第7話 『街の薬屋』
石ですり潰して作ったそれは――見た目だけなら、ただの泥だった。
イザナもダンも顔をしかめる。
「……おいラマティ、これ本当に効くのか?」
「薬っていうより、ただの泥だろ」
僕は震える手で包みを握りしめ、必死に言葉を返す。
「……効くよ。あの草は……夢で見たんだ。イザナを治したのも、これだから」
二人は顔を見合わせ、やがてため息をついた。
「まあ……信じるしかねぇな」
「売れなきゃ……そのときは酒代は諦めるしかない」
こうして僕たちは林道を降り、街へ向かった。
石畳の通りには行商人の声が響き、人々の活気が溢れていた。
奴隷の烙印を押されて追い出された僕らが、こんな場所に足を踏み入れていいのか――足がすくむ。
「なぁ、舐められるんじゃねぇのか? 包まれてるとはいえこんな泥薬持ってったら笑われるぞ」
ダンがぼやく。
僕の胸にも、不安が重くのしかかった。
だが、街の薬屋の戸を開けたとき――そこにいたのは皺だらけの優しい目をした老婆だった。
「いらっしゃい。あら……まあ、ひどい格好だねぇ」
老婆は僕らの身なりを見て眉をひそめたが、次の瞬間、柔らかく笑った。
「さあ、中へお入り。冷えてるだろう? 薬の相談なら、ゆっくり聞かせておくれ」
その声に、胸がじんと熱くなった。
僕は震える手で泥薬の包みを差し出す。
「これ……売れるでしょうか?」
老婆は眼鏡を押さえ、僕らの差し出した包みをじっと見つめた。
指先で器用に大麻の紙を剥がすと、中から現れたのは――どう見ても泥の塊。
「……おいラマティ、やっぱ泥にしか見えねえぞ」
ダンが顔をしかめる。
老婆は眉一つ動かさず、その泥をすくい取って鼻に近づけた。
しばらく香りを嗅ぎ、唇の端をわずかに上げる。
「ふむ……確かに見た目は泥だね。けど――悪くない。いや、よくできてるよ」
そう言って、腰の革袋から数枚の銀貨を取り出す。
机の上に、じゃらりと音を立てて置かれたのは――銀貨三枚。
「……銀貨三枚、ね」
イザナが顎に手を当て、にやりと笑う。
「婆さん、あと銅貨二枚つけてくれねぇか?」
「おいイザナ、何言ってんだ!」
ダンが慌てて肩を揺する。
「せっかく買ってもらえるだけありがてぇのに……」
けれどイザナは首を振った。
「俺は知ってる。この薬の効果は本物だ。だったら、二枚くらい上乗せしても安いくらいだ」
老婆は驚いたように目を細め、やがてくすりと笑った。
「……なかなか口が達者だねえ」
そう言って奥へ姿を消す。
数分後、彼女が持ってきたのは――綺麗に畳まれた服の束だった。
「銅貨はやれないよ。でも、これならどうだい。昔、うちを出て行った子の服だ。それと、裏に簡単なシャワーもあるから使っておいで」
「……マジかよ!」
ダンが目を丸くし、僕も思わず声を上げる。
ボロ布一枚しか持っていなかった僕らにとって、清潔な服と水浴びは、銀貨以上の価値だった。
「ありがてぇ……! 本当に、ありがてぇ……!」
服を胸に抱きしめる僕らを見て、老婆は皺だらけの顔に穏やかな笑みを浮かべた。




