表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/11

第一話 6

「はい、お願いします」……なんてハッキリとした返事ではなかったものの、加弥ちゃんは俺からの提案を快く(とまではいかなくとも、とりあえず嫌がった風ではなく)承ってくれて、ひとまず俺が傷つけちゃったワンちゃんは広場に残したまま、俺は加弥ちゃんと夜の道を歩いていた。

「謝るのが遅れちゃったけど、ごめんね。加弥ちゃんのワンちゃんをあんな風にしちゃって……」

「い、いえ、こちらこそあの子がすごく迷惑をかけたみたいで……」

「いやいやそんな事言ったらほら、俺、昨日の昼とか思いっきり嘘を吐いてたし」

「それも、元はと言えばこっちからかけた迷惑ですし……」

「いやいやいや、更にそんな事を上乗せされたらほら俺、元々肝試しの下見で命知らずに真夜中を歩き回ってたし」

 なんて謝罪合戦を演じ、とりあえず和睦という形で双方が納得をした辺りで、俺の母校となる中学校の近くを通りかかった。

「そういえば、加弥ちゃんってここの生徒だよね?」

「はい、そうですけど……」

「あー、懐かしいなぁ。かくいう俺も卒業生でね、ここの。在学中は変にブイブイ(死語)言わせてたんだ」

「へぇ、そうだったんですか」

「そうだったんですよ。まだ俺の知ってる先生っているのかなぁ。……加弥ちゃんの担任って、誰先生?」

「えっと、篠崎先生です」

「あーあー篠崎さん。よく声マネしてたなぁ。こう、『お前ら、せーよ』みたいな」

「ぷっ……」

「うわーひどい。笑われた。控えめに吹き出された」

「ごめんなさい、でも、あんまり似てないです……」

「なんだとー、これでも割と上手い方だったんだぞー、モノマネー」

 これ幸いと共通して知っている話題で親睦を深めようと試みる。その目論見は上手くいったようで、加弥ちゃんの表情も少し和らいでくれた。善き哉善き哉。

「そうそう、加弥ちゃんの家ってここからどれくらい?」

「えーと、大体……歩いて十分くらいです」

「おお、近くていいなぁ。俺なんかこっから反対方向に歩いて三十分くらいかかったぞ。しかも長い坂道あるし」

「あ、友達にもよく言われます。ずるい、家取り替えてって」

「やー、その友達の気持ちがよく分かるよ。差額の二十分、しかもそれが朝の二十分となると、重大さが増してくからね。例えるならまるで恋人と過ごす僅かな時間くらい重大だよ。恋人いないけど」

「どんな例えですかそれ」

「わーぉ、この子ったらまた俺の事を笑いやがっていらっしゃいますよ。きっと心の中では『何この人テンションと頭大丈夫かな?』とか思ってますよその笑顔はぁー」

「思ってないです思ってないです」

「じゃあ『やだこの人ユーモア溢れてマジイケメン!』とか?」

「思ってないです」

 ピシャリと切られた。お兄さん切ない。

「くすくす……」

 ショックを受けたようなリアクションで固まっていると、加弥ちゃんは控えめに笑ってくれていた。うん、やっぱりこれから一緒にアルバイト(?)をするんだし、同僚とはこういう温かな関係でいたいよね。

(しかしなんだかもうすっかりと死神のアルバイトを受け入れてる俺って……)

 心の隅っこの方でそう思ったものの、まぁ過ぎてしまった事は仕方ない。どう足掻いても死神の仕事を手伝わなきゃいけないみたいだし(ていうか命握られてるし)、やるならやるで前向きに楽しくやっていきたい。せっかくの異次元的非日常系イベントに巻き込まれてるんだし。

 プラス思考が身上。皇充八はそういう性格なのです。

 なんて事を考えつつ、控えめに笑う加弥ちゃんと中学でのあるある話をしてジェネレーションギャップを感じたりしながら歩く。そして住宅街に差しかかり、その一角にある家の前で加弥ちゃんは立ち止まった。

「ここが私の家です」

 その言葉通り、家の表札には「鈴原」という文字が刻まれていた。

「えっと、それじゃあ少し待っててくれますか? ケータイ、取ってきますから」

「はいは~い」

 俺の返事を聞き、加弥ちゃんは自宅に入っていく。ちょっと急いだような感じで。別にゆっくりでいいのに。

(なんていうか、いい子だなぁ……)

 手持ち無沙汰の待ち時間、ぼんやりと加弥ちゃんについて考える。ワンちゃんを庇ったりした事や、ここまで歩きながらの会話、その時の反応を見るに、あの子はとても大人しく控えめな女の子だった。何というか、嘘とか全然つけないタイプ。純真というか、素直というか……。

 あんな子が妹だったらさぞ可愛かろうに(変な意味でなく)。俺にも実際に2コ下の妹がいるけれど、まったく、少しは加弥ちゃんを見習ってくれってくらいに生意気だし。ていうかアイツは俺を兄……というか人として絶対に尊敬してない。

「お、お待たせしました……」

 妹に関してのあーだこーだを考えいるうちに、少し息を弾ませた加弥ちゃんが玄関から出てくる。

「いえいえ。そんなに急がなくても良かったのに」

「でも、目上の人を待たせるのは良くないって、よくお父さんから言われてますから」

 なるほど、親御さんのしつけがしっかりしてると、こんないい子が育つ訳なのか。

「うん、じゃあ急いでくれてありがとう」

 言いつつ俺は自分のケータイをポケットから取り出す。

「加弥ちゃんのケータイ、赤外線出来る?」

「はい、出来ますよ」

「ん、じゃあアドレス、送ってもらえる? そしたら俺、死神のアドレスと一緒にメールするから」

「はい」

 加弥ちゃんは淀みない手さばきでケータイを操る。俺はと言えば、赤外線受信はどこでやるんだったかと思い出しながら操作する。

「あ、出来た出来た。お待たせ」

 しばらく迷ってから無事に赤外線受信にまで辿り着いた俺は、ケータイの背面を差し出す。加弥ちゃんはそれに自分のケータイの先端部を向けた。

「……うん、オッケィ」

 画面には加弥ちゃんのアドレスを登録したとの旨が表示される。

「じゃあ俺からも」

「はい」

 その逆の手順で、俺もアドレスなどを送る。それから死神宛に加弥ちゃんのアドレスを添付したメールを送った。ほどなくして、加弥ちゃんのケータイから流行りの女性ポップシンガーの人気ナンバーが流れる。

「あ、死神さんから来ましたね、メール」

「早いなぁ返信。なんて書いてある?」

「えっと……『メルアド、ありがとうございます。それじゃあこれからよろしくお願いしますね、鈴原加弥さん。ああ、それからあの影についてですが、とりあえず今まで通りあの広場にいて大丈夫ですよ。出来れば名前とか付けて頂けると幸いです。いつまでも影ですとかワンちゃんですとかだと色々不便ですからね』……みたいな感じです」

 加弥ちゃんは文面を几帳面に読み上げたあと、ケータイをカチカチとタイプする。死神に返すメールを作っているんだろう。

「名前ねぇ……」

 加弥ちゃんのワンちゃんに対する接し方を見るに、名前とかとっくに付けてそうな気もするけど、どうなんだろ。

「あ、メール返ってきた」

 と、再び加弥ちゃんのケータイから着信メロディが流れる。

「何か死神に聞いたの?」

「はい。あの子が男の子か女の子かって事をちょっと」

「ふーん。それで、どっちだって?」

「女の子だそうです」

「……マジか」

 てっきりオスだと思ってた。

「えっと、それじゃあ名前は……」加弥ちゃんは可愛らしくうんうんと考え込んだあと、「ファリス……でどうでしょう?」

「や、俺に聞かれても」

「で、ですよね」

「でもまぁ、いいんじゃないかな? あとはワンちゃんがどう思うかだけど」

「はい、それは明日にでも聞いてみます」

 ファリス……ファリスね。オスだったらファルスって付けたのかな。

「ふぁ……」

 どうでもいい事を考えていると、加弥ちゃんが小さくアクビをする。

「あーごめん。なんか結構長々と話し込んでる感じがするけど、もう2時も半分過ぎちゃってるし、眠いよね」

「あ、いえ……」

「いやいや、良い子はもう夢の中にいて然るべきな時間だし、今日はこの辺りで解散にしますか。死神にアドレス送ったりもしたし、ね」

「えっと、それじゃあ、すみませんけど……はい」

 眠そうに目をこする加弥ちゃん。その幼げな仕草が妙にしっくりくる。

「いえいえ。じゃあ、これからも何かとよろしくね」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 そのまま眠ってしまうんじゃないかと思えるくらいに、深々と頭を下げられた。

「それじゃあまたね。おやすみなさい」

「はい、おやすみなさい」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ