第9話 『薬師への誘い』
シャワーを終え、綺麗な服に着替えた僕たちは、再び薬屋の店先に立った。
戸口に現れたおばあさんは、目を丸くして僕らを見つめる。
「まあ……さっきの小汚い子たちが……ほんとうに、あの子たちかい?」
僕は深く頭を下げた。
「……ありがとうございました。服もシャワーも……本当に助かりました」
ダンも照れくさそうに頬をかき、イザナは軽く一礼した。
「また薬を作って売りに来ます。これなら……銀貨で宿も探せそうだし」
僕がそう言うと、おばあさんは少し首を傾げ、ふと問いかけた。
「……君たち、もしかして奴隷なのかい?」
空気が一瞬止まる。
僕は視線を落とし、けれど小さく首を振った。
「……もう奴隷じゃないです。追い出されて……今は、ただの自由の身です」
その答えを聞いて、おばあさんの顔に優しい笑みが広がった。
「そうかい。じゃあ……一つ提案があるよ」
「え……?」
「薬を作ってほしいんだよ。君にはそれができるだろう? うちで働いてみないかい?」
思わず僕とダンとイザナは顔を見合わせる。
胸が熱くなりながらも、思わず口をついた。
「……ありがてえ。けど……俺たち、素人なんだ」
おばあさんは皺だらけの目を細め、ゆっくりと頷いた――が、その直後にじっと僕を見つめた。
「……でも、ひとつ不思議だね」
「君みたいな虚弱な子が、どうして野草の知識なんて持っているんだい? 奴隷の子にそんな教育はないだろう」
胸がどくんと跳ねる。
「もしかして……どこかの薬屋で使われていた奴隷だったんじゃないかい?」
疑うというより、確かめるような声音。
ダンとイザナが慌ててこちらを見る。僕は言葉を失い、俯いた。
「……ぼ、僕は……」
喉が乾いて声が出ない。
言い訳を探すよりも先に、心臓の奥をアカシックレコードの声が淡々と叩く。
《――応答不要。この問いは虚偽の回答で回避可能です》
僕は唇を噛みしめ、結局何も言えなかった。
「……言えない理由があるなら、それでいいんだよ」
おばあさんはふっと微笑んで、首を横に振った。
「嫌なことを思い出させてごめんね」
「お、おう。ラマティは気にすんな」
ダンが慌てて僕の肩を叩き、笑って場を取り繕う。
イザナが軽く咳払いしながら言った。
「……よし、とりあえず宿を探そうぜ。いつまでもここで立ち話ってわけにもいかねぇ」
僕たちは深々とおばあさんに頭を下げ、薬屋を後にした。
夜の街の灯りが揺れる中、僕の胸の奥ではまだ心臓の鼓動が止まらなかった。




