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私の、創世記。  作者: 皐月リリ
第三章、許されざる怠惰。
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第七十話、末路。



煌びやかな衣装に身を包んだベルが空を舞う。

その姿は神々しく、文字通り遥か上位の存在に見えた。


「あの姿は…?」

「…。」


アリエは亘希の隣を何か気づいたような表情でベルを見つめていた。


「アリエ、どうかした?」

「…この魔力…、あの時と同じです…!」

「あの時…?」

「少し前に私と決闘を繰り広げたあの時、お嬢様が見せた魔力と全く同じなんです。あんなに私が追い詰めていたのに、一瞬で逆転されかけたあの時と…。」

「…!ああ…あの時…。あれ?でもあの時は…」


アリエの策に嵌められ、止めを刺されてベルの敗北で終わるはずだった試合。

しかし彼女は紫のオーラを纏い禍々しい魔力を漂わせながら逆にアリエを追い詰めてしまった。

アリエはその時の魔力に今のベルの魔力の反応が似ていると言う。


しかし、あの試合の時のベルの様子はなんというかおかしかった。まるで暴走するように激しく魔法を打ち込みその表情も氷のように冷たく無表情だった。


だが今は…


「…お嬢様も、成長しているということでしょうか…。従者として、親友として、嬉しい限りです。」


ベルは服以外は変わることなく、まるっきりいつものベルだ。

表情も顔も、いつものベルのままだ。なのにこんなに美しく感じるのはなぜだろうか。


「何ですかその表情…。もしかして…惚れちゃったんですか?」

「いや違っ、そうじゃ…!」

「いいですよ、別に惚れてても。」

「えっ?」

「あの子の美貌に惚れるのは当たり前です。何せ、私の自慢の親友ですから!」


アリエが誇らしそうにそう笑ったその時、上空では遂に戦いの火蓋が切られた。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



飛んでくる触手を躱しながら、ベルは友が囚われている肉塊へ突進する。


体が、軽い。猛スピードで襲ってくる触手も難なく躱すことができている。

あっという間に肉塊の周辺までたどり着いた。


肉塊を真っ二つに斬るように鎌を横振りする。


饜食の闇夜月(アピタイトエクリプス)…!」


一閃して放たれた斬撃は肉塊を両断した…かのように思えた。

しかしまるで弾かれるように斬撃は消え去った。


「…!柔らかい…!」


柔らかすぎて当たった時の衝撃が吸収されて技が弱体化されてしまっている。

そのせいで傷すら入らないのだ。


「なら…!」


そうなってしまうならそれでも防ぎ切れないほど強力な技を出せばいい。

簡単なことだ。ベルは肉塊から一旦離れようとする。

が、触手はそれを許さない。たちまち囲まれてしまった。


「あーもう!気持ち悪い!!こいつの気持ち悪さはGとどっこいどっこいだわ!!」


無造作に鎌を振りながら包囲網を脱する。触手はある程度の硬さがあり普通に鎌を振るだけでも斬れる。

体勢を立て直し肉塊に体を向ける。


「今度こそ真っ二つにしてやるから…!」


鎌を紫に染め、渾身の一撃を放つ。


虚無なる飽食(ボイド・ブリミア)!」


岩を斬り裂くような振り下ろしの一撃。この攻撃も肉は防ごうとするが、逆に防げば防ぐほど肉が裂かれていく。


「へーんだ、これは防げないでしょ。鎌に魔力を纏わせて相手の魔力を徴収させるようにしたからいくら柔らかくても斬れるくらい脆くなっているはずだよ。さあ、アルを出してもらおうか!!」


裂かれた肉から血が滴り落ちる。しかし、なぜか再生しない。


「…?おっ、もしかしてなんか弱点ついちゃった?流石は私…。」


しかし、そんな奇跡は起きていなかった。

血が止まり、傷口が一旦閉じる。再び開いた時、そこには巨大な眼球があった。


「はぁ!?そんなん聞いてないよ!!あーもう!目玉気持ち悪いーー!!」


目玉がギョロリとベルを睨み、触手を操作する。

さっきより速度が上がっている。避けるのも簡単ではなくなってきている。


「ふ、ふん…!ようやく私の相手になってきたね…。でも…!その程度じゃ…勝てないよっ!」


ベルの手に黄色い光が灯る。


暴食の光芒(グラトニア・スパーク)!!」


手に集まった太陽のような光が一瞬周りを白く染まると同時に、破裂する。その破片は四方八方に散らばった後、Uターンして誘導ミサイルのように目玉目掛けて光の筋となって飛んでいく。


気づいた目が自らを守ろうと瞼を閉じるより速く、その光弾は連続で着弾し爆発した。


「よし、当たった!でもまぁ…」


煙が晴れる。怒りのためか充血した目玉がそこにはあった。


「倒れないよね…。さて、どうしようか…」


触手を怒りのままに振り回し、ベルを狙う。

その一本が当たろうかという時、ベルはニヤリと笑う。


「…なんてね!!ふふっ…イタダキマス…!」


先程光弾が当たった場所が腐り落ち、触手が何本も地に落ちる。根本がちぎれ、制御を失った触手はもうベルは追えなかった。


「うーん、やっぱり不味い…。もっと美味しい魔力をちょうだいよ!!」


目玉は再生しようとするが、腐敗の速度はそれを上回っていた。


「不味い不味い。私の魔力の糧にもならないよ。…再生できないでしょ?当然だよ。私が魔力を食べてるもん。このまま腐ってなくなって…私の親友を返してもらおう…かっ…!!」


トドメと言わんばかりに鎌を構えて力を溜める。


常しえの食尽(エターナル・ラベナス)!!」


鎌から放たれた青白い火球はあっという間に膨張し、目玉を周りの肉塊ごと包み込み、焼き焦がす。


ベルはその様子をじっと見つめていた。

中に友がいる以上、ある程度の手加減をしないと中まで攻撃が通じてしまう。最悪アルも真っ二つにしかねない。だからこそ、助けるにも困難を極めていた。


煙が晴れる。


晴れた先には何か人型のものがふわふわと浮かんでいた。その顔を見てベルは叫ぶ。


「アル!!」


アルは寝ているようだった。透明の殻のようなものの中で裸のまま丸まり、目を閉じている。何かの芸術作品を見ているように感じた。それほどまでにその姿は神秘的に思えた。


「…っ…!今助けるから…!」


殻に近づき、鎌をゆっくりと構える。

アルを傷つけないように、そおっと、優しく…。

ベルは鎌を振り下ろした。


鎌が殻に当たる瞬間、アルがカッと目を開いた。

その目は深い穴の底のようにどこまでも暗く氷のように冷たかった。その目がベルを睨みつける。


『「邪魔しないで」』


そう確かに話したような気がした。

次の瞬間、ベルは腹の辺りに大きな衝撃を感じた。

そのまま勢いよく吹き飛ぶ。


なんとか鎌で防いでこの威力…。

その存在をベルは睨んだ。


それは馬のような生物だった。だがその姿は皮が剥がれたかのように肉が丸見えで不気味だ。

おそらくはこの触手が作り上げた紛い物。


その馬が一鳴きすると、肉の海から次々と肉の馬が湧いてくる。あれだけの威力を持つものがこれだけいるとなれば厄介だ。


アルが人差し指をベルの方へ向ける。


『「やって、ロバさん」』


そうアルが言うと同時にその生物はベルに向かって猛進する。


「いやロバなんかいっ!うわっ、重ッ!」


次々とぶつかってくるロバを鎌で捌きながらベルはゆっくりながらもアルの方へ歩みを進める。


「アル…ッ!一緒に帰ろう!!今そこから出してあげるからっ!」


その言葉が届いたのかはわからない。

だがアルはとても嫌そうに顔を歪め、こう言い放つ。


『「…鬱陶しい…!邪魔…邪魔ッ!出ていって!牛さん!!」』


そう言うと地面がゴゴゴゴ…と音を立て始めた。


「うわっ…!何これ地震!?」


地面から二本の角が顔を見せる。

すぐに太く筋肉質な腕も現れた。


「ブモォォォ…」


そう低い鳴き声を上げながらその怪物は姿を現した。


牛の頭に、ガタイのいい人間の体。

その巨体をもって振る大斧。


「まさか…ミノタウロス…!?」


その大斧が力強く振り下ろされる。


「おっっと!危なっ!…っ!」


その巨体に似合わずその攻撃は俊敏。避けるのも大変だ。


殻の中のアルは安心したように笑って再び目を閉じる。


「…!ぐっ…!!ぬぅ…!!」


振り下ろされる斧を鎌で受け止めるがベルの華奢な体では受け止め切れるはずがない。

地面にヒビが入り、ベルはミノタウロスの攻撃に押されていく。


「もう…限界…!あっ…!?」


突如斧が跳ね飛ばされる。次の瞬間、ベルの体はミノタウロスやロバたちから遠く離れていた。


「何勝手にやっているのよ!?」

「えっ、レイ!?」


ベルをミノタウロスの猛撃から救ったのはレイだった。

その顔は汗が滲み、焦りが見えていた。


「“雛”の時はまだしも“卵”の時に攻撃するなんて…!あれじゃただ怒らせるだけよ!?」

「雛…?卵…?何それ…?」

「ッ…!と、とにかくっ!今はまだ駄目。…っていうか、傷はどうしたの?」

「なんか治った!」

「ええ…?なんか変なものに手を出したわけじゃないでしょうね…?」

「そんなわけないでしょ。治ってよかったよ。」

「まあ…そうね。」


その時。ベルとレイは何か神経を逆撫でするようなそんな感触に襲われた。


「…っ…!なに…これ…!?」

「始まったわ。孵化が、ね。」

「孵化…?」

「説明する必要もないわ。見ていなさい。今目の前で起こっていることなのだから。」


アルが入っていた殻がゆっくりとヒビが入り始める。

その度に衝撃が走り、緊張を高まらせていく。

遂に殻は真っ二つに割れ、爆散した。


「…さあ、止めてもあなたは来るでしょ?なら、ここで決めるわよ。」

「えっ?」

「あの子は絶対に救うわ。絶対にね。行くわよ。」


二人で殻があった場所まで飛び立つ。


煙が晴れる。その煙の奥から現れたのは真っ黒く変色した肉の手だった。

まるで蜘蛛の足のように長い人間の手がアルの腹や背から何本も生え、地面に掌をついてアルを支えている。

アルの足は地面につくことなく、ただその肉の手によってのみ動いている。

アルの背中には大きな黒い肉の羽が生えているが、重いようで引き摺っている。

そう異形に変化したアルの目はどこまでも虚ろだった。


「あれが…アル…?」

「ええ、あれが怠惰を受け入れた末路。『怠惰な貴公子(スロス・ノビリス)』の本体よ。やっぱり呑み込まれてしまっている。あれからあの子を絶対に救うわよ!!」

「…うん!!」


ベルは力強く頷き、突撃した。



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