第60話 『初めてのカレー』
奴隷小屋の外――。
路地を抜けて戻ってきたイザナが、両手いっぱいに袋を抱えて現れた。
「……ったく、食材なんざ適当に買えばいいと思ったが……案外かさばるな」
袋からは、人参や芋、玉ねぎ、肉の塊がのぞいている。
「カレー、作れるの?」
僕が目を瞬かせると、イザナは鼻を鳴らした。
「……どうせ煮込めば何とかなるだろ」
そう言いながら、布の袋をひとつ取り出して見せる。
袋の口を少し開けると、鼻をくすぐるようなスパイスの香りがふわりと広がった。
「こんなのも売ってたわ。店の奴いわく、これ入れるだけでいいらしい」
不器用に肩をすくめながらも、どこか得意げに笑う。
その後、僕は小屋の中を探し回り、錆びついた鍋や、ところどころ欠けた食器を掘り出す。
「これ……まだ使えるかな……」
イザナに見せると、彼はちらりと一瞥して鼻を鳴らす。
「……まあ十分だろ」
「じゃあ僕は火を起こすね!」
レイヴェルがぱっと赤い瞳を輝かせる。
軽やかに指を鳴らすと、パチッと火花が散った。
その直後、まるでマッチを擦ったかのように指先に小さな炎が灯る。
彼は楽しげに微笑みながら、その炎を乾いた木片にそっと触れさせた。
じわりと赤が広がり、次の瞬間――ぼうっと焔が立ち上がった。
「おぉ……すごい」
僕は思わず感嘆の声を漏らす。
「ふふん、魔法は得意だからね!」
レイヴェルが胸を張り、炎を調整していく。
焚き火の明かりが夜の空気を照らし、温かい匂いが少しずつ漂い始めた。
その横で、イザナが刺身包丁を取り出した。
野菜や肉を次々と手に取り――瞬視と三途ノ裁を発動させる。
刃が閃いたと思えば、固い芋も肉塊も、すべて同じ大きさにあっという間に切り揃えられていった。
「……さすがに速すぎない?」
僕は苦笑しつつ、瓶から水を注いで鍋に満たす。
レイヴェルは炎を細く伸ばしながら、その様子を横目に見て微笑んだ。
「便利だね、その能力。料理人としても一流になれそうだよ」
イザナは鼻を鳴らし、ぶっきらぼうに肩をすくめる。
「……戦場でも台所でも、切るもんを切るだけだ」
ぐつぐつと煮立つ音が広がり、スパイスの香りが夜気に漂う。
あっという間にカレーが完成し、その匂いに引き寄せられるように奴隷の子どもたちが小屋の外へと集まってきた。
「さ、順番にね!」
レイヴェルが笑顔で器に白米を盛りつけていく。
「はい、次の子!」
僕はその横でカレーをたっぷりとよそい、香り立つ湯気に子どもたちの顔がぱっと明るくなる。
一方のイザナはといえば、地べたに腰を下ろし、壁に背を預けてぐったりと座り込んでいた。
「……はぁ……もう動きたくねぇ」
その様子を見て、レイヴェルがくすっと笑う。
「さっきまであんなに格好つけてたのに。ねぇラマティ、ちょっとウケるよね」
「……うっせー」
イザナは片目を細めて睨み、ぶっきらぼうに手を伸ばす。
「いいから俺の分もカレー寄越せ」
「はーい!」
レイヴェルが元気よく返事をして、器に白米をよそい、カレーをどさっとかける。
湯気の立ちのぼる皿をひょいと差し出すと、イザナはそれを受け取り、ぐったりした体を起こして一口すくった。
もぐもぐ……と咀嚼し、しばし沈黙した後――。
「……こりゃ、うめえな!」
驚いたように目を細め、豪快に笑う。
「カレーなんざ初めて食ったけど……案外いけるわ!」
その様子に僕も思わず笑みをこぼす。
スプーンを手に取り、ひと口。
「……ほんとだ。美味しい……!」
カレーの旨みが口いっぱいに広がり、胸の奥までじんわりと満たされてる。
周りの子どもたちも次々とスプーンを手に取り、恐る恐る口へ運んでいく。
途端に目を丸くし、「……美味しい……」と呟く声。
涙をこぼしながら夢中で食べ続ける子もいれば、声を上げて笑い出す子もいた。
小さな輪の中に、久しく忘れられていた温もりが広がっていく。
「ねっ、言ったでしょ?」
レイヴェルが胸を張って笑う。
「まだまだおかわりあるからね! 遠慮しなくていいんだよ!」
「……さすが王族だな」
カレーを頬張りながら、イザナがぼそりと呟く。
……またそれ言ってる。
僕は心の中で苦笑しつつも、子どもたちの楽しげな顔を見て自然と頬が緩んだ。
ダン「おいおい、気づいたら10万字突破だってよ! すげーじゃねぇか!」
イザナ「……まあ、よくここまで飽きずに書いたもんだな」
ラマティ「えっと……本当にありがとうございますっ! ここまで続けられたのも、読んでくれる皆さんのおかげです!」
ダン「お! 礼は大事だな! でもよぉ、ここまで来たら……ブクマと評価もしてくれたら嬉しいぜ!」
イザナ「……そうだな。数字ってやつは、意外と作者のやる気に直結するからな」
ラマティ「も、もうっ! 二人ともまたそんなこと言って……。……でも、その……よかったら、ブクマと評価……お願いしますっ!」




