前世逆ハーヒロイン、ハーレム勇者、チートサポートキャラが乙女ゲーム世界に転生したようですよ?
「ふっふっふっ〜、いちゃついてるいちゃついてる!」
「なっ!? 姉ちゃん、早く双眼鏡貸せよ! オレも見たいんだけど!」
「………… 姉さんも兄さんも、他人のラブシーンなんて、見てて面白いものなのか?」
私立陵王院学園。
ちょっと学費がお高めな高校で、本格的な金持ち学校とまでは行かないが、近所ではそれなりの学校として通っている。
そんな学校の1年生の私は、昼休み、屋上でフェンスにへばりつきながら、双眼鏡で下にある中庭のベンチでいちゃつきながらお昼を食べている1組のカップルを見ていた。
隣では、現世はクラスメイトで前世では弟の陽宮颯太が私から双眼鏡を奪い取ろうと必死になっており、後ろではそんな私たちを呆れたように見ている同じく現世クラスメイト、前世弟の佐野湊が座ってお昼を食べている。
_____ 私、月原結には前世の記憶がある。
前世は、一般家庭の平凡な女子高生だった。
何か誇れるところといえば、空手と合気道を習っていたせいか、女の子たちに頼られたことだ。いや、百合じゃないよ?
そろそろそんな毎日にも飽きてきたころ、颯太と湊も私と同じ気持ちだったらしく、私たちは一世一代の賭けに出た。
異世界トリップ。
コイツ頭おかしいのかと思われるのが吉だが、そういうオカルトものが大好きだった私と颯太は、もういっそこんな世界的な感じで異世界トリップを決行することにした。
異世界に行って一生戻れなくなるかもしれない、というような覚悟は既にあったし、向こうでだって何とか生きていけるような図太い神経はしている。
姉弟の中で1番理性的な湊にそれを相談し、何とか説得し、ついに異世界へ行くことが現実的なものになってきた。
戻り方だってあるようだし、万が一戻らなければいけない何かがあった時だって何とかなる。
そして、前世名水谷結衣、壮太、溱は異世界に行った。
結果からすれば、私たちは成功した方だと思う。
同じ魔法陣で行ったはずなのに、何故か全員違う異世界へとトリップしてしまった私たちは、何とかその世界で生き延びた。
まず、私がトリップした異世界は、現世や前世の私が生きていたような普通の現代日本風の世界だった。
ただ、おかしいのは、何故かハーフでも何でもない日本人らしき人なのに地毛で金髪や銀髪がいるとか、しまいには青髪緑髪ピンク髪なんて人間がいる始末だ。
そこで、一般家庭の16歳の娘、桜庭唯香に乗り移ってしまった私は、その世界では超お金持ちしか入れないという、大河原学院高校に奨学金免除の特待生として入学した。
大河原学院は、普通ではあり得ないようだが、生徒会に異常なほど権力があり、先生でも逆らえないという。
それも、生徒会メンバーの親はこれまたお金持ちの中の選び抜かれたようなお金持ちといったVIPで学院に資金援助をしているという。
それでも、生徒会メンバーに何か不備があれば何か文句が言えたのだが、残念なことに全員が容姿端麗頭脳明晰、つけどころがないのだ。
しかも、何故か何故か全員男。
それぞれにファンクラブがあり、これまた学院で巨大な権力があるとか。
大河原学院には、特待生制度があり、一般の者からも優秀な人間だけが入れる制度がある。
だが、大河原学院の庶民いじめは激しいものがあり、ほとんどの人間が入学をやめたり、試験でわざと落ちてしまうほどだとか。
何も知らない私は、入学試験をあっさりとパスし(勉強もしていなのに、勝手に指が動いてしまう)、学院に入学。
しきたりも何にも知らなかった私は、ある日、生徒会メンバーしか入れない温室に綺麗だと理由で無断で入ってしまう。
そこに、俺様生徒会長が登場。普通なら、彼に怖がり必死で謝る生徒しかいないというのに、私は花を褒める言葉しか言わない。
それで私に興味を持った生徒会長を筆頭に、私はどんどんと生徒会メンバーに関わるようになってくる____
結論。
つきはらゆいは、せいとかいめんばーをこうりゃくした!
彼らと出会ってから半年後の、生徒会主催のパーティーで全員から告白というプロポーズをされた時は本当に驚いた。
あれ、私コイツらから好意持たれてたの? みたいな感じだった。
いや、やけに接触してくるなとは思っていたけど。
そして、考える時間をくれとバルコニーに出たところで。
____ 8ヶ月ぶりに、湊に会った。
颯太の話より、湊を先に説明してしまった方が早い。
湊は、魔法陣で異世界トリップした先は、魔法が当たり前に存在する近未来的な世界だったらしい。
そこで、科学者の息子に乗り移った湊は、その頭脳を駆使して、どんどんと高位の地位になっていった。
そして、魔法の研究をしていたところ、異世界に行ける魔法陣を発見。
ちなみに、戻るための魔法陣のコピーは、颯太が持っていたため、湊は持っていなかった。
これを使えば、もといた日本、私や颯太に会えるかもしれないとさっそく2度目の異世界トリップ。
そして、意識を失い、目を開けた先には、私の姿があったという。
それからは、暮らしていた近未来世界が嫌だったのかは知らないが、3ヶ月ごとに私と颯太がいる世界を行き来し、私たちをサポートしてくれるようになった。
颯太は、RPGのよくありそうな中世ヨーロッパ風世界にトリップした。
そこは封建社会の世界で、魔法やらモンスターやらギルドやらエルフみたいな妖精がいる世界。
颯太は、異世界から現れた勇者として召還され、その場の雰囲気的なもので魔王を倒すことになった。
そして、数ヶ月すると魔王を倒し、国に戻り爵位を貰ったらしい。
1年後に国王が死去(崩御?)すると、王女や大臣たちの後押しや国民たちの支持により、男がいなかった王室に王女の夫として入る。
国王になった颯太は、政治も勿論のこと、 美少女王女と全員女しかも美女美少女しかいないとうパーティーメンバーを正妃、側妃にし、ハーレムを作り上げた。
湊は、この世界では一時的な宰相として生活していたらしい。
そんな生活が続いていたある日、3人で集まると、1日だけ元いた日本に里帰りをすることになった。
どの世界でも大体、向こうでの1日はこっちの1年になるので2年間生活していたとしても2日間いなくなったくらいだ。
トリップを決行したのは、夏休みで、しかも親が2人で一週間の旅行に行ってしまった後だったので、そういう心配も大丈夫だ。
そして、魔法陣を描き、日本に戻ったところで。
______ 私たちは、死んだ。
「まさか、魔法陣が出現した場所が高速道路のど真ん中だったとは……」
魔法陣の出現場所はランダムだというので、関東に住んでいる私たちが北海道や沖縄や、ひょっとしたら外国だということもあり得る。
だけど、高速道路のど真ん中の出現する魔法陣がどこにあると思うか!?
結果、日本へ戻って3秒もしない内に大型トラックに轢き殺された。
そして、この世界へ転生した。
この世界は、私たちの前世では乙女ゲームなるものだった。
高校に入学した主人公がツンデレ生徒会長や腹黒副会長、サドショタ同輩やらワンコ幼馴染と仲を深めていき、逆ハーレムエンドか個別エンドを迎えるものだ。誰とも結ばれないノーマルエンドはない。
前世の私は、完全武道派だったが、一応は女なのだ。少女漫画やら乙女ゲームが好きでもあった。
乙女ゲームの中でも特にこれにハマった私は、無理矢理颯太やら湊にもやらせ、攻略させた。
颯太はギャルゲーなどをやっているような人間だったので、比較的やらせ易かったが、湊は大変だった……!
そんなわけで、私たち姉弟は全員、このゲームをクリアしているのだ。
何度もプレイしている私なんかは、告白シーンなどの印象深いシーンは台詞単位で覚えている。
主人公のクラスメイト5くらいの完全なモブに転生した私たちは、主人公たちの行く末を見守ることにした。
私たちが関わればゲームバランスが崩れてしまうかもしれないし、そもそも前世でトリップした異世界で大仕事をしたので、関わる気力など残っていない。
ただし。
それは、入学して3ヶ月してから変わった。
主人公である、水城鈴菜ちゃんが攻略対象である生徒でありながら理事長も兼任するという隠しキャラ、久野雅樹とちょっと仲良くなりだしたのだ。
鈴菜ちゃんはどんどんと久野とのイベントをクリアしていった。
だが、ある日気付いてしまった。そのイベントから考えられる選択肢から思いつく結末は1つ。
____ 滅亡エンド、だ。
隠しキャラということもあってか、久野の設定は他キャラと比べてかなり突飛である。
まず、高校生が学園の理事長を務めている時点でおかしい。
それに加え、かなりのヤンデレ。
両思いになれた時は、ちょっと愛情深いだけ、くらいだが、好感度だけ上げておいて、最後の最後に違うキャラとくっつくと、その性格の故なのか、学園の生徒全員をライフルで撃ち殺し、愛する人を失い絶望した鈴菜ちゃんを撃って、自分も死ぬのだ。
鈴菜ちゃんが久野とくっつけば問題ないのだが、この様子だと無理そうだ。
その証拠に、鈴菜ちゃんが久野よりツンデレ生徒会長山瀬工と会う時間の方が増えてきている。
鈴菜ちゃんが攻略対象やそれ以外と恋愛しようが勝手だが、さすがに死ぬのは嫌だ。
私たちは、鈴菜ちゃんと久野、山瀬の三角関係になりそうなのを阻止すべく、動いた。
久野ルートにはもう入れない。
だって、鈴菜ちゃんはもう山瀬ルートに突入し始めていて、山瀬を見ると何故だが胸がドキドキしてしまうくらいには好感度が上がっている。
なので、私たちは久野の心から鈴菜ちゃんを追い出すことにした。
まず、久野と鈴菜ちゃんの接触を最小限にした。
絶対に会わない、ということも出来るがそれだと、久野の鈴菜ちゃんへの想いがますます強くなる。
久野の行動を出来るだけ見張り、3人で交代交代で2人が会おうとしたら注意を別のところへ向けることにした。
久野が鈴菜ちゃんへの感心がそこそこ低くなってきたところで、完全に鈴菜ちゃんをいなくなくする作戦開始だ。
実は、久野は3年前に恋人を亡くしていて、それをまだ引きずっている。
そんな久野を励ましてくれた鈴菜ちゃんに彼は恋をする、というのが久野ルートだ。
だけど、実は実は、久野の恋人は死んでいない。
というのも、喧嘩をしてお互い連絡を断ってしまった時に調度、久野の恋人____ 宮野礼奈さんは親の都合で外国へ引っ越すことになり、久野と会おうとしたが怒りに任せて久野は彼女と会わなかった。
しばらくすると反省し、礼奈さんに会おう連絡するが、携帯やらを変えていたりと無理だったので返事は返ってこない。
それから、美少女だった礼奈さんを恨む女子たちから礼奈さんは死んだ、という噂を聞き、傷心中の久野はそれを信じてしまうのだ。
実は、2週間前から日本へ戻り、礼奈さんは隣町で暮らしている。
え、何で分かったかって?
前世ハーレム勇者舐めんなよ、チート能力は失ったからって、魔法呪文の唱え方くらいは覚えている。
一般人が出来る魔術くらいなら、颯太には出来るのだ。
というわけで、颯太に千里眼の魔法を使ってもらい、礼奈さんの生存確認と今どこにいるかが分かった。
今は他校に通っている礼奈さんと久野を仲立ちし(私たちの印象が残らないくらいには、姿を表さなかった)、見事2人はくっついた。
鈴菜ちゃんと山瀬も無事、両思いになり、私たちは今に至る。
「後は、鈴菜ちゃんに恋しそうになってた腹黒副会長、サドショタ同輩、ワンコ幼馴染のフラグ操作か……」
「えー、オレ、まだ鈴菜ちゃんとツンデレ会長見てたいー」
「兄さん、上條先輩や卯月はともかく、三宅先輩はまずいよ」
「あー、アイツ、理事長の次にヤンデレの素質あるもんなー」
______ 私の言葉に颯太が絡み、それを湊がフォローする。
「あっ、あーんだ! あーんイベントだよ! おおっ、生徒会長、顔真っ赤にしてるよ! だが、食べる! ツンがないツンデレだね! それに気付かない鈴菜ちゃんも、さすが主人公の特権で鈍感!」
「ウソっ、姉ちゃん早く双眼鏡貸せ! ていうか、湊も何見てんだよ!? マイ双眼鏡!?」
「このイベントは、現実では始めて見るんだ。後、双眼鏡を持っているのは当たり前だろう」
「うわーっ、オレも見たいから姉ちゃんか湊、どっちか貸してくれっ!?」
「あっ、次は生徒会長からだよ!? ふおおー、萌えますわー、リアルだと萌えないとか言うけど、やっぱ萌えますわー、リア充末長く爆発しろ!」
「もう、デレが10割占めてるな」
「くっそー、オレもマイ双眼鏡買う!」
これが、今の私たちの日常だ。