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私の、創世記。  作者: 皐月リリ
第ニ章、天界動乱。
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第五十八話、古来からのズッ友。


「さあさあ、何故黙ってこっちを見つめているんだい?もしや…僕の美しさに見惚れているのかい?」

「いや、それはない。」

「あちゃー、僕の美しさがまだ理解できていないとは!フム、キミたちもなかなかの美形だがこの僕には少し及ばないかな…。そもそも僕の美しさを理解しない時点でその至高の領域にはたどり着けないがね。」


セーターを羽織ったセーラー服に眼鏡というまるで図書委員長のような姿とは裏腹に、その少女は自己肯定感の塊だった。

すぐ人と仲良くなれるベルでもこのようなタイプの人は少し苦手だった。

早いところ話を終わらせてこの場を去りたい。そう思って、


「へーそうなんだー。じゃあ私はここで…」

「なんだいその適当な返事は?まあまあ少し待ちたまえよ。ここにはあらゆる過去、あらゆる真実、あらゆる記憶が収められている。それを知りたくはないかい?」

「いいえ結構ですありがとうございましたー。行くよ、黒龍さん、八岐大蛇。」

「え、うん…。」


来た道をまっすぐ戻るベルの背中を追って、黒龍は軽くペコリとお辞儀をしてからその場を立ち去ろうとした。しかし、八岐大蛇は何か疑うような目で少女を見つめていた。


「…もしやお主…『転生神』じゃないか?」

「…!キミは…、もしやアラハバキかい?」

「そうじゃ、吾を知っとるということは当たりじゃな?」

「ああ、久しぶりだねぇ…!」


少女の口角が歪み不気味な笑みを作り出す。

その会話に気付いたベルが足を止めて振り返る。


「え?二人とも知り合いなの?」

「そうじゃ、まあ腐れ縁じゃがのう。」

「酷いじゃないか、僕たちは固い絆で結ばれているというのに!」

「じゃからそんな仲じゃなかろう?これ、くっつくな…!」


抱きつこうとする少女の頭を八岐大蛇は押さえつける。それでも少女は退かず、しばらく拮抗した状態が続いた。

ようやく諦めたのか、少女が八岐大蛇から手を離し、本棚の上へ華麗に飛び戻った。八岐大蛇は大きくため息を吐き話し始めた。


「コイツはオシリス。まあ一言で言えば外道じゃ。」

「酷いなあ…。僕は僕に捧げられた人間の肉体を借りさせてもらっているだけだというのに…。」

「それが外道だと言うとるんじゃ…。死後の肉体を使われて嬉しい者などおらん。」

「いいや、皆喜んでいるはずさ。何せ、自分が崇めている神に死後も使っていただけるなんて幸福だろう?自分の死が誰かのためになるんだ、そんなもの本望に決まっているさ!」

「やはり外道じゃな。」


オシリスは悪びれずにこう言い返す。


「善良な少女を生贄と称して連れ去り、その性の発散に使っているキミには言われたくないねぇ。」

「…っ!吾はきちんと許可を取ってからやっておる!」

「だから悪くないと?――や――をするキミの行為は今の法律で言えば性犯罪だよ?法で裁かれてもおかしくない。あーあ、犯罪者の友を持つと苦労するねぇ。」

「ぐぬぬ…!お主のそれだって死体損壊罪じゃ!お前こそ罪人じゃろう!?」

「負け惜しみかい?やはりキミは可愛いねぇ!初めて会った時の威勢はどこに行ったのか…。あの頃のキミは『私を食う』だなんて…」

「だーー!それ以上言うな!あれは吾の黒歴史じゃ!」

「ふふふ…変わらないな、キミは。」


そう言ってオシリスは本棚から飛び降りた。耳につけた金のピアスがきらりと光る。


「こうしてキミとまた会えたこと、嬉しく思うよ、性欲の化身さん。」

「吾もに決まっとるじゃろう、阿呆。」


そう憎まれ口をお互いに叩きながら、二人は軽く微笑む。


「聞いた話ではキミは長い間寝てたそうじゃないか。どうだい?寝ている間に欲求不満になっちゃったんじゃないのかい?」

「阿呆か。そのくらい制御できるわ。出来ないのは軟弱な弱者か愚者のみ。お主も前会った時より大きく姿を変えよって。見違えたぞ。」

「この体かい?この体の主はとても僕に謙虚に尽くしてくれた。そんな信心深い子なんだ。もとよりこの子の体は相性がいいから借りるつもりでいたんだけれど、彼女自ら志願してくれたんだよ!『貴方にこの体をあげます。』って!いやー、嬉しかったなー!」

「気持ち悪いわ。相変わらず死生観が狂っとるようで何よりじゃ。」

「それは褒めているということにしておくよ。そうだ!いつかキミが死ぬ時にはその体をもらってもいいかい?キミの体は特に僕の魂と相性がいい。そうすれば脳内で――したり、――したり…」

「やる訳ないじゃろ。こんな奴に吾の崇高で神聖な御体は渡せんわ。」


なかなか狂ってはいるが二人は久しぶりにあった旧友のように話し込んだ。まあ実際そうなのだろうが。


「ほれ、二人だけで話し込みすぎじゃ。他の二人も話に…。」

「その必要はなさそうだよ?これで二人っきりで話せる。」

「は?」


振り返ってみると黒龍もベルも頭から湯気を出して気絶している。――と先ほど二人が口にした卑猥な言葉を復唱しながら…


「お子様には少し過激過ぎたようだね。」

「それだけで気絶する訳ないじゃろ。どうせお主が…。」

「確かにここは感受性が高い者には度を超えた記憶が流れ込んでくる事はある。その中には当然卑猥なものもあるだろう。だがそんな事は滅多に起きない。気絶したのは恐らくさっきから僕たちが口にしている言葉が原因だろうね。君は気付いていないのかもしれないけど今と昔じゃ価値観は違うんだよ?」

「分かっておる…。先刻もそういうことがあったわ。」

「なら話は早い。君は長く生きているけれどこの世界では様々な面で未熟だ。もっとこの世界での価値基準を学んだほうがいい。方法がわからないというなら僕の本を使って…。」

「余計なお世話じゃ。吾はお主に頼らずとも自らの力でその価値観とやらを手に入れる。必ずな。」

「…そうか。」


そう小さく呟くオシリスの顔は少し笑っているように見えた。


「…お主は何故ここに縛られている。昔はよく放浪しておったろ。」

「新しい主人に頼まれてね。ここを守っていて欲しいって。」

「お主がさっき言った『強欲サマ』とかいうやつか。負けたのか?」


古代神は独特のルールを持っている。それは自分を負かした相手には逆らわず従うこと。時には命でさえ差し出し、主人を支えるのだ。


「…そうとも言えるかな。まあ色々あって僕はあの人の元で使え今も帰りを待っている。時折ここに呼び込まれる“迷い人”を導きながらね。」

「迷い人?」

「そう。ここに人を呼ぶ事は僕には出来ない。だがこの書庫は勝手に人を誘い込むんだ。何かを悩んでいる“迷い人”をね。ここへ飛ばされる条件は何かに悩んでいる事だ。恋のことでも人生のことでも何でもいい。その悩みを解消するために何かを知りたい、そう思った瞬間にこの書庫への扉は開く。それを導くのが僕の役目だ。さっきも言った通り、ここには全てが備わっている。どんな悩みであっても解決してしまう。それがこの『記憶の書庫』なのさ。」

「ならば今ここに迷い込んだ吾ら三人も何か悩みがあると?」


オシリスはニヤリと笑って頷いた。


「ただ厄介なのは僕自身はその人が持つ悩みを知れないことだ。僕は頭の中が読める訳じゃない。どんな悩みを持っているのかは本人に聞くしかないんだよ。」

「二人が眠っている今はそれが不可能というわけか。」

「そう。でも、キミの悩みは今直接聞ける。キミはどんなことで悩んでいるのかな?」

「悩みはもう晴れたわ。」

「えっ?」

「今この瞬間にな。オシリス、吾の悩みはお主に会えないことじゃ。お主に会えねば退屈でしょうがない。お主ほど気が合う奴はこの数千年出会ったことがない。目覚めて初めて思い浮かんだのは紛れもなくお主の顔じゃ。再び目覚めてからお主の名を天界中を聞いて回ったが誰もお主を知らなかった。だから最後に別れたここ(地獄)にもしかしたらいるのではないかと思ったというわけよ。もう吾の悩みはない。」

「…。」


オシリスは黙って呆然としながら八岐大蛇を見つめていた。

その目には確かに友が自分を求めてくれていた嬉しさと喜びがこもっていた。


「…そこまで僕を必要としてくれていたとは…。何だか嬉しいな。」

「否定はしない。吾はお主の…確か下界の言葉で…。」

「ズッ友、だろ?」

「そう、それじゃ!」

「僕もそう思ってたよ。キミとずっと会いたかった。こんなことを言うのは不謹慎かも知れないけれど、悩んでくれてありがとう。キミが僕のことで悩んでくれたおかげでこうしてまた会えた。これほど嬉しい事はない。本当にありがとう。」


礼を言われて気恥ずかしくなったのか、八岐大蛇はオシリスから顔を逸らした。


「口にせんでいいわ、馬鹿。」


そう小さく呟いた。

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