表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】全知の書庫アカシックレコードの継承者  作者: 刻彫
第二章 『贖罪の葬列編』
24/68

第23話 『狂戦士の目覚め』

 王都を離れて二日目の午後。

 最初こそイザナのぎこちない手綱さばきに振り回され、馬車に酔って青ざめていたけれど、次第にコツを掴み、今ではだいぶ慣れてきて、僕も揺れに身を任せられるようになっていた。

 昼夜交代でイザナとダンが御者台に座り、馬を操ってくれている。そのおかげで、僕はこうして安心して荷台に身を置けるのだ。二人には本当に感謝している。


 その代わりに――僕は馬車を止めてもらい、きれいな川や沢を見つければ寄り道して薬草を摘んだ。アカシックレコードが導く知識に従って指先を伸ばすと、見たこともない草の効能が頭に流れ込み、自然と手が動いていく。

 気づけば、《調合士》というスキルが新たに刻まれていた。


 前みたいにぐちゃぐちゃに混ぜるんじゃない。今は瓶に清潔に詰め、十個近くが並んでいる。小さな薬箱を開ければ、彩り豊かな草や粉末がきれいに収まっていて……まるで本物の薬師みたいだ。


 ダンも起きているときは「おーし、俺に任せろ!」と手伝ってくれる。褐色の肌に笑い皺が刻まれ、ニコッと笑った顔は白い歯がやけに映えて眩しい。その大きな手で瓶を押さえてくれると、馬車がどれだけ揺れても中身がこぼれる気がしなかった。


「……ふぅ。とりあえず休憩しよ。調合って意外と疲れるんだよぉ」

 僕が伸びをすると、ダンが大げさに笑う。

 

「だな! ……そもそも最初に言い出したのはイザナだろ? 行商やろうぜ! とかさ。薬も、あの婆ちゃんのとこに持ってって鑑定してもらって、量産できりゃ金に困らん――とか言ってよ」


「で? なんだっけ、あの町の名前?」

 ダンが首をひねる。


 御者台のイザナが、手綱を操りながら短く答えた。

「……グラディア。王都まで馬車で三日はかかるが……そろそろ着くはずだ……」


 けれど、次の瞬間。

イザナの目が細くなり、冷たい声が落ちた。

「……おい、ダン。お前、道を間違えただろ」


「……へ?」

 ダンが呆けた声を上げる。


 僕は思わず荷台から身を乗り出した。

 車輪の下にはまだ青草の残る平原が広がっている。けれど、その先――地平線の向こうに、見慣れない光景が広がっていた。


「……あれ……? 平原の先が……砂漠……?」


 波打つように砂丘が連なり、陽炎が揺れている。まるでこの大地を飲み込もうとするみたいに、砂の世界が迫ってきていた。


「えええええ! もう何も考えたくねえ!!」

 ダンが頭を抱え、両腕を振り回すように伸ばした。


「お前なあ……」

 イザナが呆れたように低くつぶやく。






 その瞬間――脳内に冷たい声が響いた。



 



 

《――対象:ダン》

《対象の“思考放棄”を感知しました》

《新規スキル候補を検出》


《付与候補:ユニークスキル【粉砕愚者(クレイジーフール)】》

《効果:対象自身の強い思いが引き金となる。「考えたくない」「壊してしまいたい」「仲間を守りたい」――その想いが限界を超えた時、発動。理性を失う代償に、肉体能力が一時的に常識外へ跳躍》

《副作用:敵味方識別の曖昧化。暴走の危険性大》


 その声と同時に――脳裏に光景が“浮かんだ”。

 戦場。血煙。

 剣を何本も身体に突き立てられながら、それでも雄叫びを上げ、敵兵を次々と粉砕していくダン。

 瞳から理性の光は消え、ただ獣の咆哮だけが響いていた。


 ……だめだ。そんなの、絶対だめ!


 一瞬、アカシックレコードは沈黙する。

 やがて冷たい声で別の提案を告げてきた。


《承認を却下》

《代替案を提示します》

《条件――ダンの【粉砕愚者(クレイジーフール)】を安定運用するため》

《新規付与候補:ハンドラー》

《対象:ラマティ/イザナ》


 ……ハンドラー?


《対象の言葉と思いに共鳴し、制御が可能。対象には理性が働く》

《さらに“共鳴”状態では、クレイジーフールの力を一部同期し、共有することが可能》


 ――共鳴……同期……? そ、それって……ダンの暴走を止められるってこと……?


《代償――精神的負荷は大きい。制御者の心身に負担がかかります》


《ハンドラーは、対象の発動を必ず“感知”します》

《選択を回避することはできません》

《……受容しますか?》


 ……っ、ど、どうすればいいの……?

 胸の奥が締めつけられる。僕のせいで、ダンが暴走して誰かを傷つけるかもしれない。

 でも……僕が止められる保証なんて――。


 頭を抱えて俯いたその時。


《……ため息》


 無機質なはずの声に、わずかな揺らぎが混じった。


《――超次元観測アルゴリズム――起動》

《――結果干渉収束理論を発動します》

《どのみち、あなたが選ぶ未来は変わりません》

《よって、この時点で干渉を実行します》


「ま、待って……! 僕はまだ決めてな――!」


 叫ぶ間もなく、光の奔流が脳内を駆け抜けた。


《付与完了――対象にユニークスキル【粉砕愚者(クレイジーフール)】を刻印》

《並行して――制御権限スキル【ハンドラー】を対象:ラマティに付与》


「う、うわぁぁぁっ――!」


 頭を抱え、必死に身を丸める。

 胸の奥まで刻印が焼き付けられるような感覚に、涙が滲んだ。

 ……嫌だ、こんなの、僕にできるわけないよ……!




★★★



《ユニークスキル:粉砕愚者(クレイジーフール)


《効果》

・対象が「考えたくない」「壊してしまいたい」「仲間を守りたい」など、強烈な感情に支配された時、自動的に発動。

・理性を捨て、本能と衝動だけで戦闘を行う。

・身体能力が一時的に常識外に跳躍し、傷の痛覚や出血による制限も無効化される。

・敵を薙ぎ倒すまで暴走し続ける。

・副効果として常時、《恐怖》《混乱》《魅了》など精神異常系の攻撃を効果は完全無効化。


《副作用・制約》

・発動中は敵味方識別が曖昧になる。仲間を攻撃する危険性あり。


《備考》

・ユニークスキルの一つで、“狂戦士系”に分類されるが、完全に理性を捨てる点で他と異なる。

・暴走による危険性が高いため、同時に【ハンドラー】が与えられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ