放送室のゆうこさん
夏休みが近づいてきたある日、お姉ちゃんが
「今さ、香奈が通ってる学校の怖い話、教えてあげようか?」
と言った。
最近、子供の減少とかで、この町の小学校と中学校がどっちも近くの学校と一緒になって大きめの学校になる。
中学校は新しい校舎が出来たんだけど、小学校はまだ建て直し中。
建て直しの間、私たち小学生が引っ越した先が、お姉ちゃんの菜奈が1年生の時に通っていた旧中学校。
中学校2年のお姉ちゃんは新しい中学校が出来るまで、この校舎に通っていたんだ。
「引っ越しと一緒にオバケも持ってっちゃたんじゃないの?」
歩き回る人体模型に、しゃべるベートーベンとか・・・新しい中学校へ備品は全部引っ越していった。
初めて引っ越し先の学校を見た時、もぬけのからっていう言葉を知ったくらい。
小学校になった中学校に今ある机とかは、前の小学校から持ってきたものだし
「放送室は引っ越してないじゃない」
元中学校の放送室。
放送室の機械は取り外して持っていけなかったみたいで、そのまま残っていた。
前の小学校にはなかったんだけど、今の校舎に引っ越してから、別の学校で放送部だった新任の先生が
「せっかくだから、お昼の放送をしましょうよ」
と言い出して、最近お昼に簡単なお知らせと音楽が流れるようになった。
「放送室、使ってるよ」
「へえ、そうなの。結構いい機材が揃ってるらしいよ。ちょっと古いけど」
お姉ちゃんが言った。
「放送室のゆうこさん、って聞いたことない?」
「聞いたことあるわけないよ。中学校の時の話しでしょ!」
まあねとちょっと意味ありげな顔でこっちを見た。
「昔ね、放送部にゆうこさんって女の子がいたの。」
怖い話ってどうして気になるんだろう。怖いのに!
「ゆうこさんはすごく声もよくって、放送も評判がよかったの」
「そして、ゆうこさんには好きな人がいたのよね。その人も放送部の人で、音楽の趣味も合って、
ある日、その好きな人からゆうこさんはレコードを借りて、放送室でカセットテープに録音しようとした」
「レコードって何?テープ?」
「レコードはお父さんがたくさん持ってるあの黒くて丸いヤツ。カセットは~うーんと、あったでしょ、アニメのビデオテープ。あれの音だけはいるヤツ」
なるほど、お父さんの部屋の『私たちが触ってはいけない棚』にあるヤツね。
昔2人でフリスビーにしようとして、むっちゃくちゃ怒られたっけ。
「ビデオテープ?お姉ちゃん見たことあるの?」
「放送部の友達がいるからね・・・って話が途中でしょ、黙ってて!」
私はブーたれて黙った。
なんだかよく分かんないなあ。
「まあ、つまりCDとかをスマホに入れるのと同じような感じよ」
うううーん、なるほど?
「いい、とにかくね、ゆうこさんはレコードを借りたんだけど、うっかりそれを割ってしまった」
「好きな人から借りた物を壊してしまって、ゆうこさんは絶望してテープを首に巻いて自殺してしまいました」
「えーっ。テープってそんな丈夫なのー?」
「セロテープじゃないわよ!」
お姉ちゃんは改めるようにコホン、と咳を一つしてグッと顔を近づけて言った。
「カセットテープって伸びるんだけど、切れにくいんだよ。テープは身体の重さで伸びて細くなって、首にどんどん食い込んで・・・」
「発見された時、ゆうこさんの首は千切れて転がり、レコードプレイヤーの上で血まみれでクルクル回っていたんだって・・・」
ここで私はまた疑問が浮かんだ。
「なんで回るの?」
お姉ちゃんはとうとう怒って
「自分で見てくればいいでしょ!放送室にはその時のまま、同じものがあるんだからー!」
「っていう話でさ」
私は仲がいいよし美とケイタの前で、昨日お姉ちゃんから聞いた怖い話を一通り話した。
と言っても、私の合いの手は飛ばしたんだけど、やっぱり2人から同じところで突っ込みが入った。
しょうがないよね、昔のことだもん。
「じゃ、行ってみようぜ!そのクルクル回るヤツ見にさあ」
「いいね。私も興味ある!」
「じゃ、行ってみよう」
ケイタもよし美もノリがいい。
仲良くやれてるのも、こうやって気が合うからだし。
放課後、3人で放送室に行くことにした。
ゆうこさんがいるかは分からないけど、放送当番の回ってこない私たちは放送室をこっそり覗いてみたかった。
放課後といってもまだ明るい3時。
それでも、生徒がどんどん帰って行った校舎は物寂しい。
先生がまだたくさん残っている職員室は1階で、放送室は音楽室とか理科室とか、特別教室しかない3階。
あんまり人も来ない。
「人がいないとちょっと迫力あるよなあ、中学校の教室って」
ケイタが階段を一つ飛びに上がり、ハアフウ息を切らせながら言った。
中学校の校舎は小学校と違って、間延びした感じだ。縦に。
校舎全体も少し膨らんだように大きめで、玄関も広くて、教室の入り口も天井も高めで、階段も幅が高めで、私たちには全部ちょっとずつ大きかった。
そこに小学校から持ち込んだ備品を置くと、なんだかチグハクで奇妙な感じがする。
それと・・・
すぐ先に迫った夏休みが終わると、私たちはとうとう新しい小学校へ移ることになる。
この旧中学校に来て、1年少しだけどあっという間だった。
新学校には合併先の小学校の子も来るし、生徒数が増えるからクラス替えもあるんじゃないかっていう噂もあった。
特別教室をもの珍しそうにキョロキョロ落ち着かないケイタと、中を覗き込んで人がいないのを確かめているよし美。
もしかしたら、この2人と離れてしまうのかもっていう寂しい気持ちと、生徒に置いてかれたこの旧中学校校舎が同じような気がしてしまう。
そして、このままこの校舎は夏休み中に解体されてしまうのだ。
放送室を見つけた私たちは、その戸に手をかけた。
「いっせーのでね」
鍵のかかかってない扉は、重かったが開いた。
防音がしっかりしてるってお姉ちゃんが言ってたから、そのせいで扉が厚いのかも。
「うーん何もないなあ」
「いや、あるでしょ。いっぱい機械が!」
軽い突っ込みでケイタを流して、3人であちこち探検した。
と言っても、そんなに広い場所ではないので、周りのスイッチやマイクや何やらゴチャゴチャした機械を見るくらい。
「あ、これだ」
お父さんの部屋で見た機械。フリスビー・・・じゃないや、レコードを乗せる黒い丸いヤツ。
「あ、発見」
ふ~んと言いながらケイタがその表面を撫でると、クルリとそれが回った。
「これかー!」
3人で同時に声を上げた。
ひとしきり笑い合って、私はふと、お姉ちゃんの怖い話に続きがあったのを思い出した。
「そういえば、ゆうこさんが死んでからこの放送室に4:27にリクエスト曲を持ってくるとね、次の放送日にかけてもらえるんだって」
「えーいい人じゃん。ゆうこさん」
よし美が笑い過ぎて、目に滲んだ涙を拭きながら言った。
「でもね、他の人にはちゃんと音楽が聞こえるんだけど、リクエストした人にだけは悲鳴が聞こえて、それを聞いた人は死んじゃうんだって」
なんだか分からない不安を感じて二人を見ると、二人も同じ気持ちだったみたいだ。
「帰ろうか・・・」
「おう・・・」
「そうだね・・・」
放送室の戸をしっかりと閉めて、少し幅の高い階段を下りていく。
下の教室の空いた窓から、校庭で遊んでいる他の子たちの声が聞こえる。
「リクエストかあ・・・」
「して、みる?」
よし美が私の顔を覗き込んで言った。
「したい?」
私が聞いた。
よし美は少し腕を組んで考えていたけど、
「中学校の怪談を試すのって、なんかちょっとかっこいいかなっていうか」
あーなんか分かる気持ち。
「自慢できるかもだしな!」
それだよね~お姉ちゃんにゆうこさんにリクエストしてやったわ、って言ったらちょっといい気持ちじゃない?
小学生の私たちが中学生の怪談に挑むなんて、ちょっと・・・ちょっと・・・大人っぽいていうか?
「じゃあさ、私がリクエストのCD用意するよ」
よし美がノリよく言った。
「ゆうこさん、CDかけられるのかなあ?」
ケイタが笑いながら言った。
「じゃあ、明日の放課後また!」
「よし、また明日!」
教室からカバンを手にすると、明日の冒険にワクワク期待しながらみんなで帰った。
どうなるかも知らないで。
次の日、私たちは授業も上の空でそわそわしていた。
よし美はお兄さんに焼いてもらったCDを持ってきた。
これならゆうこさんが割っても大丈夫だからね、なんて。
ケイタは放送室の怪談のことを男子に話したりしなかった。そんなことしたら、私たちの邪魔するかもしれないからだ。
終わったら、みんなに話して英雄になるのだ、と。
もうすぐこの校舎は壊されてしまう。
その前に怪談に挑む私たちはなんてかっこいいんだろう、なんて浮かれていた。
そして、放課後。
4時には一斉下校の放送がかかる。
4:27ということは、その後に行くことになる。
特別教室のひとつに隠れて、放送を終えた先生を見送ることにした。
ヒソヒソ話で時間が過ぎるのを待つ。
「大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。ちゃんとCDもあるし、時間は、ほら時計が見えるし」
「校門が閉まるのは4:00だけど、裏門は開けっ放しだから帰りは心配ないな」
「あ~もうすぐかあ」
カチコチ時計の音が大きく聞こえるようだ。
夏の4時はまだ明るくて、オバケなんて本当に出るのかと思えるくらいだった。
日が少し傾いてるくらいで、逆に斜めに入った日の光が特別室の教室中にあふれていた。
「時間だ」
私たちは廊下へそっと出た。
さっきまで眩しいくらい明るい特別室にいたせいか、廊下がやけに暗く見えた。
光を見つめすぎた時に出る、黒い影がチラチラする。
「放送室、電気ついてないね」
この放送室は、人が入って鍵をかけると入口に放送中の電気が点くようになっている。
「そりゃそうだろ。ゆうこさんはずっといるんだろ、ここに」
そうか、ゆうこさんはずっとここにいるのか・・・一人で・・・。
私はふいに物悲しく感じた。
ケイタが重い戸をゆっくりと叩いた。
「ほら、よし美。リクエスト」
あ、うん、とうなづくとよし美は
「すみません。リクエストの音楽を持ってきたんですけど」
と言った。
なんだか分からない緊張した無音の中に響く声だった。
返事はなかった。
なんだ・・・やっぱり、学校の怪談なんてお姉ちゃんの作り話しだったんだ。
その時、閉まった戸に少しだけ隙間が出来てそこから返事が聞こえた。
「あ・・・はい・・・練習中だか・・・ら、このまま・・・渡して・・・」
私からは戸の陰になっていて見えなかったけど、よし美が差し出したCDはスウッと放送室の隙間へ消えて行った。
戸はスッと音もなく閉まった。
「どうだった?」
ケイタは私の向こう側にいて、CDを持っていくところも見えなかったみたいだ。
「リクエスト、受け取ってもらえたよ。でも、放送部の人ぽい」
練習するなんて言い訳、ユーレーぽくない気がするし、声ははっきり聞こえた。
「え?そうなの?まだ残ってる人いるんだ」
ケイタはつまらなさそうに言った。
「さっき先生が出て行ったし、許可とったんじゃないかなあ」
「あ、なーる。じゃ、フツーにリクエスト明日聞けるな」
ケイタが笑いながら言った。
帰るべ帰るべーと言いながら先に階段を下りていく。
なんだかちょっと違和感を感じながらも、廊下にまで差し込み始めた夕日に目を細めてよし美の手を引いた。
「やるだけやったよねー。帰ろう、よし美」
特別室に忍び込んで隠れたり、裏門で帰ったり、それだけでもいつもと違う冒険だ。
私はお姉ちゃんに嘘つき!って、いばれるしね。
よし美は私の手を振り払うと、階段を駆け下りて行った。
ケイタは階段の途中で追い抜かされて、ぼんやりと見送った。
1階のゲタ箱の所でやっとよし美に追いついて声をかけた。
「よし美、いきなりどうしたの?裏門から帰るから、先生に見つからないようにしないと・・・」
「私・・・見たかも・・・」
青い顔をしてよし美が言った。
「えっ!?ゆうこさん、見えたのか!?」
ケイタが聞いた。
「見えないでしょ。あんな隙間しか開けてもらえなかったんだから・・・」
よし美も戸の正面に立っていて、私のすぐ横にいた。隙間を覗けるような位置にはいない。
「でも、見た・・・」
「何を?」
私とケイタは顔を見合わせる。
「袖が・・・見えたの。紺のブレザー・・・」
私たちはお互いの格好を見た。
夏休みも近い夏真っ盛り、半そでとノースリーブ、短パンにスカート。
とても上着なんて着れる暑さじゃない。
「先生じゃないのか?」
ケイタが言った。でも、先生だってクーラーのきいてる職員室だって半袖シャツだ。
「お姉ちゃんの中学は紺の制服じゃないよ・・・?あっそうか・・・」
お姉ちゃんの中学は新校舎に移って制服が変わったんだった。前の制服って紺のブレザーだったかな?
よし美の顔色が悪くなっていくばかりなので、私たちは家までよし美を送っていくことにした。
よし美を家まで送っていった後、ケイタと二人になった。
「どう思う?」
「うーん、もし本当なら明日の放送を聞けば分かるんじゃないか?」
ケイタの言うことはもっともだ。
「でも、本当にゆうこさんだったら、よし美が・・・」
ケイタは私の肩をポンと叩いた。
「大丈夫だって!もしもの時は俺たちでよし美を守ってやろうぜ!」
「そうだね」
ゆうこさんになんか負けられない。
私たちは一緒に新しい学校に行くんだ。
それでも、落ち着かない一晩になった。
ゆうこさん?にリクエストをした次の日、青い顔をしながらもよし美は学校に来た。
「休んだらよかったのに・・・」
心配して言う私に、よし美は
「でも、家にいても怖くて・・・」
でもよし美の顔色はどんどん悪くなっていき、体調も悪くなっていって
(私たちは、これもゆうこさんのリクエストのせいかと心配だったけど)
保健室へ行った後、お母さんが迎えに来ることになって、家へ帰ることになった
それでも帰りたくないというよし美に、
「放送の悲鳴を聞いたら、ってお姉ちゃんは言っていたから、放送を聞かないと助かるかも」
「後は任せろ。リクエストは三人でしたんだからな!」
という、私とケイタの励ましで帰って行った。
その日の授業はすごく長く感じた。
ケイタも同じだったんだろう。休み時間のたび、私の机の所まで来て、イライラと床を蹴っていた。
授業なんて何も聞こえなかった。
ずっと、心の中でよし美を助けて、と神さまにお祈りしたり、
三人でやったことだから、死ぬを三等分して一人分を軽くしてくれないかな、とか
ゆうこさんに一生懸命お願いしたりした。
放送室に行きたかったけど、休み時間に特別教室の階へ行くのは目立つから行けなかった。
とうとう、昼休みが来た。
だけど
・・・放送はなかった。
そう、今日は火曜日。放送は月水金の週3日だったんだ。
今日は放送日じゃなかった。
「助かったのか、コレって?」
ケイタの疑問に私は答えられなかった。
それより明日、よし美にどう言おうかと、明日も休んだ方がいいと伝えた方がいいのかと悩んでいた。
「明日も休んだ方がいいかもなあ」
「でも、お母さんに説明しにくいよね・・・」
「風邪ひいたことにするとか、仮病でもいいだろ」
「そうだね。今夜、電話してみる」
ケイタと相談しながらの帰り、校舎をふと振り向くと、校舎がいつもよりずうっと大きく縦に伸びているような気がした。
夜、よし美に電話するとよし美のお母さんが出て、
「今日は疲れて、早く寝たのよ」
と言った。
私は無理して学校に来ないように言って下さい、と伝えるのが精いっぱいだった。
いつもより早く出て放送室の様子でも見ようかと思っていたのに、寝る前に悶々と悩んでいたせいで寝坊してしまった。
慌てて学校に着いたのはいつも通りの時間。
教室を見回すとケイタはいつもどおりまだ来ていなかった。
でも、よし美が来ている。
「よし美、来て大丈夫なの!?」
よし美は暗い感じは変わってないけど、顔色は思ったより良さそうだ。
「大丈夫」
と頷いた。
そうだ、言わないと。昨日は放送がなくて、今日が放送日だってこと。
「あ、あのねよし美・・・」
そこへケイタが大声でおはようを連呼しながら教室に入ってきた。
よし美を見つけると、ケイタは一瞬、不思議そうな顔をした後、私を見た。
私は昨日電話で伝えられなかったということを、首を振ることで合図した。ケイタは分かったみたいだった。
「よし美、ちょっとさ。話そうぜ」
ケイタがよし美を廊下へ連れて行こうと手を出すと、思いもかけず、よし美が私とケイタの手をしっかり掴んだ。
「うん、私も聞いてほしいことがあるの!」
廊下の一番奥。
旧中学校の校舎は廊下も長い。端っこのあたりはあんまり人も来ない。
三人でじっくり話すには一番だった。
「あ、あのね、よし美。放送なんだけど・・・」
言いにくそうに私が言い出した。ケイタが横で応援するように握り拳を作って見ている。
言い出した私の言葉を遮るように、よし美が勢い込んで言った。
「それよりね、二人に聞いてほしいことがあって」
よし美の勢いに、私とケイタはまた顔を見合わせた。
「う、うん・・・」
2人で一緒にうなずいた。
「私、昨日の夜、疲れて早めに寝たんだけど、夢を見たの」
「どんな?」
私の問いに、よし美はゆっくり話し出した。
「放送室に、ある女の子がいるの。その子は放送でみんなを楽しませるのが好きだったみたい」
「毎日毎日、放課後に女の子は放送する練習をしていたの」
「でね、ある日その子が放送をしていると、ある男のがリクエストをしに放送室にやって来たの」
男の子の持ってきたのは黒い丸い板みたいなもので、女の子は男のが持ってきた音楽が女の子のすごく好きな音楽だったから、
それを言うと、男の子ととても仲良く話せるようになって
ほとんど毎日放課後、音楽についてや放送のアドバイスをもらったり、いろいろ話した。
そんな時、時間はあっという間に過ぎていって、女の子は自分がその男のが好きなんだと気付いた。
いつもどおり、好きな音楽の話しをしていると、男の子が大切なレコードを貸してくれるという。
でも、女の子は自分がレコードを借りてしまったら、男の子がその音楽を聞けなくなってしまうと心配した。
それで女の子は、カセットテープにそれを録音することを思いついた。
ちょうど放送室なら、その設備は整っていたから。
1日だけ貸してもらえば済むこと。
そして、女の子は1日だけその男の子の大切なレコードを借りて、放送室でダビングをした。
次の日に帰すことになっていたので、女の子は男の子大切なレコードを放送室においていけなくて、持って帰ることにした。
その、帰り
女の子は事故にあって死んでしまう。
男の子から借りたレコードは、バラバラになってしまって・・・
「っていう夢なんだけど・・・もしかして、ゆうこさんなんじゃないかな」
「香奈ちゃんの話しとちょっと違うんだけど・・・」
よし美の話しが終わって、私とケイタは同時に叫んだ。
「うん、そうだよ!」
「きっとそれだ!」
「じゃ、呪いなんてなかったんだ・・・」
私は身体中の力が一気に抜けていった。
ケイタも同じだったみたいで、がっくりと廊下に座り込んでいた。
「やっぱりそうだったのかな。良かった、二人に話せて」
よし美の顔からは、すっかり暗い感じは消えていた。
「それなら、なんでゆうこさんはまだ放送室にいるんだろ?」
ケイタの言葉に三人で廊下の端で考え込んだ。
「思い残してることがあるのかな・・・」
「あ、そうだよ。よし美の夢、他に何かなかった?」
よし美は腕を組んで、ウーンとうなった。
「壊れたレコードとテープがね、すごく気になる」
「夢の最後の方って目が覚める前であんまり覚えてないんだけど、なんかこの二つが気になるんだよね・・・」
「それ、どこにあるのかな」
私が言うと、ケイタが答えた。
「捨てちゃったんじゃないのか。片方は壊れてたんだろ?テープだって、今は聞かないし」
「どうかな。あっでも、お姉ちゃんがテープを放送部の子に見せてもらったことがあるって言ってたよ」
「今でも使うのか、備品だからとりあえず持って行ったのか分かんないけど」
「テープはあるかもね」
私の意見に二人も賛成みたいだった。
三人で顔を突き合わせて話していると、教室の方から声がかかった。
「終業式、始まるよー体育館に移動だってさー」
「おう」
とケイタが返事した。
「じゃ、また後でな」
「そうだね、でも時間ないね」
今日が終業式。
そして、それはこの旧中学校の終業式でもある。
校舎は明日から取り壊し工事に入るのだ。
取り壊しって言っても、一日で全部いっぺんに壊されるわけではないので、
たぶんまだ、2~3日くらいの時間はあると思う。
「テープのこと、お姉ちゃんに放送部の人に聞いてもらおうかな」
「おう、頼む。香奈」
「レコードも備品と一緒に持っていってないかな?それも聞いてみてもらっていい?」
「分かった。今夜すぐ聞いてみるね!」
と言ってからふと思いついた。
「放送室も探してみた方がよくないかな?」
「それいいな。ちょうど工事始まって人もいなくなるし、校舎の工事は最後の方だろうからまだ入り込む時間はあるかもな」
「明日、行ってみたいな」
私の言葉にケイタがうなずいた。
「そうしよう。よし美は・・・どうする?」
よし美はにこっと笑って、
「私に夢をみせたのゆうこさんなら、私、なんかしてあげたい」
よし、と3人でうなずき合った。
小学校は今日は終業式だけ、たぶん中学校も同じはず、と思った私は、さよならもそこそこに家に走って帰った。
「ただいまーお姉ちゃんは?」
キッチンにいたお母さんが、家に飛び込んできた私を見て目を丸くしながら
「今日は部活をしてから帰ってくるわよ」
「早いの?」
終業式だけなら、部活も早く始まるだろうし終わりも早いんじゃないかと思った。
けど、返事は非情だった。
「いつもどおり、夕方になるみたいよ」
お母さんの返事を聞いて、私は慌ててよし美に電話をした。
「どうしよう?先に今から放送室に行ってみる?」
よし美は声を潜めて
「私はちょっと・・・ママが心配しちゃってて、今からだと家から出してもらえないかも」
「うん、分かった」
そして私はすぐケイタのうちへかけた。
ケイタは
「分かった。とりあえず学校に行ってみようぜ」
そして、途中で待ち合わせて私たち二人は学校へ向かった。
旧中学校、現・少しの間小学校だったそこは・・・
「チクショウ!入れねえ!」
ガッチリ門は閉じられ、門から植え込みの手前を学校の敷地全部を囲むように、プレートが張り巡らされている。
門にはヘルメットを被ったおじさんが頭を下げている看板が立ててあった。
「どうしよう・・・」
そして私たちはヘルメットのおじさんの看板横の工事期間、と書いてある文字に目を留めた。
「あと5日・・・」
思ったより工事は早く終わってしまいそうだ。
「どっか抜け穴とかないかなあ」
ケイタが門のあたりをうろうろとしていると、工事のおじさんが出てきた。
「こらこら、危ないから近づいちゃダメだよ」
私たちは天の助け!と思っておじさんにお願いしてみた。
「校舎に忘れ物してしまったんです!入れてもらえませんか?」
よくすぐそんな嘘つけるな、というケイタの視線が突き刺さったけど気にしない。
でも、おじさんは困ったように頭をかいて
「うう~ん。おじさんはね、工事の責任者だけど、生徒さんを勝手に入れることはできないんだよ」
「先生に聞いて、許可もらったら都合をつけられるけど、今はダメだなあ」
「そこを何とか!」
ケイタがすがり付いたけど、おじさんはダメとしか言ってくれなかった。
「先生に許可、もらってくるか」
「先生、どこだろ」
「新しい校舎の方かも」
言うなり私たちは一斉に走り出した。
新しい校舎はここから10分くらい離れている。
走って走って、着いた。校舎はまだところどころ工事中だけど、出来上がっているところもある。
新しい校舎の職員室はどこだろうと校庭を歩き回っていると声をかけられた。
元放送部、放送室に一番出入りしていたあの先生だった。
「先生、前の学校に忘れ物をしたんで取りに入りたいんだけど・・・」
「先生、放送室にレコードってありませんでしたか?」
同時に話し始めた私たちに、先生は目を白黒させた。
「まず、前の校舎に入るなら担任の先生の許可をもらってね」
「でも、建物内に入るとなると、明日中までだと思うけど、ちょっと先生が聞いてきてあげるわね」
「あと、レコードって、よく知ってるわね」
そんなのいいから早く教えて~と思いながら「あのっお父さんが持ってて」と答える。
あら、そうなの、とのんびり答えると
「放送室の備品は、中学校がお引越しの時に全部持って行ってしまったから何もなかったと思うけど・・・」
と考え込むようなそぶりを見せた。
「そうねえ・・・割れたレコードや壊れたテープなんかは、段ボール箱に入ったまま放送室の机の下にあった気がするわ」
「なかなか懐かしいレコードもあったわね。もったいないけど、割れていたからしょうがないわね」
それかもしれない!私たちは顔を見合してお互いの意思を確認した。
もう、放送室へ行くしかない!
「先生、許可もらえますか?」
ケイタが聞いた。
先生はうーん、と考えると
「たぶん、難しいと思うわ。一応、先生に訊いてみるけど、明日には工事が始まってしまうの」
そういうと、私たちにここで待ってるように言って新校舎へ入っていった。
「どうかな・・・」
「どうしよう・・・」
私たちは落ち着かず、うろうろ歩き周りながら返事を待った。
待っているうちに日は傾き、新校舎は夕方の赤い色に染まっていく。
「お待たせー」
先生がやっと出てきた。
ホッとして先生の答えを待つ。先生は周りを見回し
「もう暗くなるわね。二人とも気を付けて帰りなさい。忘れ物のこと、先生が探しておいてあげるから」
えっと驚いて二人で声を上げてしまった。
先生は私たちの反応を見て、遠慮してるかとおもったのか
「大丈夫よ。明日の早朝、全部の先生で校舎内の備品点検に入るの。その時に探しておいてあげるわ。忘れたものは何?」
「あの、私たちも一緒に入れませんか。自分で探したいんです、どうしても」
どうしても、のところにすごく力を込めて言った。
でも、
「ごめんなさいね。生徒はもう危ないから入れてはいけないってことになったみたいなの」
「工事が思ったより早く進められそうで」
そのことに驚いた私は思わず聞いてしまった。
「校舎、いつ壊されるんですか!?」
「そうね、3日後くらいかしら・・・」
3日間、日にちはない。
私たちは校舎へ入れない。
壊れたレコードが欲しいなんておかしな話もない。
それに、放送室のゆうこさんへ届けてあげるというのなら、放送室へ持っていくのが一番望んでることなんじゃないのかな。
放送でみんなを楽しませるのが大好きだった、ゆうこさん。
私たちにしてあげられることなんて、大したことないのに。
でも、結局何もしてあげられない。
ゆうこさんは、片っぽの壊れたレコードと一緒に壊されてしまうんだ。
「香奈」
名前を呼ばれてハッと顔を上げた。
ケイタはまだ諦めてない。そんな顔をしていた。
私たちはさよならを言って、新校舎を離れた。
「香奈はとにかくテープを探してもらってくれよ。俺、なんとか入れないかいろいろ探ってみるからさ」
うん、私はうなずいた。
どこまでやれるのか分からないけど、出来ることをやってあげたい。
一緒に、3人で一緒に何かを最後に、何かできたら・・・
ねえ、ゆうこさん。
一緒っていいよね。
時間が短くても。
もしかしたら、いつか、別れが来ても。
一緒にやれたことが、ずっと忘れられない思い出になって・・・
私は家に駆け込むように帰った。
キッチンのお母さんがまた驚いて目を丸くした。
「お姉ちゃんは?」
「それがねえ、すっかり忘れてたけど、お姉ちゃん今日は学校にお泊りなのよ。部活の合宿とかで」
ええええええっ!!聞いてないよ!
「寂しいけど、香奈ももう一人で寝られるわよね」
寝られるよ、っていうか、もうずっと一人で寝てるよ。
「あっ、そうだ。お姉ちゃん、明日には帰ってくる?」
うーんと、とお母さんは考え込んだ。
「1週間後には帰るって言ってたわよ」
それじゃ遅いんだってば!
「あと明々後日に一度帰るかもとか言ってたかな。なんでも通ってた中学校が解体されるのがその日で、同級生と見に行くんですって」
それだ!
「・・・お姉ちゃんの学校に電話したい」
お母さんがまた目を丸くして私を見た。
「香奈ったら、そんなに寂しいの・・・困ったわね。今日はお母さんと一緒に寝る?」
そーじゃなくて!
「用があるの。携帯ならいいよね。持って行ってる?」
「たぶん・・・」
お母さんからひったくるように携帯を受け取ると、お姉ちゃんの携帯へ電話をかける。
・・・呼び出し音が続く。
・・・なかなか出ない。
・・・留守録になった・・・!
もう1回かける。
・・・呼び出し音が続く。
・・・やっぱりなかなか出ない。
・・・あっ
『はい、何?お母さん?かけてこないでよ。友達に笑われちゃうでしょ』
「違うよ、私だよ」
『何?香奈?珍しいじゃない。私がいなくて寂しくなってかけてきたの?』
クスクスと電話の向こうで、お姉ちゃんの笑っている声が聞こえる。
「ちーがーうーよっ。ゆうこさんのこと!」
『はあ?何それ。ああ、学校の怪談?怖くなったの?』
「違うって!あのね、ゆうこさんの録音したテープ、新しい中学校へ持って行ってない?」
『うーん、話が見えないんだけど』
「話は見えたりするもんじゃないじゃん。もー余計なことばっか!」
「前の中学校から持って行った備品の中に、テープってある?その中にゆうこさんのテープがあるはずなのっ」
『知らないわよ。私放送部じゃないし』
「放送部の人に聞いてよ」
『そりゃ聞けないこともないけど、放送部も合宿だし・・・でも、なんであんたがそんなものを気にしてるのよ』
「それは・・・ゆうこさんが欲しがってるから・・・」
『あーリクエスト、しちゃったんだ。で、怖くなったんだ。でも、ゆうこさんて本当にいたか分かんないよ・・・』
「いたのっ本当にいたんだからっ」
「探してくれるの?探してくれないのっ?くれないなら、私が学校に探しに行く!」
『ちょ、止めてよホント。恥ずかしい』
『わーかった、わかった。明日聞いてあげる。今日はもう放送部とは会えないから、明日ね』
「じゃ、また明日電話するから」
『えーそれ止めてよ。見つかったら、電話するから。それでいいでしょ』
う、うーん。しょうがないかな。
「分かった・・・」
とりあえず、探してもらうだけ探してもらおう。
今はそれしかやれることがない。
眠ろうとしたけどなかなか眠れなくて一杯寝返りしてたら、いつのまにか寝てしまっていた。
夏休みの一日目。
本当ならうれしいはずなのに、ちっともうれしくないし落ち着かない。
よし美が家に来た。
テープをお姉ちゃんに探してもらっていると、私が電話したから。
よし美も落ち着かないみたい。
ケイタは朝早く電話があって、備品点検の先生と一緒に入り込もうとしたけど、先生に怒られたって。
俺はいざっていう時のために、校舎に入り込めるとこ探しておくって言ってたから、ずっと校舎に張り付いているみたい。
いつお姉ちゃんから電話が来てもいいように、お母さんの携帯を借りて、それを前に二人で向かい合って座っている。
お母さんは、黙りこくって携帯を挟んで座っている私たちを見て、何か変な宗教でも始めたのかと心配して、そっと隣の部屋から見ている。
「ずっと・・・」
よし美が声を出した。
「ん?」
「ずっとこうして待ってても、電話がかかってくるわけじゃないよね」
と笑った。
「確かにねー」
ウフフと笑う。
「よし美、夢でテープの場所とか、なんか他に特徴とかなかったかなあ?」
「そうだね・・・」
よし美が考えるように首を傾げた時、電話が鳴った。
私は慌てて電話をとる。
「お姉ちゃん?」
『そだけど、違ったらどうするのよ』
「遅いよ!」
『部活もあるんだよ。教えてあげないからね、テープのこと!』
「うわ、ごめんなさい。で?」
『で?ってねえ。テープは見つかったわよ。段ボールひと箱、いっぱい』
『どうするの?全部持ってけないわよ。名前でも書いてあるの?なんか備品整理ついでに探してくれるっていうからさあ』
ったく人のいい・・・ブツブツという声が聞こえた。
「名前・・・書いてない?ゆうこ、とか・・・」
『人の名前が書いてあるようなのは、なかったみたいよ』
『むしろ、何も書いてないテープが多いみたいで、一応一つ一つ聞いて廃棄と保存を分けていくことはするみたいだけど、それじゃ今すぐってわけにはいかないし』
『そのうちで良ければ見つかるかもって』
それじゃ遅いよ。遅いんだよ。放送室がなくなっちゃう。ゆうこさんがいなくなっちゃう。
「ねえ・・・ピンクのテープってないかって聞いてもらえないかな」
「ピンクのテープない?」
はあっ?と言うお姉ちゃんの声が聞こえた。
『テープってほとんど黒なんだよ。まれに白いのもあるけど・・・ピンクなんて』
「いーからっ聞いてみてよっ」
『分かったわよ。私、これから部活始まるし、また夜かけるからその時にね』
「えっそれじゃ遅いっ困るっ・・・え?えええ?」
ハアと私は溜息を吐いて電話を膝に置く。
「切れてる・・・」
「お姉さんの都合もあるもんね」
よし美が理解あるように言った。
よし美にはお兄ちゃんがいるけど、私にはお姉ちゃん。お互いでお互いの兄弟を羨ましがってる。
よし美の中では、うちのお姉ちゃんは優しい素敵なお姉ちゃんらしい。
「でも、ピンクっていきなりなんで?」
「夢の最後の方、壊れたレコードと一緒のテープが、うっすらと覚えてるだけなんだけど、ピンクぽかった気がするから・・・」
「ふーん。それで見つかったらいいよね」
「そうだよね」
夕方にはよし美は帰って行った。
それより前、3時頃、ケイタが泥だらけの姿で家まで来て
「抜け道ちょっと見つかんなかった」
私は冷蔵庫から持ってきたジュースを渡した。サンキュと言ってその場ですぐ飲んでしまう。
空の缶を受け取りながら、私も無理なんだと諦めを感じ始めていた。
テープを見つけられたとして、ゆうこさんのところまで持って行く方法がない。
「明日は工事の人の出入り見ててさ、どっかで入り込めないか考えてみる」
じゃあな、と言ってケイタは帰って行った。ケイタはまだ諦めてないのかな。それを確かめるのも怖かった。
テープ、見つかったかな・・・
夜、携帯を睨みつけたまま夕御飯をすませた私に、そろそろお風呂に入りなさいとお母さんが声をかけてきた時、携帯が鳴った。
「もしもしっ」
『うるさいなあ。もう少し静かに話してよ』
「テープ、見つかった?」
『ピンクなんてなんで知ってたの?香奈』
「あったの!?」
『あったって。それも黒いテープの中、1本だけ。特にいるものじゃないと思うから、あげるってさ』
「じゃすぐ、持って帰ってきて!」
『無理だって、合宿まだあるんだから。明後日、もしかしたら帰るかもしれないから。その時でいいでしょ』
「もしかしたらじゃダメなの」
はっと私は気付いた。
出来るのかな。
ギリギリで。
分かんない。
でも、もう少し・・・
「お姉ちゃん、明後日、前の中学校の解体工事、見に行くんだよね」
『あーうん。行くけど、家に寄るかは分かんないよ』
「そこまでなら持ってこれる?」
『うーんと、いいよ。持って行ってあげようじゃない』
恩を売るつもりだな、と思ったけど今はとりあえず買っておこう。
「じゃ、その時に!」
ケイタとよし美に電話した。
決行は明後日。
それまでに私たちは放送室までたどり着かないといけない。
前日、3人で学校の周りをうろついた。
抜け道は見つからず、高い工事用の外壁の向こうで建物が崩れる音が響いている。
体育館はもう見えない。
今日中に別棟の建物が壊され、明後日、本校舎が壊される。
3人とも不安だった。
本当に出来るか、ということと、できなかったらどうなるのか、っていうことと
夏休みが終わり、新しい学校への不安と。
全部が入り混じって、ただ急く気持ちだけが私たちをそこに立たせていた。
お姉ちゃんは、朝早いうちから出ることになったらしい。
こっちには好都合だった。
少しでも早くテープを手に入れて、なんとか校舎に入り込まないと。
途中、3人で待ち合わせて旧中学校、少しの間だけ私たちの小学校の校舎だったそこへ向かう。
着いてみてびっくりした。思ったより人がいた。
お姉ちゃんたちが見に来るくらいだから、他にも同じ学校の人が来るかな?くらいだったのに、
昔、卒業した人なんかも来ているみたいだった。
「みんな、懐かしいんだねえ」
周りの人の多さに圧倒されていた私たちに、そう言いながらお姉ちゃんが来た。
「はいよ、テープ」
よし美は力強くうなずいた。夢の中のテープと同じだ。
そして絶望的な高さの工事用の壁を見上げる。これを越えるのは無理だ。
「で、あんたたちも見てくの?旧校舎」
?と3人で顔を見合わせた。
「聞いてないの?今日の工事が始まる前の朝早いうちに来たら、校舎を最後に見れるって話を聞いて私たちきてるんだけど」
向こうから手を振りながらお姉ちゃんの同級生が近づいてきた。
「じゃ、私は友達と一緒に見てくるから、あんたたちはあんたたちで見てらっしゃい」
壁がゆっくりと内側へ開いた。
それにつられるように集まった人たちが中へ入っていく。
私たちは、お互いうなずき合うと周りに交じって入って行った。
思ったより集まっていた人たちが、私たちにといって隠れるいい壁になった。
子供の私たちがいるのも気にしないし、みんな自分たちの思い出話で盛り上がっていた。
校舎の入口は特に打ちつけもしていなかったから、すんなり入れた。
中まで入ってくる人はいなかったけど、昇降口で自分の下駄箱を探している人たちに紛れれば簡単だった。
3階まで一気に駆け上がる。
「時間ってどのくらいだろ」
ケイタが言った。
駆け上がる途中、踊り場から見える窓から工事の人たちが見えた。
「あんまり長くないかも・・・」
私が答えた。
少し幅の高い階段が息を切らせる。
でも、いつもよりあまり苦しくない。気のせいかもしれないけど。
放送室の前に3人で立った。
そっと開けると、黴臭い放送室の机の下を探る。
先生の言ってた箱があった。
「割れたレコード、いっぱいあるね」
よし美がそのうちの1枚を手に取った。
「これ、だと思う」
そして割れた残りの探し出して、放送の機械の上に割れたレコードとピンクのカセットテープを置いた。
「これでいいのかな?」
「そうだな・・・」
遠くで「閉めますので出て下さいー」という声が聞こえた。
「行かなくちゃ・・・」
「じゃ、行こう!」
3人で駆け出した。
窓から見下ろすと、どんどん人が出て行くのが見えた。
早く早くと気持ちは急ぐけど、なかなか足が進まない。
大きな音がして、門が閉まりかけているのが見えた。
工事が始まっっちゃう!
慌てて昇降口から走り出た時、まだ門はギリギリ締まっていなかった。
工事の人たちが驚いて、もう一度門を開いた。
滑り出すように門から抜けた。
安どのため息と共に、ゼエハア息を吐く。
その時、カランと乾いた音が響いた。
よし美の足元に、リクエストで渡したCDが落ちている。
よし美はそれをそっと拾い上げた。
「これが門に挟まって、止まってたのかな・・・?」
「止めてくれてたってこと?」
「そんなことあるのか・・?」
さあ?
でも、もしかしたらゆうこさんが喜んでくれたのかもしれない。
しばらくして、壁の向こうで校舎が崩れる音が大きく響いた。
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はじめまして。
読了ありがとうございます。
読んで気づかれた通り、直しが全く入っておりません。
もう時間がなくて見返しもできていません。
すいません。
いきなりの夏休みとか、
あとラストを変えたいです。
流れ的に夕方の方がいいに決まってるじゃんっ・・・!
こういうのは書き直してもよいのかな~
書き直せるのかな~
よく分からないよ~笑
・・・とりあえず、夏コミ終わったら手直ししたいです。
そして、今回間に合わなかった鬼もそのうち・・・
長編の番外編としての予定なので、ぜひ書きたいです。ホラー!鬼!すぷらった!←
オンリーとか終わったら、また。
とりあえず、夏コミの新刊が間に合いますよう☆