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【完結】全知の書庫アカシックレコードの継承者  作者: 刻彫
第二章 『贖罪の葬列編』
35/68

第34話 『夢の残滓と路地裏のアンティークショップ』

 ――はっ。

 全身が汗に濡れていた。喉は渇き、心臓はまだ暴れ馬みたいに暴れている。


 ……夢、だったのか?


 額を押さえながら、僕は荒い息を整える。視界に飛び込んできたのは、差し込む朝日の眩しさだった。

 市場には行商の声が響き、子どもたちが駆け回り、焼きたてのパンの匂いが通りを満たす。


 それでも、頬を大粒の涙が伝っていた。止めようとしても止まらない。


「……おい」

 低い声に顔を上げると、窓辺に立つイザナがこちらを見ていた。

「おはよう。どうした、お前……悪夢でもみたのか?」


 僕は慌てて袖で涙を拭った。

「……ダンは?」


「寝てる」

 イザナは視線をベッドの方に向ける。彼の大きないびきが部屋中に響いていた。


 やがて、ダンも大きなあくびをしながら上体を起こす。

 こうして僕たちは、四人そろって宿屋を後にした。


 通りに出ると、さっそく陽気な行商人が声を張り上げる。

「新鮮な果実だよー! 今朝採れたばかりだ!」

 子どもたちが笑い声を上げて走り抜け、広場では大道芸人が小さな火花を散らして人々を沸かせている。


「……なぁ、昨日のあれが嘘みてぇだ」

 ダンが首をかしげ、鼻をひくつかせる。

「肉の匂いもする! うおー、腹減った!」


「……浮かれるな」

 イザナが低く制したが、その声にはわずかに硬さが混じっていた。


 僕は思わずダンの顔を見つめてしまった。

 ――夢の中で、彼は……。

 昨日のショッキングな光景が胸の奥によみがえり、喉が熱くなる。泣きそうになったその時、ダンが怪訝そうに眉をひそめた。


「……なんだよ、変な顔して」


「……っ……なんでもないよ」

 慌てて笑顔をつくるが、頬の奥がぴくりと震えるのを止められなかった。


 老婆足取りこそゆっくりだが、背筋を伸ばしながら街並みに目を細める。

「……これが、昼の顔さ。みんな知らんふりをしてるんだよ。夜の出来事も……きっと心の底では気づいてるのにね」


「……うん。見て見ぬふり、ってこと……なんだね」

 思わず僕は小さく答えた。明るい笑い声が響く広場に、昨日の虚ろな影を重ねながら。


 イザナは人々の流れを観察していたが、やがて低く呟いた。

「一応、念のためだが……武器が欲しいな。アクレイアさんから貰った銀貨は少ししか残ってないが」


 すると、老婆が顔を上げる。

「……それなら心当たりがあるよ。昔からやってるアンティークショップがあってね。妙な品ばかり置いてるけど、掘り出し物もある」


「骨董店かよ。おいおい……俺が欲しいのは武器なんだが」


「いいから、行ってごらん。時には“ガラクタ”の中に、本物が眠ってるもんさ」


◆◆◆

 

 案内されたのは、大通りから外れた細い路地裏だった。

 両側に積み上げられた樽や木箱が壁のように並び、その奥にひっそりと小汚い扉がある。板は色あせ、錆びた取っ手には蜘蛛の巣がかかっていて――どう見ても「店」には見えない。


「……ここ、か?」

 イザナが訝しげに目を細める。


「そうさ。見た目に騙されるんじゃないよ」

 老婆は軽々と扉を押し開けた。


 ぎぃ……と鈍い音が響き、中へ足を踏み入れると――一瞬で空気が変わった。

 薄暗い外観とは裏腹に、店内は天井まで届く棚がずらりと並び、古代の装飾品や錆びた武具、奇妙な瓶、地図の切れ端までが所狭しと並んでいる。

 壁にかかったランプがぼんやり灯り、色とりどりのガラスに反射して、不思議な輝きを放っていた。


「うおおおっ……! なんだここ……宝の山じゃねえか!」

 ダンが目を輝かせ、鼻息を荒くする。


 僕も思わず息を呑んだ。

 埃と古紙の匂いの中に、妙に澄んだ気配がある。――ただのガラクタじゃない、確かに“何か”が眠っているような……そんな気配が確かにあった。

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