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まだそこまでの心の準備は…

 ギルドに戻り、いつもの列に並ぶ。今か今かとなかなか進まぬ列が恨めしい。いやいや、ネガティブ思考は今の俺にはない、断言できる。この後には薔薇色の展開が…妄想に耽っているうちに順番が回ってきた。


「リンデさん、今朝言いましたよね、それをもう一度言わせてください。ランクBになったら付き合ってください」


 彼女を前に唐突に言い放った。


「何言ってるんですか?」


 今朝は顔を真っ赤にしてあたふたしていた彼女だが、顔色ひとつ変えず平然と言い返してくる。


「もう一度言います。俺と付き合ってください。いや、それが駄目なら一度だけでもデートしてください、お願いします」


「今仕事中です。そういった馬鹿な話をするのであれば、次の人に代わってください」


 取り付くしまもない。


「待ってください、副ギルド長、ランクの件を彼女に伝えてください」


 俺の声に副ギルド長は奥からやってきて、なにやら彼女に囁いている。


「Bランク昇格おめでとうございます、靴原様。はい、こちらギルドカードの書き換えをおこないましたので次に並んでいる方に代わってください」


 首から下げていたギルドカードを取り上げ、新しいカードをこちらに渡し、いつもと同じく平然とした顔で横に退くよう手を振って俺を横に退かせる。

 しばらくショックで固まっていたが、暗然とした心持で足取り重くギルドを出ようとしたところ前を塞がれた。


「Bランク様だってな、さぞやお強いんだろうな」


 胸板は俺の1.5倍、体重も同じくそのくらい、腕なんか俺より倍上太く丸太みたいな男が俺に声をかける。

 むっとして見た男の太い首からかかっていたプレートにはランクCの文字が見て取れた。


「振られて今は気が立ってるんだ、俺に構うな」


「リンデちゃんは、リンデちゃんは…不可侵条約が…おれたち…アイドル…くそぉー」



 ……目をあけた先には、なんとおっぱい様がおられた。視界の半分を埋めようかとするおっぱい様が眼前に。

 ぅ、頬に走る痛みに顔をしかめる。だが頭の下は柔らかで、なにやらいい匂いがする。


「目を覚まされましたか? 靴原様」


「う、う~ん」朦朧とした振りをしておっぱいタッチしたら頭を殴られた。


「破廉恥なことはおやめください」


 冷静になって周りをみると、どうやらリンデさんに膝枕をしてもらっているようだ。


「あれ、俺はどうしてここに?」


「覚えてらっしゃらないんですか?」


 絡まれたところまでは覚えていたのだが、俺は1発でのされてしまったらしい。

 Bランクだと調子にのっていたが、モンスターも倒してないしそれほど経験をつんでいないのでレベルは1のままだったらしく、あなたがあの男に勝てるわけないのよと呆れられてしまったがその声は優しみに満ちていた。


「さっきの話なんだけど、Bランクになったら付き合ってってやつ。どう?」


「どうと言われましても、正直私のような仕事一筋で誰からも声をかけられないような女をからかってもらっては困ります」


「いや、そんなことない、俺は本気だよ。確かに仕事中はきりっとした顔で仕事をしているけど、登録のときとか、今朝の依頼をお願いしたときなんか、表情もくるくる変わるし可愛かったよ」


「え、え、いや、そんなこと言われても、というかそんなこと言われたの初めてです」


「お願いです、付き合ってください」


「…… 今夜お食事でもいかがでしょうか。お付き合いについてはもっとよく考えさせてください」


 意を決したお願いに彼女は半分だけ答えてくれた。そんな彼女の頬は紅をさし、微笑んでいる。

 よっしゃぁー、飛び上がって喜びたいところだが、膝枕中なのでそれは我慢して心の中でガッツポーズをするにとどめた。

 では、美味しい料理の店をとの俺の言葉に彼女は自分の家で手料理を振舞ってくれるというのでそうさせてもらうことにした。

 もちろん家の場所は抜かりなく聞いておくことを忘れはしない。




 トントン


 約束の時間の1分前に扉を叩く。

 時間10分前? それは相手のことを考えないアホのすることだ。約束した時間より早く行き過ぎても相手は困ってしまうだろ、早く来るのを見越して迎える時間を考える、アホかそれこそナンセンス。ジャストタイムだと遅い、予定時間から1分か2分前がベストだと俺は思ってる。

 あー、でも運送の仕事中とか10分前とかに普通にやってるな。いや、舞い上がって何考えてんだろ。

 思考がおかしなことになっていたが、時間はそれほどたっていなかったようで、は~いの声とともに扉が開く。

 そこで俺の目の前に現れたのは白百合の花にも似た清く美し気な女性だった。

 ショートしかかった頭に活を入れ、震える指で真っ赤な花束を手渡すことには成功した。


「お待たせしましゅた」

 

「靴原さんでも噛んでしまうことがあるんですね。私も今朝あなたの前で噛んでしまいましたし、これでおあいこですね」


 そう微笑む彼女の表情からはなぜか安らぐ匂いを感じさせた。


「リンデさんって、仕事中とそうじゃない時ってほんと別人だよね。どちらも素敵だよ」


「もう、いつもいつもからかわないでください」


 顔をぷくーっと膨らませて精一杯の反抗をみせる彼女もまた可愛らしい。


「そんなことより、はやく中へどうぞ。せっかく作った料理が冷めてしまいますよ」


 クルリと背を向けそれといっしょに回転する背を覆うほどに長いサラサラの金の髪に目が釘付けになる。

 さぁと彼女に促され料理の並んだテーブルのある部屋に入った時、俺の体は固まってしまった。


「リンデさん、あの人たちは?」


「もちろん私の両親ですわ。そしてこちらが弟にそして妹です」


「ハジメマシテ、トラクニ・クツハラデス、トラクトオヨビクダサイ」


 俺の挨拶を皮切りに彼女の父と母、そして弟妹達が挨拶をし、料理を口にしたが、話した内容、料理の味さえも覚えておらず、正気に戻ったのは宿に帰ってしばらくしてからだった。

本日もあと数話投稿予定です。

11/6 12時 1話と3話の文章を一部変更しました。変更部分は各話の後書きに書いてあります。

既にお読みいただいた方には申し訳ございません。

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