表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】全知の書庫アカシックレコードの継承者  作者: 刻彫
第三章 『竜と奴隷の建国記』
58/68

第56話 『路地裏の子どもたち』

 おばあさんは、僕を抱きしめたまま、ゆっくりと顔を上げた。

 その皺だらけの目には涙が光っていた。


「……嬉しいよ。本当に……。あんたたちが無事で、そして……そんな大きな役目を背負うようになったなんて……けどね……わたしがいなくなったら……路地裏の子たちに薬を分けてやれなくなるんだよ」


「……路地裏の子……」


 ――盗人を追ったときに入った、あの狭い路地裏。確かにあそこには、ぼろ布をまとった貧しい人たちや、鎖の痕を残したままの子どもたちがいた。

 きっと、奴隷小屋から逃げてきた子たちだったんだろう。

 

「そうさ。あそこにいる子どもの多くは……奴隷小屋から逃げてきた子なんだよ。わたしはせめて……あの子たちだけでも助けてやりたかった。それなのに、ここを離れたら……」


 言葉はそこで途切れ、唇が固く結ばれた。


 イザナはしばし黙っていたが、やがて低く息を吐いた。

「……心配すんな。俺とラマティは――あの奴隷小屋から追放された身だ。だからこそまず、あそこにいる奴らは、全員……解放する」


 短く言い切り、さらに続けた。

「ついでに路地裏のガキも、まとめて解放だ」


 おばあさんは目を丸くし、そして小さく首を振った。

「……そんな、簡単に言うけどねぇ。奴隷制度に楯突くなんて……命がいくつあっても足りやしない」


 だがイザナは鼻で笑い、視線を逸らさない。

「別に働いてもらうだけだ。薬屋でも畑でも、やることはいくらでもある。俺の国の人口は増えるし、路地裏で野垂れ死ぬよりよっぽどマシだろ」


 言葉は冷徹に聞こえるのに、その奥には確かな熱があった。


「……それに」


 僕を見て微笑んでいたレイヴェルが、すっと前へ出る。

 赤い瞳がまっすぐにおばあさんを射抜き、無邪気さの奥に王族らしい威厳が宿る。

 

「イザナの言う通りだよ。僕はルミナリア自由連邦の王子だ! 奴隷制度には反対しているし、実際に段階的な廃止に向けて動いている」


 その声音はいつもの無邪気さを潜め、王族としての凛とした響きを帯びていた。

「だから心配はいらないよっ」


 おばあさんは思わず口を覆い、赤く濡れた目を瞬かせた。

「……あんたたち、本当に……とんでもない子たちだねぇ」


 レイヴェルはにかっと笑って、片目をぱちんとウインクする。

「でしょ?」

 赤い瞳がきらっと輝き、子どもっぽい無邪気さが一瞬だけ戻る。


「……よし、じゃあ行くか」

 イザナは長衣の裾を払うようにし、真っ直ぐおばあさんを見据えた。

「奴隷を解放したら、必ずまたここに戻る。それまでに――うちの国に来るかどうか、考えておいてくれ」


 おばあさんの腕をそっと離し、涙に濡れた瞳で見上げる。


「おばあさん……ありがとうっ! また後でね!」


 おばあさんは静かに頷き、皺だらけの手を振った。

 三人はその温もりを背に受けながら、森の奥へと歩み出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ