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私の、創世記。  作者: 皐月リリ
第三章、許されざる怠惰。
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第七十六話、特別編!夏だ!海だ!〇〇だ!!その弍!


窓から差す白い光に照らされて、皐月亘希は目を覚ました。


「んん…。もう朝…?」


気怠い体に鞭を打ってベッドから立ち上がる。


「眠い…。昨日遊びすぎたかな…。」


大きく伸びをして洗面所へ行く。顔を流水で流し、柔らかい白いタオルで拭く。眠気も一緒に拭き取れたようだ。


「昨日の海は楽しかったな…。さて…今日は何をしようかな?」


今日は8月32日。


夏休みはまだ終わらない。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「おはようございます、亘希さん。」

「あっ、おはよう。」


リビングへ向かうとそこには当然かのようにアリエが腰掛けていた。


「…って、反射的に挨拶しちゃったけどなんでいるのさ…。」

「別に?特に理由があるわけではありません。ただ…今日もだらけた朝を迎えているのではと心配になって。」

「余計なお世話だよ…。」


アリエがこうして家に来るのは珍しいことではない。たまにこういう休日にはさも当然のように家に上がって亘希が目を覚ますのを待っている。


「今日は何かご予定は?」

「特にないよ。夏休みもまだまだだし、今日はゆっくり…」

「…。」

「はい、だらけててすみません…。」


アリエは大きくため息をつき立ち上がる。


「他の皆さんも待っておられるので早く支度してください。」

「他の皆さん?」

「はい、急いでください。」


そうせかされて急いで服を着替え、ドアを開ける。


「あっ、起きたのね。」

「おはようございます、亘希くん。」

「…!レイ…!アルも…!」

「僕が言えたことじゃないけど、怠けるのはあまり感心しないよ。」

「そうね、馬鹿で怠惰で愚かな者がやることだわ。」

「それは言い過ぎ。」


いつにも増して毒舌なレイについ笑みが漏れてしまう。


「笑い事じゃないですよ。怠けた生活は健康にも影響を…」

「分かった分かった…。明日から早起きします…。」

「それでいいのよ。」


長いツインテールの髪を翻し、レイは歩き出す。


「…?どこに行くの?」

「勝手についてきたら?付いてきたかったらでいいけど。」


鋭い目で見つめられ、つい足がすくむ。


「それじゃ分かりにくいですよ、レイ。また一緒にどこか行きたいんでしょう?」

「だからそう言ってるじゃない。」

「言ってないよ…。」

「でも、いいよ。今日は特に予定もないし。」

「昨日の今日よ。疲れているなら休んだほうがいいわ。」

「ありがとう。でも、本当に大丈夫だよ。どこ行こうか?」

「それじゃあ…。」


不意に風が吹き、亘希の髪を揺らした。

何か懐かしい雰囲気がした。暖かくて安心できる、そんな気配。思わず振り返るけど、そこには誰もいない。


「どうかしたの?」

「…いや、なんでも…。」


何と無く違和感を感じながら、亘希は家に戻った。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



亘希たちは大きな野原にやってきた。

無限に思えるほど広い草原にカラフルな花々が咲き乱れている。空は蒼く澄んでいた。


「綺麗ですね。」

「そうね。天界にもこれほど綺麗な場所は少ないわ。こういう綺麗な場所が見れるのも下界にくる醍醐味ね。」


見れば見るほど綺麗な花畑。でもどこか寂しげで何かが足りない。そう、何かが。


ふと、あたりが明るくなった。雲に隠れていた太陽が顔を出したのだ。

亘希の中でこの花畑に足りなかったのはこれだったんだと合点がいった。花々は先程とは比べ物にならないほど美しくなった。


「どうしたんですか?そんな浮かない顔して。」

「いや、別に…。けど、やっぱり、何かが足りない気がして…。」

「何かが…?思い当たりはありませんね…。」

「あっ、黒龍さんのこと?」

「うーん、そうかも…。」

「あの人なら今は用事で来ていないわ。あの人と何か用事が?」

「ううん。でも…。」


この空いたピースは黒龍さんのものではない気がする。もっと別の、大切な何か。

思い出せない。


「せっかく来たんですからそんな暗い顔やめてください。」

「あっ、ごめん…。」

「まったく…今は花を愛でて、悩みがあるなら後でいいんですよ。私でよかったら話を聞きますから。」

「…ありがとう。」



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



その後、すぐに雨が降り出した。

最初は小雨だったのが、どんどん雨脚が強くなりついには土砂降りになった。


「すごい雨ですね…。」

「そうだね…。」


土砂降りの中、レイたちとは別れ、亘希とアリエは家に駆け込んだ。

レイたちは天界に用事ができたらしい。


「アリエはいいの?ここにいて…。」

「私は今は特に用事はないですからね…。少しの間ですが居させていただきます。」

「うん、いいよ。」


雨に濡れる窓ガラスを眺めながら、亘希は小さくため息をつく。

何か、変な感じだ。これまでだってアリエが家にいることなんて普通にあったはずだ。なのに、今は違和感しかない。花畑で感じたものと同じ感覚。


「…どうしたんですか、結局。」

「え?」

「花畑でも、今も、そんな憂げな表情をしていました。何があったか、詳しく聞かせていただけませんか?」


そうアリエは真っ直ぐな目つきで言った。

亘希は一瞬黙ったが、すぐに微笑んで言った。


「…足りないんだ、何かが。大切で、いつもそばにいたはずの何かが。」

「何か…ですか?」

「うん…。なんだったかは思い出せない…。でも、確かにあったはずなんだ。手放したくないほど大切で、側にいると心地いい、そんなものが。」


アリエは少し考え込むような動作をした後、こう言った。


「なんか、恋心みたいなことを言いますね。」

「へ…?」


予想外の返答に思わず顔が固まる。


「大切で手放したくなくて、そばにいて心地よいもの。私の知っている限りでは恋人といるとそういう感情になると、聞いたことがあります。」

「恋…。」

「わたしはその…恋とかはあまり経験がないのですが…。確かに、恋人がいたらそう思ってしまうかも知れません。」

「で、でも…!僕は年齢イコール彼女いない歴だよ!言ってて悲しいけど!そんな恋人なんて…。」

「自分ではそう思っていなくても、恋なんていつのまにか始まっていることですよ。その対象が誰なのかは存じ得ませんが。…私ではないですよね?」


そう言って頬を赤く染めてじっと見つめてくる。


今まであまり意識しなかったが、アリエも相当な美人だ。顔立ちも、体つきも良い。クラスにいたら絶対にマドンナ的存在になるだろう。

聡明且つ運動神経抜群なパーフェクト女子で人気者になっていたかも知れない。

…でも。


「…。ごめん、分からない。」

「そ、そうですよね…!早とちりしました…!」


そうあたふたしながらアリエは引っ込む。

いつものアリエらしくない行動だ。


「ま、まぁ、とにかく…!気にしすぎないことですよ。なくしたと思っていたものが気付けばもう見つけていた、なんてこと、たくさんありますから。」

「そうかな…。」

「夏はまだ続きますし、夏が終わってもそのなくしたものを見つけるのに期限なんてありませんから、ゆっくり自分のペースで探せばいいんです。」

「…そっか。ありがとう、色々聞いてくれて。」

「どういたしまして。さぁ、私はそろそろお暇します。雨も止みましたし。」


見れば、雨は止み、雲も引きつつある。


「分かった。気をつけて帰ってね。」

「ええ、言われなくても。では、また明日。」

「うん、また明日。」


そう言ってアリエは去っていった。


そうだ。

まだ夏は続くのだ。

探す機会なんていくらでもある。その長い時間の中で自分のペースで見つけれればいいのだ。

ずっと胸の奥につっかえているもの。

何かを忘れている気がする。


でも…。



「…まぁ。いっか。」



夏はまだオワラナイ。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



空には月が昇っている。

さっきまで雨が降っていたなんて嘘のように晴れ渡る空には煌びやかな星々と月が広がっている。

だが、その月はどこか不自然に欠けていた。


亘希はその闇の中、眠りについている。

その様子を外から見ている者たちがいた。


『小屋に愚か者が一羽…』

『絞められることを知らず、鳥籠で眠る』

『愚かで』

『無知で』

『仮初の自由を手にする鳥よ』

『汝の往く先は虚構の未来』

『『汝に幸あらんことを…』』



月が雲に顔を隠す。


再び月が顔を出した際には、もう彼女たちはいなかった。

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