第七十八話、特別編!夏だ!海だ!〇〇だ!!その肆!
集まってくれたみんなに、早速聞いてみる。
「ねぇ、みんな、ベルのこと…覚えてる?」
「ベル…?何のこと…?」
二人して首を傾げた。
「楽器のベルなら知らないわけないけれど…その言いようだとそういうことじゃないようね。詳しく聞かせてもらえる?」
「ほら…あの…ルミナスの娘で…悪魔と神のハーフの…。」
「そんな子が生まれたら、天界はただじゃいかないでしょうね。何度暴動が起こることか…。というか、何故人間のあなたがルミナス様のことを知っているのか…あなたには会う資格すらないはずよ?」
そうか。
ベルがいないから僕は契約者ではない。
なら、ルミナスとの接点は全くと言っていいほどなくなる。
「…アリエから、聞いたんだ…。ルミナスのことは…。」
「そうだったのね。なら詮索する必要はないわね。…とにかく結論として私達はあなたが言うベルなんて子は知らない。」
「そっ…か…。」
やっぱり、覚えてない。
「そんなことより、皆さんに集まってもらったのは今日の行き先を決めるためでしょう?早く決めましょうよ。」
「そ、そうだね、アリエ。」
やっぱり、おかしい。
ベルと出会ってなければ、アリエとも出会うことはなかったはずだ。
それどころか、レイやアルにも会えているわけがない。
けど今、面識があるようになっている。
レイと出会ったのは、シグナスと出会うために天界に来ていたからだ。
なのにこの世界では僕はシグナスと面識がない設定になっている。
となるとやはりここは…。
ご都合主義の世界。
誰かが勝手に作り込んだ世界。
記憶を改竄して、違和感のないよう作られた偽物の世界。
誰が何のためにこの世界に僕を閉じ込めたのかは分からない。だけど。
ここにいてはいけない。
ベルの契約者として、友達として、僕はこの世界にいるわけにはいかないんだ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「わ〜…暗い…。」
「よく夜の学校に忍び込もうだなんて提案したわね…。」
「まあ…なんかあってもみんなが魔法でなんとかしてくれるだろうし…。」
「他力本願ですか…。」
僕たちは夜の学校にやって来ていた。
どうすればこの世界から脱出できるのかは分からない。でも、ここにくれば、何かわかるような気がした。
「忍び込んだはいいですけど…、どこに向かってるんですか?」
「…屋上。」
時計は七時を回っていた。
空には不気味なほど大きな月が僕たちを見下ろしていた。
普通この時間なら先生たちはまだ学校にいるはずだ。なのに、人の気配は微塵もない。そういえばこの世界ではアリエたち以外には誰にも会っていない。見かけさえしなかった。
こんなわかりやすい異変なのに、どうして気付かなかったのだろう。
鉄の扉を開けて、僕たちは屋上に辿り着いた。
ここは、僕とベルが初めて現実の世界で会った場所。今でも鮮明に思い出せる。あの日から僕は変われたんだ。
「綺麗ね…。」
そうレイがつぶやいた。
レイが見る方向はちょうど街中の方向だ。
「本当に夜景が綺麗だね〜。」
アルもそう言う。
この南桐中学校は街中より少し高台に位置する。
そのため最終下校時刻まで残っていると4階の窓から綺麗な夜景が見える。
普段屋上は立ち入り禁止なので屋上でなんて見たらさぞ綺麗なんだろうと思っていた。
だが。
「霧でよく見えませんね…。」
「うん…。」
今は夏だ。
普通に考えてこの時期に霧がかかることはほとんどないはずだ。
ならなんで…。
その時だった。
「っ…!避けて!!」
そうレイが叫んだ。
「え…?」
その瞬間屋上にもの凄い衝撃が走る。
「な、なに…!?」
上空を二体の巨大生物が浮遊していた。
僕はその生物を知っていた。
「あれは…。…ッ!」
もう一度二つの影が突進してくる。
「あれはなんなんです!?」
「知らないわ!とにかく迎え撃つわよ!」
レイの二刀がその中の一体とぶつかり合う。だが押し負けて地面に叩きつけられた。
敵の複眼が僕を捉えた。
「なんで…なんでここに…アノマロカリスが…?」
アノマロカリス。
古生代カンブリア紀の覇者。
当時の最強捕食者として知名度もある古生物だ。
そんな遥か昔の生物が、なぜ。
いや、それよりも…。
「大きい…。」
オリジナルのアノマロカリスは体長は1m程度だったはずだ。
なのに目の前の怪物は10mを優に超えていた。
「ピュゥ…。」
呻き声のような鳴き声のような、不気味な音を目の前の怪物は放つ。
「亘希さんは離れていてください!戦えないでしょう?」
「いや、僕にも鎌が…。」
そこで言葉が止まる。
この世界では僕はベルと契約していない。
なら…僕は…。
「つべこべ言ってないで下がってください!」
「…うん。」
レイたちから距離を取り、できるだけ攻撃の及ばないところへ離れる。
久しぶりだ。敵を前にして自分が戦えないのは。
確か丁度この屋上で輪入道と戦った時以来のはずだ。それからはずっとベルに連れられ、一緒に戦ってきた。
「…こんな気持ちは、初めてだな。」
いつの間にか戦うことを当たり前に思っていたらしい。
ベルと出会う前は、こんな怪物を前にして逃げる以外の選択肢を取らなかっただろう。
本当に、ベルが来てから全てが変わった。
「…くっ!」
レイたちは今も亘希の目の前で激戦を繰り広げている。
だがもう一体がアノマロカリスを援護しているせいで攻撃がなかなか入らない。
ダンクルオステウス。
古生代デボン紀の怪魚。
その大きな硬い顎と巨体で当時の海で猛威を振るっていた。
アノマロカリスほどの機動力はないが、パワーはこちらの方が上だ。
…何か戦わずともレイたちを援護する方法はないだろうか?
ふとそう思った。
どうにかして役に立ちたい。
何か今の僕にできることはないか。
「…そうだ。」
思いついた途端僕は走り出していた。
みんなに声が届くくらいまで近づく。
「みんなーー!!」
「え…?亘希さん?なぜここに…。」
「魚っぽくないやつから攻撃を集中して!!そうした方が楽に倒せるはずだから!!」
「一体どう言うことです?」
「あいつのほうが殻が柔らかい代わりにスピードが速い!あいつさえ倒せればもう片方も格段に倒しやすくなる!もう片方の魚みたいなのは体を狙って!」
「なぜ知っているのかは知りませんが…分かりました!」
「礼を言うわ。」
「ありがとう!」
記憶が正しければアノマロカリスは機動力がある代わりに外殻はそれほど硬くないはずだ。
その顎も三葉虫のような硬いものは食べれなかったと言われている。
逆にダンクルオステウスはアノマロカリスほど機動力はないものの、力強い。だが硬い顎のある頭以外は柔らかい生身だ。実際顎以外の部分は化石でも見つかっていない。
昔から古生物が好きだった。
ずっと小さい時から、恐竜とか、もちろんアノマロカリスやダンクルオステウスにも興味があった。
いつかその研究をしたいと思っていた。
戦えない僕が今できること、それは…みんなに僕しか知らないような情報を渡すこと。
もし、相手が違ったらそれすらできなかったかもしれない。
でも今はただ、役に立ちたい一心だった。
「やぁ…っ!!」
みんなの全力の一撃がアノマロカリスに集中する。
最初は避けられていたが一つ一つの技の隙を埋めるように次々と技が放たれついに直撃した。
一度当たれば、動きは鈍くなり、さらに次の攻撃も入る。
ついにアノマロカリスは撃沈した。
「次はこっちね。」
ダンクルオステウスと顔を合わせ、その柔らかい胴体めがけて攻撃を放つ。
動きが遅い分今度は早く着弾した。
反撃する間も与えず、次々と攻撃を加えていく。
「これで止めよ!!」
レイの斬撃が柔らかい体を両断する。
制御を失った体は落下し、爆発四散した。
こうして屋上での危機は去ったのだった。




