表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

エリートハムスター観察日記 〜なに?レアが出ない?ならば討伐1000周!話はそれからだ!!〜

『でたー!!出たでたでた!!!!!!!!』


 クランチャットに絶叫が響き渡る。

 今のはエイジさんかな。


『え?出ちゃったの?』


『だれ?だれ?』


『うそ!今のエイジさんだろ、一生出ないと思ってたのに』


『すげー凄すぎる』


『詳細kwsk!』


 この時間にログインしていたクランメンバー達がざわめく。

 なんだか、微妙に酷いこと言ってる奴がいるが、取り敢えず。


『エイジさん、【神命の王笏(しんめいのおうしゃく)】取得おめでとうございます!!』


 お祝いのチャットを返すが……


『返事がないね』


『ただの屍のようだw』


『ガセ?』


『ありゃ、エイジさんログアウトしてんじゃん』


『取り敢えず今のクエスト終わったらクランハウス行ってみる』


『んじゃ、俺も。もう直ぐボス戦終わるから15分で行く』


『なら、手の空いた人から順次集合で』


『らじゃった!』


『おう、らじゃられた』




 おおよそ一時間後、新たにログインしてきたメンバーも合わせて10人ほどがクランハウスに集まる


「いやー、こんなに人数が集まるのは随分と久しぶりだねぇ」


「まあ、基本クエスト受ける時しか用事はないし、みんなソロだからすれ違う位だよね」


「僕、ヤトさんとヘテロさんに会うの半年振りくらいですよw」


「ずっとクランチャットで話してるのにな」


「アイテム掘るのは1人に限るし、気晴らし程度に会話できれば充分だ」


「まあ、居心地は良いですよね」


「それにしてもエイジさん帰って来ないねぇ」


「其れに関しては、多分アレだと思うんでもう少し待てば帰ってくると思うんですけどね」


「ああ、アレね。アレはね〜」


「僕まだ未経験なんですがヤッパリすごいんでしょうね」



 メンバー達がワイワイと話しをする中、今回の主役がようやく再ログインしてくる。


「エイジさんおかえりー」


「大丈夫だった?」


「心配かけて申し訳ない。やっぱり回避不可能ですわ、【体調異常強制ログアウト】!」


 やっぱりアレか、話に聞いてたVRゲームでの安全対策に使われる強制ログアウト。

 エイジさんはこれによってなかなか再ログイン出来なかったようだ


「で、血圧と心拍数、どっちが引っ掛かったの?」



「いやー、恥ずかしながら両方で、ドロップ確認した途端、かぁーっと顔が熱くなったと思ったら胸がバックんバックんしだしまして、何とかクランチャットをしたところで強制ログアウト、興奮し過ぎて体調がログイン可能ラインまで落ち着くのに一時間かかってしまいました」


「と、言うことは?」


「はい、【神命の王笏】Getしました!」


「「「「うおおぉぉ!!!」」」」


「やっぱすげー!!」


「エイジさんかっこいい!抱いて!!」


「殺してでも奪いとる」


「少しで良いから触らせてぇ!!」


 一気に湧き上がるメンバー一同


「ああ、待て待て、落ち着け。 結果報告が先だ。 エイジさんお願いします」


「んっん!では、神話級武器【神命の王笏】発掘報告をば。周回数3265、所要時間3970h(時間)、突っ込んだリアルマネーは400k(千円)、主な副産物は、伝説級36個、遺産級349個、足掛け2年8ヶ月でフィニッシュです! 副産物の細かな内訳や周回方法なんかは後日クランのHPに上げておきますね」


「りょうかーい」


「まさかソロで一周一時間半切ってたとは、やるねぇ」


「でも、夢の4000時間オーバー目前で終了とは、惜しい!」


「俺がこのゲーム始める前から掘ってたんですね……」


「400kはきつくない?」


「そこは禁煙したら逆に浮いたし」


 周回のために禁煙か。


「次は何を狙うんですか?」


「暫くは【神命の王笏】の慣らしを兼ねてぶらぶらと野良パーティーで遊んだ後、本命のアビスに突撃します!」


 まじか!パーティーどころかレイド推奨の最難関じゃないか。

 いくら廃人級のプレイヤースキルに最上位装備が加わったからってそんなことできるはずが。


「いやー、今回の【神命の王笏】で事実上の無限機関が完成しまして、物量とか全く怖く無くなっちゃったんですよね。 ボス戦があるから1日一周位しか出来ないとは思うんだけどドロップ率は高いし、のんびりやるよ」


 oh! 話のレベルが高すぎる、廃人舐めてたすんません。


「でだ、クラン内に新たに神級持ちが誕生した記念に、恒例の『祭り』を開催する。 日時は明後日、19:00開始で、場所は現在の攻略最前線ダルサンの荒野。 ルールはいつもの課金装備禁止以外は制限なし、むしろ自重しない方向で。 それと共有倉庫にエイジさんの放出品入れておくから見ておいて」


 ここでクランリーダーのヤマトさんからの宣言

 俺がクランに入って初めての「祭り」次はいつになるか分からない、ここは是非とも参加せねば!





「カサネくん何か良いものあった?」


「伝説級の常時回復アクセサリーが山ほど……」


「エイジさんぇ……」


「うは!これで月5kは課金が減らせる、ありがたやー」


 俺は、同じく後発組のヤトさんヒコさんと共に共有倉庫を漁る


「あと、目玉はこの【ゲヘナの業火】ですかね」


 これは杖系の伝説級武器の中でも上位と評価されている逸品だ


「ああ、エイジさんが使わなくなったメインを入れといてくれたのか」


「いえ、これサブ武器だったらしいですよ。 メインはサブに回してキープしてるそうです」


「【ゲヘナ】がサブ………………感覚が違い過ぎる」


 絶句するヒコさん。


 確かにこの【ゲヘナの業火】でもドロップすれば、分配で揉めて長年の固定パーティーが分裂位は普通にありえるレベルだ。


 だが、エイジさんとリーダーのヤマトさんの2人は別格、気にしてはいけない。

 それよりも、


「俺らは使えないからヤトさんもらっとけば?自堀で本命出たら戻せば良いんだし」


「い、いいのかな?」


「おう、行っとけ、行っとけ」


「あい!お借りします!」


 ヤトさん嬉しそうだ。おそらく周回効率も上がるだろうし頑張ってほしい。


「しっかし、こんなの見せられると、ここでやって行けるか不安になるよなぁ」


 ヒコさんが愚痴るがまあ、気持ちは分かる。


 このクラン内では様々なアイテムがデフレ状態。

 他では上位クランですら数人が所持しているかどうかといったアイテムが共有倉庫で大量にダブついている。


「でもカサネくんは良いよな、既に神話級所持者だし」


 え?俺?まあ、持ってはいるけど完全にビギナーズラックの類だったし、そのせいで人間関係崩壊、脅迫、付き纏い、嫌がらせのフルコースでしたが。


「ええっと、リアルラック全消費だったかな?っと」


「全消費かぁ。 結構大変だったとは聞いたけどそんなにひどかったの?」


「それはもう、ここのクランに拾われて無かったら引退待った無しでしたね」


「こえぇ、オレだったら人間不信になりそう」


 実際なりかけた。


 でも、たまたまリアルで同じ道場に通っていたクランリーダーのヤマトさんが此処に入れてくれたんだよね。


 このクラン【ネズミの穴】は元々、アイテムの発掘周回者が身を守る為の相互扶助の為のクランとして発足したと聞いた。


 世間からエリートハムスターとも言われる彼ら周回発掘者は、ソロプレイヤーが多い上にその性質上大量のレアアイテムを所蔵している。

 とても狙われやすいのだ。


 だから、徒党を組んでの自己防衛。

 実際にメンバーに手を出した大手クランと大戦争を起こしたこともあるらしい。


「【ネズミの穴】にいる限りそんな事にはならないと思うけどね」


 とりあえず、なんでもないことのように返しておく。

 ゲーム中は楽しくしなくちゃね。


「わたしとヒコさんはまず周回を成功させるとこからかな。捕らぬタヌキの何とやらってね」


「そりゃそうだ。そう言えはカサネくんは今何を掘ってるんだ?」


「実はまだ入団条件の『伝説級以上で全身自堀装備』達成してなくて。 後は頭だけなんですけどね」


 いや、面目ない。


「頭装備だと【帝王蟹】かな?」


「それ、それです。 あと200h以内で何とかしたいところです」


「流石は神話級所持者、周回効率良いね。 頑張って!」


「応援感謝!」










 さて、そろそろ「祭り」の開始予定時間だ。

 ヤマトさんが最後の確認を行なっていく。


「今回は面識のある攻略組には話を通してあるし、公式の掲示板にも通知を出してある。周りは殆どギャラリーだが、巻き込まれる奴は自己責任だから気にしなくて良い。 後、ヘテロさん」


「あいよ。生実況準備良しだ。ってか、実はもう始めてる。ミーティングの様子から見たいって要望があったんだよね」


 え?これ実況で流れてるの?テヘロさんが実況とか攻略動画のアップとかやってるのは知ってたけど今日やってるとは。


「一応、『祭り』は祝いとクラン戦力の示威行為を兼ねている。 快適な周回ライフの為にも協力を頼む。 因みに、今回のカメラは主役のエイジさんを中心に動くから、目立ちたい奴はその周りで頑張れ」


 お、俺は端っこで良いかな。


「あと、神話級所持者は強制でカメラ周辺で宜しく!」


 はい……




 今回の参加者総勢16名はカメラマンのテヘロさんを除き横一列でボスを目指して突き進む。


 その後ろに数百人のギャラリーを引き連れて。


 外部からの協力者がギャラリーの管理をしてくれているそうだが、

「カメラマンより前に出ないでくださーい」

「そこの人、見物中はヘイト装備は外しておいてー」


 なかなか大変そうだ。



 本来このゲームでは他のRPGと同じくパーティー内での役割分担が重要になるのだが、俺達【ネズミの穴】では役割分担はしない。

 全員がソロプレイヤーなので自分で何でもこなすのが当たり前になっているからだ。


 進み始めていくらもしないうちに中央部がモンスターと接敵する。


 一番槍は今日の主役のエイジさん。


 振り下ろされた【神命の王笏】から開幕の狼煙が上がる。


 カッ!


 眩しい光と共に近ずいていた三匹のモンスターが粒子になって消える。


 へっ?


 後ろのギャラリーからもどよめきが聞こえてくる。


 ちょっと飛ばしすぎじゃあないですかね。

 MPゲージガリガリ削れてますよ?

 これってボスまでに息切れしちゃわない?


 周囲の心配を他所に迫るモンスター達を次々と葬りながら突き進むエイジさん。

 が、突然立ち止まる。

 はい、MP切れましたね、突出していた分あっという間に囲まれて……

 えっ、すごい勢いで殴られてるのにHP減ってない! しかも代わりにMPが回復して行く。

 これが神話級アイテムの力、ぶっ壊れ過ぎでしょう。


 この間ほんの1分、MP全快したエイジさんは再び高威力魔法を撒き散らす。

 もうこの人一人で良いんじゃないかな……




 結局、ボスにたどり着くまでの一時間弱、俺たちはかすり傷一つ負うことすらなかった。

 正確には、殆どの敵はエイジさんに瞬殺され、少数の撃ち漏らしも他の神話級所持者により打ち倒されたのだ。


 俺も二匹だけ倒させてもらいました。

 完全にお情けで周してもらった感じです。

 永久機関とやらは完璧に作動しているようですね。


 後で聞いた話だとヘテロさんの実況ではあまりの無双振りに大反響だったとか。




 そして現れるレイドドボス。

 現在、最前線で戦う攻略組をことごとく返り討ちにして来たレイドボス。

 過去最強、本当に倒せるのか?などと言われているレイドボスは……


 無敵盾兼、高威力固定砲台と化したエイジさんと出し惜しみなしの16人のエリートハムスターの火力ゴリ押しの前に全く良いところのないまま敢え無く沈む。


 呆然とするギャラリーたち。

 それもそうだろう、こんなの見たって何の参考にもならない。


 一つあるだけで戦況を大きく変えると言われる神話級アイテム複数によるゴリ押しなどマネのしようがないからだ。


「いやぁ、4000h粘った甲斐があったねぇ。自己顕示欲が満たされるこの快感!たまらない!!」


 エイジさんはご満悦のご様子。

 やはり神話級を取るべくして取った人の余裕か、俺の時は不幸しかなかったのに。


 そしてギャラリーの皆さんへ一言


「今回の【神命の王笏】無限回復装備のレシピは公式掲示板に公開しておきますから、自由に模倣、改変しちゃってくださいね〜」


 …………



「「「「出来るかぁ!!!」」」」



 ギャラリーの皆さんのツッコミが見事にハモった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ