第2片「answer」
頭が真っ白になるってこういう事なんだと思う。私は目を見開いたまま、父様の前で立ち尽くした。そんな私をみて父様は一瞬顔を歪ませた後、すぐにいつものように笑顔を浮かべた。
「ミュラ、無理することはないんだよ。急なのだから嫌なら断ったっていいんだ」
「……」
父様はなるべく優しい声音で私に語りかけた。
…そんな事出来るはずがない。
南の帝国であるアカシア帝国は緑豊かで、他国との貿易が盛んで軍事力もトップの国であり世界に莫大な影響力をもたらしている。ハンバレンのような小国が逆らえば、ものの見事に消されてしまう。
そんなの絶対イヤッ!!!
私はパッと顔を上げ、父様の瞳を真っ直ぐ見返し、口を開いた。
「国王陛下、私は―――――」
***
部屋に1人で戻るとセシリアが、飛びつかんばかりに私に迫ってきた。
それはもうすごい剣幕で。
「ミュラ様、如何様な話で?」
「ちょっとセシリア、口調が変わってるんだけど」
「え、あ…おほん。国王陛下はミュラ様にどのようなご用件で?」
どうやらこの様子だとセシリアは側室の件は知らないらしい。私は、奥歯を一度だけ噛みしめ、いつもと変わらない調子で答えた。
「陛下は、私を南の帝国へ嫁がせるんですって」
「……へ?」
「間抜けな顔ね、セシリア」
「冗談ですよね…?」
「私は婚約話を冗談で使わないわ、婚約とか恋愛とかに縁が無いんだから」
「それで…」
「ん?」
「答えはどうなされたんですか?」
「そりゃ受けたわよ」
「国王陛下、私は南の帝国へ嫁ぎます」
バンッ!!!
セシリアのテーブルを叩く音で私は現実に引き戻された。事実を聞いたセシリアは顔を真っ赤にして、やり場のない怒りをどこへぶつけようか迷っているようだった。
私もこんな風に感情に素直なら、違う答えが出たんだろうか。なんて冷静にセシリアを見てる自分に少し驚いて嫌気がさした。
「何故ですか…」
「なにが?」
「何故、断らなかったんですか!?断る事が出来なくても、考える時間をもらうとか何か方法があったはずです!!!」
「落ち着きなさい、セシリア」
「落ち着いていられますか!!!南の帝国に嫁ぐということは、貴女は帝国と同盟する為の道具にされるという事ですよ!?」
「落ち着きなさい」
私はセシリアを見据えて、彼女の手を取りはっきりとした声で言った。
「普通王家に生まれる女は、嫌と言うほど教養を叩き込まれて国を栄える為の貿易の道具として扱われるのが当たり前であって、私は例外なだけ。陛下は私を自由にのびのびと育てて下さった」
「……」
「だから、これは恩返しでもあるの。私を17年間自由にありったけの愛で育てて下さった陛下に対する恩返し。それにこの国には皇太子も居るのよ?」
「ミュラ様…」
私には5才年上の兄がいる。だから私が国を離れても、世継ぎに困らないし国は繁栄する。もし、側室の話を断って国を滅ぼすくらいなら、私は
「喜んで南の帝国へ嫁ぐわ」
思い切りの笑顔で言いきった。大丈夫、私はまだ立っていられる。
「それにセシリア、あなたも一緒に行ってくれるしね」
「え!?…私もですか!!!」
「そうよ、誰が新しい側室の世話をするの?」
そう言って腰に手を当てて偉そうに言えば、セシリアはため息をついて私を見返した。
「全く…貴女って人は。いいでしょう、ミュラ様が下手な真似をしないように目を光らせておきますからね!!!」
「ええー!!そんなあ」
私たちは顔を見合せて笑い合った。セシリアなら一緒に来てくれるって信じてた。
「さて早く準備しなきゃね!!!」
「何故です?」
「え、明後日には出発よ」
「聞いてないですよ!?」
「だって今言ったんだもの」
「ミュラ様!!!」
さてさて頑張ってやろーじゃないの。顔も知らない王子様?
読んでいただき
ありがとうございます!!!
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