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【完結】全知の書庫アカシックレコードの継承者  作者: 刻彫
第三章 『竜と奴隷の建国記』
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第55話 『薬屋の再会』

 白光が弾け、視界が一瞬ねじれる。

 次の瞬間――僕たちはグラディアの街路に立っていた。


 行商人たちの声、香辛料の匂い、石畳を踏む靴音。かつてと同じ喧騒が広がっている。

 だが、胸の奥に走るざわめきは、初めてここに来た日のものとは違った。


「……ここは……」

 視線が止まる。そこに建っていたのは――。


 木の看板と、古びた戸口。

 薬草の香りが漂う、あの薬屋だった。


 お世話になった、あの場所。

 シャワーを借り、服をもらい……そして、初めて人間として扱われた記憶。


「おぉ、今度は成功した」

 レイヴェルがぴょんと跳ねて歓声を上げる。赤い瞳が無邪気に輝き、子どものように興奮していた。


「……転移魔法か、さすが王族だな」


 そのとき、古びたドアがきぃと音を立てて開いた。

 現れたのは――あのときと変わらぬ、皺だらけの優しい目をした薬屋のおばあさんだった。


「……まあ。やっぱり……君たちなのかい?」

 驚きに揺れる声。

 胸がきゅっと締めつけられた。


「……っ……おばあさん……」

 名前を呼ぶだけで、声が震えた。


 次の瞬間、おばあさんは小走りに近づき、ためらいもなく僕を抱きしめた。

「よかった……本当によかったねぇ……! 無事で、生きていて……」


 イザナはわずかに目を細め、静かにその光景を見守る。

 レイヴェルでさえ、赤い瞳を瞬かせたあと――ふっと小さく笑みをこぼし、一歩下がって見守った。


「う……うぅっ……」

 僕はおばあさんの胸に顔を埋め、こらえきれずに大号泣した。嗚咽が次々と溢れ出し、細い肩が小刻みに震える。


 おばあさんはそんな僕を優しく抱きしめ、背をとんとんと叩きながらしみじみと呟いた。


「……まあ。黒い服なんて着ちゃって……すっかり大人になったねぇ」


「……っ……でも……でも……僕は……全然……!」


 涙で言葉が途切れ、声は子どものように掠れる。

「全然強くなれてなくて……っ……ずっと、怖くて……情けなくて……っ!」


 薬草の香りが懐かしく鼻をくすぐり、肩口に当たる皺だらけの手が温かい。

 その瞬間、目から涙がつぅっと零れ落ちた。


「……おばあさん……っ」

 声は震え、唇が噛みしめられる。

 

「――ただいまっ……!」

 こらえきれず、ぽろぽろ涙がこぼれたかと思うと――。

「ひぐっ……うぇぇぇぇん……! ぶえぇぇぇ……っ!」

 子どものようにしゃくりあげ、顔をぐしゃぐしゃにしながら泣きじゃくる。

 声はか細いのに必死で、胸にすがりつく姿は痛ましくも愛らしい。


 その後で、レイヴェルも静かに涙を流していた。


 その光景をしばし見守っていたイザナだが、やがて口を開いた

「……感動の再会に水差すみてぇで悪いんだがな」


 片眉をわずかに上げ、真剣な眼差しをおばあさんに向ける。

「婆さん、俺たちの国で働かないか?」


「……え?」

 驚きに目を丸くするおばあさん。


 イザナは腕を組み、簡潔に説明を続ける。

「いまリブラリアの砂漠地帯を、ルミナリアが投資して開発してる。その土地が耕せるようになれば――最終的には俺たちの国になる。だが、薬や医療の知識を持つ人間が圧倒的に足りねぇ」


 鋭い声色とは裏腹に、その目はまっすぐだった。


「……あんたの力が、必要だ」

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