第11話 『スキル付与』
……闇の中。
瞼を閉じた僕の意識は、再びあの果てしない図書館に引き込まれていた。
四方に立ち並ぶ本棚。無限に続く書架の間に、無機質な声が響く。
《――条件達成。新たな閲覧権限を解放します》
《――スキル付与機能、開放》
「スキル……付与……?」
息を呑む。
《対象の“未来への意思”を感知しました》
《――解析結果:イザナ》
《――アーカイブ参照。世界の記録――未来の可能性を検索》
《――スキルブックを開示》
目の前に光の頁が浮かび上がる。そこにはイザナの姿が映し出されていた。
その横に刻まれた文字が、淡く輝く。
《適性スキル――瞬視》
「瞬視……」
思わず呟いた瞬間、脳裏に映像が流れ込んでくる。
戦場に立つイザナ。敵の動きの先を読み取り、刹那の軌跡を見抜いて避ける姿。
《解説――瞬視とは》
《対象は一瞬を極限まで細分化し、コンマ単位で視認可能》
《刃が振り下ろされる瞬間、矢が放たれる瞬間、その予兆を視覚で捕らえることができる》
《結果として、常人には不可能な回避や反撃を実現する》
「……これが……イザナの、未来に必要な力……」
僕は唇を噛みしめ、手を伸ばした。
――さっき、イザナが言った言葉が蘇る。
『こんな風に、これからも生きていたいな』
「……イザナ……」
胸が熱くなる。
「生きてほしい。もっと、一緒に……」
震える指先が頁に触れた瞬間、光が弾けた。
《付与完了――対象にスキル“瞬視”を刻みました》
光は視界を覆い、意識は闇に沈んでいく――。
――そして。
眩い光に包まれ、僕はベッドの上で目を覚ました。
薄暗い宿の部屋。隣のベッドで眠るイザナが、かすかに眉をひそめ、身じろぎする。
やがて彼の瞼が開かれる。
その瞳は、以前よりも鋭く澄んでいて――
まるで未来の一瞬すら映し込むように、深い光を宿していた。
「よぉ、起きたか二人とも!」
毛布から飛び出したダンが、残った銀貨をひらひらと掲げて笑った。
「銀貨一枚残ってる。朝飯でも食いに行こうぜ!」
イザナはゆっくりと上体を起こし、目を細めた。
「……あ、あぁ……」
短く相槌を打つ。けれど、その瞳には戸惑いが浮かんでいた。
「イザナ……もしかして――」
僕が声をかけようとした瞬間、脳裏に無機質な囁きが割り込む。
《――観測干渉制御》
《現時点でスキルの詳細を告げるのは推奨されません》
《対象に混乱を与える恐れがあります》
「……っ」
思わず言葉を飲み込む。
「ラマティ?」
イザナが怪訝そうにこちらを見たが、僕は慌てて首を振った。
「……なんでもないよ。行こう、朝ごはん」
違和感を覚えているイザナ。
真実を知りながら、口を閉ざすしかない僕。
胸の奥に小さなざわめきを抱えながら、三人は宿を後にした。
★★★
《スキル名:スキル付与》
《発動条件》
・不明。使用者自身も意識的に制御できない。ただし「対象の強い意思」や「縁の確定」が関与している可能性がある。
《効果》
・対象者に“適合スキル”を付与する。
・付与されたスキルは本人の潜在能力や血脈と結びつき、未来の可能性を拡張する。
・スキルはアカシックレコードによって選定され、使用者が任意に選ぶことは基本的にできない。
《副作用・制約》
・スキルの選定・付与は完全にアカシックレコードの裁定に依存するため、使用者の意志や希望は介在できない。
・付与内容や発現理由を対象に説明することは、《観測干渉制御》によって制限される。
《スキル名:瞬視》
《効果》
・対象は一瞬を極限まで細分化し、コンマ単位で視認可能。
・刃が振り下ろされる予兆、矢が放たれる直前の軌跡など「常人が捉えられない刹那」を捕捉できる。
・回避・カウンターに特化し、数的劣勢でも致命傷を避けられる可能性が高まる。
《副作用・制約》
・「見える」ことと「対処できる」ことは別であり、身体能力が伴わなければ致命回避は難しい。
備考
・未来を望んだ強い願い――「これからも生きたい」という意思を感知し、アカシックレコードによって刻まれたスキル。
イザナ
・体力:C+
・敏捷:B → B〜S(発動時)
通常時は常人を上回る身のこなし。
【瞬視】発動時は「コンマ単位で視る」感覚により、刹那 的にSランク級の反応速度を発揮する。
・外見は「黒を基調にした長衣+鋭い目元」の美丈夫に進化。




