第七十五話、特別編!夏だ!海だ!〇〇だ!!その壱!
「…?〇〇って何です?」
「さぁ…?何でも入れていいんじゃない?」
「…というかもう夏終わりましたよね?」
「メタ的なツッコミはいいから!」
↓より特別編開始!
「海…ですか?」
「そう、ベルが行きたいってうるさくて。」
8月のとある日、早朝。
亘希はアリエの家を訪ねていた。
「そうですねぇ…私も仕事は今は特にありませんし、参加してもいいですか?」
「もちろん!いつも世話になってるし準備とかはこっちで色々やっておくよ。」
「いいんですか?ありがとうございます。」
「じゃあ準備するからまた呼ぶね!」
「ええ、また。」
亘希はアリエと別れ帰路に着く。
「…そういえば神様たちって水着ってどうするんだろう?」
ほとんどの神は指パッチン一回で服を着たり着替えたりできるらしい。
しかもその服は自分で生成できるんだとか。つまりは自分好みの服を作れてしまうのだ(しかも無料で)。
「…ベルの水着か…。」
どんなものを着るのだろうか?
普通のよく売っている形の水着だろうか…?
『どう?似合ってるかな?』
それともまさかスク水?
『こういうのもいいよね。』
それとも…
『うふっ、こういうのが好きなの?』
いや駄目だ。変な想像しかしない。
友達だろう?さすがにこんな想像は失礼だ。
なんか脳内再生しちゃってるし。
「ただいまー。」
「あっ、お帰りなさい、亘希君。」
そう言って顔を覗かせたのはアルだ。
「あれ?アル来てたんだ。」
「うん、少し前にね。」
「私もお邪魔しているわ。」
「レイも来てたんだ。久しぶり。」
「ええ。」
アルの救出作戦から約一ヶ月半が過ぎた。
あれからアルは任務もちゃんとこなしているようで、前のように塞ぎ込むようなことも無くなった。
たまに家に差し入れを持って遊びにきてくれる。
「仕事が一段落したからたまにはって思ってね。久しぶりね、嶋田亘希。」
「うん、久しぶり。アルはどう?」
「僕も仕事は順調かな。それに…今までずっと怠け続けてきてきた僕はその分も返さないといけないから。」
「…そっか。」
すっかり元気になってくれているようだ。
「あっ、そうだ。二人とも、来週末って空いてる?」
「来週末…8月31日?」
「何かあるの?」
「うん、ベルの提案で海に行こうって話になって、アリエはもう誘ったんだけど二人もどう?」
「うん、僕はもちろん参加させてもらうよ。この前は迷惑かけちゃったから、お返しもしたいし。」
「了解。レイはどう?」
「私は…」
その瞬間、扉が勢いよく開かれる。
ベルがまるで弾丸のように部屋に飛び込んできた。
「ベル様参上ッ!!あれ〜?おかえりが聞こえないぞ〜、…ってあれ?…!アルじゃん!それにレイも!久しぶり〜!!」
「ちょっ!?ギュッて抱き付かないでもらえるかしら!?って力強!んんっ…!ほら早く!!」
「もう離さないぜ〜!」
「あの〜、抱きつくのはいいけど…。」
「よくないわ!!」
「靴を脱いでから抱きついてね…。」
「あっ、ごめん…!」
一旦レイを離したベルは、玄関土間に戻り靴を脱ぎ、逃げようとしたレイに再び抱きついた。
「ちょっ…!?何でまた抱きつくのよ!!他の人には飛びつかないのに何で私だけ…!」
「ん〜、何かわからないけど…親近感?」
「あなたに親近感抱かれても少しも嬉しくないわよ。」
ベルを引き剥がすのを諦めたレイは大きくため息をついた。
「もう勝手にしなさい…。」
「にへ〜、ありがとっ!」
そうしてそのまま抱きついたまま普通に会話を始める。
「アルも元気してた?」
「う、うん…!何というか…距離高すぎない?」
「下界ならこのくらい普通だよ。」
「普通じゃないです。」
ついいつもの癖でツッコミを入れる。
もうベルと出会って四ヶ月。そう、たった四ヶ月。
今までは気づいたら過ぎていた時間が、今はとても濃厚に感じる。ベルが来てから毎日が楽しい。いつも楽しい何かを提案してくれるのはベルだ。
本当に感謝しかない。
「アルにも抱きついてあげよっか!」
「いや、僕はいいよ…。それより亘希くんにしてあげたら?」
「…いや…、亘希くんは、ちょっと…。」
「何で!?」
「いや、それは…その…。…。…いろいろ!!」
「いろいろって?」
「いろいろはいろいろ!!もう話終わり!終わりっ!!」
そう言ってベルは部屋へ走り去ってしまった。
「何なんだ…?今の反応…。」
「深追いは禁物よ。後になればわかるわ。」
「そうなの?それなら…。」
「そんなことより。」
そう言ってレイが話を区切る。
「海に行くかって話だったわよね。いいわ。私も行く。」
「えっ、ほん…」
「ほんとーーー!!!?」
亘希の驚きはベルの叫びによって掻き消された。
「近所迷惑よ。少しは自重しなさい。」
「だって〜!レイとどこかに出かけるなんていつぶりかな?数年ぶり?」
「任務以外であなたと出かけた覚えはないわね。」
「うっそだ〜!絶対どこか出かけてたよ!また、一緒に出かけれて嬉しい!!」
「真正面からそう感謝されると咎める気にならないわね…。」
レイは軽くベルを振り切り立ち上がる。
「そういうわけだから。私たちはもう行くわ。それじゃあまた来週に…って…」
「まだ行かないで〜!!」
「はぁ…、しつこいわよ。もう行くから…んっ!んんっ!んんんんん〜!」
「まだまだ…!絶対離さない〜!」
しばらく膠着状態が続いた後、遂にベルが振り払われた。
「うわ〜!!」
「やっと取れた…。もう行くわよ!アル!」
「うん…!じゃ、僕も行くよ。」
「待ってよ〜!もう少し…」
「また来週会えるからいいでしょ。それじゃ。」
「レイ〜!アル〜!」
ベルの叫びも虚しく二人は去っていった。
「…行っちゃったね。」
「むぅ…もう少し話したかったのに…。」
そう頬を膨らませるベルに亘希は微笑みかける。
「さて、準備しようか、ベル。」
「…うん。」
そう言って部屋へ歩みを進める。
すると、
「…あの、ね…。」
そうベルが静かに声に出す。
「…本当は、嫌じゃない、よ。」
「…えっ?」
「さっきの話。私は亘希くんに抱きつくのは嫌じゃない…。それだけは勘違いしないで…。」
「それってどういう…」
振り返ろうとした亘希の背中に暖かな感触が広がる。
「…!ベル…?」
「…。」
暖かくて、安心できて、心地良い。
首筋に当たるベルの吐息がくすぐったい。少しも嫌な気はしなかった。
「あの…ベル…?」
「…もう少し。」
「え?」
「もう少しこうしてたい。」
「…。」
腕の締め付けが少し強くなった気がした。
流石に女の子に抱かれるのは少し気恥ずかしかった。
でも何故か、どうしてか、嬉しかった。
しばらくしてベルの腕が緩む。
「もうだいじょぶ。」
「そう?分かった。」
ベルの腕から力が抜け、亘希の体が解放される。
「ねぇ、ベル、急にどうし…」
「…っ…。」
その答えを聞く前にベルは足早に言ってしまった。
「ベル…。」
その呟きだけがこの1人だけの部屋に響いた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「――ふぅん。あれが件の…。」
そんな二人を陰から観察している者がいた。
双眼鏡でこれまでの一部始終を眺めていた。
「あんな怪物がなに下界で青春やってんですかねぇ〜。それも人間と…。人間なんて海をゴミで汚す愚かで不純な者共しかいないでしょうに。」
そうこの女はため息をついた。
「で?海に行くとか?人間如きが神と?ぷっ…!ふふふっ!!ははっ!」
体を仰け反らし声高く笑い出す。
しかしその声は突如途切れた。
「…ほんと笑えねぇ話だな。どうやらお二人に現実ってもんを見せなきゃみたいですねぇ〜。ねぇ、カリスちゃん、ダンちゃん!」
「ピュゥ」
「ガァ。」
彼女のそばに控えていた生物たちがそう返事をする。
「どうやるかって?夏をぶっ壊しちゃえばいいんですよ!きっとこの夏はあの二人にとって…いい思い出になるでしょう。二度と忘れられないくらいのね…。ふふふっ…!アッハハハッ!!」
誰もいない闇の中、彼女の声だけが響く。
夏はまだ終わらない。




