第27話 『水を乞う老婆』
砂漠と平原の境界に、一本の道が延びていた。
あまり整備されていないその道を、イザナは馬車を慎重に走らせていく。
荷台の中で、僕は小瓶に注いだ水を少しずつ口に含んでいた。乾いた喉を潤すたび、胸の奥にじんわりと安堵が広がる。
向かいに座るダンは、目の前で大の字になって眠りこけている。大きな体が荷台いっぱいに広がり、いびきが時折木箱を震わせた。
その時――。
馬車が急に止まり、前につんのめる。
「うわぁっ!? な、なんだぁ!?」
荷台で大の字になっていたダンが飛び起き、頭をぶつけて呻いた。
「……っ、なに?」
驚いて顔を上げると、御者台のイザナが険しい目で前を見ていた。
視線を追うと、道端に一人の老婆が座り込んでいた。
ぼろ布をまとい、干からびたような顔は骨と皮ばかり。
見るからに今にも倒れそうで、か細い声がこちらへ伸びてきた。
「……水を……水を恵んでおくれ……」
僕は息を呑み、思わず瓶を抱きしめる。
その時、御者台のイザナが低く言った。
「水なら腐るほどある。……やれ、ラマティ」
僕はためらわず馬車を飛び降りた。
老婆の背にそっと手を添え、小瓶の口を唇へ近づける。
「……どうぞ……少しずつ、飲んでください」
瓶からあふれる澄んだ水が、かさついた唇を濡らす。老婆は目を見開き、ごくごくと喉を鳴らして飲み干した。
ほんの数口で、しぼんでいた声に力が戻り、頬にうっすらと血色さえ差していく。
「……あぁ……生き返るようだよ……おやまぁ……金の髪に、水のように澄んだ目……まるで女神様みたいだねぇ……」
僕は小さく息をつき、老婆の肩を支えながら立ち上がらせると、そのまま馬車へと導いた。
ダンが大きな手で手伝い、老婆を荷台へ乗せる。
御者台から降りてきたイザナは、老婆の正面に腰を下ろした。
顎に手を添え、じっとその様子を見つめる。
「……助かったな」
短くそう言い放ち、間を置いて続ける。
「――で、婆さん。事情を聞かせてもらおうか」




