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【完結】全知の書庫アカシックレコードの継承者  作者: 刻彫
第一章 『囚われの金髪姫』
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第18話 『少女に敗れる王子』

 案内されたのは王城の奥にある、質素な小部屋だった。

 壁際には書棚や木の机が置かれ、窓からはやわらかな陽が差し込んでいる。

 緊張で張り詰めていた心が、少しだけほどけていくような空間だった。


「ここなら大丈夫だ。兵士も入ってこない」

 眼鏡をかけた優しげな学者がそう告げる。

「私はアクレイア。この部屋を管理している学者さ。どうぞ気にせず過ごしてくれ」

 アクレイアは微笑んで自己紹介をした。


「お前ら!」

 奥の椅子に腰掛けていたのはイザナだった。

 すでに先に案内されていたのだろう。腕を組んで待っていた彼の姿に、僕は思わず息を吐く。

「……イザナ!」


 再会に胸をなで下ろす間もなく、レイヴェルが机の上の盤を指差した。

「ここでは遊べるんだ。戦略盤とか、札遊びとか。それから……木剣で模擬戦も」


「遊び……?」


「うん。本当はこういうことを、友達とやってみたかったんだ」


 机にはチェスや将棋に似た盤上遊戯、トランプ風の古びた札束、そして壁には二振りの木剣が掛けられている。


 ダンは興味津々で札遊びに手を伸ばし、にやりと笑った。

「これ、賭けたらもっと楽しいやつだろ?」


 イザナが無言で壁に掛けられた木剣を取り、すらりと構えた。

「ほう……模擬戦ってやつか」


 レイヴェルも笑みを浮かべながら木剣を手にする。

「いいよ。遊びだからね、本気じゃない」


 次の瞬間、木剣と木剣がぶつかり合う。

 乾いた音が小部屋に響いた。


 イザナは鋭い目で相手を追い、その動きを瞬視で見切っている。

 一手先、二手先を読むように受け流す。


「……なるほど。速いな」

 イザナが低くつぶやく。


「君こそ……視ているのか? その一瞬の動きを」

 レイヴェルの声は落ち着いていたが、その額にはうっすら汗がにじんでいた。


 剣筋が交わるたびに、二人の視線が火花を散らす。

 だがやがて、レイヴェルがすっと剣を下げた。


「……降参だ」


 イザナも剣を下ろし、肩をすくめる。

「瞬視があれば互角だと思ったが……王族ってのはやっぱり底が知れねぇな」

 思わず漏らした声に、レイヴェルは照れくさそうに肩をすくめた。


 そのやり取りを、アクレイアは紅茶を淹れながら優しい目で見守っていた。

「……いいねぇ。笑い声のする部屋ってのは、学者にとって何よりの薬だよ」


 やがて、盤上遊戯で僕とレイヴェルが向かい合った。

 序盤から迷いなく駒を進めるレイヴェルに、僕はすぐに追い詰められていく。


「……やっぱり、すごいんだね、レイヴェルは」

 困ったように笑うと、レイヴェルは淡々と駒を置いた。

「僕はいつも、相手の十手先まで読むようにしてるんだ。そうしないと、この城では生き残れないから」


 盤上の駒は次々に追い詰められていく。

 その様子を見ていた僕は、ふと脳裏に光が走るのを感じた。


 《――観測開始》


 無機質な声が脳内に響いた瞬間、盤面が歪む。

 駒の動き、手筋の選択、その全てが無数の線となって未来へと伸びていく。

 同時に、その結果が波紋のように重なり合い――収束する。


《超次元観測アルゴリズム、起動》

《――結果干渉収束理論を発動します》


 自分の意思ではなかった。

 ただ、手が勝手に動かされる。


 僕の指先が一つの駒を摘み、盤上に置いた。


「……ここに置けば、逆転できる」


 盤面に置かれた一手を見て、レイヴェルの目が大きく見開かれた。

「……っ、これで……僕の陣形が……!」


 慌てて次の駒を動かす。だが、もう遅い。

 未来は収束し、どの手を打っても破綻へと導かれていく。


「ま、待て……まだ、まだ終わってない!」

 レイヴェルの声が震える。

「僕は王家の血を引く者だ……女の子に負けるわけにはいかない!」


 その必死な姿に、僕は言葉を失った。

 ……僕、女の子じゃないんだけど……。


 心の中で苦笑しながらも、駒は止まらない。

 アカシックレコードが導く手に従い、僕は最後の一手を差し出した。


「……詰み、だよ」


 レイヴェルの手が宙で止まり、盤上を見つめたまま崩れ落ちる。

「……うそ……僕が……負けるなんて……」


 瞳が潤み、唇が震える。

 彼は悔しさを堪えきれず、ぽろりと涙をこぼした。


「……僕……初めて負けた……」


 小部屋に静寂が満ちる。

 泣き顔のレイヴェルを前に、僕はどう声をかけていいか分からなかった。





★★★


《スキル名:超次元観測アルゴリズム》


《発動条件》

・使用者の「選択」が重大な岐路に立った時、アカシックレコードが独自に起動。

・ラマティ本人の意思で任意発動は不可。


《効果》

・盤上遊戯や戦術的状況など「複数の未来が分岐する場面」において、可能な全ての選択肢を同時に演算。

・結果を収束させ、勝利や生存に繋がる最適解を提示・実行する。

・使用者は未来の分岐を直感的に把握できる。

 

《副作用・制約》

・アカシックレコードが「必要」と判断した時のみ自動発動。本人の意思では再現不可。


《備考》

・戦闘だけでなく、盤上遊戯や交渉といった「選択の場」でも発動する。

・今回の発現は偶発的な初事例であり、アカシックレコードが「ラマティにとって不可欠な縁(レイヴェルとの出会い)」を守るために発動させたと推測される。

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