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暗闇の宴  作者: 蒼目ハク
4/5

目の奥

 男は悲鳴を上げた。朝、顔を洗おうと洗面所へ向かい、鏡を見た瞬間の出来事だった。

 右目の周囲に蚯蚓脹れが走っている。瞼は腫れ上がり、目は真っ赤に充血している。

 男は昨日から右目が痒かった。それは擦ったり目薬を点したりして治まるものではなかった。痒みは目の奥から来ている。だからと言って目の奥に指が届くはずもなく、その日はとりあえず目薬を点して眠りに就いたのだ。

 顔面には引っ掻き傷の痛みと目の奥の痒みとが混ざり合っていた。昨日より明らかに悪化している。瞬きする度に痒みが襲って来る。右目に手を伸ばしかけたが、引っ込めた。掻けるはずがない。

 これでは仕事にならないと、男は病院に行く事にした。しかし、


「原因不明ですね」


 医者は匙を投げた。どこをどう検査しても異常は見つからなかった。一応飲み薬と点眼薬を処方されたものの、気休め程度の効き目しかなかった。

 時間が経つにつれ、今度は左目の奥が痒くなり始めた。右目の痒みが移ったのだろうか。

 夜になった。男は家の者に後ろ手に縛るよう頼んだ。睡眠中、掻きたいという衝動に駆られて無意識に目の奥を引っ掻かない為の対策だった。今朝の、目玉をくり抜かんばかりの蚯蚓脹れを思い出して怖気立つ。

 床に入っても男はなかなか寝付けなかった。後ろ手に縛られた不自由な体勢というのもあるが、それよりも何よりも両目の奥の痒みだった。

 男は布団の上で芋虫のようにのたうち回った。


 痒い痒い痒い――掻きたい掻きたい掻きたい――。


 頭の中はそれらでいっぱいに埋め尽くされた。意識を他所へずらそうとしてもすぐに衝動が襲って来た。縛られた両手がもぞもぞと生き物のように蠢く。

 今すぐ縄を解いて目の奥を掻いてしまおうか。

 男は痒みという名の甘い誘惑に揺れた。

 瞼を押し上げ、指を突っ込み、痒みに到達して掻いた時の快感は計り知れないだろう。我慢を重ねた分、さぞや気持ちが良いだろう。たとえ想像を絶する痛みが走って血の涙を流そうとも、掻かずに後悔するよりはマシだと男は思った。

 そうなると、男は早速芋虫の動きをやめ、家の者を起こして縄を解くよう命じた。

 そして、自由になった指を伸ばし、目の奥を……。

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