第一話
高校生生活も残すところあと数ヶ月、俺は大いに悩んでいた。なぜならば就職先が決定していないからだ。大学へ?もちろんそんなとこに行けるハズはない。今から試験勉強しても間に合う訳がないし、そもそもうちには大学へ行けるほどの金なんてない。じゃあなぜさっさと就職活動をしなかったのかって?理由は簡単だ。ただ面倒くさかった それだけだ。
「難儀だなぁ・・・」
昼飯を食いながらついそんな言葉が出てしまう。朝、家を出る前もお袋に就職はどうなのかと聞かれたし正直逃げ出したい気持ちだった。
「よお 時化た顔してどうした悠木?」
俺の前にヌッっと大きな影が現れる。柔道部の同期である斉藤だった。ゴリラのような体躯に人懐っこそうな童顔というちぐはぐな組み合わせをした気のいい奴だ。
「斉藤か・・・お前の就職先、国防軍だっけ?」
顔を上げつつ気怠そうだと自分でも自覚できる声で言う。すると斉藤がニッコリ笑いながら答える。
「おう 国防海軍だよ 国防軍の中じゃ一番メシが美味いらしいからさ それに軍艦に乗ることができりゃ外国に行くことだってできる。」
「お前 そんな理由で海軍に入るのか?もっとさ将来の事を考えてさぁ・・・」
「ふん 就職決まってない奴にそんなこと言われたかないね。俺はな外の世界に出てみたいんだよこの息苦しい国の外にな。」
「国の外ね・・・」
斉藤がいった国の外という言葉を反芻してみる。この国では富裕層を除けば海外に行くという事は一種のステータスとして見られていた。そのステータスを満たすには外資系企業の日本本社勤務になるか国防軍に入るのが一番の近道とされている。俺と同じように大学へ行けない斉藤は後者を選んだ訳だ。
「悠木もよぉ 軍に志願しちまえよ 海軍や空軍は倍率高いから俺みたいに前々から準備しとかなきゃ受からないかもしれないけど陸軍だったら年がら年中募集かかってるぜ。」
「陸軍って事務職以外は訓練が相当きついんだろ?ヤだよ 薄給でそんなとこでコキ使われるのは。民間企業がいい。」
そんなことをいってみたが俺たちみたいな層のしかも普通科高校出身で資格もなにもない奴がまともな企業に就職できる訳もないってことも理解していた。就職できるとするなら軍より給与体系の低い企業下請けの工場のライン製造職くらいなものだ。そんなところでも俺と似たような奴らが前々から応募しているため今更間に合うはずもない。今や俺は完全な就職負け組だった。
「そんなこといってもなぁ・・・警察や役所なんてのは大卒サマしかとっちゃくんないしなぁ消防なんてお前の嫌がってる訓練を毎日やってるようなとこだし・・・うーん」
斉藤は真剣に考えてくれているようだった。こいつのいいところは俺みたいなクズのこともバカにせずこうして親身になって心配してくれるところだ。
「そうだ 認警なんてどうだ?」
「ニンケイ?」
聞いたことのあるような言葉だったがよく憶えていなかった俺はオウム返しに聞き返した。
「お前知らねーのか?昔から言うだろ就職に困ったら軍か認警ってさ」
「だから認警ってなんだよ」
「特別認可警備企業 略して認警だよお前の大好きな民間企業だぜ。公務員より給料高いとこも多いって噂だ。たしか就職相談室に求職票きてたぞ受けるだけ受けみたらどうだ?」
斉藤はさすが一年前から就職活動をしていただけあってそこら辺の事情に詳しかった。
「へぇ警備会社かぁ いいかも」
「ああ在職中に色々資格とかも取れるらしいぜ 普通免許以外の自動車免許とか何かよく分からん資格まで色々。それに俺と違って辞めたいと思えばいつでも辞めれるしな」
資格 この言葉が大きかった。この国で学のない奴が人並み以上に生きてくには資格を多くとって手に職をつけるしかない職が気に入らなければそれだけ取ってやめてしまえばいい。
「ちょっと就職相談室行ってくるわ」
俺は椅子から立ち上がった。思い立ったら吉日。善は急げだ。
「あ でもな職務内容が・・・」
斉藤が何か言っていたがまた後で聞くと生返事を返して俺は就職相談室へ駆けだした。こんないい話を聞いたんだ飛びつかない話はない。負け犬になってたまるか。それにこんな時期まで求職票出しているなんて人手が足りていない証拠だ。きっとすんなり入社できる。そんな気持ちで一杯だった。
だが数日後俺はこの決断が大きな誤りであったことに気づく。