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【完結】全知の書庫アカシックレコードの継承者  作者: 刻彫
第一章 『囚われの金髪姫』
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第20話 『鏡の中の少女』

 レイヴェルは少し照れたように咳払いした。

「……じゃあ、僕は後ろを向いてる。着替えはメイドに任せるといい」


 背を向ける彼の姿を見て、胸が不思議と温かくなる。

 すると横にいた若いメイドが、ぱっと微笑みかけてきた。

「お嬢様。ではこちらへ。今のお召し物から別の衣装に着替えてみましょう」


 僕は反射的に口を開きかけたけど、言葉は喉で詰まった。

 ……お嬢様じゃないのに……でも、否定できない……。


 メイドは僕の今の服――ふわりと広がる白布に小花の刺繍のワンピース――を器用に脱がせ、新しいドレスを手に取った。

 それは薄紫の絹に金糸で縫い取りが施された、より一層華やかな衣装だった。胸元には小さな宝石が散りばめられ、袖口には繊細なレースが揺れている。


 布が肌に触れるたび、ぞくりとするほど柔らかい。背中のリボンをきゅっと結ばれ、裾が広がると、鏡の前に立つのも怖いくらいだった。


「――はい、整いました」

 若いメイドが一歩下がり、にこりと笑う。

「どうぞ、ご覧になってください」


 恐る恐る鏡に視線を向けた瞬間、息が止まった。

 映っていたのは――花の刺繍の少女服から一転、まるで舞踏会に出る貴族令嬢のように着飾った“僕”。

 薄紫の絹が光をまとい、水色の瞳が鏡の中で揺れる。


「……っ、これ……僕……?」

 思わず呟く。

 誰がどう見ても女の子。

 ドレスの裾を揺らすたび、鏡の中の“僕”は乙女のように微笑んで――。


 ……こんなの……まるで本当に女の子みたい……。


 頬に熱がのぼり、指先が震える。

 ずっと否定してきたはずなのに、今の自分を「綺麗」と思ってしまう。

 ――そんなこと、考えちゃいけないのに。


 そのとき、後ろを向いていたレイヴェルがそっと振り返った。

 目に映った僕の姿に、一瞬言葉を失い――けれど、すぐに苦笑する。


「……すごく似合ってるよ。けど……ちょっと派手すぎるかも」


「君の金色の髪と水色の瞳なら、やっぱりもっと清楚な白い衣装のほうが映えると思うんだ」


 その言葉に、若いメイドが恭しく一礼した。

「かしこまりました。それでは――白を基調とした衣装をご用意いたします」


 彼女が棚から取り出したのは、雪のように白いドレスだった。

 白い絹地に、淡い銀糸で小花を散らした華やかなドレス。胸元には繊細なレースが縁取りを飾り、裾は舞踏会にふさわしいほど優雅に広がっている。


 着替えを済ませ、鏡の前に立つ。

 白の衣装に包まれた自分を見た瞬間、息が止まった。

 まるで透き通るような金の髪と、水色の瞳の輝きが引き立てられ、鏡の中の“僕”はどこか現実離れした姿に見える。


「……っ」


 振り返ったレイヴェルの目が、大きく見開かれる。

 声を失い、ただじっと僕を見つめる。

 やがて頬に熱がのぼり、彼はかすれるように言葉を漏らした。


「……すごい……本当に……綺麗だ」


 その眼差しはからかいでもお世辞でもなく、ただ真っ直ぐな感情の色を帯びていて――

 僕は胸の奥がきゅっと締めつけられるのを感じた。


 レイヴェルは小さく息を整えると、照れ隠しのように笑った。

「……もし、次に舞踏会があったら……絶対に一緒に行きたい」


「え……」


 レイヴェルは僕の手をそっと取り、じっと見つめた。

「……女の子の手って、こんなに白くて……もちもちして……綺麗なんだね」


「……っ!」

 心臓が跳ね上がる。僕は思わず手を引こうとしたけれど、彼の指が優しく包み込んで離さなかった。


「君が隣に立っていたら、きっと僕は誰よりも誇らしい気持ちになれると思うんだ」

 真っ赤な瞳が揺れもせず、真っすぐ僕を見つめていた。

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