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ある夜会の御披露目(独白)  作者: るでゆん
2/4

side・アーゼル

四話で終わります

 俺は今笑えているのだろうか?


 隣には美しく成長した幼馴染みが、輝く笑顔で寄り添ってくれている。視線を上げれば、生涯お仕えしようと決めた陛下が、笑みを浮かべている。これから、俺たちの婚約発表をする為か、視線があった瞬間に何処か面白がるような、そんな表情をされた。


 この光景を夢見て戦い続けてきたが、今、全てを手にしてみると恐ろしさに震えが来る。

  ……今、俺は、きちんと笑えているだろうか。



 俺の名前は、アーゼル。

 昔はアインディーゼル・ユーリ・ボストニアスと名乗っていた。


 伯爵家の若様と偶然同じ年に生まれ、父が昔伯爵様と学友であったために、幼い頃からサーシャエン家に出入りしていたが、国境守護の任を任された武勇の一族とはいえ、所詮我が家は男爵家。

 リズとは友人にもなれないと諦めていた。


 日に日に可愛らしく成長する姿に、ついつい、憎まれ口を叩く日々が続き、いつしか若様のお供としてリズに会うことが一番の楽しみになっていた。


 それに伯爵家は気がついても、幼い子供の事だからと、目こぼしをしてくれていたが、ある日生家にばれ、当主である父に呼び出された。


 そこで、わかりきっている、住む世界が違うのだと怒鳴られ、詰られ、熱に浮かされたような慕う目でリズを見るなと折檻を受けた。それでも、頑として改める気のない俺に対し、当主は俺の初陣を決めた。

 初陣と言っても、貴族が従軍するようなものではない、隣国での傭兵働き。領地が平和だと腕が鈍るという理由で、兵士の一部が出稼ぎに行くときに、身分を名乗る事、名を名乗る事を禁じられ同行させられた。


 結果として、それが俺の命を救う。


 傭兵働きも半年を超えてなれてきた時に、戦場に激震が走った。

 国が落ちたのだ。

 梟王と名高い他国の王に唆され、王外戚が挙兵。本人も王家の血を引いていたため、王家直系は妻とした一人を除いて皆殺しにし、逆らう領主たちは他国の力を借り平らげた。

 無論、そのままで終わるわけはなく、我が国は属国、それも最底辺の植民地となった。


 我が一族と国境を接していたその国は、一番始めに一族を滅ぼしたらしい。そして田畑に焼き、内陸のその地に毒と塩を撒いた。


 俺はどうすることも出来ずに、ただ嘆き、祖国へと急いだ。

 王外戚の妻となった王女の手により逃がされた俺より2つ下の陛下を見つけたのは、本当に偶然だった。


 国と誇りを取り戻す!!とまだ幼さの残る顔を見て、この方にお仕えしようと決めた。

 リズのことは気になったが、戦いと逃走に明け暮れている内に、いつしか幼い頃の優しい思い出となっていた。


 三年たって偶然祖国の貴族が、隣国で聖女と呼ばれている事をしり、無理にでも協力をと心に決めて、拝謁を求めた。


 あぁ、そこにいたのは、幼い頃そのままの無垢なちんちくりん。今でもあの日の君の瞳は鮮明に思い出せる。


 俗世へと、血と裏切りと別れ、修羅の道に誘う俺に笑いかけるその瞳。

 何があっても離すものか。

 あのとき決めた。


 君は嫌がっていたけれど、決して助力を乞うまいと決めていた、孤独な少女にも頭を下げた。

 少女の瞳に、幼い頃の自分を見た様にも感じたが、あえてそれすら利用して、俺は目的を果たそうとした。


 いつの間にか、将軍と呼ばれ、二つ名すらも付き、他国に恐れられる軍人となったけれど、それが全て君の為だと知ったら、君は逃げるだろうか?


 さぁ、そろそろ、御披露目の時間だ。

 陛下も呼んでおられる。陛下の脇には、君が昔から気にしていた少女もいるが、君は本当に幸せそうに笑うね。


 君が笑ってくれるなら、俺も自分を許せそうだ。今だけは、この幸せに全力で浸ろう。


お読みいただきありがとうございました。

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