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そんなこと聞いていないんだが

「ジル、昨夜に続いてで悪いが来てくれ」


 俺の叫びにすぐに吼え声が聞こえ、少しすると銀色の大きな狼があらわれた。


(主よ、待たせた)


「こちらこそ度々すまん、俺もレベルを上げなくちゃいけないということが分かったため、今まで見たいにお前達にモンスターを倒してもらうのではなく、俺が倒すのを手伝って欲しい。にしても、お前も町中に入れたらな、態々来てもらうのが忍びないわ」


(入れる、ぞ?)


「なんで疑問系?」


(いや、小さくなれば子犬に見えなくもないので、町の中に入れる、と思うぞ?)


「そんなことができるのかよ」


 驚きの声をあげたが、ジルに言わせると知っていて当然のことらしい。いや、そんなこと言われても知らねーよ。


(人間に化けることもできるが、やはりそれも知らんのか?)


「まじかよー」


(あぁ、今でも人型にはなれるが、酷く魔力を消耗するから先ほどもいっていたように主のレベルがあがり魔力が高くなったらじゃな)


 なんか新事実がどんどん出てきているんですけど、ジルさんよぉ。


「ちょっと小さくなってみてくれ」


 俺の言葉に小さくなったジルは生後半年から1年といった、ホントに小さな光がきらきらと輝く銀色の子犬―ホントは狼―だった。

 あまりの可愛さに抱き上げ、顔の位置まで持ち上げてあることに気付いた。

 ない、あれが…


「ジル、つかぬことを聞くがお前って雌か?」


(主よ何をいっておる、儂はもちろん雌じゃ)


 でかい狼を下から覗いてあれの有無を確認しようなんて思わなかったし、ぞんざいな口調からてっきり雄だと思ってたわ。

 そのことを言ったら、無言で肉球パンチを俺の頬に叩き込みやがった、こいつは。まぁでも痛くなく気持ちよかったから別にいいんだけどね。


 森の中ではジャンボサイズに戻ったジルを相棒にモバールに借りてきた剣を手に無双しまくった。

 ジルが敵を弱らせ、俺がとどめを刺す。ジルが敵を組み伏せ、俺がとどめを刺す。

 モバールに聞いたこの森最強といわれるブラッディベアもジルにかかれば雑魚同然だった。

 次々とモンスターを屠る俺にジルが聞いてきた。


(主よ、それではレベルはあがるかもしれんが、技術は全然追いついておらんぞ)


 いや、レベルをあげて基礎能力があがるだけで十分さ。だってジルが俺をいつも守ってくれるんだろ? って言ったらでかい図体で鼻を摺り寄せてきた。可愛いやつめ。雌と知ってからジルに対して優しく接してやれるようになった気がする。



 結構な数の熊を倒し、袋が熊の手でいっぱいになったので町へと戻ることにした。

 ちなみに倒した熊はきちんといただきました。ではなく、ジルが呼んだ狼達が次々と喰らい、そしてどこかへと運んでいっている。


 ジル、小さくなってくれ。町の近くまで戻った俺の前でジルは小さな一見子犬のような姿になり、俺の後をついて門をくぐっていく。

 モバールが止めることもなく、俺とジルとは無事門を抜けた。ざるだなと思っていた俺の背にモバールが声をかける。


「トラクさん、その子犬可愛いですね。そんなに可愛いと攫われることもあるかもしれませんので、注意してくださいね」


 人のいいモバールが注意してくれたが、俺とジルは目をあわせそっと微笑んだ。


(彼はいい人ですね)

「あぁ、そうだな。見ず知らずの怪しい格好をしていた俺にもよくしてくれている」



 ギルドでは熊系の討伐依頼を複数終了報告したが、やはりいくつかは依頼数を超えており報酬はもらえなかった。

 いつものようにリンデさんの受付で報告をしていたのだが、ひとつ気付いたことがある。

 今までは靴原さんと俺を呼んでいたのだが、今はトラクさんと俺のことを呼んでいた。

 もしかすると進展があったのかと思い、心は宙を舞い踊っている。

 彼女をガン見してたら、どうされましたかって普通に返されたことにちょっとショック。

 普通に依頼終了報告が終わったので、そのまま居続けることも出来ず、その場を後にする。


 うーん、どれかいいのがないかなぁ。

 掲示板で依頼の貼り紙をチェックしていく。Cランク依頼にひとつ目を惹かれるものがあった。隣町への護衛依頼だ。予定期間は片道2日、途中の村で1泊し約100キロの行程らしい。運送屋、いや元運送屋としてはやってみるしかない。

 それを手に取り受付へと向かう。と、俺の前を黒い影がぬっと出てきて行く手をふさぐ。あまりにすぐ目の前だったため、一歩下がって前を見るとやつだった。昨日の俺を一発でのしたあいつだ。ジルが唸っている。俺の発した「なんのようだ?」の問いに奴はパンチで答えた。眼前に奴の大きなこぶしが迫る、昨日とは違って見えない速さではない。上半身だけスウェーで拳をかわす。右手に力を込め握りこむ。


 アオォォォン


 ジルの叫びにより世界が一瞬止まる。もちろん俺もだ。だがしかし俺のほうが正気に戻るのは早かった。力を拳から解放し、そっと手を開く。掌は汗が空気に触れ心地よい。俺はそっと足を一歩踏み出し、やつの横を抜けていく。

 完全に抜き去ったところで世界が再び息を吹き返した。止まっていた息を深く吐き出すもの、先ほどまではまったく動かなかったものの急に震えだすもの、その場にへたり込むもの、いまだ後ろで立ち尽くす彼1人を除いてとりあえずは時間が動いてる。

 ジルやり過ぎだぞと声をかけ、子犬を胸に抱いたまま列へと並ぼうとした。だが、しかし一斉に彼らは横へ退き俺に順番を譲ってくれたのでその行為を有難く受けリンデさんの前へと向かう。

 

「な、なんなんでしゅかさっきのは」


 流石にいつもの仕事中のクールモードが消えて地が顔を出している。


「この子が俺を守ろうとして吼えたんだ」


 ジルの頭をなで、そう答えた。


「い、いや、吼えたって。メチャなんてまだ震えてるんですよ!」


 彼女の叫びに受付の奥を見ると狐耳の子が床にぺたんと尻をつけ、耳をたたみ身を震わせている。

 メチャさんごめん、この子は決して理由わけなく暴れたりしないから安心して、俺がかけた声は残念ながら耳に入っている様子はなかった。


「それで今度はどんな用件ですか?」


 仕事モードではなく通常モードでの彼女のツンとした口調もやっぱ可愛らしい。


「この依頼を受けたいんですが」


 おずおずと出した1枚の紙をみて彼女の眉がぴくんと動いた。


「ま、町をでるんですか? あなたが出した依頼もまだそのままなんですよ、無責任じゃないですか?」


 急に早口になり立て続けに発した言葉に、そういえばと依頼を出していたことを思い出す。


「リンデさんに嫌われてしまったみたいだし、他所の町に行こうかななんて思ってます」


 彼女はヒッと小さな声を発したかと思うと驚愕に目を見開いて固まってしまった。やばぁ、失敗しちゃったかな。


「冗談ですよ、ちょっと商人さんについていって行商のことを知りたかっただけです。お願いしている依頼のこともありますし、どこかへ行ったりなんかしないですよ。でも5日ほどは依頼の受けるのを先にしてくださいね」


「そうなんですか、よかったです。依頼はあなたがBランクということを知って、受けようとしていた人も取りやめているようです」


 自信はないが、満面の笑みを彼女に向けて答えた言葉は少しは効果があったようだ。彼女の説明の後におれの耳に顔をそっと近づけ「仕事中ではないときにまたお会いしましょうね」と囁く声に早鐘を打つ心はジルが俺の手を尼噛みしたことにより平静を取り戻した。

 彼女の顔が俺に近づいたことにより背後から殺気のようなものを一瞬感じたが、ジルがガルルゥと軽く唸るとそれも霧散した。そしてまた俺の手を噛み噛みしている。

 甘えてくれるのは嬉しいが、手がねちょねちょだよ。

今日の投稿はこれで終わりです。


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