第3片「Ready?」
更新遅くなりましたが
第3話です(>_<)
とりあえず、ゆっくりしてる訳にもいかなくて私とセシリアは早急に荷造りや身の回りの物を処分した。きっと…多分何かない限りもうこの国には帰ってこれない気がする。
私は出発する前に少しだけ国を回る時間をもらおうと思った。
「ミュラ様」
「どうしたのセシリア?」
少し休憩をしようとセシリアがお茶の準備をしに行ったが、すぐ戻ってきた。
「皇太子殿下がいらしゃいました」
「兄…殿下が?お通しして」
「はい、どうぞ殿下」
「ありがとう、お前達はさがっていろ」
「かしこまりました」
お付きの騎士をさがらして現れたのは爽やかな笑顔と見慣れた金髪。陛下譲りの顔立ちに私と同じ深い藍の目をした兄のラルファルスだった。
「急に訪ねてすまないね」
「気になさらないで。セシリア、殿下にお茶を」
「はい」
セシリアが出て行き扉が閉まると同時に、ラルファルス兄様は着ていた軍服を脱いだ。
「また、殿下は簡単に人前で服を脱ぐ」
「人を変態のように言わないでくれよ。いいだろ、兄妹なんだから。それに脱ぐのはお前の前くらいでだ」
「本当の事を言っただけです」
「はははっ」
ラルファルス兄様はいつも二人っきりの時は昔と変わらず接してくれる。それが嬉しくないと言われれば嘘になる。すると兄様は笑みを浮かべ私の橙色の髪を撫でた。
「母上譲りの太陽色だな」
「おかげで一部からは太陽の聖女なんて呼ばれてるけれど」
「聖女って柄じゃないだろ」
「失礼ね」
そういって笑い合う瞬間が私は好きだった。多分表情が出てたんだろう兄様は笑顔を引っ込めて私の目を真っ直ぐに見つめた。
「嫁ぐのは辛いか、ミュラ?」
優しい声音で言う兄様に私は決意が揺らぎそうになった。思わず俯く私に兄様は続けた。
「ミュラ、行きたくないなら行かなくても良いんだ。好きでもない男の嫁になるなんて、いくら王族に自由がなくても恋愛くらい自由にしたいじゃないか」
『―――――忘れないで』
はっと私は顔を上げた。「なっ?」っと言う兄様の言葉は今の私に届かなかった。懐かしい声だけが耳に木霊する。馬鹿だ、私。国を守るって決めたじゃないの。私の愛した人はこの国に眠っているのだから。
「…ラルファルス殿下」
「何?」
次は私が兄様の目を真っ直ぐに見つめる方だった。
「私は南の帝国へ行きます」
「そうか」
兄様の反応は意外とあっさりとしたものだった。すると、部屋の扉が開きティーポットを持ったセシリアが入ってきた。
「お帰りなさい」
「お待たせしました、すぐにお出ししますね」
「それじゃあ僕は戻ろうな」
「えっ?」
そう言って兄様は脱いでいた軍服を取ると、立ち上がり扉の方へ向かった。
「殿下?」
「お茶はよろしいのですか?」
「ああ、いただきたい所なんだがまだ執務が残っているから帰るよ」
「そうですか…」
もう、こんな風にゆっくりと話も出来なくなるのは少し…いやとても寂しく感じた。ふと頭を撫でられ、私は兄様を見上げた。
「僕はいつでもミュラの事を思っているよ」
きっと大勢の淑女が鼻血を噴き出すような言葉を言うと、誰にも気づかれないように私の手に何かを渡した。
「それじゃあね、ミュラ」
「あ…殿下」
「餞別代わりにしてくれよ」
私は目を見開きこっそりと手の中を見た。カタクリの花がちりばめられた琥珀色の石。見覚えがありすぎて私は一瞬言葉の紡ぎ方を忘れていた。
「あ…あ、あの」
「いつ渡そうか迷っていたけど今がいいだろ?」
軽やかに扉の向こう側へ行った兄様に私は頭を下げて、周りが凝視してくるのを気にせず叫んだ。
「ありがとうございました!!!」
兄様、私はこの国の事を忘れはしないわ。
なかなか進みませんね…
あと2話はさんで
ミュラは南の帝国へ行く予定です