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【完結】全知の書庫アカシックレコードの継承者  作者: 刻彫
第二章 『贖罪の葬列編』
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第48話 『千の目と瞬視』

 瞬間――イザナの瞬視が発動。

 コンマ単位で迫る軍刀の軌道が見える。

 刃と刃が交錯する直前、身体はもう動いていた。


「……遅ぇな」


 振るった刃が一体を裂き、影は黒い霧となって掻き消える。

 だが――すぐに同じ姿が再び湧き、立ち上がる。


 四方から軍刀が迫る。イザナは身をひねり、紙一重で避ける。

 だが、背筋に熱い痛みが走った。


「ッ……!」


 斜めに裂かれ、血が滲む。だが芯は外している。


「くそッ! 本体はどこだ……!」


 呻く声に、背後から低い嗤いが返った。

 牢獄の薄闇――気配もなく立っていたのは、軍刀を担ぎ上げたアズマ。

 ぎょろりと動く右目が、不気味にイザナをなぞる。


「おじさんの刃は、どこにでもあるのさ。……雲のようにな」


「……革命家のくせに、やることが卑怯だな」


 アズマは唇の端をゆっくりと吊り上げた。

 

「……革命に卑怯も正義もない。あるのは、勝利か敗北か――それだけさ」


 不気味に嗤う声が牢獄に反響する。


「ったく……革命おじさんがよ」


 イザナは血を吐き捨て、背後を振り返りながら低く構えた。

 次の瞬間――七つの影が一斉に飛びかかる。

 刃の群れが閃光のように襲いかかり、息をつく間すら与えない。


 ……だが。

 その中に――ほんの一つだけ、わずかな遅れがあった。

 コンマ0.001秒。本人ですら気づかぬ程度の、刃の軌道の揺らぎ。


 イザナの眼が光る。

 瞬視が、時の隙間を切り取る。


「……見つけた」


 刹那、刃が閃いた。

 狙い澄ました一撃が、ただ一人――本物へと叩き込まれる。


「――ッ!」


 軍刀が悲鳴のように火花を散らし、アズマの肩口に浅く食い込んだ。黒い外套が裂け、赤が滲む。


 七つの影が同時に霧散する。

 牢獄の闇に、ただ一人の男の姿が残った。


 アズマは口元を歪め、ぎょろりと右目を動かす。


「……ほう。おじさんの影を見破ったか」

 

 声に苦悶はなく、むしろ愉悦が混じっていた。

 イザナは息を荒げ、血の滴る刃を構え直す。

 

「……本体を隠すには、ちょっと雑だったな」


「雑、か……」


 アズマの口元に浮かんだのは、冷ややかな笑み。


「訂正しよう。――あれは試金石にすぎん。まぐれで掠めただけだろう。貴様に、そんな芸当ができるとは思えんからな」


 ぞわりと、牢獄の空気が揺らぐ。

 黒煙が再び立ちこめ、アズマの影が倍にも膨れ上がっていく。

 さきほどの七ではない。十……いや、十五。


「今や最後の戦いに――勝利の旗はひらめかん」

 その声が、牢獄を埋め尽くす幻影を操る。


 イザナは唇を噛み、低く吐き捨てた。


「……クソッ、やっぱり“革命おじさん”はタチが悪ぃな」

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