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伯爵家の秘密  作者: BUTAPENN
第5章「静寂の冬」
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第5章「静寂の冬」(4)

 夢の続きかと一瞬思った。

 ラヴァレ伯爵家の領館の廊下を、なつかしい声が近づいてくる。

「すごいなー。この廊下なんて、うちの何倍? 三人だって並んで歩けるよ」

「しっ。声が大きいですよ」

 扉がノックされ、執事のロジェがまず入ってきた。

「家庭教師のプランケット夫人をお連れしました」

 教師然とした黒いドレスの女性が続いて入り、頭を下げた。

「ラヴァレ伯爵さまには、ご機嫌うるわしゅう。お招きを受けて家庭教師役を務めますイサドラ・プランケットでございます」

 髪型や服装こそ全然違うが、まごうことなき豊かなアルトの声。

「ミストレス――」

 寝台からあわてて跳ね起きたエドゥアールは、危うく目まいを起こすところだった。なぜ、イサドラ女将がこんなところに? しかも家庭教師だって?

 驚きはそれだけではない。

「ネネット!」

 叫びそうになる口をあわててつぐむ。なんと長身のイサドラの陰からひょいと顔を出して小さく手を振ったのは、娼婦のネネットだった。

 オリヴィエは、彼らがポルタンスの娼館から来たことなど、まったく知らぬと見える。

「よくぞ、遠路はるばる、おいでになりました」

「よろしくお願いいたします」

 イサドラと、丁寧な挨拶を交わす。

 家庭教師は、雇い人のひとりではあるが、家令や執事の指揮下には入らない。主人の家族を教育する権限を持つ者として、使用人たちからも一目置かれる存在となる。

「ご存知でしょうが、あなたのお役目は、こちらにおられる若旦那さまの教育係です」

「心得ております」

「ところで、そのお手のものは?」

 オリヴィエは訝しげに眉をひそめた。イサドラの右手には、特大のすりこぎが握られていたのだ。

「さきほど、ここの厨房からお借りしました。わたくしの授業になくてはならないもの」

「ほう。すりこぎが、ですか」

 さすがの家令も、少し痛ましげな顔つきでエドゥアールを見た。「さぞや、お厳しい授業になるのでしょうな」

 「もちろんですとも」とイサドラは、すりこぎの先をドスンと床に打ちつける。

「どんなに無作法な生徒でも、わたくしの手にかかれば、一週間で完璧な紳士淑女に変身しなかった者はおりません」

「ほう。それは頼もしい」

「さっそく、授業に入ります。お人払いを」

「しかし、若旦那さまは今病み上がりでいらっしゃるので」

「存じております。けれど、サーカスの猛獣の調教も、最初の日が肝心なのです。どうぞご理解を」

「なるほど、承知しました」

 オリヴィエは、今まで見たこともないような優しい笑顔を浮かべて、「それでは、若旦那さま」と言いながら、ロジェとともに部屋を出て行った。

 扉が閉まり、たっぷり十数えるまで待ってから、イサドラはすりこぎを放り出して、首をコキコキと回した。

「やれやれ。昨日からずっと馬車に揺られ続けて、あちこちが痛いよ。本当にど田舎だね、ここは」

「どうして、ふたりがここへ? 娼館はどうなった?」

「あたしの留守中は、ゾーイが仕切ってくれてるよ。この頃りっぱに代わりを務めてくれて、助かってる」

 次の瞬間、女将は疾風のように駆け寄って、エドゥアールの首っ玉に抱きついていた。

「エディ。会いたかった」

「ミストレス、風邪がうつる」

「ばか、何言ってんだい」

 イサドラは、腰に手を当てて怒鳴りつける。「このあたしが、風邪なんか引くもんか。あんただって娼館にいた頃は、ろくに暖房もなく、毎朝五時に起きて、それでも病気になったことなんか一度もなかっただろ。この一年足らずで、どれだけ根性無しになっちまったんだ。大勢の召使にかしずかれて体も動かさずに、いい気になってるから、こんな目に会うんだよ」

「ああ……そうだな」

 エドゥアールは、ほほ笑んだ。久しぶりの彼女の罵倒が心地よい。もっともっと叱ってほしい。

「ネネット」

 その後ろで、もじもじしていた少女は、はにかんだような笑顔を浮かべた。

「は、伯爵さま。久しぶりだね」

「今までどおり、エディでいい。よく来てくれたね」

「うん、エディ――会いたかった」

 みるみるうちに目を涙でいっぱいにすると、ネネットは彼の掛け布団の端に顔をうずめた。「だって、いきなり出ていっちまうし……後で聞いたら、伯爵さまのお子さまだなんていうし……あたし、何がなんだか」

「すまねえな。黙ってて」

 鼻をすすっている彼女の髪に、そっと触れた。「みんな、元気にしてるか?」

「みんな元気……えっと、エラさんが娼館をやめて、港のそばの船宿で働き始めたよ。さすがに、あの歳じゃ夜の仕事はきついって……。それから……それから、フレッドが大きくなったよ。きっと見違える」

「そうか。会いたいな」

 なつかしい港町の匂いが、部屋に満ちている。エドゥアールは九歳から十七歳までをポルタンスで、あの賑やかな下町の娼館で過ごしたのだ。

 つんと、鼻の奥が痛くなった。

 帰りたい。帰って、気楽な下働きのエディに戻りたい。一瞬、そういう考えが若き伯爵の頭をよぎる。だが同時に、自分がそれを心から望んでいないことも知っている。

「なあ、エディ」

 ミストレスの、すべてをわきまえたと言いたげな笑顔が、彼を覗きこんだ。

「ユベールさまが、お父君エルンストさまのご書状を届けてくれたんだよ。あんたからのテオ先生への小切手を届けるついでにね」

「書状には――なにが?」

「あんたが、ひどく落ち込んでるって書いてあった。心の痛みを忘れたがっているような、がむしゃらな毎日を送ってるってね」

 エドゥアールは言葉をなくす。

「いいかい。エディ。大事なことを話すよ」

 彼を八年間見守ってくれた娼館の女将は、彼の両腕をつかみ、まるで子どもを諭すように一語一語ゆっくりと切って、言った。

「自分が幸せでなきゃ、隣人を幸せにすることなんてできない。遠慮してるつもりで、言いたいことを溜めこんで、相手の幸せのために自分さえ我慢すりゃいいって? そんなのは、とんでもない思い上がりさ。だから病気なんかになっちまうんだ」

 すべては、見透かされている。イサドラにも、そして父親にも。

「バカだね。痩せて青白くなっちまって。こんなの、あんたらしくないよ、全然」

 ミストレスは感極まり、泣き声をあげて彼をぎゅっと抱き寄せる。ふくよかな胸に押しつけられて、エドゥアールはようやく、長いあいだ押し込めていたものを洗い流す場所を見つけられた気がした。



 その翌日からラヴァレ伯爵家の領館の使用人たちは、エドゥアールの部屋で家庭教師の激しい怒鳴り声が聞こえるたびに、おののいた。

「何度言えばよいのです。こんな簡単な発音ができないとは。『いたみ・いり・ます』でしょう。それでもあなたはクライン貴族ですか!」

 そして、すりこぎで机を叩く、ものすごい音が響く。

「これじゃ、若旦那さまが殺されてしまいます」

 部屋付きメイドのナタリアとジョゼが、おろおろとアデライドに訴えると、初老のメイド長はすまして答える。「あら、あなたたちは若旦那さまが、伯爵らしいお振る舞いを身につけられることに、反対なの?」

 屋敷のあちこちで、彼らは暇を見つけては、話に耽った。

「おれは、若旦那さまのお行儀が良くなったら、助かるな」

 厨房では、コック見習いたちが議論している。「あの、ソース鍋に指をつっこむのだけは勘弁してほしいぜ」

「けど、あれがなくなったら、張り合いがなくならないか」

「そうだよ。お味見のひとことを聞くのが、すごく勉強になるんだから」

 リネン室では、こんな会話が交わされる。

「これで、肩身の狭い思いをしなくてもすむわ。町へ買い物に行っても、里帰りしても、若旦那さまの下品な物言いが、たちまち話題になるんですもの」

「あの噂が広まってから、このラヴァレ領全体が見下げられているような気がするわ」

「でも、上品な言葉で話す若旦那さまなんて、想像できないわね」

 その中で、ひとりのメイドだけがおしゃべりに加わらず、黙々と洗濯物を畳んでいる。

「ソニア、いつまでやってるのよ。ほんとに愚図なんだから」

 ひとりの先輩メイドが、タオルの山から一枚をつまみあげる。「なに、この畳み方。端がそろってないじゃない。やり直し」

「は、はい」

 ボイラーのそばで汗を垂らしながら、ソニアはひたすらタオルを畳んだ。

(若旦那さま。がんばれ)

 夜が訪れると、神妙な顔つきのエドゥアールと、すりこぎを手にした家庭教師が夕食の席に現われた。

「で、いかがですかな。プランケット夫人。エドゥアールの進展は」

 暖かくなるにつれて日増しに健康を回復し、食堂でともに食事を取るようになったエルンストが、何食わぬ顔をしてイサドラに話しかける。

「恐れながら、伯爵さま。こんな物覚えの悪い生徒を受け持ったのは初めてですわ。ご子息はさしずめ、森で育った野生のオランウータンでございます」

「ははは、うまいことをおっしゃる」

「何を言いたい放題言ってるんだ、ふたりとも」

 エドゥアールは肉を噛みちぎりながら、ひとりでぼそぼそと悪態をつく。

 イサドラはもともと、その美貌ゆえに、かつてとある伯爵に見初められて嫁いだ女性だ。しかし生まれもっての身分の格差は、愛情も理想も打ち砕いた。大奥さまや伯爵家の使用人から絶え間ない苛めと侮蔑を受けて、とうとう耐えきれずに、まだ幼い息子を置いて家を出たという。

 そのとき相談を受けて、彼女の出奔に陰ながら助力したのが、かの伯爵の古い友人であったラヴァレ伯爵とエレーヌ夫人だった。

 伯爵夫人から娼館の主へ。大転身を遂げたイサドラは、その恩義を忘れず、ラヴァレ家の最大の危機のときに手を差し伸べた。

 戦友とも呼べるふたりが、こうして二十年後に再会し、ともに食事をしているのだ。

「かちゃかちゃと、ナイフやフォークの音をさせてはなりません」

 イサドラは、椅子の背に置いたすりこぎの柄に手を回しながら、じろりと睨んだ。

「スープは音を立てて啜らない。指先を舐めない。同席する相手の会話に耳を傾ける。そっぽを向かない!」

「は、はい」

「若旦那さまが、気押されてる」

 配膳室の扉の陰から様子をうかがっていたコックやメイドたちは、驚きのあまり顔を見合わせた。「よっぽど、あの家庭教師さまが怖いんだ……」



「うわあ」

 ネネットは、バルコニーの折り戸を開け放つと、歓声を上げて飛び出した。

 上には、満天の星空が広がっていた。

「すごいや。降るような星っていうけど、本当だね。ポルタンスでは、こんなにたくさん見えないよ」

「ガス灯や港の明かりで、一晩中明るいからな」

 三人は手すり際に並んで、谷の夜を眺めた。遠くのあちこちの村に小さな灯が灯り、風にちかちかと瞬いている。

 谷を吹き抜ける夜風はいつもは身を切るほど冷たいのに、不思議と今夜は柔らかさを含んでいる。庭の木々や館の三角屋根の雪も溶けて、いつのまにか冬が終わろうとしているのだ。

 授業と称して時折すりこぎの音を響かせながら、彼らは暖炉のそばに腰をおろして、朝から夜まで語り合って過ごした。

 コックのガストンや娼婦たちの面白おかしい毎日の生活。ポルタンスの裏町の人々の消息。港町で水夫たちの起こした騒ぎなど。

 話題は尽きることはなかった。気がつけば、もう五日が過ぎている。

「あまり長くはいられないだろう?」

 エドゥアールの問いに、イサドラは、頂の白い山々を見つめながら「ああ」とうなずいた。「そろそろかね。ゾーイには、一週間くらいで帰ると言ってあるからね」

「すまなかったな。心配して遠くまで来てもらって。情けないところを見せちまった」

「何言ってんだ。伯爵になるなんて、とんでもない大事業を引き受けたんだ。最初から何もかも完璧にやれる人間はいないよ」

「今まで、そこそこやれるって高をくくってたんだ。自分が、これほど弱っちい人間だとは思ってなかった」

「わかれば、いい。今はそれで十分さ」

 娼館の女将は、頭上の星を王冠のようにまといながら、にっこりと華やかに笑った。

「ねえ、エディ。まず、やりたいことを、やりたいようにおやり。あんたには、その力も才能もある。失敗したら、後でいくらでも責任を取ればいいのさ。何も恐がることなんかない。ただひとつ恐がるべきは、後悔することだよ」

「ああ」

「あたしたちは、あんたが必要とするとき、ちゃんとそばにいるんだからね」

 慈愛に満ちた声を聞いているだけで、足元から力がみなぎってくる。自分が何もりっぱなことをしなくても、みんなから愛されている存在であることを信じられる。

「ありがとう、ミストレス」

「あーあ、退屈な教師役なんてさせられて、なんだか疲れちまったよ」

 イサドラは両腕を伸ばし、大きな伸びをした。「早めに部屋に引き取らせてもらうかね。ネネット。行くよ」

「あの、あたし」

 ネネットは、もじもじとチュニックの裾をいじっている。「もう少し、エディに話をしてっていい?」

 イサドラは、じっと探るように少女を見てから、答えた。

「ほんの少しだけだよ」

「わかってる」

 彼女が去ったあと、ネネットは景色を見るふりをしながら、長いあいだ黙りこくっていた。

「で、話って?」

 エドゥアールが水を向けると、あわてて話し始める。

「あの、あのね。テオ先生とゾーイが噂になってること、言ったっけ?」

「ああ、最初は冗談だと思った」

「どちらかと言うと、あのおとなしいテオ先生のほうが積極的で、ゾーイが逃げてるって感じ。でも、あたしの見たところでは、陥落するのは時間の問題だね」

「お似合いの夫婦になるかもしれないなあ」

「見てるだけでうれしくなるよね。好き合ってる男と女が、そばにいるのって」

 ネネットは、きゅっと唇をかみしめた。そして、意を固めたように向き直る。

「エディ、あのね。あたし――」

「うん」

「このひと月、客を全然取ってないの」

「え?」

「ここに連れてきてもらうことが決まってから、客を取らなかったの。姉さんたちに訳を話して、協力してもらって」

「……」

「せめて、ちょっとだけでも、キレイな体で会いたかったから」

 彼女は泣きそうに顔をゆがめると、エドゥアールの胸に飛びこんだ。

「あたしなんか、ふさわしくないの、わかってるよ。あんたは伯爵さまだし、あたしは町の娼婦だ。でも――せめて帰る前に、少しでも、あんたのことを温めて、慰めてあげたいんだよ。あたし、これしかできないし」

「……ネネット」

 しっかりと抱き合い、頬を寄せ合うと、白い息が互いを包む。触れ合っている場所のぬくもりが、全身に広がっていくようで心地よい。心地よすぎて、脳髄まで溶け出しそうだ。

「ネネット」

「エディ」

「……ごめん」

 エドゥアールはゆっくりと、だが、きっぱりと体を離した。

「会えて、すごくうれしかったよ。きみのことは、娼館にいたときから特別だと思ってる。けど――やっぱり、こういうことはできない」

「なんで……一晩だけでいいのに」

「俺が欲しいのは、一晩だけじゃなくて、ずっと一生そばにいてくれる人なんだ」

 そして、手すり越しに領地を見渡す。「この谷を歩き回って、祭を楽しみ、麦が育つかどうかをいっしょに心配してくれる人。村人の子どもが生まれるのを、ともに喜び合える人」

 目の前の少女に視線を戻して、さびしげに微笑む。「そうしたい人が、ひとりいる。残念ながら、ひどく嫌われちまってるけど」

「そうなんだ」

 ネネットは、涙のたまった瞳を伏せた。「そうか。そんな人がいたんだね」

 エドゥアールは、彼女の髪に触れ、額に唇を押し当てた。「ありがとう、ネネット」

「やだ……お礼なんて、男が娼婦に言うもんじゃない」

「きみのことは、絶対に忘れない」

「さっさと忘れちまいなよ。その人と仲直りしてさ」

「それはたぶん、もう無理だろうな」

「できるよ」

 ネネットは彼から離れると、涙をごしごし袖でぬぐった。

「だって、ミストレスが言ってただろ」

 イサドラの真似をして、両手を腰に当てる。「あんたなら、できる。後悔するなって。やりたいことをやれって」

「ああ」

 新しい伯爵は、自分に言い含めるように繰り返した。「――決して後悔しないように」



 翌日の朝、家庭教師とその助手を見送るために、領館の人々が玄関に集まった。

「それにしても、来られたばかりなのに、もうお辞めになってしまわれるとは」

 ちょっぴり残念そうな家令に、イサドラは胸を張って答えた。

「最初に申し上げましたでしょう。一週間で、どんな生徒でも完璧な紳士にして見せると」

 ちょうどそこに、伯爵父子が現われ、ゆっくりと階段を下りてきた。

 エドゥアールは進み出ると、穏やかに笑み、女教師の手を取って、優雅なしぐさで手の甲に接吻した。

「お世話になりました。プランケット夫人。このご恩は一生忘れません」

 とたんに、「おおっ」と、使用人たちがどよめく。

「若旦那さまが――」

「下町訛りが消えてる。上流クライン語のアクセントそのものだ!」

「たった一週間で。奇跡だ」

 エルンスト以下、真実を知る者たちは、腹の皮がよじれそうなのを必死で我慢している。

 馬車が車寄せに到着したとき、エドゥアールは、扉を開けようとする御者をとどめた。

「しばしお待ちください。先生がお発ちになる前にひとつだけ、しておきたいことがあります」

「なんですか」

「ユベール」

 彼は近侍の騎士を呼び寄せると、命じた。

「ご苦労だが、今から王都まで使いに行ってもらえまいか」

「王都へ?」

 ユベールは、澄んだ灰緑色の目を見張る。

「モンターニュ子爵に、この書状を渡してもらいたい」

 上着の内側から、谷ユリの紋章の封蝋が押された一通の手紙を取り出す。

「このラヴァレの領館へ、子爵ご一家を招待したいと――もちろん、令嬢もごいっしょに」

 一同が驚愕に凍りついている中で、イサドラだけが誇らしげにうなずいた。よくぞ決意したと言うように。エドゥアールも、無言でうなずき返す。

「それでは、わたくしも、ひとつだけ若さまにお願いしたき儀がございます」

「なんでしょう」

「その使者のお役目、わたくしに申しつけてはくださいませんか」

 イサドラは息を深く吸い込んで、朗々とした声で言った。「わたくしが王都に赴き、ミルドレッドさまを説得してまいります」





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