

「もうそれで良いから女の子を、女の子を……」

「……飢え過ぎだろう、ヨウタ。あれは流石に……」

「もう男なんて見たくないんだ。もう一度言う。もう男なんて見たくないんだ!」


 そんなヨウタを見つつ、アキラは、色々とやり方を間違えたような気がしつつその剣について説明する。


「でもその剣自体が鍵なんだ。“宝物庫のある名も無き城”に入るための」

「“宝物庫のある名も無き城”?」

「レアなアイテムが一杯あるけれど、こわーい魔物も一杯いるそんな場所だ」


 宝探しみたいで面白そうと、僕が求めていたのはこれだ! と目を輝かせるヨウタ。

 確かに女の子は目的でもあったけれどこういった冒険もヨウタはしたかったのである。

 だからヨウタはアキラに、


「行きたい! それこそゲームの醍醐味じゃない!」

「但し村人Bには荷が重いかもな」

「……」

「……なんだ? 俺の顔をじっと見て。にまにま」

「……行きたい」

「エロい事になっても良いなら連れて行ってやるぞ」

「本当! わーい」


 話を聞いていたのかなとアキラは思ったが、ついでにさっきの道中でも色々なっていたし、夢見るモードで凄い事になっていそうだが……とは考えて、そういえばヨウタは喉もと過ぎれば熱さを忘れるタイプだったと思い出した。

 これはアキラにとって非常に都合が良い。


「分った、いいいだろう。じゃあ今回はお留守番で良い子にしているんだぞ」

「え? なんで?」


 首をかしげるヨウタに、アキラは、それ以上言う事は無く、カオルとミチルと共にダンジョンに向かったのだった。

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