第52話 『裁きの果て』
静寂が落ちた。
血と絶叫に満ちていた牢獄に、光の残滓が漂っていた。
僕の手にあった小瓶が――ぐらりと揺れた。
急に何倍も重くなったかのように感じ、支えきれず指の間から零れ落ちる。
その瞬間、彼を包んでいた光がふっと掻き消える。
大きく伸びていた体も急速に縮み、元の華奢な姿へと戻っていく。
「あ……ぁ……」
胸を押さえ、喉を震わせる。
全身を駆け巡るのは、焼けるような痛みと――精神を抉られるような疲労。
足元が崩れ落ちるように力を失い、膝を突いた。
視界が傾き、冷たい石床が頬に触れる。
「あ……落ちる……」
か細い声が零れると同時に、意識が闇へ沈もうとした。
――その時。
肩を揺さぶる温もりがあった。
霞んだ視界の先に、血に塗れた男の顔がある。
「……ラマティ……!」
イザナだった。傷だらけの体を引きずりながら、必死にこちらを抱き起こしている。
「あ……イザナ……よかった……」
唇が震え、涙が混じる。
「……王子は……」
掠れる声で問う。
「無事だ。……マルタの婆さんが保護してるはずだ」
「……そう……よかった……」
安堵に揺らいだ瞬間、全身から力が抜ける。
その小さな体は、イザナの腕の中で崩れ落ち、静かに意識を手放した。
「……気絶したのか?」
「ったく……またかよ。ハーメルンの時も、結局俺が駆けつけなきゃ……」
ぶつぶつと文句を漏らしながら、背に僕の身体を背負い上げる。
その時――耳元で、か細い寝言が漏れた。
「……あり…………と……みん…………な……」
「……あ? ……なんだ、わけわからねぇこと言いやがって」
イザナは呆れたように小さく息を吐くと、血と死臭に満ちた王座の間を振り返りもせず、二人の影は静かに闇へと溶けていった。
――第二章、完。
次章へ続く。




