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私の、創世記。  作者: 皐月リリ
第三章、許されざる怠惰。
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第六十六話、堂々巡り。



僕は、血の海で溺れていた。


息が苦しいのに、肺が張り裂けそうなのに死ねない。


死にたいと、何度願っただろうか。


あ…何かが見える、聞こえる…。


これが走馬灯というものだろうか。


嗚呼、何の意味もなかった僕の人生。

これで()()()が僕を助けた意味も無為になってしまったな…。


最期に聞こえてくるのは、あの懐かしい()()()の声。


今一番聞きたかった声。


なんて都合の良い夢なんだろう。


最期まで幸せを求めてしまう自分に嫌気が差す。


これはただの僕の妄想でこれも幻聴だってことは分かってる。


でも今は…。


こんな罪深い僕でも、この幸せを感じられるのなら…


今はただ、この幸せに溺れていたい。


―――命果てるまで。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




「はぁっ…!」

「やぁっ…!」


手当たり次第に肉塊に攻撃を加える。

何度も肉が裂け、血が吹き出していく。しかしそれは束の間ですぐに再生し、傷は塞がっていく。


「埒が空かないなぁ…!」

「…っ!ベル、後ろ!!」

「ッ…!」


ギリギリのところでベルは後ろから飛んできたそれを鎌で受け止める。


「危な…っ!っていうか、何これキモ!?」


飛んできたのは触手だった。肉塊の至る所から生えている触手がベルを目掛けて次々に飛んでくる。


「ッ…!ああ、もう…!邪魔くさい!!ベスビオ・インパクト!!」


鎌から放たれた小さな炎が一瞬で肥大化し、爆発した。

たちまち触手は火に焼かれ焦げ落ちた。


「ふぅ…これでひとまず…。」


しかし、それでも進撃は終わらなかった。新たに生えた触手が再びベルを狙って蠢いている。

これでは堂々巡りだ。斬っても燃やしても触手はまた湧いてくる。

そのうちの数本が再びベルを目掛けて突進してきた。


「遅い!それで、私に、敵うと…思うなーーーっ!」


ベルは全て一太刀で斬り伏せた。

しかし別の一本が背中側から向かってきていた事にベルは気付いていなかった。


「…!ベル…!」

「え…」


亘希が気付いたのは触手がまさにベルの体を突き刺そうとした時だった。

必死に叫ぶがこのタイミングじゃ避けるのは不可能だ。

間に割って入って庇おうにも間に合わない。


ベルはそのまま数多の触手に貫かれた。




「そんな事には…!」

「させないよ…!」


突如雷のような一閃が走る。ベルを突き刺したと思っていた触手は全てベルの体に当たる前に細切れにされていた。


「四天・雷轟斬…ッ!」

「黒時雨・天割れ…っ!」


二人の斬撃がベルへ迫る触手を斬り捌く。


「アリエ…!黒龍さん…!」

「お嬢様、ご無事ですか!?」

「う、うん…ありがと…。」

「亘希くんも、大丈夫…?」

「僕は大丈夫。ありがとう、アリエ、黒龍さん。」

「騎士として、当然の務めを果たしたまでです。例などいりません。」

「無事でよかった…。」


黒龍が二人に優しい笑顔を向ける。


「ッ…!伏せて!」


そうアリエが叫ぶと同時に、肉塊から大量の血が飛び出した。

肉塊は細切れにされ、中が一瞬見えた。

そこにはアルが、閉じ込められていた。まるで眠っているようだった。


「アル…ッ!!」

「お嬢様、危険です!今立ち上がれては…!」


再び、肉塊に傷がいくつもついた。そこで割かれるように肉塊は分離して、またくっついていく。


「あの軌道内に入ればどうなるかわかりません。今はじっとしていてください。」

「あの攻撃は誰が…?」

「レイ、ですよ。」

「レイさんが…!?」


見れば、レイが長剣を振り捌きながら迫り来る触手を斬り払っている。

レイはまるで『邪魔よ。下がっていて。』とでも言うかのような目でこちらをキッと睨んでいる。


「ベル…どうする…?」

「どうするもこうするもないよ!私たちも行くしかないでしょ!」

「う、うん…!わかった…!」


二人はレイの刀の軌道を避けながら、再び飛び立つ。


「一旦離れてから追撃するよ!」

「分かった…!」


触手が届かない位置にまで二人で下がる。

改めて見てもとてつもなく大きい肉塊だ。かつて城があったところに脈打ちながら居座り、今も数多もの触手を使いレイと応戦している。


「…行くよ…!」

「うん…!」


一斉に肉塊へ向け加速する。近付いてくる触手は全てベルが斬ってくれた。


「少しくらい、効いてよ…!リベラーレ・メテオ…!!」


白い光を纏ったベルがそのまま肉塊に突っ込み一閃。

瞬く間に肉が裂けた。


「亘希!」


そうだ、まだ攻撃は終わっていない。

さっきのレイの攻撃もすぐに回復されていた。だから再生する前にもう一度攻撃を畳み込む!


「…やあっ…!」


技名は…思いつかなかった。考えようとはしたけどすぐに黒歴史がフラッシュバックしてきて無理だった。

ただのなんの変哲もない横振り。でもこの剣にはそれだけで十分だった。


再生しかけていた肉が瞬く間に裂かれた。赤い血が一斉に飛び出す。


確かにアリエとはたくさん特訓したけどそれでも超人的な腕力とかがつくわけではない。

いくら特訓したとしても人間である以上、それは人間の範疇に収まる。

間違いなくこれは刀の力だ。麒麟から譲り受けた刀。ただの一振りなのにこれだけの威力…!


「流石だな…。」

「すっごーーい!ヤバいねその刀!私も欲しかったなー。」

「ベルはその鎌があるでしょ…。それに今だって白い閃光みたいなの出てたし、それこそただの鎌じゃないでしょ。」

「エフェクトだよエフェクト。」

「いやいや、絶対出てたよ!流石にエフェクトじゃないって!」

「分かった、エフェクトじゃないってことは認めるよ。でもこれは魔力を纏ってるからであって、別にこの鎌に何か細工がしてあるわけじゃないんだよ。」

「鎌自体はただの鎌ってこと?」

「そゆこと。ただの魔力を纏えるし巨大化もできる普通の鎌だよ。」

「普通の鎌はどっちもできないけどね…。」


そう呆れながらため息をつく。


「…やっぱり、効かないね…。」

「…。」


二人の大技でつけた傷もたちまち塞がっていく。

状況が一切良くなってない。重い鎌や刀を振り続けてきたせいか、体に疲労も溜まっていく。


「…ッ!ちょっとごめんね!」

「うわっ!」


いきなりベルに首根っこを掴まれて遠くへ下がらさせられた。


「ちょっとな…」


そう言いかけた瞬間、さっきまで亘希たちがいた所には幾多もの斬撃が襲っていた。


「そこにいたら邪魔よ。私の攻撃に当たってしまうわ。」

「レイさん…。」


さっきの攻撃はレイのものだったようだ。彼女の攻撃は二人のとは比べ物にならない。

二人で力を合わせて大技を繰り出しても肉に亀裂を入れるので精一杯だった。

なのに彼女はたった一太刀であの大きな肉塊を何度も真っ二つにしている。


「さっきから見ているけど、あなたたちの攻撃でこいつが何か食らっているようには全く見えなかったわ。寧ろあなたたちは足手纏いでしかない。さっさとこの場から離れて私を見守っておくのが賢明な判断というものよ。」

「レイの攻撃だって効いてる様子なかったじゃん!」

「あの子をここから出す方法がわからない以上仕方のないことよ。あなたたちにはできなくても、私はこの肉塊を一刀両断することができる。何度か攻撃を通せばあの子を助けられるかもしれない。でも私は自分の攻撃の余波から仲間を守れる余裕はない。そう考えたまでよ。分かったならさっさと退きなさい。これは私の、いいえ、私とあの子だけの問題だから。」

「へーそうですかー自慢ですかー。あれを一刀両断できるからって威張ってるんですかーそうですかー。っていうか、レイは自分とアルだけの問題っていうけどさ、私とアルの問題でもあるよ?『友達』としての問題。だからレイには首を突っ込まないで欲しいなー。」

「いいえ、あなたの方こそ間違ってるわ。私と、あの子の問題よ。あなたこそ関係ないのではなくて?」

「いいや関係ありますーー!関係大アリですーー!何?一人で解決して褒められたいの?出世したいの?良い心がけですねぇ〜?」

「…ッ!!そういうのじゃない…!変な解釈をしないで頂戴!」

「なんだとー?」

「何よ?」


両者が睨み合う。もう火花を錯覚するほどの一触即発状態だった。

しばらくしてレイの方が先に折れた。


「…はぁ…分かったわ。好きにしなさい。ただし私の足は引っ張らないで。」

「分かってるよ。」


レイは再び肉塊へ一人で飛んでいく。


「ベル…。」

「ふふっ、勝ったよ!ブイ!」


手でピースをしてにっこりと笑う。

不思議とこちらも嬉しくなる。


遠くの方で何やらレイが何か言っている。

指の刺す方向には肉塊から伸びた三本の太い触手が城の外壁に貼付き、バランスを取っていた。


「つまりあれを斬り落とせば…。」

「少しはなんとかなっちゃうかも…!」

「ベル…!」

「うん、必ずアルを助けるよ。」


触手は変わらず不気味に脈打っていた。

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