第30話 『夕暮れの城門、赤面の婚約者』
夕暮れ。空は茜色から群青へと変わり、砂漠と平原の境目に、巨大な城門がそびえていた。
砂に半ば埋もれながらも、石造りの門は威圧的で、その上には槍を構えた兵士たちが列をなしている。
門前には旅人や行商の列ができており、検問を受けては一人、また一人と中へ入っていった。
やがて僕たちの馬車も列の先頭に進む。
門番が鋭い目を向け、無愛想に声を発した。
「身分を証明しろ。……それと、その老婆は何者だ?」
老婆がびくりと肩を震わせる。
だが御者台のイザナは落ち着き払った様子で、懐から二枚の書状を取り出した。
「免税証と通行許可証だ。発行者は……レイヴェル・アルディア王子殿下」
淡々と告げ、門番の鼻先に突きつけるように差し出す。
門番は一瞬、眉をひそめた。
「……アルディア王子、だと?」
仲間の兵と小声で言葉を交わし、紙を透かすように確かめる。
沈黙が流れる。
背後で老婆の震えが伝わってきて、僕は思わず瓶を抱きしめた。
ダンは「やべぇぞ……」と小声で呟き、拳を握る。
門番の視線が鋭くこちらに突き刺さる。
「……荷台に乗ってる黒いガキと、華奢な女はなんだ?」
ダンが「誰がガキだ!」と噛みつきかけた瞬間、イザナが先に口を開いた。
「そいつは荷物運び担当だ。見ての通り力だけはある」
「おい!」
ダンが声を荒げるが、イザナは無視して続ける。
「――で、この女はアルディア王子殿下の第一婚約者だ」
「……っ!?」
僕は思わず声を詰まらせ、顔を真っ赤にした。
「な、なに言って……!?」
門番が目を丸くし、兵士たちの間にざわめきが走る。
「お、王子の……第一婚約者……?」
イザナは表情ひとつ変えず、淡々と返す。
「そうだ。通すか、通さないかは好きにしろ。だが責任はお前たちが取ることになる」
門番の視線が、荷台の奥に向かう。
そこで彼の目が止まった。
白いドレスに金の髪、水色の瞳。
この街に似つかわしくない、まるで絵画から抜け出したような存在――。
「……ひ、ひぃ……」
思わず身を縮め、瓶を胸に抱きしめる。兵士たちの視線が突き刺さり、背筋がぞわりと震えた。
門番の喉がごくりと鳴り、乾いた笑いが零れる。
「……なんだよ、その……ほんとなら……やべぇ話じゃねぇか……」
仲間と視線を交わし、最後には肩をすくめる。
「よし、通れ!」
石造りの巨大な門からは、夕闇の中へと道が延びていた。
僕はまだ頬を熱くしたまま、思わずイザナを振り返る。
「な、なんでそんなこと……!」
思わず声を上げると、イザナは手綱をさばきながら、涼しい顔で鼻を鳴らした。
「まあいいじゃないか。どうせよくわからん“つがいの約束”もしてるんだろう」
「つ、つがい……!? だ、だから僕は男だから子ども産めないんだってば……!」
顔が真っ赤になって、思わず声が裏返る。
ダンが荷台から身を乗り出し、大きく鼻を鳴らした。
「うおおお! パンの匂いだ! それに肉! 甘ぇ匂いまで漂ってくるぞ!」
目を輝かせ、腹をぐうぐう鳴らしている。
気づけば、城門を抜けた先には平和な街並みが広がっていた。
石畳の大通りに、露店がずらりと並ぶ。焼きたてのパンを売る店、果実を絞った甘い酒を振る舞う屋台、子どもたちが笑いながら駆け回る広場。
さっきまで老婆の話に震えていた心が、思わず緩むような光景だった。
やがて、夕暮れの色が群青に変わり、砂漠を吹き抜ける風は少しずつ冷えを帯びてくる。昼間の熱気が嘘のように引き、肩をすくめたくなるほどの涼しさが忍び寄っていた。
「……とりあえず宿を探すか」
イザナが低く言い、手綱を軽く引いた。
夜の気配と冷たい風を背に受けながら、僕たちの馬車は街の喧騒へとゆっくり進んでいった。
ラマティ「……えへへ、9日で30話まで来ちゃった……。ページビュー数は1794回も……それに、累計ユニーク数では480人もの人が読んでくれてるんだって……! ブクマしてくれた人も……ありがとっ!」
イザナ「……フン、数字を並べるな。だが――ブクマしてくれた人たちが読み続けてくれてるのは事実だ、感謝する。続ける理由になるからな」
ラマティ「うんっ……! 本当にありがとう……!」




