第9話 校内で、こっそり魔法を使った
気づけば、椅子に座らされていた。縛られてたりとかは、ない。
警察署ではなくて校長室だった。警備員が出入り口を固めていて、校長先生は執務机に座り、目を細めてわたしを見ている。
頭痛はまだ残るけど、意識は結構はっきりしていた。なにがあったのか覚えてる、なにをしたのかも。
名前とか登録番号を聞かれたりして、そういう社交辞令のあとに校長先生は本題に入った。
「もう一人の生徒はすぐに出頭したよ。既に部屋に帰している。なのに君はこんな時間までどこでなにをしてたんだい?」
てことは先輩は無事なんだ、よかった。
「ええと、実はですね、鈴の誤作動にびっくりして駆け回ってたら眠くなっちゃって木の上で――」
「それは特異能力者安全管理装置。差別的な用語も下手な言い訳も控えないと共生庁に引き渡すことになるから発言には注意すること、わかったかな?」
返事も待たずに校長先生は付け足した。
「本当にそれに異常があるなら検査と交換が必要になるのだけれど、その間真藤さんを隔離する決まりでね、おそらく三ヶ月程度だけど、それでも構わないのなら言い分を聞くよ」
校長先生は机の上に手錠を放り投げた。ニタっと頬を歪めて、わたしを見ている。
きゅうっと頭が締まる。けど、堪える、堪えちゃう、もしかしたらやり過ごせるかも。
「……本当はわたしが自分の意志で魔法を使おうとしました。認めます」
「使おうと、つまり、試みただけで発動していない。早い話が未遂だと、本当だね?」
校長先生は机に手を置いて、軽く身を乗り出した。
「え、はい、そうです、部室では寸止めだった……はずです」
「そうか、ならよかった、それなら内々で処理ができる。気の緩みから能力が発動しかけた、しかしシステムが事前に察知したおかげで直前で食い止められた。管理装置は正常で、君にも悪意があったわけじゃない。事件は未然に防がれた、そういうことだね」
校長先生は椅子に座り直して、両手をパンと叩いた。
「よろしい。ならもう部屋に戻っていいよ。ああ、心配しないでいいよ、生徒にはまだ問題を起こしたのが君だとは伝えていないから」
「それだけ、ですか。罰とかないんですか、いつもは視聴覚室なのに」
「先生はね、なにもなかったと言っているんだよ。君だって馬鹿じゃないのなら理解できるだろう、さあ早く帰りなさい」
わたしを追い出すように校長先生は手を振った。
動かないでいると警備員がやってきて腕を掴まれた。痕が残るほどの強さで無理やり引っ張ろうとしてきたので、それを振り払って自分の足で出口に向かった。
後ろから声が聞こえてくる。
「あー、あの君と一緒にいたなんとかって三年生とはしばらく接触禁止ということで、それと占拠していた教室も立入禁止。次、面倒……問題を起こしたらここにはいられなくなるかもしれないから、そのつもりでね。そうなったら行き先はどこだろうね」
振り返らずに部屋を出て、引き戸を閉じるとバチンと音が鳴った。
ため息を吐いて、天井を見上げた。蛍光灯が、弾けるみたいな古臭い音を出していた。
なんか気持ちわる。ほんとはわたしの力なんて弱かったこと、知ってんじゃん。
胸の前で、手と手を合わせて器を作った。こっそり、豆電球くらいちっちゃなわたしの光を灯らせる。ぼんやり光るそれは、温度もないのになんか温かい。
「ふふ」
鈴が鳴ってくれなかったので、指先で叩いてあげた。
誰もいない廊下に、チリンっという透明な音が響き渡った。
部屋に戻って、飛びついてきた芽衣ちゃんに言った。
「いやぁ、困っちゃうよね、今日はマジでなんにもしてないんだよ。鈴の誤作動だって、しっかりしてほしいよね、ほんと」
「本当、なの。いつも先輩と……」
「ないない、やらないよ、先輩ってばいつも遊んでるだけだし。ふぅあ、たっぷり絞られて疲れちゃった、お風呂は朝入ればいいや、行ってきていいよ」
タオルセットと着替えを持たせて、芽衣ちゃんの背中を押した。嫌がってたけど、ちょっとだけ強めに押して部屋を出てもらった。
二日連続でシャワーなんてかわいそうだし。
「じゃ、いてらー」
バタンッと鉄っぽいドアが閉まった。
一人になったら、そのまんまの格好で二段ベッドの上に飛び込んだ。
枕を食べて「ぐぅふふ、夢じゃないよね」頬をつねってみる。
夢じゃない。
わたしだ。
あれが本当のわたし。
ずっと憧れてた、ずっとなりたかったわたし。
魔女はるか。
なんて、なんて、なんだろう、もう、くぅふふ、やばいちょうやばい。本当のホントにわたしなんだ。
くぅーくぅーと鳴き声が喉から出ていく。胸が熱くて熱くて油断してたら魔法が飛び出していっちゃいそう。
明日もどっかで試そう、毎日やっちゃおうかな。特訓して、もっと上手く扱えるようになっちゃって、それでそれで、ゆくゆくは。
「みんなを助ける魔女になる」
くるりと回って仰向けになる。胸に手置いて、深めに息を吐いた。
師匠みたいに、ううん、あの人がやらないことをわたしがやるんだ。




