第13話 『過去との決別』
人混みを抜け、僕とダンが路地裏へと飛び込んだとき――。
「イザナっ!」
そこでは、盗人がナイフを振り回し、イザナに斬りかかっていた。
刃がギラリと光り、紙一重の距離で首筋をかすめる――。
だが、イザナはそれを当たり前のように避けていた。
ほんの数ミリ。
目には見えない刹那を読み取るかのように、体を滑らせる。
「……なっ……!? 当たらねぇ……!」
盗人が顔を歪める。
僕は息を呑んだ。
――あれは偶然なんかじゃない。
アカシックレコードが与えたスキル、瞬視。
コンマ単位で敵の動きを視る、その力が働いているのだ。
周囲を見渡すと、路地裏はひどい有様だった。
地面には汚れた布にくるまったホームレスがうずくまり、壁際では麻薬に酔った男たちが虚ろな目をして呻いている。
溝には濁った水が溜まり、鼻を突く悪臭が漂っていた。
「……うっ……!」
思わず吐き気が込み上げる。
街の華やかな表通りの裏に、こんな世界が隠れているなんて――。
そんな中で、盗人がナイフを振り回しながら再びイザナに飛びかかった。
だがイザナは眉ひとつ動かさず、わずかに身を引いた。
「っ……!?」
盗人が焦りを露わにするが、その隙を逃さずイザナの拳が顔面を打ち抜いた。
「ぐはっ……!」
盗人はその場に崩れ落ち、石畳に血をにじませながら動かなくなった。
ダンが駆け寄り、ニヤリと笑う。
「さっすがイザナ! よし、こいつの持ち物、全部剥がしちまおうぜ!」
「えっ……!? えっと……」
慌てて声を上げたけど、イザナは冷静にうなずいた。
「金と情報は無駄にできない。利用できるものは使うべきだ」
そうして盗人の懐を探ると、布袋の中から丸められた乾いた葉が出てきた。
――大麻だった。
「うおお!? マジかよ!」
ダンが声を張り上げ、袋を引っつかむ。
「こんなもん持ち歩いてやがったのか! おいラマティ、久々に――」
「だめだよっ……」
僕は思わず、ダンの手を掴んだ。
胸の奥がざわりと波立つ。奴隷時代の夜が蘇りかけて――それを必死に押し殺す。
「……もう、やめようよ……またあの頃に戻るだけだ……」
ダンは目を丸くし、それからふっと息を吐いた。
「……ああ。そうだな」
イザナも小さく鼻で笑う。
「同感だな。銅貨には価値があるが、これはただの枷だ」
僕は袋を奪い取り、地面に叩き落とした。
中身の葉は汚れた路地の風に散り、溝の濁った水に吸い込まれていく。
――奴隷時代の残滓と共に。




