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いちわ

 泉陽太いずみようたは、はたから見れば不気味な笑いをしていた。

 だが彼がこんな顔をしているには理由がある。

 彼の手には一枚の葉書が握られており、そこにはパスワードが記されている。


「待ちに待った、新感覚VRMMO、スイートキャットハートガーデン……の、試作版! これが抽選で当ったとか!」


 そう陽太は叫んでわくわくと、番号を入力していく。

 体感型の、現実と見紛う綺麗なグラフィックゲーム、かつ、前評判として有名なエロい野心的な試みをしたといった話があるのだ。

 それ故に、心が躍る。

 そしてエロいというのは恋愛的な意味で、そういった事も出来るし、ラッキースケベ的なものも起こるらしい。

 

 だがR18というわけではないのでそこまではいかないが、それでもエロいという事は……つまり、


「現実では彼女が出来ない僕でもイケメンでモテモテに!」


 という女の子にちやほやされる夢のような世界なのだ。

 そして、ラッキースケベ的なエッチな事も出来るという素敵設定。

 魅惑のモテモテおっぱいハーレム!。


 そう考えるだけで陽太は幸せだった。

 いつも何だか可愛いといわれてしまい、男というよりは小動物として扱われる屈辱の日々がこれで終わるのだ。

 他にも男なのに男に告白されたりラブレターが送られたりメールやらラインやら……よそう、暗黒の記憶を思い出す必要はない。


 今はゲームの話だけ考えていればいいのだ。

 背が高くてイケメンな自分に生まれ変わり、可愛い女の子といちゃいちゃする……そんな夢とロマンに満ちたゲームなのだろう。

 ちなみに、世界観はファンタジーで、好きな職業という属性?をランダムに二つ振り当てられるらしい。


 そして基本的に美形しかいないらしいので、そういうキャラが割り振られるのだろうと陽太は楽しみにしていた。

 イケメンチートが使いたい放題の自分。

 二次元だからこその理想的なその光景……女の子に囲まれてモテモテで、その子達も美少女で『ご主人様~(ハート)』といった光景が広がるのだろう。

 

 素晴らしい、素晴らしすぎる二次元、それに対して現実は……と思って陽太は憂鬱になった。

 ここの所、可愛い女の子がいるなと思うと何故が幼馴染なあきらの彼女になっているのを度々目撃したから、というのもある。

 そう、陽太がいつも可愛いなと思ってみていた子ばかり。


 さらに陽太の方を見て楽しそうに嗤うのだ。

 あれは絶対に陽太の方を見て挑発していると陽太は確信した。


「しかも最近何だか、明が僕に意地悪だし。しかもこの前なんて……女の子にやる様な壁ドンを僕にするし」


 いつもの授業が終わった放課後。

 夕暮れの人気のない大学の廊下で、陽太は何処か思いつめた様な顔の明が壁に向かって陽太を逃げられないように腕に閉じ込める様にして、


「陽太は何も分かっていないな。全然」


 怒った様に陽太に言ったのだ。

 けれど陽太にしてみれば何で怒られているのかが分からない。

 明は陽太にとって普通の幼馴染だ。


 なんだかんだ言って腐れ縁? のようなもので一緒にいる……それ以上に意味なんてないと思うのだ。

 そんな陽太に明は深々と溜息をつき去っていったのだ。


「きちんと言葉で言ってくれないと、分からないよ」


 幼馴染だからと言っても、最近特に明がなにを考えているのかが分からない。

 美形で女の子にもてて勉強も出来てと、陽太がコンプレックスを刺激されっぱなしな事くらいだ。

 だから陽太は思う。


 何で明は僕と一緒にいるんだろう?

 何で僕は明と一緒にいるんだろう?

 最近特に意地悪になってきた明を陽太は避け続けてしまっている。


 本当ならこのゲームも、抽選に当たったら一緒にやろうと陽太は言っていたのだ。

 でも陽太は明にこのゲームが当たった事を一言も告げていない。

 それを告げる前に明とはそんなことがあってそれ以来顔も合わせていないし口もきいていないのだ。

 それがなければ今頃陽太は明と一緒にゲームをしていたのだろうか?


「……考えていたら何となく暗くなってきちゃったし、深く考えずに楽しもう。おうー!」


 そう陽太は自分に言い聞かせて、ゲームにアクセスする。

 きっとエロ的な意味で楽しい世界が陽太の前に広がっているはずなのだから!

 だが、陽太のそんな幸せは、一瞬にしてぶち壊される事となる。


「男女別?」

「ハイ、オタガイイセイニユメヲモッテイルタメ、ダンジョヲワケルコトトナリマシタ」

「……でも、女性キャラはいるんだよね?」

「ハイ、イマス」


 機械的な声音で、壷の様なものが陽太に説明していた。

 他には試作版なので制限があるらしい事や、その関係で今回は現実世界に似た容姿になると説明を受けた。

 元の姿でいることによって悪さをゲーム内でさせないようにするという措置らしい。


 けれど、陽太は自分の容姿にコンプレックスを持っていた。

 ただしイケメンに限るという、イケメンチートが使えないどころか男に告白される容姿なのに男だらけのゲーム世界に放り込まれようとしているこの状況。

 絶対に危険だ。


 貞操的な意味で……そう陽太は確信して、


「帰る」

「エ? ログアウトデキマセンヨ? タイマーソウチモコンカイニカギリ、トクベツニジカンガノビテイマスシ」


 気が付くとログアウトが出来なくなってしまっていた。

 強制的なゲームになっていると陽太は思いながら、あまりな話に説明してくる声に食って掛かる。


「聞いてないよ! 何だそれ!」

「ホームページト、セツメイショ、ハジメノコトワリガキニカカレテオリマス」


 説明書を読まずに、陽太はこのゲームを起動させた。

 いつもの癖で、ゲームはやりながら説明が入るしそのままやればいいかと思って読まなかったので。

 面倒くさかったし。


 だがそのせいで今は自分が危機に陥っていると陽太は気づいた。

 そしてそんな自分のうかつさを呪った。

 ちなみにそのタイマー装置というのは、現実世界とゲームの世界の時間感覚が異なるために考案されたもので、2時間で強制的にゲームの世界から追い出される仕組みになっていた。


 例を上げると、ゲーム内での一日が現実世界では数分というのもざらで、それで時間を忘れて長居をしてしまうことが社会問題となり規制が設けられたのだ。

 だからこの現実の様に感覚が近いVRゲームにはどれもそういったものが仕込まれている形になっている。

 そして今回それが取り除かれたというのは……。


「コンカイハ、ニンゲンノコウドウヲ、カンサツスルモクテキモアリ、ノチニホウシュウガシハラワレルコトトナッテオリマス」

「なんだかモルモットみたいで嫌だな……とはいえログアウトできないし。でも、ゲームとしては楽しめるんだよね?」

「タブン」

「おい、お前は製作側だろう……」

「トイウハナシハオイテオイテ、コノフタツノボタンヲオシテクダサイ。ランダムニショクギョウガセンタクサレマス」


 説明キャラなのに随分と適当だった。

 もう少し不安にさせないような会話に今までのゲームではなっていたけれど、今回は何かが違う気がすると陽太は思う。

 こんなで大丈夫かなと陽太は不安を覚えるも、その壷からひゅんと何かが飛び出してきて陽太の胸の辺りにフヨフヨと浮かぶ。


 現れたのは黄色いプラスチックの台に、赤と青のボタンが二つ付いたものだった。

 とてもレトロな雰囲気がある。

 しかもボタンを押すのが二択な当り、すごく適当な感じがする。


 けれどいつまでもこのままでいても仕方がないので、とりあえずは目の前のボタンを見ながら陽太は念を押すように聞く。


「これを押すの?」

「ハイ、ケッテイシテクダサイ」


 これを押す事でランダムに職業を設定するらしい。

 ここでNoと言っても、延々とここで待たされるだけだろうから、仕方がない、やるかと陽太は思う。

 こんな場所にずっといるよりも、少しくらいは遊べた方が楽しいかもしれない。


 それに可愛い女の子とのイベントだって、作られたキャラでもあるかもしれないし。

 男女分けたといっても完全に男しかいないというわけではないだろう……多分。

 そんな楽しみな気持ちを覚えながら、陽太はスイッチを押す。


 まずは青。

 ピロロリ―ンと、どこかで聞いた事がありそうな電子音がして、現れた単語は。


「おめでとうございマース“村人B”」

「え? ちょっと待って、村人Bてなんだそれ」


 それは果たして職業なのか? という疑問が陽太の頭にまず横切る。

 すると説明の声がして、


「説明しマース。村人Bは村人Aと違い、イベントに多々巻き込まれるキャラデース」

「イベントに巻き込まれる?」

「例えば盗賊に攫われて人質とかかもしれまセーン」

「かもしれませんて……惨殺とかないよね?」

「それはないデース。プレイヤーキャラですかラー。それを許可すると、販売停止デース」


 どうやらグロ展開をすると販売停止になるらしい。

 確かに痛い思いをして殺されそうになったりなどを克明に感じさせられるゲームはちょっと……と陽太は思う。

 そういえば最近ネットのニュースで、グロすぎて販売停止になったゲームがあったことを陽太は思い出す。


 だからそこまで巻き込まれてもひどいことにはならないだろうと陽太は思った。

 それで説明を聞いた陽太は、


「そう、なんだ……無害そうだし、もう一つで良いのが引ければ良いか」


 そう思って陽太はスイッチを押す。

 次は強くて戦えそうなキャラクターがいいなと思いながら。

 するとあたりが急に薄暗くなり、ひゅーどろどろどろと不気味な音がして、そして現れた属性は、


「おめでとうございマース“魔性”」

「“魔性”属性? 何それ」

「色々な“男性”キャラに、エロい目にあわせられやすくなります」


 今の男性の下りで陽太はログアウトできるまでここにいようと思った。

 なにが楽しくて現実世界に近い思いをしなければならないのだと。

 そう陽太は決意した……のだけれど、


「職業が決まったのでゲーム開始デス!」

「ちょ、ちょっとまてぇえええええ」


 そう叫ぶ陽太。

 そんな陽太の周りの光景が穴が開くように組み換わっていき……壺の説明役は消え、代わりに陽太の目の前に現れたのは、深く黒々した森の小道だったのだった。







 一番初めに連れてこられたのは、黒々とした森だった。

 木々がいくつも隙間なく敷き詰めるかのように、枝を空に広げている。

 光を吸い込むような黒が、僕のいる道の左右に広がっている。


 時折吹いたちょっと強めの風によって、木々の葉が陽太を嗤うようにざわめくも、木々の葉がずれて空から光が飛び込んできてもいいはずなのに、空を埋め尽くす枝と葉が何重にもわたっているせいだろう……日の光はほとんど地面に届かない。

 昼なお暗いその場所は、物語やゲームでは馴染みの場所であるけれど、現実味のあるバーチャルリアリティゲーム(以下、VRゲーム)では、本当にそんな場所が目の前に広がっているのだ。

 陽太の視界を覆いつくす闇。


 こんな所は冒険するならリアリティがあって楽しい気もするけれど、現在のこの状況で一人なので、陽太は手放しに喜べない。

 しかもリアリティはそれ以外の部分でも発揮されているのだ。

 例えばこの道。


 土の匂いを色濃く感じる、湿った舗装されていない道。

 人の手があまり入っていない雄大さと未知を秘めたその場所は人の不安をかきたてる。

 それがうまく表現されているのである。


 しかもそんな薄暗い不気味な場所に落とされて、不安に思わないはずはない。

 さらに付け加えるならば陽太……表示は、ヨウタ……は辺りを見まわして呟いた。


「これ、絶対に何か出てくるだろう……。物語やゲームだと魔物なんかが出てきて襲われるパターンな気がする。こんな所に一人放り出されたら突然何かに襲われて……物語だったら助けが入って助かるパターンもあるけれどこれ、自由に中で遊ぶゲームだし。と、とりあえず武器か何かはないのかな? でないと物語の冒頭で悲惨な目に遭う、名もない一般人の様な展開に」


 自分で口に出した想像が現実味を帯びて来た気がして、ヨウタは慌てて自分の持ち物を確認しようとする。

 どうすればいいんだっけ、そう思いながら操作をする。

 同時に小さなブウンッという低重音がしてヨウタの目の前にゲームの画面が現れる。


 薄い水色の画面で透き通ったガラスのようだ。

 光を放っているので、こういった暗い場所でも文字が良く見える。

 わざわざ移動しなくても大丈夫であったらしい。


 ちなみにゲーム仕様なのか、暗いながらも陽太は周辺の状況がそこそこ見えていた。

 ゲーム内のシステムの関係で、暗くてもよく見えるように設定しておいてくれたのかもしれない。

 その点はよかったと陽太は思う。


 そしてそこで現れた光の画面で、ヨウタは自分の装備を見るといった表示ををさくさく選択していくと、自分の装備の画面が表示される。

 そこでヨウタはようやく自分の持ち物を確認するが……。


「二桁のお金と、瓶に入った水が三本。そして干した果実が二つ。この果物はマンゴーに似ている……のはどうでもいい。こ、これだけ?」


 書かれている内容を見ると少量のお金と干した果物(体力が少し回復する)と水しかない。

 武器も防具も何もない。

 空欄ばかりがいくつも並んでいる。


 埋まっているのはヨウタが着ている服のみ。

 つまり丸腰。


「こんなで敵に出会ったらやられるじゃん! 素手で戦えと? ど、どうするんだろう……」


 涙目になりながら、とりあえず自分の属性をヨウタは読み込む。

 武器も何もない状態。

 とはいえ別の方法で戦えるかもしれないのである。


 というわけで自分の能力を確認し、どう戦えば良いのかが分かるだろうと期待をして読み込んでいくのだけれど……。



☆“村人B”

 村人Aのように固定した、説明等の役割はなく、自由に好きな事をやっても良いキャラ。ある意味自由人。またイベント発生時に、ランダムで近くにいる場合巻き込まれる。いわゆる、巻き込まれがた主人公だ!


注意:あくまで村人ですので、強い魔法や武器防具は装備出来ません。なのでそういった戦闘に従事していそうな職業の人に守ってもらって下さい。でないとすぐに死んで経験値が0になります。 



 などと書かれている。

 その文面を読んだヨウタは、顔を蒼白にして黒々とした葉っぱの空を見上げてから、


「……これ戦えないよね。そもそも、守ってもらうって……僕はお姫様かと! いや、今どきのお姫様はもっと戦える気がする。僕、どれだけ弱いんだろう……何か特殊能力とかないの!」


 ヨウタは特殊能力を探しはじめる。

 村人とはいえど不遇だがそのスキルが実はすごかったりしないのかな、などと思いつつ調べていくと、特殊能力は確かにあった。



☆特殊能力:イベント発生率五倍、またその他属性と組み合わせる事で、不幸ポイントが貯まり別の隠しキャラに進化します。



 イベントが増えても僕自身が戦えなくちゃ意味ないだろう、やられちゃうし、とか、イベントに遭遇しやすくなるって僕はアイテムか何かかとヨウタは突っ込みたい衝動に駆られる。

 更に記述に対しての突っ込みを付け加えるなら、


「というか不幸ポイントって何ですかそれは。……酷い目に巻き込まれると貯まります。但し、死ぬとそのポイントもリセットされます。とはいえ更に特殊イベント発生によって、それによりフラグが立つ場合があります、か。しかも進化した後にどういったキャラクターになるのか一切ないし。説明不足にもほどがある……もしかして試作版だから説明もこんなに中途半端なのかな……でもこれでどうしろと……」


 それらを一通り読んでから、ヨウタは頭を抱えたくなった。

 これゲームだったはずだよね? 爽快感も何もないじゃん! と思いながらも暫くここでゲームをしなくちゃいけない状況にヨウタは気付く。

 だってログアウトしばらく出来ないって言われたのをヨウタは覚えている。


 衝撃的な説明なのでよく覚えているのである。 

 それを思い出しながらヨウタは悔しい気持ちになる。

 本来なら今頃、猫耳やエルフ、ツンデレ少女といった種族や属性も含めた可愛い女の子に囲まれて、楽しいゲームの世界を味わっていたはずなのだ。


 少なくともこの惨状を知る前は、そういった世界でイケメンチートでモテモテで、ちょっとエッチな体験ができると思っていたのである。

 なのにこのザマである。

 というわけで、ヨウタは納得は出来ないが現実は非情なので、深々と溜息をついて立ち上がる。


 ゲームの世界で、事前説明ではグロ展開はないとのことなのでその辺は安心ではあるが、別のどんな危険があるか分からない。

 とりあえず、現状では陽太のあの能力の関係で一人でいるのは危ない事だけは分った。

 一応、“村人B”もその他属性によって進化はするらしいので、経験値は溜めておこうと思う。


 弱いといってもちょっとくらいなら弱めの敵でも戦えるだろう。

 後は他の人たちの集合体に入れてもらって、戦闘しやすくなるこの属性をうまく生かせばいいかもしれない。

 でも能力の所に書かれていた進化するのに必要なその他属性に関しては、説明には一切書かれていなかった。

 微妙に説明不足なのはやはり作り途中だからだろうかとヨウタは思いつつ、もう一つ僕には属性があったことを思い出す。


 もしかしてそちらの方を使えば何とかなるのではと淡い期待を僕はもって起動させる。


「もう一つの属性……それにも何か特殊能力があるのかな?」


☆“魔性”

 存在がエロい生命体です。周りにいる人間、男女や魔物などを問わずむらむらさせて、場合によっては襲われてラッキースケベのような目にあいます。ちなみに感度抜群! なので悪い人に捕まらないようにしようね☆ ついでに、あまりにもエロいのでその魅力に抗いきれずに、敵との遭遇率も上がります。


☆特殊能力:あまりにもエロい生命体なので、敵が襲ってくる範囲が二倍になります。そして負けると、普通は10%の確率でエロい目に合うのですが、この場合、100%でエロい目に合います。またイベントによって、戦う前にエロい目にあいます。また、不幸ポイントが二倍で貯まり、別のキャラに進化しやすい可能性があります。



 そこまで読んで、どれだけ敵と遭遇しやすい弱い存在なんだ自分、とヨウタは思った。

 そしてラッキースケベ程度とはいえ、目につくエロの文字。

 どうやらエロい目にばっかり男である自分があうらしい。しかも、


「男に襲われるってどういうことだぁああ、これは流石にないよ! ハーレムは! 女の子は! い、いや逆に女の子の方から抱きついてくるような可能性は捨てきれない、大丈夫、きっと大丈夫……」


 そう自分にいい聞かせながらも、自分で出来る事は何とかせねばとヨウタは思う。

 だってでないと、男であるヨウタにエロフラグが立ちそうで怖い。

 R18ではないのでそこまでエロいことにはならないだろうけれど、それでも日ごろ現実で起こっているような告白だったり、満員電車でさりげなくおしりを触られたり……。


 何で夢と希望に満ちたエッチなゲームがこんな事になっているんだろうと涙ながらに思いながら、ヨウタは周りを見回す。

 普通の武器は装備できそうなので、どこかに何かヨウタ使えそうな武器かアイテムが転がっていないか探す。

 ゲームだとなんでこんな場所にといった場所に、武器屋らアイテムやらが転がっていたり、どこからともなく宝箱が出現したりするのはよくある事なのだ。


 だからそういったものがないだろうか、あってください、そうヨウタは念じるように思って周りを必死で探す。

 と、少し離れた所に丸いものが見えた。

 透明な球状のそれだが、とりあえず何でも良いから武器か何か使えるものがないと怖くて仕方がない、役に立つなら何でもいいから手に入れようとヨウタは近づいていく。


 だってヨウタの服は、ゲームに出てきそうな村人の服そのものだし、これでは防御する能力が……あまりにも頼りない。

 金属製のものや革製の鎧などよりも劣る装備……とすらも言えない日常的なものなのだから。

 だからこの球場の道具で少しは状況が打開できればと思いながら、ヨウタは近づいていって、その透明な球に触れた。


 だが触れた瞬間、その透明な球がぶるぶる震える。

 あれ、これアイテムじゃないんじゃないかなー、とすぐに気づいたヨウタは慌ててそれから手を放そうとするも、時はすでに遅し。

 

「手、手がは、外れない……放せぇええ……」


 透明な玉がヨウタの手を包み込むようにしていてそこから抜け出せない。

 指を動かしてみても全然放してくれる気配がない。

 初めから道行く旅人やら冒険者やらを、こうやって騙して捕らえるための物だったのだろう。


 そもそもこんな場所にアイテムが無防備に落ちている事自体がおかしいのかもしれない。

 ゲームだからと油断してしまったヨウタがいけなかったのだ。

 そんなあからさまな物体に近づくという愚挙。


 早速罠にかかってしまったヨウタは、それでも焦ってうんうん引っ張レ場抜け出せるのではと思って頑張る。

 けれど獲物を逃してたまるものかというかの如く、その透明な球体は一向にヨウタの手を放してくれない。

 これも何か僕の持っている能力の影響なのだろうかとヨウタは不安に思う。


 そんなヨウタの背後でびちゃっと音がした。

 恐る恐るヨウタが振り返ると、ヨウタの背後の茂みから、ぬるりと水のように透明な粘性のある、ヨウタを捕らえている球と同じようなものが這い出してヨウタを取り囲んでいく。

 これからこの物体は僕に何をする気なのか?

  

 グロ展開はないらしいとヨウタは説明を思い出すも……それ以外だと一体何があるというのか。

 嫌な予感を覚えたヨウタは必死になって前へと進むように逃げようとするが、


「冷たい……え? ひぃ、ひいいいい」


 背中に冷たい感触を感じて、そして振り返った瞬間に一気に透明なものに襲い掛かられて悲鳴を上げるヨウタ。

 背中だけでなく前の方にもぞもぞとその透明なゼリーのような柔らかい物体が、這っていく。

 しかも服が少しづつ溶かされて……肌が露になっていくのを見て、ヨウタは顔を青ざめさせながら、


「ちょ、これってスライム? ま、待ってよ、これは女の子に起るイベントじゃ……誰得……やぁああ、吸い付かないでぇええ」


 服が溶かされて露になった肌をスライムは這いながら、その場所を吸い上げる。

 まるでその場所その場所、敏感な肌の部分に唇を押しあてられているようだった。

 何となく以前、耳に明にキスをされた時のことが思い出される。


 あの時は冗談だといっていたけれど、そう思うとこの吸い付いているのも妙に意識してしまうというか、


「やぁあ……あぁあ、めぇえ」


 今まで感じた事のない感覚に、ヨウタは体を震わせる。

 しかも今まで出した事のないような甘い声が零れて、嫌々と頬を染めて必死になってそのスライムをヨウタは体から引き剥がそうとするが……くすぐったさもあってか抵抗すらできなくなる。


 女の子でもないのに、そんなところが感じるなんて……妙な属性つけやがってとゲームの作製陣を恨みながら、ヨウタは涙を零しながら必死に抵抗をしようとするも、その度に肌を吸われて感じさせられて抵抗できない。

 なんだかこうやって肌をはわれるとそれだけで力が抜けてしまう。


「やらぁあ……誰かたすけてぇ、ぁああ……たすけてよぅう」


 そう涙声で、喘ぎながらヨウタは呟くと、そこで、何か薬のようなものがスライムにかけられた。

 紫色の毒々しい液体だったことは確かだ。

 だがそれはこのスライムには効果てきめんであったらしい。


 びぎゃあああ、と悲鳴が聞こえて、スライムが金色のお金の表示に変わる。

 どうやら先ほどの薬でそのスライムは倒されたらしい。

 しかもヨウタの分の所持金も少し上がっている。


 助けられても僕の所持金は上がるようだ。

 でも、あのままだと捕まったままあの感覚を散々味合わされることになりそうだったので、助かった、誰だろう? お礼を言わなくちゃとヨウタが思った。

 だがそこで、


「ヨウタ?」


 何故かゲームの世界で突然ヨウタは名前を呼ばれて見上げると、そこには見知った人影が。

 ヨウタが結局誘う事も出来ず、ここしばらく会う事もなかった人物。

 呆然としながらヨウタは彼の名前を呼ぶ。


「……アキラ?」


 そう、ヨウタはそこに現れた幼馴染の名前を呼んだのだった。







 真田明さなだあきらは、陽太の幼馴染である。

 爽やかなイケメンで、人当たりもよく男女共に好まれる人物だった。

 そんな彼とは同い年で家が隣同士、しかも幼馴染という事もあり昔から、ヨウタとは友達だった。


 だがそのイケメンで好感度の高い明に、陽太は劣等感を抱き続け、そして何故か陽太にだけ時々意地悪な明であったためか、ここ最近は陽太が明から逃げ回っていたのである。

 この前の件もあって、今合うのは気まずく感じてしまうとヨウタは思った。


 しかも誘い損ねていたので、ここにいるとは思わなかったのである。

 それが今、まさかこんな所で会おうとは。

 そこで明……アキラがヨウタの方を呆れたように見て、


「所でヨウタは何でここにいるんだ?」

「いや、属性が決まったらここに飛ばされて……」

「そうか。確か初めはバラバラにいろいろな場所にランダムで飛ばされるとか……でもパーティを組んでいたらまとめて飛ばされるんだったか。とはいえ……でもヨウタは丸腰に見えるな。それでも一人で飛ばされても平気な職業なのか? 何の職業なんだ?」


 ここで、“村人B”+“魔性”なんて言ったらどうなるんだろう……。

 そこでヨウタは今までの幼馴染としての記憶をフル稼働させて、アキラが何を言い出すのかをすぐさまシュミレートした。

 複数パターンで行動を分析した結果、絶対に馬鹿にされる、とヨウタは思ったので、


「ア、アキラこそ何の属性なんだ。見た分、剣士みたいだけれど……」

「ああ、勇者と魔法使いだ」

「は?」


 そこで変なことを聞いた気がした。

 勇者って職業なのだろうかと思うが、村人Bやら魔性やらがある時点で不思議でも何でもないのかもしれないとヨウタは気づく。

 するとアキラが、


「だからレア属性の勇者と、あと魔法が使える魔法使い」

「……魔法剣士?」

「いや、あれだと剣術も魔法のレベルもそこまで上がらないから、どちらも極める事が出来るという意味で、俺の場合は最強だな」


 とりあえずアキラは最強であるらしい。

 このゲームの世界でもだ。

 そのヨウタとのあまりの待遇の違いにヨウタは、


「ずるい! イケメンな上に強いなんて! 僕なんて村人Bなのに!」

「へー、ヨウタは村人Bなのかー」


 つい悔しさのあまり自分の属性の片方を話してしまったヨウタは、しまったと思う。

 そしてこのアキラの優越感に満ちた表情が、ヨウタには悔しい。

 いつだって得意げにヨウタにばかり、アキラは自分の実力を自慢するのだ。


 昔は羨ましい気持ちもあったけれど、アキラはすごいな~と言ってヨウタも頑張っていたが、成長するにつれてその差の開きを感じてあまり言わなくなってしまった気がするとヨウタは思う。

 でも時々すごいねというとアキラは他の人たちに言われるよりも嬉しそうだった気がした。と、そこで、


「アキラー、その子誰?」

「カオル、ああ、これが以前話した……幼馴染のヨウタだ」


 今、アキラの言葉で幼馴染という言葉に行く前に沈黙があった気がする。

 ここしばらく疎遠になっているから、幼馴染と言いたくなかったのだろうか?

 そう考えるとヨウタはなぜか胸を締め付けられるようなものを感じる。


 そこでアキラと一緒にいるもい一人の人物が楽しそうに笑い、


「なるほどー、“幼馴染”のねー。よろしく、僕はカオルだよ」

「あ、よろしくおねがいします」

「可愛いなー。こういう子、好きなんだよねー」


 と、身長差があるために頭を撫ぜられたヨウタは、その美人な感じの男性であるカオルにムカっとした。

 可愛いといわれると子供のようだといわれえいる気がしたのだ。

 よく年齢よりも幼く見られがちだったのでヨウタは、


「僕だって男だし、アキラと同い年なんだ!」

「うん知っているよー。とはいえ、これくらい良いじゃん、さっき助けてあげたんだし。あのスライムに襲われていたから撃退してあげたでしょう?」

「え? そういえば液体みたいのがかかって、スライムが倒されたような……」

「僕は魔法薬使い+僧侶だからね。治癒から毒殺までお任せを」


 にこっと説明するカオルだが、男なのに綺麗だったのでヨウタは一瞬見惚れてしまう。

 男に見ほれることはないくらいの美人だったので、陽太は仕方がないと自分の事を心の中で言い訳した。

 そこでアキラが不機嫌そうに、


「ヨウタ、何でれでれしているんだ」

「し、してないよ、男相手に、そんなわけないじゃん」

「ふーん、それでヨウタのもう一つの属性は何だ?」


 アキラが、ヨウタが一番聞かれたくない質問を問いかけてくる。

 そのもう一つは魔性属性という、エロい属性であるらしい。

 そんなものを他の人に話していいものだろうかとヨウタは考えた。


 だから素直にそれを答えるのもはばかられて嘘をつくことに決めた、ヨウタは、


「……“村人B”だった」

「二つとも同じなのか? レアな“村人B”」

「珍しいの? “村人B”って」

「“村人B”もレアではあるが、ゲームは遊ぶためのものだから戦えないと困るだろう。普通はもう片方にありがちな魔法使いや弓使いといった戦えるような属性が来るはずだ、そっちの方が出る確率が多いし……随分と運が良いな」


 にやにやとアキラが面白がるように笑う。

 確かに珍しいものを引き当てたのは事実だが、それが珍しいからと言って好ましいものであるとは限らない。

 むしろもっと普通のものが良かったとヨウタは思う。


 そもそもランダムで決まってしまっただけで僕だって好きでなったわけじゃないと思いながら、ヨウタは心の中で涙を流していると、


「でも“村人B”なら俺達と一緒に来るか? ヨウタ」

「え?」


 そうアキラに誘われてヨウタは考える。

 今のままだと、そもそも町に着く前に先ほどのスライムのような生き物に襲われて如何こうされるかもしれない。

 少なくともアキラ達は強そうだし、最悪幼馴染で顔見知りなので“魔性”属性だとばれても何とかなるだろう。

 まさかこんな変な属性になるとは思わなかったが、知り合いであるならこのアキラがどんな人物か知っている……最近意地悪だったし、ああいった事はあったけれど幼馴染なのでアキラの性格をよくヨウタは知っているので、最善であるかもしれないと判断する。


「じゃあ、お願いする……」

「よし、レアアイテムを手に入れたぞ!」

「は?」

「だって、“村人B”は動くアイテムみたいなものだろう? しかも、保管できる量には換算しなくていい分、お得だし」


 アイテム扱いされたヨウタは、好きでそうなったんじゃないとか、心配してくれたわけじゃないのかという気持ちがない混ぜになり、肩を怒った様に震わせながら、何か言い返そうと思って、


「この……お前みたいな一見善良そうなやつが、きっとゲームの黒幕なんだ!」

「良い歳して、ヨウタは可愛いなー」

「頭を撫ぜるな! ぎゃー、何処触って……」

「ヨウタの肩のあたりが出ていたから。こうやって触ると一応は感覚があるんだな。よくできたゲームだが……ちょっと触っただけでその悲鳴。色気も何もないな……」

「仕方がないだろう! 男なんだもん! それに敵に襲われたんだから……というか服寄こせ! こんな格好のままでいるのは嫌だ」

「……ああ、ほら」


 そう言って投げて光の球を寄こしたアキラ。

 どうやらこの中に吹くといった装備が入って他の人に渡されるらしい。

 そして、それはヨウタに触れると一瞬にしてヨウタは着せられた。

 

 瞬時に着替えられるあたりはゲームらしいといえそうだけれど……その服は、フリルが幾層にもわたって重ねられた、うすいピンク色のワンピースだった。

 非常に可愛らしいデザインのその服ではあったのだけれど、ヨウタはわなわなと怒りで体を震わせながら、


「どうして女物なんだ!」

「いや、かさばって邪魔だったから丁度全部売って来たばかりで、さっき経験値稼ぎで倒した魔物が持っていたアイテムがそれだったんだ。ちなみに男の魔物からだから安心して良いぞ」


 何を安心しろというのか分らないが、どうして男の魔物がこんな服を持っていたのかはおいておくとして、とりあえず町に行くまでの辛抱だとヨウタは諦める。

 アキラはヨウタがこの服でいるとどこか機嫌良さげで、ヨウタは悔しい思いをする。

 そんな二人を意味ありげにカオルが見ていたのだった。


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