へ、変態じゃないもん
Fランク依頼、Fランク依頼っと、これかE,Fと書いてあった紙がいくつか目に止まる。
薬草採取、狼の糞の採取、茸の採取、なんだ採取ばっかりかよと思ったら他にもあった。
今泊まってる宿屋の1階の食堂から壊れたイスやテーブルの修理、迷子のペット探し、話し相手募集(女性冒険者に限る)、とまぁわけわからんものもあったが、町の中での雑用が主な依頼内容だ。
報酬は銅貨10枚から30枚程度とあるので、1000円から3000円といったところだろうか。まぁお小遣い程度の稼ぎにしかならんな。実は俺って金貨とか持ってて結構金持ちだしな。
リンデさんは戻ってきていなかったので、空いてる列に並び受付の年配の女性に質問した。
受けることができるのはひとつ上のランクの依頼までらしい、今はFランクなので俺はEランクまで受けることができる。
依頼は同時に2つまでしか受けることができないが、採取などで現物が手元にあり、募集依頼が出ていれば2つ既に受けていても即座にその採取依頼は終了にできるらしい。
それに先ほどリンデさんに出した依頼に追加でお願いしておくことがあった。
依頼を受けるために町をあけることになるので、今日中に依頼を受けてくれる人が見つかった場合は明日の朝10時、明日見つかった場合はその翌朝10時にギルドで待ち合わせというように。
話が終わると即掲示板に引き返し、食堂の修理、狼の糞の採取の依頼を剥がし先ほどのおばちゃんの元で依頼を受ける。
おっちゃん、いや、元おっちゃんの大工スキルを侮るでない。食堂では昼の客が増えてくる前にガタガタいってるテーブルやイスをどんどんと修理調整していった。
数脚直してもらうだけだったらしいが、全て直し大いに感謝された俺はお礼にといって弁当を手に入れた。
次はっと、モバールと話をしたかったが、急ぎ門をでて少し離れたところで叫んだ
「シルバーウルフ、聞こえるか? 聞こえたら出て来い」
アォォォン
遠吠えの後5分程度で日の光で銀に輝いている巨大な狼が目の前に現れた。ていうか、5分ってどんだけ遠くから俺の声を聞いて駆けつけてきたんだよ。
(主よ待たせてすまない)
「いや、いい。それよりシルバーウルフって呼ぶのも変だな。これって種族名だしな。お前と同じ種族にあったらそいつのこともシルバーウルフだしな。…よし決めた! お前はこれからジルだ! そう呼ぶことにするからな」
(主よ良い名だな。気に入ったぞ。どういう謂れのものなのじゃ?)
「はっ? えと、ジルコニアって物質からつけたんだ。白くもあり、透明で美しく熱にもとても強く素晴らしいものなんだ。美しくそして強いお前にはぴったりだと思ってな」
(う、うむ、そうなのか、そんなものがあるのか。儂もジルという名が気に入ったぞ)
シルバーから安直にシル…ジルってなったことは黙っておくことにしたほうがいいだろうな。
「よし、ではジルよ糞をだせ」
(…主は変態かの?)
やばい、言った俺も変態ちっくに感じる。
「説明不足だった。町の冒険者ギルドというところの依頼で狼の糞を集めてくるというのがある。狼の糞は狼煙の材料として使われるらしく必要なのだそうだ。だから糞をだせ、さぁ早く」
(主は変態かの?)
「2度もいわなくてもいいわ」
(儂のは主がなんと言おうとやらぬが、仲間達の糞ならわけてやらんこともない。森までついて参れ)
最初は歩いて付いていってたのだが、遅い、乗れの言葉と共に口で服を摘まれ背中に放り投げられ、そのまま凄い勢いで森まで駆けていく。
必死で首に腕を巻きつけているが、躍動感ある走りに目が回る。
森までは5分足らずで到着した。確かに早いがさすがにあの揺れは勘弁してもらいたい。
(主よ、ここと、あそこにもある。してどうやって運ぶのじゃ?)
愕然となった。袋も何も俺は持っていなかったのだ。しょうがないので服を脱ぎ、袖と首のところを縛り不細工ながらも袋らしきものを作り上げ、それに糞を入れていく。
ジルの案内をもとにいくつか回るとすぐに袋?はいっぱいになったので、帰りもロデオマシーンのようなジルの背に乗り町へ戻っていった。
ギルドにはリンデさんが受付にいたので、糞を持っていったが、間違っていたかもしれない。
というか、町に入ってというか、ギルドに入ってというか、近くをすれ違う人たち皆が鼻をつまんだり、俺を避けて歩いたりしてたのだ。
そりゃ、まぁ、手にしてるのは糞だしな、臭うわけだ。それを持ってリンデさんのところにいくなんて嫌がられてないだろうか、ちょっと不安だったが杞憂のようだった。
彼女に限って俺を嫌うわけないだろ、といいたいところだが、表情ひとつ崩さずに対応してくれている。流石に仕事一筋って感がする。
糞は依頼は最大募集数10回で。それを超える量を集めてしまっていた。お釣りをということで余分な糞を彼女は俺に返そうとしたが、丁寧にお断りをし、依頼主へサービスで受け取ってもらうことにした。
さすがに、あんなお釣りはいらんがな。
ギルドの用意した袋に詰め替えたあとの俺の袋、もとい服も返却してくれようとしたがそちらも丁寧にお断りして処分してもらうことにした。
修理依頼と足して依頼11回こなしている俺はすぐランクEになった。FからEには依頼5回でなれるらしく余裕だった。
リンデさんの受付を後にしてまた掲示板を見る作業に戻る。
次はひとつ上のDランク依頼も可能だ、Dランク、Dランクっと
!(ピコーン)と来たね。
討伐依頼だ。
糞の報酬で生肉を大量に買い、門の外でジルを呼ぶとまた遠吠えの後5分ほどでやってきた。
(主よ、それを儂にくれるのかの?)
俺の持ってる袋に目が釘付けになっている。嗅覚に優れている狼だし肉に気付いているのだろう。
袋からひと塊とりだし、ジルに与えると凄い勢いで食べ始めた。
(むしゃむしゃ、鮮度がいまいちじゃのう)
「町中で売ってるものだし、殺してから時間がたってるのは諦めろ。それより…」
30分後、ギルドに戻り暇な人ということで副ギルド長だというおっさんを連れて門の外へと出る。
先ほどまでなんで儂がとかいってた口はぽかーんと開かれ、一向に閉じる気配はない。
彼の視線の先には整列した狼が16頭立っていた。戦闘には銀の毛皮のジルが、その後ろに5頭ずつ3列に綺麗に並んでいる。
「あいつらは俺がテイムしたモンスターです。殺してはいませんがこれで討伐依頼達成にできませんか? もちろんあいつらには人を襲わせないよう言っておきます。あ、テイムしたってのが信じられないのなら、おいお前ら3回その場で回って遠吠え」
アォォォン×16
副ギルド長は腰を抜かし、町の中からは門番のモバールと他何人かが飛び出して来た。
モバールはシルバーウルフのことを知っていたので、俺を見て納得したのかすぐ町に戻るが他のやつらは門の影に隠れてこちらを恐る恐る見ている。
「副ギルド長、どうですか?」
「いや、うーむ、人を襲わないというのは信じるとして、狩人達が狩る森のウサギなどもウルフは食べてしまうしなぁ。それにこちらとしてもウルフを狩ることができなくなるのは困りものだし」
「わかりました。あいつらへの指示は変更します。人間を無闇に襲わない、人間から襲われたら反撃は許可する。これならどっちも正々堂々でしょ。ウルフが餌にする動物達の件ですが…そういえば今ウルフたちって森から外にでないんですってね、それが餌を求めて森の外にでるようになったら困るんじゃないですか?」
軽く脅しもいれてみたら、俺の管理する狼には色のついた布を首に巻かせることにし、その狼は狩人や冒険者は襲わないようにすることで話がついた。
狼5頭の討伐依頼だったので、依頼3回分こなしたことになり、シルバーウルフはどうなんだ? の問いにはまだ報告にあがってなかったので依頼にはならないとなんともはっきりしない答えだったが、ジルにひと言吼えさせたら金は出せないが、と無条件でBランクに上げてくれることになった。
副ギルド長を問い詰めたところ、シルバーウルフは通常Aランク依頼となり、パーティを組んだ熟練冒険者が立ち向かう内容で依頼額も金貨数十枚クラスだという。
それでも悔いはなかった、俺には目的があったからだ。そう、リンデちゅわ~ん
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