第55話 『薬屋の再会』
白光が弾け、視界が一瞬ねじれる。
次の瞬間――僕たちはグラディアの街路に立っていた。
行商人たちの声、香辛料の匂い、石畳を踏む靴音。かつてと同じ喧騒が広がっている。
だが、胸の奥に走るざわめきは、初めてここに来た日のものとは違った。
「……ここは……」
視線が止まる。そこに建っていたのは――。
木の看板と、古びた戸口。
薬草の香りが漂う、あの薬屋だった。
お世話になった、あの場所。
シャワーを借り、服をもらい……そして、初めて人間として扱われた記憶。
「おぉ、今度は成功した」
レイヴェルがぴょんと跳ねて歓声を上げる。赤い瞳が無邪気に輝き、子どものように興奮していた。
「……転移魔法か、さすが王族だな」
そのとき、古びたドアがきぃと音を立てて開いた。
現れたのは――あのときと変わらぬ、皺だらけの優しい目をした薬屋のおばあさんだった。
「……まあ。やっぱり……君たちなのかい?」
驚きに揺れる声。
胸がきゅっと締めつけられた。
「……っ……おばあさん……」
名前を呼ぶだけで、声が震えた。
次の瞬間、おばあさんは小走りに近づき、ためらいもなく僕を抱きしめた。
「よかった……本当によかったねぇ……! 無事で、生きていて……」
イザナはわずかに目を細め、静かにその光景を見守る。
レイヴェルでさえ、赤い瞳を瞬かせたあと――ふっと小さく笑みをこぼし、一歩下がって見守った。
「う……うぅっ……」
僕はおばあさんの胸に顔を埋め、こらえきれずに大号泣した。嗚咽が次々と溢れ出し、細い肩が小刻みに震える。
おばあさんはそんな僕を優しく抱きしめ、背をとんとんと叩きながらしみじみと呟いた。
「……まあ。黒い服なんて着ちゃって……すっかり大人になったねぇ」
「……っ……でも……でも……僕は……全然……!」
涙で言葉が途切れ、声は子どものように掠れる。
「全然強くなれてなくて……っ……ずっと、怖くて……情けなくて……っ!」
薬草の香りが懐かしく鼻をくすぐり、肩口に当たる皺だらけの手が温かい。
その瞬間、目から涙がつぅっと零れ落ちた。
「……おばあさん……っ」
声は震え、唇が噛みしめられる。
「――ただいまっ……!」
こらえきれず、ぽろぽろ涙がこぼれたかと思うと――。
「ひぐっ……うぇぇぇぇん……! ぶえぇぇぇ……っ!」
子どものようにしゃくりあげ、顔をぐしゃぐしゃにしながら泣きじゃくる。
声はか細いのに必死で、胸にすがりつく姿は痛ましくも愛らしい。
その後で、レイヴェルも静かに涙を流していた。
その光景をしばし見守っていたイザナだが、やがて口を開いた
「……感動の再会に水差すみてぇで悪いんだがな」
片眉をわずかに上げ、真剣な眼差しをおばあさんに向ける。
「婆さん、俺たちの国で働かないか?」
「……え?」
驚きに目を丸くするおばあさん。
イザナは腕を組み、簡潔に説明を続ける。
「いまリブラリアの砂漠地帯を、ルミナリアが投資して開発してる。その土地が耕せるようになれば――最終的には俺たちの国になる。だが、薬や医療の知識を持つ人間が圧倒的に足りねぇ」
鋭い声色とは裏腹に、その目はまっすぐだった。
「……あんたの力が、必要だ」




