第11片「fluctuate」
お待たせしました、11話です。
タイトルは動揺するです。
ルードビッヒは、前王が病死のため14才で王位を継いだ。側室はいたものの前王にはルードビッヒしか子供が居なかった。生まれた時から王となるため全ての事を教え込まれてきた。教養、政治、女の扱い方まで時間を犠牲にする代わりに自由以外はルードビッヒは全てを手に入れた。
地位、名誉、金、女。
見た目も良い事もあってかルードビッヒは沢山の女性が群がった。ほとんどが地位や名誉目的だったがルードビッヒは拒むことはせず来るものは全て手をつけた。
けれど避妊はしていた。子を成せば、産んだ女が特別になるからだ。だが、いつまでも臣下たちが黙っていない。ルードビッヒにはそんなのどうでも良かった。子供も女も国でさえも。
ルードビッヒは、全てに興味が無かった。王などただの責務であり、全てが手に入る代償に民を守り、国を守る責務なのだと。生きるのにさえ興味が無かった。
けれど、この時は違った。今までとは違う雰囲気を放つ女。
ーーーーーミュランツ。
ルードビッヒは目の前の女に初めて興味を持った。
***
「うわー、やっちゃったわ。やってしまったわ」
翌朝、ミュラは自室で机に突っ伏し項垂れていた。
そんなミュラを見ながら、セシリアは軽く溜め息をついた。まったくこの人はと思う反面、自分に素直に生きるのがこの人だと思った。ミュラは昨夜の事を思い出すのだった。
ーーーーど、どうしよう!?
ミュラはルードビッヒ、いや一国の王に馬乗りになったまま確実に動揺していた。
「ごめんなさい、いや、本当に申し訳ありません」
動揺しすぎて自分で何を言ってるか分からなかったが、とりあえず謝ってはいた。正直、ルードビッヒに謝るというよりは故郷にいる父や兄にだけれど。
急いでルードビッヒから離れ、ベッドの上でミュラは縮こまりながら正座した。ルードビッヒはというと、突然のことすぎてさすがに思考が止まっていたが南の大陸を統べる王なだけある。離れたミュラを一瞥したあと、体を起こし夜着を整えた。
「あの…えっと…」
ミュラは冷や汗を大量に流しているのを感じながら、そっと顔をあげ、ルードビッヒを盗み見た。すると、ルードビッヒはおもむろに立ち上がり部屋から出ていこうとした。
「あの、陛下!?」
思わず呼び掛けるミュラの方を見ることなく、ルードビッヒは冷静な声音で言った。
「…今夜の事は不問とする。気にするな」
ルードビッヒが出ていった扉を見つめながら、ミュラは勢いよくベッドに沈み込んだ。
「あーあ、やらかしてしまったわ。しかも陛下に」
「でも不問にされたんですよね?なら大丈夫なんじゃないですか?」
「そうかしら…」
沈んでるミュラを励ますようにセシリアはハーブティーを淹れ、カボチャのシフォンケーキと一緒に目の前に出した。
「わあ、カボチャのシフォンケーキだわ!!」
「はい。ミュラ様がお好きなので取り寄せておきました」
「ありがとう、セシリア!!」
美味しそうにシフォンを頬張りながら、ミュラは幸せそうな顔をした。
「もふぃかひぃふぁら」
「ミュラ様!!口に食べ物いれながら喋らないで下さい。お行儀が悪すぎます!!」
急いで口に入っていたシフォンを食べきるとミュラは、上機嫌で喋りはじめた。
「それに、陛下はきっと私に興味ないみたいだし。このままいけば後宮で穏やかに暮らしていけるわあ」
そしてふたたびシフォンを口に運ぶミュラをみながら、セシリアはこのまま上手くいかない気がしていた。特にこの後宮では。ミュラ様が大人しく暮らすなんてあり…
「ああああああああ!?」
「なな何ですか急に奇声を上げて!!ちょっとシフォンケーキ口から出てます。もう、汚いっ」
ミュラの叫び声にたいしてセシリアは急いで、口を拭かなきゃと思いタオルを渡すが、ミュラの顔色の悪さに目を剥いた。
「ミュラ様…一体」
「無いの!!」
「何がですか」
「どうしましょう」
「いや、だから何が」
「なくしてしまったわ!!」
「だから何が無くなったのですか!?」
ミュラは涙目になりながら、セシリアの方を見た。
「琥珀色の石よ」
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