第七十一話、救い救われ。
『蜉ゥ縺代※?溷勧縺代※繧茨シ∝ヵ繧貞勧縺代※?』
虚な瞳でそんな言葉を放ちながら異形に成り果てたアルが翼を広げる。
『騾?£縺溘>?∵ュサ縺ォ縺溘¥縺ェ縺?シ≫?ヲ菴輔b縺励◆縺上↑縺??』
「空に逃げようとしているわ!!飛び立たせないで!」
「了解!!」
ベルの鎌が羽を一閃し斬り落とす。
翼は脆くすぐに斬れた。まるで泥のようになりグシャっと地面に落ちる。
「…やった…!」
もう片方の翼もレイが斬り落とす。
「油断しないで。おそらく…。」
『… 隱ー?溽衍繧峨↑縺??よ?悶>?』
アルはそう呻き声のような声を発し、ゆっくりだが翼を再生させる。
「もーまたー!?じゃあもう一回…!」
そうベルが振りかぶったその時だった。
羽が開くと同時に突如放たれた衝撃波でベルは吹き飛び肉の地面に叩きつけられた。
「っ…!痛っ…!」
危なかった。受け身を取らなければ骨が折れていた。
「結構離れちゃったな…。レイは大丈夫か――」
目の前に人影が落ちてきた。
咄嗟に手を伸ばし受け止める。
「…!レイ…!」
落ちてきたのはレイだった。
体の所々に傷があるが、意識ははっきりしているようだった。
だがその息は荒く様子がおかしい。
「やめて…!そう、私はあの方への贖罪を…!いや、来ないで!触れないで!ごめんなさい!許して…ください…!」
「レイ…!…くそっ…!」
アルと同じ虚ろな瞳で涙を流しながら弱々しくそう叫ぶ。
この様子ならレイを一人で置いておくことはできない。
だがこのままではアルは飛び立つ。一度逃したらどこに向かうのかまた会えるのかわからない。
アルを取るかレイを取るか。
選べない。
どうすれば――
「あーーーーーーーもうーー!ヤケクソだーー!」
レイの頬を力強く引っ叩く。
こうすることしか考え付かなかった。
「レイ…!大丈夫だから!アルを助けるんでしょ!?じゃあこんなところで倒れてる暇ないでしょ!」
「ア…ル…?あ…。…そうだった。そうだったわね…。」
レイの瞳に光が戻る。
「世話をかけたわね。取り乱してしまったわ。ごめんなさい。」
「ううん、いいよ。それより本当に大丈夫?」
「ええ、もう。まさか精神にまで干渉してくるなんて…。ほんと悪趣味な魔法だわ。」
乱れた髪を直しながらレイが立ち上がる。
「こんなものを見せておいて、タダじゃおかないわ。絶対にアルを助けて、アイツを斬り潰してやるわ。」
そう怒りが入り混じった声で呟く。
静かに刀を抜いた。鋼色に輝く二対の刀。刀にレイの瞳が映る。
レイは静かにため息をついた。
「それにしてもベル、あなたは大丈夫なの?」
「え?うん。私はなんとも…。」
「本当に?かなりの広範囲の技だったし、アリエの方に向かった魔法はなんとか私が庇ったわ。そう、庇うくらいしかできなかったのよ。受け止めることも避けることも不可能だった。あなたはなんで…。」
「…よく分かんない。」
もしかしたら、これはあの子の力なのではないか。
そうベルは考えた。思えば夢であったあの子と一体化してから色々不可思議なことが起きた。
致命傷だったはずの傷が治り、魔力も強化されている。
この魔法にかからなかったのもあの子の影響と考えればある程度は辻褄が合う。
「…あのね、私…。」
夢で見たことをそのままはっきりと口に出そうとした時だった。
「…待って。」
「えっ…?」
「ちょっと胸を借りるわね。」
「えっ、ちょっと…!」
ベルの返事を待たずにレイは彼女の左胸に耳を当てる。
「…やっぱり。あなた、もしかして『暴食の申し子』なの?」
「えっ、何?暴食の…?」
「もしそうであれば何もかも説明がつく…。でも『大罪』に子への継承などはないはず…。彼女のは例外的なもの?それとも…。」
「あのー、レイ?ちょっとどういうことか教えてもらってもいい?」
「…ええ、簡潔に言うわ。さっきと真逆のことを言うようだけどあなたならあの子を救えるかもしれない。」
「えっ、ほんと!?」
「ええ、今のあなたがいればようやく互角といったところね。だから大体のことはあなたに任せることになるだろうけど、いいかしら?」
「互角…ってところがちょっと引っかかるけど…いいよ。レイも、頼んだよっ!」
レイの背中を軽く叩いて喝を入れる。
「とりあえず詳しい説明は後よ。私があなたに順を追って指示を出すからその通りに動いて頂戴。絶対に何が起きようとも躊躇しないこと。いい?」
「オーキードーキー!!」
大きな翼を広げてベルは再びアルに近付く。
その背中を見てレイは呟いた。
「あの翼…今まではあんな形状じゃなかったはず。やっぱり『暴食』の罪の影響?…考えるだけ無駄ね。今はあの子を救うのに集中しないと。」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
もうすぐベルが先にアルの前へ着く。
あとは先程出した指示さえこなしてくれればバッチリだ。
「アル…必ず助けるからね。だから…我慢してね!!」
アルの前に周り、鎌を振りかざす。
『蜉ゥ縺代※?∫央縺輔s?√Ο繝舌&繧難シ』
「そのままじゃ何いってるか分かんないよ!元に戻って普通に話そう!レリーフ…」
地面に地響きが伝わる。
何かが猛スピードで向かってきている。
瞬き一回のうちにそれは距離を詰め隣まで来ていた。ミノタウロスと肉のロバだ。ミノタウロスが大斧をベルに向かって振り下ろす。このままでは当たる。ロバの大群も進撃を始めていた。
だが、ベルは歩みを、攻撃を、救いを止めない。
だって信じてるから。信用できる仲間がいるから。
「信じてたよ…レイ…!」
ロバの首が落ち、ミノタウロスの斧が受け止められる。
「この子の邪魔はさせないわ。さぁ、死か撤退か選んで頂戴。」
「ブモゥーー!」
自慢の攻撃を受け止められた怒りかミノタウロスの鼻息が荒くなる。
「…ここは私に任せてもらうわ。」
「…うん、頼んだ。」
勢いを殺さないようにそう短く返す。
『あの子はまだ不完全な状態。たとえ力は互角でも勝機はあるわ。実際、あなたは暴食の力に順応し使いこなしている。余程の素質よ。対してあの子は能力に支配されているだけ。暴れ馬にただ引っ張られているだけ。あなたはその暴れ馬を乗りこなしている。だから、あの子の手綱を、あの子に纏わりつく殻を取ってあげて。そうすればあの子と『怠惰』の力を分離できるかもしれない。』
そうレイは言っていた。
私はあの子を助けたい。そのために私ができることは何でもしたい。
だからこれも同じこと…!
アルの無数の手が私を止めようと伸びてくる。だけどそんなのはもう私には関係なかった。
「…レリーフ・…。」
鎌が藤色に輝く。力が体の奥底から湧き上がる。
アルを助けたいと思う気持ちが私を強くしてくれる。いつか亘希くんも私が過去に囚われてる時助けてくれたっけ。
私も亘希くんと同じことがしたい。誰かを、一人でも多くの人を救いたい。
――だから。
「レリーフ・テンペスト!!」
必ず、救ってみせる。
体を低くし無数の腕が集まる中枢に一撃を入れる。
肉が裂け、黒い血がどくどくと溢れ出る。
レイの読み通りだ。翼を斬った時より再生速度が遅い。つまりアルのこの異形の能力はここを中枢としているのだろう。この塊さえ斬り落とせればアルを救えるかもしれない。
隣ではベルの身長半分以上もある太さのミノタウロスの首をレイが斬り落としていた。
「こっちは完了。そっちは?」
「レイの言う通りやったよ。やっぱりあそこが弱点みたい。」
「そう、よかった。だけど…。」
もう血は止まりアルは再び動き出していた。
「はぁ、面倒ね。さっさと倒してしまいましょう。私もこれでこっちだけに専念できるわ。」
「うん。…必ず助けるよ、アル。」




